国民のほぼ全員が『人生2週目の転生者』なので、前世で起きた『聖女様闇落ち世界滅亡エンド』を総力あげて回避します

フーラー

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第4章 人生をやり直すためなら、人は悪魔にもなれるのか

4-1 聴くべきことほど耳に入れたくはないもの

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私の名前はフォスター。

幼少期からずっと将軍になるべく英才教育を受けてきた。
前世ではそこまで魔法は得意ではなかったが、その分闘気術については随一の実力を持っていたことが私の誇りだった。


「流石だな、フォスター? 将軍になるのが楽しみだ」
「ええ……そういっていただけると、私も嬉しく思いますよ」
「この間の成績もすごかったのね? 成績3位に入るなんて。今夜はお祝いね!」
「いえ……テルソスに勝てなかったのは残念でした……」


父上や母上からも、すでに『次期将軍』として大きな期待をかけられていた。
それは私にとってプレッシャーになることも多かったが、それでもその期待に応えられると、そのたびに自信がついてくるのを感じていた。


「はじめまして、私はフォスターと申します。オルティーナ様。どうぞお見知りおきを」
「…………」
「どうされました?」
「いえ……フォスター将軍ね? うん、楽しみにしているから」


聖女オルティーナ様に初めてお目通りしたときに、彼女は少し驚いたような表情をしていた。……今にして思うと、あれは私に対して好意を持ってくれていたことなのだと分かった。


そして将軍として就任した後も、彼女は私をことあるごとに誘ってきた。

……だが、それは私にとって好ましいものではなかった。
彼女は公の場でのあり方よりも私人としての幸福を優先させていたからだ。


「ねえ、フォスター将軍? 明日一緒に遠乗りしませんか?」
「え? ……しかし、私は城門の警備が明日はあるので……」
「それなら大丈夫! ウノーが変わってくれるって言ってましたから!」
「ウノーが?」


よくあるのが、こんな風に警備のシフトを変えてしまうことだった。
ウノーは私と同じ4英傑の一人で、私にとっては信頼できる部下の一人だ。
彼とオルティーナ様は幼馴染ということもあり、二人は気安い間柄でもある。

……だが最近は、ウノーの疲労がたまっていたのを知っている。
明日は休ませたかったのだが、立場上オルティーナ様に逆らうことは出来ない。


「分かりました……では、ご一緒しましょう」
「よかった! 私、あなたのためにお弁当作っておくから楽しみにしていてね!」


オルティーナ様は、かなりわがままで自己中心的なところがある。
彼女が幼いうちはそれでも『かわいらしい』程度で済まされていたが、思春期を迎えてもそれは改善されなかった。

そのため周囲は少し彼女のことを疎ましく思い始めていた。


「ねえ、オルティーナ様ってさ。ちょっとわがままが過ぎないか?」
「ああ。フォスター将軍が逆らえないのをいいことに、いつも連れ出してさ……」
「そうよね。……将軍がかっこいいのは分かるけど……独占欲強すぎ!」


そんな風に陰口をいうのは、よく私がいさめていた。
……けんかっ早いウノーが聞いたら、大体大事になるからでもあるが。


「ねえ、フォスター将軍? 話聞いてる?」
「ええ、聞いてますよ。この間侍女の方と揉めた件ですよね? それは、向こうにも非がありますね……」
「でしょ? それでさ!」


彼女の話題は殆ど愚痴か自慢だった。
しかも、それに同意しないと不機嫌になってしまうこともあり、私はいつも同意しなければならなかった。


「ありがと、フォスター将軍。あなたに相談したらスッキリしたよ」
「それなら、私も嬉しく思います……」


そんなオルティーナ様だったが、それでも彼女が私のことを慕ってくれるということは、嬉しかった。



……だが、あの時私は、彼女の言動をいさめるべきだったと後悔している。
私との生活にかまけて国政をおろそかにしていたため、気づいたときにはラウルド共和国との国力差はどうしようもないほど開いていたからだ。

そして最悪のタイミング……いや、恐らく泳がされていただけなのだろうが……で、エイドのスパイ行為がラウルド共和国に気づかれた。


「すみません、フォスター将軍。エイドが……命を落としたようです……」
「そうか……どんな最期だったのだ?」
「燃え盛る炎の中で……妹の遺体を膝の上において、死んでいたとのことです……」


そんなテルソスの親友エイドの訃報を聴いてすぐに、大規模な合戦が始まった。
そして私も奮戦したが、やはり国力差……特に一部の英雄達の実力には及ばなかった。


「やはり、手ごわいか……竜族ビクトリアは……」
「はい……我々は恐らく勝てないでしょう……」
「分かった。……私がここを食い止めるから、お前たちは撤退しろ」

そういって、私は竜族ビクトリアと戦って命を落とした。
……もしもあの時、何か出来ることがあったのなら来世ではもっと上手くやれたらいいと考えながら。




「どうしたの、フォスター将軍?」

アフタヌーンティーを飲みながら、私はそのことを思い出した。
……なぜだろう。私は前世でそう誓ったはずなのに、今世では今までオルティーナ様を一度もいさめることが出来なかった。


