『ラスボス勝利後の新世界』で俺は結婚相手を探します ~『愚かな人間ども』に絶望した魔王たちが作った世界とは~

フーラー

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第3章「すべての人が平等な、実力主義の国」を作った魔王、ヨルム

3-6 実力主義なら当然「自信」も金で買う世界です

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そして翌日。
俺は早速仕事を募集しているところを探した。
正直、こうやって求職活動を行うのは久しぶりだ。

(ここ最近、ずっと仕事も恋人もあてがってもらっていたからなあ……。けど、こういうのもいいものだな)

そう思いながら俺は街を回る。


(うーん……。店員はあまり募集しているところがないか……)

基本的にホールスタッフの仕事は「※女性のみ募集」となっており、俺のような男性には認められていない。
また、運が悪いことにちょうどキッチンスタッフは人が埋まってしまっているようで募集はなかった。


(※この国では、性別を採用要件に入れることが禁止されていない)


だが、しばらくうろうろと街を歩いていると、幸いなことに貧民街の学習塾で募集をしているのを見つけた。

「なになに、試験官募集、か……。採用条件も特に悪くないし、よさそうだな」


俺は早速その張り紙を見て、その学習塾に足を運ぶことにした。


「やあ、はじめまして。君が二コラだね? 魔王ヨルム様から話は聞いているよ」
「あ、はい……。一応文字の読み書きはできますので、仕事はできると思います」
「え? ……ああ、そうだな…・・・」

俺がそういうと、面接官の男は少し驚いたような顔をした。
おそらく、この国では読み書きは『出来てあたりまえ』の世界であり、むしろできないほうがおかしいというものなのだろう。

「まあ、この時期は人手不足だからな。とりあえず、普通に受け答えができるならいいな。……それで申し訳ないが、早速今日から入ってくれないか?」
「え、いいんですか?」
「ああ。というのも、試験が近い今の時期は、なかなか人が集まらないからな。なに、別におかしなことをしている学生がいたら、連絡をするだけでいい。……といっても、うちは塾だから、そこまで不正行為をする学生は少ないと思うから心配は不要だ」
「はい、わかりました……」


どうやらこの世界では『実力主義』の世界ということもあり、特権階級というものは存在しない。
そのため、学習塾はきわめて盛況なことが感じ取れた。

俺はそう考えながら、面接官にそううなづいた。




そして数時間後、俺は学習塾の問題用紙を持って教壇の前に立っていた。

「それでは、これから試験を開始する……」

そういいながら、俺は決められたマニュアルの通りに注意事項などを読み上げたうえで、塾生たちに問題用紙を配布する。


(それにしても、子どもばっかりだな。それに、身なりのいい子ばかりだ……。小さいころから、みんな相当勉強しているんだな……」

俺が彼らくらいの頃には、もう戦場で大人たちと一緒に魔物退治の仕事を行っていた。
そのことを思うと、彼らのように幼少期から学問に注力できるのは、正直うらやましかった。

「はあ……面倒くさいなあ……。早く終らせて、遊びたいなあ……」
「そうよねえ……。けど、あんたはいいじゃない。あたしなんて、これ終ったらバイオリンの勉強もあるんだから……」

だが、彼らはそんな俺の思いもよそに、そう思い思いに語っていた。
いわゆる進学試験とは違う、塾の定期試験だ。だからこそ気が緩んでいるというのもあるのだろう。
俺は私語を慎むように注意した。


「それでは、試験を開始する」


そういって、俺は合図をした。



(にしても……。俺が知っている試験とはずいぶん違うな……)


塾生たちの試験内容を見ながら、俺はそう思った。
俺も昔、別の国で試験問題などを学んだことがあるが、基本的には穴埋め問題だったりマークシートだったりして、答えが限定できるものばかりだった。

しかし、なぜかこの国では文章題や論述問題などが中心に出題されており、またジャンルも俺が入国試験を受けた時と同様人文科学に偏っていた。


(あと……金持ちの子ほどニコニコ笑って、サクサク解いているんだな。なんでだろう……)


また、理由は不明だったが、彼らの試験に対する取り組み姿勢は、身なりの良さ……つまり実家の豊かさに比例しているようにも感じた。

お金持ちの家は自信ありげに、そうでない家は不満を浮かべたような表情だったことが気になった。


……だが、幸いなことに今回の試験では不正行為を行う子どもはいなかった。


「それでは、試験を終了する」

俺がそういうとともに、子どもたちは答案を返し、そして思い思いに帰宅していった。



そしてその日の夕方。

「お疲れさまでした、今日の分は終わりです」

そういって俺は、面接官だった塾長に報告を行った。


「おお、すまないな。……うん、特に問題はなかったようだな。また明日も頼む」
「あ、はい」
「二コラ君、君は確かこの国の出身ではないようだが……何か、この国でわからないことはあったかな?」

そう、親切そうな表情で塾長は訪ねてきてくれた。
……一応、俺はここでも『レイドの国の出身』であることは言わないでおこう。

「はい。……なんでこの国は、こんなに試験が多いんですか?」
「それはそうだろう。ここでは血筋や家柄で職業を決めることがないからな。試験の結果次第で人生が大きく変わる。……ならば、試験に慣れる意味も含めて、塾でも試験が増えるのは当然じゃないか?」

