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第4章
相手を傷つけた罪悪感と、相手への恋心の間で悩むの、良いよね
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それから数日が経過した。
「ああ、その件であれば鉱山の経営者にお伝えを。それは軍内部で検討します。それから……」
セドナは、入院中のクレイズ及びアダンの代わりに戦後処理をてきぱきとこなしていた。
「……全く、精が出るな」
「あ、ギラル卿。少し手伝っていただけやすか?」
ギラル卿も何人かの文官を連れてきてくれて戦後処理に携わっている。
あの後、セドナ達を襲った暗殺者や捕虜となった兵士から話を聴き、やはりギラル卿の近衛兵の中に複数人の間者がまぎれていたことが判明した。
この期に及んでも内偵がバレていないと思ったのだろう、昨日当たり前のように勤務に現れた近衛兵は全員捕縛し、自身の行為を自白した。
予想をはるかに上回る密偵が潜伏していたこと、並びにホース・オブ・ムーンがそれに気づくまで野放しにしていたことについて、ギラル卿は家臣からこっぴどく叱られた。
その負い目もあるのだろう、ギラル卿は積極的にニクスの町の戦後処理の手助けをしてくれている。
最も、当の本人はあまり政治に携わるような行動は好きではないのだろう、あまり書類の確認などのデスクワークは行いたがらない。
「うーむ……。すまないが、私はどうも書類仕事や力仕事はな……会食のような仕事であれば、喜んで参加するのだが……」
「そいつは良かったっす。今夜は隣国と舞踏会があるんで、あっしの代わりに参加してつかあさい」
「む……? 冗談で言ったつもりだったのだが……。そなたは参加する気はないのか?」
「へい、あっしは歌も踊りもてんでダメなんで……」
「……ふむ……」
それを聞いたギラル卿は少し不思議そうに尋ねる。
「そなたは変わっているな。その独特の口調で話す割には礼儀があり、文字の読み書きに不自由せず、教養もある。他者と話をするのがあれほどうまいのに、合唱会や舞踏会の参加経験はないとは……」
「ハハ……人にはいろいろあるんすよ」
「ところで……。ツマリ殿はどこに?」
その質問に、セドナは少し呆れたように答える。
「……アダン殿のところっす。まさか、この間の件、本気だったんすか?」
「そ、そう言うわけではないが……。やはり、美少女の姿は一度見ておきたいと思ってな」
「そんなこと言っていたら、またスパイが入り込みやすよ?」
「ははは……。手厳しいな、セドナ殿。それではまた……」
そう言うとギラル卿は慌てたように帰っていった。
「やれやれ……。クレイズ隊長もアダンさんも、早く目が覚めると良いんすけど……」
そう言いながら、セドナは新しい書類に目を通し始めた。
「アダン……」
アダンとクレイズは特別傷が深かったこともあり、他の傷病兵とは異なる部屋で治療を受けていた。
幸いギラル卿の派遣した軍医の腕はよく、二人は一命をとりとめた。
だが、失血の多かったアダン、竜族と一対一の真っ向勝負を挑むという無謀な行為を行ったクレイズはいまだに目が覚めない。
「ごめんね……あたしのせいで……」
ツマリはセドナの計らいで公務から外されており、アダンの傍を離れることは無かった。
「起きて」「起きて」とアダンの手を握り、何度も何度も思念を送るが、返事は帰ってこなかった。
「…………」
ツマリは涙を流しながらも、アダンの顔を見る。
少年らしさが少しずつ薄れ、大人に近づいている顔。その整った相貌をじっと見つめながらツマリは思う。
(アダン……。本当に、かっこよくなったよね……。みんな放っておかない訳だよ……)
アダンはホース・オブ・ムーンの女性陣からも人気があり、当然見舞いに来ようとするものは後を絶たなかった。
だが、それはすべてセドナが理由をつけて追い返してくれていた。
