国民のほぼ全員が『人生2週目の転生者』なので、前世で起きた『聖女様闇落ち世界滅亡エンド』を総力あげて回避します

フーラー

文字の大きさ
29 / 39
第3章 自慢は励ましという名の仮面をかぶって現れる

3-3 所詮忠誠も愛情も生存本能に根差したもの

それから数日後、この話をすぐにテルソスに話した。
彼はすぐにその話を信じてくれ、数日後には数人の護衛とともに雪の洞窟がある山に向けて歩いていた。


「十六夜の花……流石は未夏ですね。その花の名を知っているとは……」

山道を歩きながら、テルソスは感心するようにつぶやく。
彼は伝承などで、その花の名前は知っていたようだった。


「ええ。……雪の洞窟にあるという根拠は……その『プログリオ』っていう道化師が現れたっていうことなんですけど……信じてくれると思いませんでした」


未夏自身、この話をするときに道化師プログリオの名を出すべきか悩んだ。
『私やラジーナ、オルティーナにしか見えない道化師が告げてくれた』なんていっても信じてくれるとは思えなかったからだ。


「どうして私の話を信じてくれたのですか?」

テルソスは冷静に答える。

「……理由は三つです。一つは『前世の記憶』という名前で共通のエピソード記憶を持つ我々が、超自然的な言動の存在を否定できるわけがないということです」
「あ、そうですよね……」


未夏には前世の記憶はないが、やはり転生者にとって前世の記憶があるというのは、それだけ特殊なことなのだろう。


「そして2つ目の理由は、未夏様の知識が……失礼ながら、あまりにも『かえる飛び』に身に着けていたものだということです」
「かえる飛び?」
「ええ。薬学の基礎的な知識や効能などを知らないのに、なぜか我々の常識を上回る効能の薬品を調合できること……これは、何か我々とは違う理があなたに働いているということを疑っていました」


先日学会でフルボッコにされた時のことを未夏は思い出した。
ゲーム知識しかない未夏にとっては、薬品を『どのように調合すれば、アイテムが作れるか』については理解があるが、なぜそうなるのかの知識はない。

最もゲーム知識にプログリオは関与していないが、テルソスはその二つを混同しているのだろう。


「そして3つ目は……。いつもディアナのための料理を教えてくれて……彼女を励ますために薬を作ってくれたあなたが、嘘をつくとは思わなかったことです」
「テルソス様……」

テルソスはそういってふっと優し気な笑みを見せる。
それを見て、未夏は少し顔を赤らめた。

それを見ながら、護衛を兼ねた兵士たちも声を上げる。


「ディアナ嬢ちゃんのためだったら、どんな可能性の低いことでもチャレンジしますよ、俺たちも!」
「ええ、今まで鍛えた力を試すチャンスですからね!」


雪の洞窟はそもそも、ゲーム本編では終盤に訪れるところということもあり、モンスターたちはかなりの強敵だ。

そのため、仮に『十六夜の花』の存在を知ったとしても、今の未夏には護衛なしでは目的地に到着すら出来なかっただろう。

彼らはいわゆる『モブ兵』だが、実力自体はもはやテルソスたちと大差ないほどまで鍛えこまれている。


(今にして思うと……。プログリオが私に『ウノーからの経験値横取り』を提案したのは……私に単独で『雪の洞窟』に向かえる能力を与えるためだったのかもね……)


そう思いながら、未夏は歩いていく。



そしてしばらく経ったのち。
未夏たちは雪の洞窟の入り口にいる、巨大なドラゴンを見てつぶやく。

「あれは……」
「門番のスノー・ドラゴン。……相当な強敵よ? 注意して……」


だが、未夏は失念していた。
確かにスノー・ドラゴンは門番でありボスではある。

だが、ゲームに登場するすべてのボスが固定敵とは限らない。
……奴は敵を見つけたら『向こうから迫ってくるシンボル・エンカウントのキャラ』だったのだ。

スノー・ドラゴンはこちらを見るなり、突進してきた。
突然の奇襲攻撃を受け、未夏は護身用の薬を出す暇もなかった。


「グギャアアアア!」

その凄まじい方向とともに襲ってくるドラゴンに対処できず、未夏は雪に足を取られる。


「く……! あぶない、未夏さん!」

だが、それを庇ってくれたのは護衛の兵士だ。
彼女は雪山から現れたスノー・ドラゴンの牙から未夏を突き飛ばす。


「ぐはああ……!」

その兵士はドラゴンの爪をまともに喰らい、腹に大きな傷を負った。
……恐らく致命傷なのだろう、それで苦悶の表情をしながら、ちょうど下がってきていたそのドラゴンの顔に張り付き、視界を塞ぐ。