塾長は当たり前と言わんばかりに答えた。

……だが、俺が気になったのはもう一つある。

「確かにそれはわかるんですが……。問題がずいぶん偏ってませんか? この国の歴史とか文化についての問題が多いですし……。なにより、論述問題ばかりじゃないですか?」

そう、これほど試験が多いのであれば、一回当たりの採点コストを減らすためにマークシートにするほうがいいと思った。

だが、そういうと塾長は少しバツが悪そうな表情で答えた。


「ああ……。そうか、知らないよな……。これからいうことは、子どもたちには言わないでくれないか?」
「え? ……はい……」

そして、塾長は驚くべきことを口にした。



「実はこの塾は月謝によって、点数を変えているんだ。月謝の多い子は甘めに採点をしている。……論述なら、点数差を裁量でつけやすいからな」



「……はい?」

それを聞いて、俺は絶句した。
つまり、一見平等に見えるこの試験は、全然平等じゃないということか?
そう思っているのがわかったのだろう、塾長はやや憮然とした表情で答える。


「まあ、気持ちのいいものではないと思うが……。そもそも、子どもがまっすぐ成長して社会的に成功するために必要なものはなんだと思う?」
「え? ……愛情、ですか?」

俺の回答に対して、塾長は首を振った。


「確かに、それは一番重要だ。……だがそれに匹敵するほど大切なのは『成功体験』だ」
「成功体験?」
「そう。誰かと競って勝利した体験や、自分が一番になった体験。そういう経験が一度もない子は、次第に勉強やをはじめとした努力自体をしなくなるんだ」


そこまで言われて、俺は合点がいった。


「つまり……。月謝をたくさん払ってくれる子は学力だけじゃなくて……。点数に手心を加えてもらって『周囲より優秀だ』と思わせているってことですか?」

「そうだ。これが気に入らないのはわかるが……。それだけ金持ちの親たちは子どもに学力だけではなく『自信』を与えるためにも、金を出しているんだ」


塾長も、今の制度に対してはだいぶ鬱憤がたまっていたのだろう。
その言葉を皮切りに、俺にはこの国の制度についていろいろと教えてくれた。


実は、この塾だけじゃなくてもスポーツでも同じことをやっていること。
具体的には、月謝を多く払える親には『特別コース』として自身よりも弱い子どもを中心にしたチームを割り当てる。

普段の生活でも、塾に通っている子は優先的に体格の小さい子ばかりのチームに入れる。
これによって、普段の生活でもリーダーシップを発揮できるように促すのだ。

そんな風にして『成功体験』を売るのも、塾やお稽古事での重要な役割とのことだ。
そこまで聞いて、俺は絶句した。


「それって……不公平じゃないですか? 確かに機会は平等ですけど……」

その発言に塾長も同意した。


「ああ。……だから、裕福な家の子どもたちは『自分は周りより優秀だ』と思うことで、自信をつけて新しいことにどんどんチャレンジする力を身に着けている……。その体験もまた、大人の懐次第で変わるということだ」
「それじゃあ、貧乏な子は……」
「ああ、自信を失って『頭のいい子』に勝てないとあきらめるようになる。本当は、たんに親の収入の違いだけなんだがな」


そう塾長は口しながらも、一言付け加えた。


「だがな、うちの講師の名誉のために言っておくが、勉強内容そのものは月謝によって差別はしていない。……金持ち連中が払ってくれる分、貧困層の月謝を少なくできているのだから……必ずしも間違ったやり方といえないのがつらいところだがな」
「……そうですね……」

俺のように幼少期から戦ってばかりいて、勉強などそのちょっとした隙間時間にしかできなかったものからすると、この世界のやり方も頭ごなしに悪いとは言えなかった。

だが、塾長はそれ以上は自分たちだけで愚痴を言っても仕方ないと思ったのだろう、これ以上は何も言わずに事務的な口調に戻った。

「それより、明日もよろしく頼むよ、二コラ君」
「はい……。ありがとうございました……」


そういうと、俺はその日の賃金を手に、塾を後にした。



そして、その日の夜。
俺は自室でシルートにその日起きたことを愚痴った。

「……ってことがあってさ。正直複雑な気分なんだよな……」
「ええ、それはわかりやすよ。……ただ、正直学力や体力よりも『自信』を持つことが、一番子どもは大事とあっしは思いやすからねえ……。親側の気持ちとしては、やっぱり魂を売っちまうんでしょうねえ……」

シルートは独身だが。やはり自分が親だったら同じようなことをするのだろう。
そのことが伝わるような口ぶりだった。


「そうだな……俺は……子どもを塾に通わせるだけでも大変なのはわかるからな。シルートは塾とかいってたのか?」
「いえ……。あっしの家は貧しかったんで、弟妹の面倒をみなきゃいけなかったんすよ。だから、今もこうやってしがない従者として働いているんす」
「そうか……」


そういうと、シルートは少しだけ悔いが残るような表情をした。
やはり、彼も塾に通いながら勉学にいそしみたかったのだろう。

……だが、すぐに彼はいつもの気さくな表情に戻った。


「そうだ、二コラさん。試験官の稼ぎだけじゃ、家賃を払うだけで精一杯じゃないっすか?」
「え? ……ああ、そうだな……」
「なら来週の末、あっしと一緒に『副業』やりやせんか? ちょっと危険な仕事っすけど、稼ぎは悪くないっす」
「へえ……。どんな仕事だ?」

そういうと、シルートは答えた。


「……『負け屋』って仕事っす。やるかどうかは、話を聞いてからにしてもいいっすよ」
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