(アダンをこんなにした私がこんなことを思うのは不謹慎だけど……。やっぱり、アダン。私はあなたが好き……)
その『好き』が兄妹としての愛情だけではないことをツマリはすでに気が付いていた。アダンに今度は『好き』『愛してる』と思念を注ぎ込む。が、やはり返事はない。
(本当に……アダンがこのまま目が覚めなかったら、私……そんな……嫌だ……)
「ツマリさん。お食事をお持ちしやした」
だがその瞬間背後からセドナの声がして、びくりと体を起こすツマリ。
「セドナ? ノックくらいしてよ?」
「いや、ノックはしたんすけど、返事がなかったんで……」
「え? そ、そう……」
自身がノックの音も耳に入らないほどアダンに意識を向けていたことをツマリは恥ずかしそうに顔をそむけた。
「とりあえず、ハムとサラダっす。……その、やはり精気は……」
「うん……。アダンが起きないのに、ほかの人から貰えないわ……」
あれから数日間、ツマリは精気を口にしていなかった。
アダンだけでなくクレイズもいまだ意識が戻らないこともあり、精気を吸う相手が居なかったためでもある。
ツマリもアダンほどではないがホース・オブ・ムーンでは人気があるため、精気を提供する声はいくつも上がっていた。当然その中にギラル卿も含まれている。
だが、ツマリはそれを全て断っていた。
「アダンさん……まだ目が覚めないんすね……」
セドナが運んでくれたワゴンに乗っているフォークを手に取り、ハムとサラダを口に運ぶ。
「うん……」
だがツマリは、ほんのわずかに食べただけで手を止めてしまった。
「ごめん、セドナ。もういいわ。……あと、二人っきりにさせてくれる?」
「え? ……ええ。ツマリさん、あまり気を落とさないでくだせえ……」
そのセドナの慰めに、ツマリは怒気を込めた口ぶりで叫ぶ。
「……あのさ、セドナ。私がアダンをこんなにしちゃったんだよ!? 全部私のせいなんだよ!? それなのに、気を落とさないわけないでしょ?」
「え、ええ。分かりやすよ。ただ、アダンさんが怪我をされたのは結果論っす。あれは運が悪かった事故だと思いやすから……」
「……それは……そうかもしれないけど……ごめん、セドナ。私だけが辛いわけじゃないのにね……」
「ええ……。それじゃ、またきやす」
そう言って、セドナは出ていった。
再度二人っきりになったツマリは、アダンの頬をそっと撫でる。
(本当に、ごめんね、アダン……。もう、私のこと嫌いになっちゃったよね……。けど、アダンが私にもう会いたくないって言うなら、もう会わないし……)
だが、アダンに拒絶される姿を思うと、ツマリは胸が締め付けられるような気持ちになった。
(だけど私は……このまま……ずっと一緒に居たい……。アダンがほかの人と幸せになるなんて嫌……。いっそ……コノママナラ、独占デキルノニ……)
自身の中から浮かぶ心の声に、ツマリはバッと手を離した。
(今の……なに? こんなこと、私が考えるなんて……!)
そう思い、かぶりを振るう。
(そう、今のは気のせい……。アダン、私はあなたに目覚めてほしい……。それに……お腹もすいたし……。アダン、あなたの精気……ううん、あなたの全てが、欲シイ……)
パン! と自分の頬を叩いて、そう考える思考を振り払おうとする。だが、その思いとは裏腹にツマリは、荒く息を弾ませながらアダンの顔を覗き込み、唇に顔を近づけていく。
(私……アダンが好き……アダンが全部欲しい……精気も……心モ……体モ……全部……支配シタイ……征服シタイ……あんなに、我がままばかり言って……大怪我させたのに……けど、好キ……愛してる……絶対、離れたくナイ……離サナイ……)
サキュバスとして感じる本能的な飢餓感と兄妹愛。
それに大けがを負わせた罪悪感と、なおも強まる支配欲。
そして異性として、兄妹として、言い表せない情欲と愛欲。
その全てがごちゃ混ぜになり、頭がおかしくなりそうになる。
(……アダン……)
そんな中で、ツマリは思わずギュッとアダンの腕を握る。
(痛っ!)
