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第1章 「常に他者を第一に考えられる人類」を作った魔王、ヒルディス
1-6 結局のところ、勝負を決めるのは運でしょう
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「行くぞ、二コラさん!」
そして師範代は、魔力を込めて炎の龍を呼び出した。
……この魔法は知っている。最上級の炎魔法だ。
(なるほど、本気ってわけか……けど、その技の弱点は研究されてるんだ!)
俺は地属性の魔法で土を俺の全身にまとわせる。
4属性の中で最も質量の大きい実体を操作できるのが、地属性の魔法の特徴だ。
(……やっぱり、魔法の調子がいいな……)
俺はそう思った。
魔法でまとった土の質がいつもよりもはるかに良い。
これもイルミナのキスのおかげかな、と思うと少し笑える気がした。
「なるほど、そんな手もあるんだ!」
「魔法を身にまとうなんて作戦、初めて見ました……」
「水魔法でも同じことができるのかな?」
それを見ながら周囲がそんな風に言っているのが聞こえた。
俺たちの世界では、魔法を体にまとうような戦い方は別に珍しいことではない。しかし、彼らの様子を見るに魔法をぶっぱなすような戦法しか知らないのは、見て取れた。
恐らくこの世界は、作り直されてから一度も戦争を経験していないのだろう。
また、生まれつき高い魔力を持つ彼らは魔力により「ごり押し戦法」に頼りがちになるのも、仕方ないことなんだろうなとも思った。
「せりゃあああ!」
そして師範代が炎の龍をけしかけてきた。
俺はその龍をギリギリまで引き付ける。
(この魔法には……こうだ!)
そして俺は、龍の背中にある鱗……つまり、逆鱗の位置……に岩のナイフを突き刺す。
「はあ!」
さらに俺は力をこめて、そのナイフを深く押し込んだ。
むろんドラゴンは炎の塊だ。そのため土魔法で作られたコーティングが無ければ、これをやる前に燃やされていたことだろう。
「ギイイイイイイ!」
すると、その龍は急に暴れ出して制御が効かなくなった。
「な、ど、どうして?」
師範代はその様子を見てうろたえていた。
やはり、と俺は思った。
(やっぱり。……魔法の術式構造をちゃんと勉強してないな、あいつらは……)
この魔法は、もともと人間が龍の動きを徹底的に模倣した術式で作られたものだ。
龍が持つ独特の動きや敵を探知する能力などをそのまま魔法に転用しており、追尾性能が非常に高い特徴がある。
一方で模倣を忠実にしすぎたため、龍の弱点である『逆鱗』についても踏襲されており、この部分を攻撃すると制御が出来なくなる。
つまり、逆鱗を突くことが可能な、地属性の人間相手に炎の龍を用いることは悪手ということだ。
……最も地属性の魔法を得意とするものが少ないので、あまり大きなデメリットではないのだが。
「く……! 静まれ! ……ってなんだこれは……周りが見えない……!」
(一つの魔法だけにこだわるのも、彼らの悪いところだな……)
その隙に俺は全身にまとわりつかせていた土を粒子に変え、周囲にまき散らした。
「くそ……! どこだ、二コラさんは……?}
きょろきょろとしている師範代を気配で感じ取り、俺は音もなく忍び寄る。
ワンパターンだが、魔力の少ない俺はこうやって接近戦を挑むしかない。
……だが。
「ぐわああああ!」
「え? 二コラ、さん……そこ、ですか!?」
背後から強烈な熱さと痛みが走った。
……感触で分かる。
痛みに耐えられずに暴れまわっていた龍の尻尾が、運悪く俺に直撃したのだ。
思わず俺は、砂塵の魔法を解くことになった。
「え? あれ……?」
さらに運の悪いことに、俺が倒れたのは師範代のすぐ目の前だった。
彼はすぐにでも態勢を整え、俺にとどめの魔法を打ち込める態勢を見せた。
……奇襲が失敗した以上、俺に勝ち目は。
「くそ……俺の負け、だな……」
そう言って俺は素直に負けを認めることにした。
その様子を見て師範は俺に駆け寄り、治療魔法をかけながらも絶賛してくれた。
「素晴らしい戦いだったな、二コラさん! 君の戦い方は面白い!」
「え? そうですか……ありがとうございます……」
「すぐに傷を治すからな。ちょっと待っていてくれ」
正直こちらからすると、そっちの戦いがごり押しすぎると思う。
もっと相手の心の裏を突いて、出し抜くような『技』を身に付ければいいのに。
そう一瞬思ったが、俺はすぐに考え直した。
(……違う、な……。俺のやり方は……『愚かな人間共』のやりかただ……)
相手の嫌がることをするのが闘争の基本だ。
だが、そういう悪辣さを持っているからこそ、我々人間は競争の中で憎み合う。
彼ら『愚かじゃない人々』がごり押し戦法しかしないのは、戦争経験の有無が理由ではない。相手を出し抜いたり、相手の嫌がることができない彼らは、そういう方法を好まないし、行えないのだ。
今にして思うと、俺の戦い方を褒めたたえてくれた人も「私もやってみよう」とは一言も言っていなかった。
次からは、こういう戦い方はしないで素直に向こうの流儀に合わせるか。
そう俺が思っていると、師範が笑いながらイルミナと俺を見てつぶやく。
「それにしても、お似合いのカップルだな、二人は?」
「……ありがとうございます」
「えへへ、そうですか?」
そして師範は、少しさみしそうな表情で答える。
「……そうだな。イルミナが二コラさんと結婚したらさ。二コラさんはもっともっと、強くなれるよ」
俺はそういわれて、ぺこりと頭を下げる。
「ええ、もっと強くなれたら嬉しいです。ありがとうございました!」
「フフフ、わかったわ、二コラ?」
……だが、俺はこの時、この師範の言った言葉の持つ意味を理解していなかった。
そして師範代は、魔力を込めて炎の龍を呼び出した。
……この魔法は知っている。最上級の炎魔法だ。
(なるほど、本気ってわけか……けど、その技の弱点は研究されてるんだ!)