「いえ……昔を思い出したのです……」

少し前まで私はどうも前世の記憶について、


「前世では職務にかまけてオルティーナ様に優しくしていなかったから、今世ではもっと優しくしよう」
「前世では彼女の愚痴や不満を聴いてあげられなかったから、今世ではしっかり耳を傾けよう」


という考えを持っていたようだ。
……だが、それは間違いだったようだ。

これは私の仮説だが、恐らく我々は単に前世の記憶を持って転生しただけではなく、一部の記憶を改ざんされていたのだ。


……だが、大きな脅威であったラウルド共和国との終戦が決まったことで、オルティーナ様への忠誠をもとに一枚岩になる必要性がなくなった。

その危機意識の減退が原因らしく、我々の洗脳が解け始めている。
そう考えれば辻褄があった。



だが、仮にそうでも、私が前世でオルティーナ様の力になれなかったことは事実だ。



「それでさ、この間孤児院の子どもたちに会いに行ったのね! そしたら『何しに来たの、お姉ちゃん?』って嫌な顔されてさ! あれだけ優しくしてあげたのに酷くない?」


……これは私以外の者たちも同様だ。
前世以上に傍若無人な振舞いをするオルティーナ様に対し、明らかに周囲は彼女への風あたりが強くなっている。


そう考えながらも、私は彼女の愚痴に同意した。


「ええ……それは酷いですね……後で子どもに注意しなくては」
「でしょ? はあ……なんで最近、私の周りの人はこんなに冷たくなったんだろうな……」


そしてそれはオルティーナ様にも自覚はあるようだ。
ここ最近、どうも思いつめたような表情で私に相談をすることが多い。


(オルティーナ様に原因があることだ……やはり、これは諫めるべきか……)


……本来、このような場で説教をするのは望ましくないのは分かっている。
だが、彼女はこの聖ジャルダン国を担う立場にいるお方だ。私は嫌われ者になってでも、はっきり言わなくてはならない。

そう思って、私は彼女の言動について思うところを口にしてみた。


「ですが、正直なところ……オルティーナ様は、ご自身の考えをはっきりとお伝えしすぎなのではないでしょうか?」
「どういうこと?」
「その……。相手が傷つくことでも、思ったらそのまま言ってしまうことが……嫌われる原因なのでは?」

そういうと、オルティーナ様の顔がみるみる赤くなる。

「けどそれってさ! 相手のために心にもないおべんちゃらを言わなきゃいけないってこと? そんなの最低じゃない?」


やはりこうなったか。
そう思いながらも私はあえてはっきり伝える。


「相手を傷つけない発言を『おべんちゃら』と変換してしまう。そういう、物事を極端にしか考えられない点も治されるほうがよろしいと思います」
「はあ?」
「誰だって、本音を隠したり、方便を使ったりする場面はあります。それを否定してしまったら……人が生身で傷つけあうだけです。人づきあいでは、本心を伝えるよりも優先するべきことがあるのですから」


そういった瞬間、


「……もういい! 別に説教なんて聞きたいわけじゃないから! 普通に話聴いてくれたらそれでいいのに!」


そういうと彼女は怒って立ち上がり、庭園から出て行ってしまった。
そして去り際に、


「はあ……私ばっかりこんな目に会うなんて酷いよ……人生、もう一度やり直せたらな……」

そんな風に言っている声が聞こえてきた。


(やっぱり、この言い方はまずかったか……)


確かに私がやったことは、いわゆる『耳の痛いお説教』だ。
もしも私とオルティーナ様が単なる恋人同士であるならするべきではないかもしれない。……だが、我々は聖ジャルダン国の重鎮であり、責任ある立場でもある。


私達4英傑は『私自身より国家を第一にする人』でなければ愛せないし、私達自身もそうである。だからこそはっきり伝えたのだが、やはり彼女の耳には届かなかった。


(それでも……オルティーナ様のために出来ることを考えなくては……)


確かに、今世で私がオルティーナ様を慕っていたのは『作られた感情』だったのだろう。
だが、それでも彼女を一時とはいえ愛していた事実は消えないし、その時に彼女に感じていた恋愛感情もはっきり覚えている。


……あの気持ちが仮に嘘でも、私はオルティーナ様の力になりたい。


(オルティーナ様は……最近、私以外の人と話す機会も減っていたな……)

そして、急激にある種の『洗脳』が解けたこともあり、彼女の周りにはみるみる人が減っていた。

今彼女の話し相手……つまり、心のよりどころとなっているのは私だけなのかもしれない。



そして……彼女は『他者に愛されていたい』という欲求がとても強いことは分かっている。




そう思うと、私は自身の行動が軽率だったようにも感じた。

「私は……何があっても……何をされたとしても、絶対に最後まで……あなたの味方でい続けます……」
そんな風に、彼女の座っていた席に対してつぶやいた。
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