だが、その瞬間よく見知った思念が流れこんできた。……アダンの思念だった。
「アダン?」
「ん……」
その声に反応するように、アダンはゆっくりと目を覚ました。
「あれ……。ここ、どこ……?」
「アダン!」
ツマリの叫び声に、セドナもドアをバタン、と開けて入ってきた。
「アダンさん! 目が覚めたんすね!」
「良かった! 本当に……!」
だがツマリはセドナの声が耳に入らなかったのだろう、アダンの体を起こすと、骨も折れんばかりに抱き締めるツマリ。
「痛いって、ツマリ……!」
「あ、ごめん……」
「けど……。いいよ、もっと強く抱きしめて……」
「……うん!」
そう言うと、ツマリはぎゅっとアダンを抱きしめた。さすがに今度はアダンを傷つけないように加減はしていたが。
「ツマリ……。ずっと、僕に思念を送ってくれていたでしょ?」
「え……?」
「ツマリの気持ち……ずっと伝わってきたよ……。ありがとう、おかげで……目が覚めたよ」
「そんな……私の方こそ、私のせいで、私の……」
そう声を詰まらせるツマリの涙をぬぐうように、アダンは自身の瞼をツマリの瞼に重ね、そのまつげをそっと撫でる。
「あれは……僕を守るためにしてくれたことでしょ? ……それを恨むわけないじゃないか……。大好きだよ、ツマリ。また、これからも一緒に過ごそう?」
「アダン……」
自身の『傍にいて』と言う思念に対する回答とばかりに、そう答えながらアダンはツマリを抱き返した。
「それと……お腹、すいたでしょ? いいよ、ちょっとなら」
そう言うと、アダンは体を離し、自らの腕を差し出す。
流石に今の健康状態では、頬からエナジードレインは受けられないのだろう。
「……アハハ、ありがと……」
そう言いながら、ツマリは腕にかぶりつくように吸い付き、んぐ、んぐと精気を吸いだす。
「ちょっと、ツマリさん……あんまり飲みすぎないで下せえ」
「……うるふぁいわね……。分ふぁってるわよ……」
そう言うと、ツマリはぷはあ、と気持ちよさそうに顔を上げた。
「やっぱりアダンの精気は……美味しいわね。けど、もうちょっとだけ、頂戴?」
ツマリが飢えた表情でアダンの顔を見つめる。だが、その横から、
「やれやれ……。目覚めるなり、これか……」
クレイズが頭を掻きながら身を起こした。
「クレイズ隊長! お目覚めっすか!」
「ああ……。君達があれだけ騒いでいたら、嫌でも目が覚める……。セドナ、迷惑をかけたな……」
セドナは先ほどと同じように飛び上がらんばかりに嬉しそうな表情を見せる。
「いえ、そんな! 隊長が目覚めてくれただけで、あっしは嬉しいっすよ!」
「ハハハ……。いずれにせよ、アダンも無事で何よりだ。……ツマリ、私の精気を少し分けてやるから、アダンを解放してやれ」
そう言うと、クレイズは腕を差し出した。
体格が大きい分、当然クレイズの方が精気の量は多い。
「え~? ……まあ、いいわ。それじゃクレイズ、貰うわね」
そういうと、ツマリはアダンからようやく体を離すと、クレイズの腕に軽く唇をつけ、こくり、こくりとのどを鳴らした。
「ふう……。やっとお腹が膨れたわね……」
「おいおい、ありがとう位言えないのか? まったく……」
その様子にクレイズは呆れながらも、安堵の表情を浮かべた。
「ああ、その件であれば鉱山の経営者にお伝えを。それは軍内部で検討します。それから……」
セドナは、入院中のクレイズ及びアダンの代わりに戦後処理をてきぱきとこなしていた。
「……全く、精が出るな」
「あ、ギラル卿。少し手伝っていただけやすか?」
ギラル卿も何人かの文官を連れてきてくれて戦後処理に携わっている。
あの後、セドナ達を襲った暗殺者や捕虜となった兵士から話を聴き、やはりギラル卿の近衛兵の中に複数人の間者がまぎれていたことが判明した。
この期に及んでも内偵がバレていないと思ったのだろう、昨日当たり前のように勤務に現れた近衛兵は全員捕縛し、自身の行為を自白した。
予想をはるかに上回る密偵が潜伏していたこと、並びにホース・オブ・ムーンがそれに気づくまで野放しにしていたことについて、ギラル卿は家臣からこっぴどく叱られた。
その負い目もあるのだろう、ギラル卿は積極的にニクスの町の戦後処理の手助けをしてくれている。
最も、当の本人はあまり政治に携わるような行動は好きではないのだろう、あまり書類の確認などのデスクワークは行いたがらない。
「うーむ……。すまないが、私はどうも書類仕事や力仕事はな……会食のような仕事であれば、喜んで参加するのだが……」
「そいつは良かったっす。今夜は隣国と舞踏会があるんで、あっしの代わりに参加してつかあさい」
「む……? 冗談で言ったつもりだったのだが……。そなたは参加する気はないのか?」
「へい、あっしは歌も踊りもてんでダメなんで……」
「……ふむ……」
それを聞いたギラル卿は少し不思議そうに尋ねる。