「『私の番』だ! 今よ、後は任せた!」
「ああ……今までありがとうな!」


そういうと、ドラゴンの急所である額の宝石を……しがみついていたその兵士ごと貫いた。


「ぐぎゃああああああ!」

宝石が砕ける音とともに、そのドラゴンは叫びながら絶命した。


「…………」

そのドラゴンの顔に張り付いていた兵士は……すでに、こと切れていた。
それを見て、未夏は放心状態になった。


「未夏さん、お怪我は?」
「私の……私のせいよ……また、一人死んだなんて……」


だが、兵士はわけが分からないと言わんばかりに首を振る。


「何をおっしゃるんですか? 彼女を殺したのはドラゴンです。決して未夏さんではありません」
「けど……私がもっと注意していれば……」
「未夏さんは我々にとっては、護衛対象です。……その発言は、逆に我々のメンツをつぶす発言ですよ?」


そう兵士は寧ろ注意するように答えた。


(……そうね……私は……いつのまにか勘違いしていたのかも……)


未夏はいつしか、自分がゲームの「PCキャラ」のように思っていた。
だがそうではなく、戦えない自分はこの場では『守られる側』の人間であり、関係性は対等ではない。


……それは『彼らの命に責任を取らなくていい』という意味でも同様だったのだ。
それでも割り切れないといった表情の未夏に、兵士たちは優しい口調で答える。


「私たちはそもそも転生者で、すでに一生分生きています。……転生者ではない未夏さんは、我々よりも大事にされてしかるべきです」
「……ありがとう……」


これ以上ここでぐずぐずしているわけにはいかないし、覚悟ガンギマリの転生者……特に、今死んだ兵士に報いる必要がある。

そう思った未夏は、雪の洞窟に入ることにした。



「それにしても……暗い洞窟ね……」
「ええ。……松明をたくさん持ってきて良かったです」

そういいながら、テルソスは持参してきた松明を使って周囲を照らす。
因みに現代人である未夏は、燃え盛る松明を持ち歩くことに抵抗があったこともあり『がんどう』に似た照明器具を持ち歩いている。


「ところで、未夏さん……」
「なに?」
「ここ最近、街の人たちを見て、疑問に思いませんでしたか?」
「疑問って……オルティーナ……様のことですか?」
「ええ」

そう言われて未夏は街の人たちのことを思い出した。


「そういえば……最近みんな、オルティーナ様をたたえる歌を歌わなくなりましたね……」
「そうでしょう? ウノーはどうでした?」
「……言われてみると、オルティーナ様の話を全然しなくなってきていますね……」
「ええ。……正直私も、少し前まではオルティーナ様のためにこの命を使うつもりでしたが……あなた方はどうですか?」


そういうと、近くにいた兵士……先ほど死んだ女兵士の親友だったものだが……に声をかけた。


「はい。……正直、なんであんなに『顔も知らない聖女様』のために命をかけようとしていたのか……分からないです……」
「私も同様です。……少し前の私だったら、ディアナ様の病を治すために、こんな雪山に上ることなど考えませんでした。きっと、オルティーナ様のために命を取っておこうとしたはずですから」


そう答える。

なるほど、仮に十六夜の花の存在にもっと早い段階で気づいても、どのみち雪の洞窟には行けなかったのか、と未夏は思いながらうなづく。

そして不思議そうにテルソスはつぶやく。

「……我々はみな、オルティーナ様のことを愛していたのでしょうか?」
「…………」

それを聞いて、未夏は思った。


(洗脳……ううん、記憶の改ざんというべきね……が、解けかけているの?)


未夏には思い当たる節があった。

(そうよね……。そもそも、テルソス様達はともかく、殆どの兵士はオルティーナ様の顔なんて知らないはずだもの……。縁もゆかりもない人のために、命を懸けるなんて普通はありえない……)


そして未夏はテルソスに尋ねた。


「ひょっとして……みんながそう思うようになった理由は……」
「ええ。ラウルド共和国との終戦が決まってからです」

そうテルソスは答えた。


(やっぱり……)

その発言に、未夏は洗脳が解けつつある理由が分かった。


元々彼らは『オルティーナ様のため』ではなく『聖ジャルダン国が滅びること』『それによって世界が滅ぶこと』を恐れていたのだ。

だからこそ、その恐怖心につけこむ形で『オルティーナへの忠誠心』を植え付けられていたのだろう。


……そして今、再戦の恐れこそあるものの、両国間の関係が回復しつつある。
そのため忠誠心が薄れていると考えれば、すべて辻褄があう。


(皮肉なものね……。オルティーナの忠誠が抜けていなければ、雪の洞窟にも行けなかったし……仮に行けても、私は庇ってもらえなかったってことか……)

元々性格があまりいいとは言えないうえに、今世ではそれに磨きがかかっているオルティーナが、今後どのような扱いを受けるのかは想定が出来る。


(この状態で……因果律の鎖が解放されたら……また、奪い合いになるんじゃないのかな……。まさか、プログリオの目的はそれ……?)


今にして思うと、プログリオの手の上で踊らされているような気がする。
そう感じながらも、未夏達は洞窟に入っていった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。