俺は地属性の魔法で土を俺の全身にまとわせる。
4属性の中で最も質量の大きい実体を操作できるのが、地属性の魔法の特徴だ。
(……やっぱり、魔法の調子がいいな……)
俺はそう思った。
魔法でまとった土の質がいつもよりもはるかに良い。
これもイルミナのキスのおかげかな、と思うと少し笑える気がした。
「なるほど、そんな手もあるんだ!」
「魔法を身にまとうなんて作戦、初めて見ました……」
「水魔法でも同じことができるのかな?」
それを見ながら周囲がそんな風に言っているのが聞こえた。
俺たちの世界では、魔法を体にまとうような戦い方は別に珍しいことではない。しかし、彼らの様子を見るに魔法をぶっぱなすような戦法しか知らないのは、見て取れた。
恐らくこの世界は、作り直されてから一度も戦争を経験していないのだろう。
また、生まれつき高い魔力を持つ彼らは魔力により「ごり押し戦法」に頼りがちになるのも、仕方ないことなんだろうなとも思った。
「せりゃあああ!」
そして師範代が炎の龍をけしかけてきた。
俺はその龍をギリギリまで引き付ける。
(この魔法には……こうだ!)
そして俺は、龍の背中にある鱗……つまり、逆鱗の位置……に岩のナイフを突き刺す。
「はあ!」
さらに俺は力をこめて、そのナイフを深く押し込んだ。
むろんドラゴンは炎の塊だ。そのため土魔法で作られたコーティングが無ければ、これをやる前に燃やされていたことだろう。
「ギイイイイイイ!」
すると、その龍は急に暴れ出して制御が効かなくなった。
「な、ど、どうして?」
師範代はその様子を見てうろたえていた。
やはり、と俺は思った。
(やっぱり。……魔法の術式構造をちゃんと勉強してないな、あいつらは……)
この魔法は、もともと人間が龍の動きを徹底的に模倣した術式で作られたものだ。
龍が持つ独特の動きや敵を探知する能力などをそのまま魔法に転用しており、追尾性能が非常に高い特徴がある。
一方で模倣を忠実にしすぎたため、龍の弱点である『逆鱗』についても踏襲されており、この部分を攻撃すると制御が出来なくなる。
つまり、逆鱗を突くことが可能な、地属性の人間相手に炎の龍を用いることは悪手ということだ。
……最も地属性の魔法を得意とするものが少ないので、あまり大きなデメリットではないのだが。
「く……! 静まれ! ……ってなんだこれは……周りが見えない……!」
(一つの魔法だけにこだわるのも、彼らの悪いところだな……)
その隙に俺は全身にまとわりつかせていた土を粒子に変え、周囲にまき散らした。
「くそ……! どこだ、二コラさんは……?}
きょろきょろとしている師範代を気配で感じ取り、俺は音もなく忍び寄る。
ワンパターンだが、魔力の少ない俺はこうやって接近戦を挑むしかない。
……だが。
「ぐわああああ!」
「え? 二コラ、さん……そこ、ですか!?」
背後から強烈な熱さと痛みが走った。
……感触で分かる。
痛みに耐えられずに暴れまわっていた龍の尻尾が、運悪く俺に直撃したのだ。
思わず俺は、砂塵の魔法を解くことになった。
「え? あれ……?」
さらに運の悪いことに、俺が倒れたのは師範代のすぐ目の前だった。
彼はすぐにでも態勢を整え、俺にとどめの魔法を打ち込める態勢を見せた。
……奇襲が失敗した以上、俺に勝ち目は。
「くそ……俺の負け、だな……」
そう言って俺は素直に負けを認めることにした。
その様子を見て師範は俺に駆け寄り、治療魔法をかけながらも絶賛してくれた。
「素晴らしい戦いだったな、二コラさん! 君の戦い方は面白い!」
「え? そうですか……ありがとうございます……」
「すぐに傷を治すからな。ちょっと待っていてくれ」
正直こちらからすると、そっちの戦いがごり押しすぎると思う。
もっと相手の心の裏を突いて、出し抜くような『技』を身に付ければいいのに。
そう一瞬思ったが、俺はすぐに考え直した。
(……違う、な……。俺のやり方は……『愚かな人間共』のやりかただ……)
相手の嫌がることをするのが闘争の基本だ。
だが、そういう悪辣さを持っているからこそ、我々人間は競争の中で憎み合う。
彼ら『愚かじゃない人々』がごり押し戦法しかしないのは、戦争経験の有無が理由ではない。相手を出し抜いたり、相手の嫌がることができない彼らは、そういう方法を好まないし、行えないのだ。
今にして思うと、俺の戦い方を褒めたたえてくれた人も「私もやってみよう」とは一言も言っていなかった。
次からは、こういう戦い方はしないで素直に向こうの流儀に合わせるか。
そう俺が思っていると、師範が笑いながらイルミナと俺を見てつぶやく。
「それにしても、お似合いのカップルだな、二人は?」
「……ありがとうございます」
「えへへ、そうですか?」
そして師範は、少しさみしそうな表情で答える。
「……そうだな。イルミナが二コラさんと結婚したらさ。二コラさんはもっともっと、強くなれるよ」
俺はそういわれて、ぺこりと頭を下げる。
「ええ、もっと強くなれたら嬉しいです。ありがとうございました!」
「フフフ、わかったわ、二コラ?」
……だが、俺はこの時、この師範の言った言葉の持つ意味を理解していなかった。
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