「そなたは変わっているな。その独特の口調で話す割には礼儀があり、文字の読み書きに不自由せず、教養もある。他者と話をするのがあれほどうまいのに、合唱会や舞踏会の参加経験はないとは……」
「ハハ……人にはいろいろあるんすよ」
「ところで……。ツマリ殿はどこに?」
その質問に、セドナは少し呆れたように答える。
「……アダン殿のところっす。まさか、この間の件、本気だったんすか?」
「そ、そう言うわけではないが……。やはり、美少女の姿は一度見ておきたいと思ってな」
「そんなこと言っていたら、またスパイが入り込みやすよ?」
「ははは……。手厳しいな、セドナ殿。それではまた……」
そう言うとギラル卿は慌てたように帰っていった。
「やれやれ……。クレイズ隊長もアダンさんも、早く目が覚めると良いんすけど……」
そう言いながら、セドナは新しい書類に目を通し始めた。
「アダン……」
アダンとクレイズは特別傷が深かったこともあり、他の傷病兵とは異なる部屋で治療を受けていた。
幸いギラル卿の派遣した軍医の腕はよく、二人は一命をとりとめた。
だが、失血の多かったアダン、竜族と一対一の真っ向勝負を挑むという無謀な行為を行ったクレイズはいまだに目が覚めない。
「ごめんね……あたしのせいで……」
ツマリはセドナの計らいで公務から外されており、アダンの傍を離れることは無かった。
「起きて」「起きて」とアダンの手を握り、何度も何度も思念を送るが、返事は帰ってこなかった。
「…………」
ツマリは涙を流しながらも、アダンの顔を見る。
少年らしさが少しずつ薄れ、大人に近づいている顔。その整った相貌をじっと見つめながらツマリは思う。
(アダン……。本当に、かっこよくなったよね……。みんな放っておかない訳だよ……)
アダンはホース・オブ・ムーンの女性陣からも人気があり、当然見舞いに来ようとするものは後を絶たなかった。
だが、それはすべてセドナが理由をつけて追い返してくれていた。
(アダンをこんなにした私がこんなことを思うのは不謹慎だけど……。やっぱり、アダン。私はあなたが好き……)
その『好き』が兄妹としての愛情だけではないことをツマリはすでに気が付いていた。アダンに今度は『好き』『愛してる』と思念を注ぎ込む。が、やはり返事はない。
(本当に……アダンがこのまま目が覚めなかったら、私……そんな……嫌だ……)
「ツマリさん。お食事をお持ちしやした」
だがその瞬間背後からセドナの声がして、びくりと体を起こすツマリ。
「セドナ? ノックくらいしてよ?」
「いや、ノックはしたんすけど、返事がなかったんで……」
「え? そ、そう……」
自身がノックの音も耳に入らないほどアダンに意識を向けていたことをツマリは恥ずかしそうに顔をそむけた。
「とりあえず、ハムとサラダっす。……その、やはり精気は……」
「うん……。アダンが起きないのに、ほかの人から貰えないわ……」
あれから数日間、ツマリは精気を口にしていなかった。
アダンだけでなくクレイズもいまだ意識が戻らないこともあり、精気を吸う相手が居なかったためでもある。
ツマリもアダンほどではないがホース・オブ・ムーンでは人気があるため、精気を提供する声はいくつも上がっていた。当然その中にギラル卿も含まれている。
だが、ツマリはそれを全て断っていた。
「アダンさん……まだ目が覚めないんすね……」
セドナが運んでくれたワゴンに乗っているフォークを手に取り、ハムとサラダを口に運ぶ。
「うん……」
だがツマリは、ほんのわずかに食べただけで手を止めてしまった。
「ごめん、セドナ。もういいわ。……あと、二人っきりにさせてくれる?」
「え? ……ええ。ツマリさん、あまり気を落とさないでくだせえ……」
そのセドナの慰めに、ツマリは怒気を込めた口ぶりで叫ぶ。
「……あのさ、セドナ。私がアダンをこんなにしちゃったんだよ!? 全部私のせいなんだよ!? それなのに、気を落とさないわけないでしょ?」
「え、ええ。分かりやすよ。ただ、アダンさんが怪我をされたのは結果論っす。あれは運が悪かった事故だと思いやすから……」
「……それは……そうかもしれないけど……ごめん、セドナ。私だけが辛いわけじゃないのにね……」
「ええ……。それじゃ、またきやす」
そう言って、セドナは出ていった。
再度二人っきりになったツマリは、アダンの頬をそっと撫でる。
(本当に、ごめんね、アダン……。もう、私のこと嫌いになっちゃったよね……。けど、アダンが私にもう会いたくないって言うなら、もう会わないし……)
だが、アダンに拒絶される姿を思うと、ツマリは胸が締め付けられるような気持ちになった。
(だけど私は……このまま……ずっと一緒に居たい……。アダンがほかの人と幸せになるなんて嫌……。いっそ……コノママナラ、独占デキルノニ……)
自身の中から浮かぶ心の声に、ツマリはバッと手を離した。
(今の……なに? こんなこと、私が考えるなんて……!)
そう思い、かぶりを振るう。
(そう、今のは気のせい……。アダン、私はあなたに目覚めてほしい……。それに……お腹もすいたし……。アダン、あなたの精気……ううん、あなたの全てが、欲シイ……)
パン! と自分の頬を叩いて、そう考える思考を振り払おうとする。だが、その思いとは裏腹にツマリは、荒く息を弾ませながらアダンの顔を覗き込み、唇に顔を近づけていく。
(私……アダンが好き……アダンが全部欲しい……精気も……心モ……体モ……全部……支配シタイ……征服シタイ……あんなに、我がままばかり言って……大怪我させたのに……けど、好キ……愛してる……絶対、離れたくナイ……離サナイ……)
サキュバスとして感じる本能的な飢餓感と兄妹愛。
それに大けがを負わせた罪悪感と、なおも強まる支配欲。
そして異性として、兄妹として、言い表せない情欲と愛欲。
その全てがごちゃ混ぜになり、頭がおかしくなりそうになる。
(……アダン……)
そんな中で、ツマリは思わずギュッとアダンの腕を握る。
(痛っ!)
だが、その瞬間よく見知った思念が流れこんできた。……アダンの思念だった。
「アダン?」
「ん……」
その声に反応するように、アダンはゆっくりと目を覚ました。
「あれ……。ここ、どこ……?」
「アダン!」
ツマリの叫び声に、セドナもドアをバタン、と開けて入ってきた。
「アダンさん! 目が覚めたんすね!」
「良かった! 本当に……!」
だがツマリはセドナの声が耳に入らなかったのだろう、アダンの体を起こすと、骨も折れんばかりに抱き締めるツマリ。
「痛いって、ツマリ……!」
「あ、ごめん……」
「けど……。いいよ、もっと強く抱きしめて……」
「……うん!」
そう言うと、ツマリはぎゅっとアダンを抱きしめた。さすがに今度はアダンを傷つけないように加減はしていたが。
「ツマリ……。ずっと、僕に思念を送ってくれていたでしょ?」
「え……?」
「ツマリの気持ち……ずっと伝わってきたよ……。ありがとう、おかげで……目が覚めたよ」
「そんな……私の方こそ、私のせいで、私の……」
そう声を詰まらせるツマリの涙をぬぐうように、アダンは自身の瞼をツマリの瞼に重ね、そのまつげをそっと撫でる。
「あれは……僕を守るためにしてくれたことでしょ? ……それを恨むわけないじゃないか……。大好きだよ、ツマリ。また、これからも一緒に過ごそう?」
「アダン……」
自身の『傍にいて』と言う思念に対する回答とばかりに、そう答えながらアダンはツマリを抱き返した。
「それと……お腹、すいたでしょ? いいよ、ちょっとなら」
そう言うと、アダンは体を離し、自らの腕を差し出す。
流石に今の健康状態では、頬からエナジードレインは受けられないのだろう。
「……アハハ、ありがと……」
そう言いながら、ツマリは腕にかぶりつくように吸い付き、んぐ、んぐと精気を吸いだす。
「ちょっと、ツマリさん……あんまり飲みすぎないで下せえ」
「……うるふぁいわね……。分ふぁってるわよ……」
そう言うと、ツマリはぷはあ、と気持ちよさそうに顔を上げた。
「やっぱりアダンの精気は……美味しいわね。けど、もうちょっとだけ、頂戴?」
ツマリが飢えた表情でアダンの顔を見つめる。だが、その横から、
「やれやれ……。目覚めるなり、これか……」
クレイズが頭を掻きながら身を起こした。
「クレイズ隊長! お目覚めっすか!」
「ああ……。君達があれだけ騒いでいたら、嫌でも目が覚める……。セドナ、迷惑をかけたな……」
セドナは先ほどと同じように飛び上がらんばかりに嬉しそうな表情を見せる。
「いえ、そんな! 隊長が目覚めてくれただけで、あっしは嬉しいっすよ!」
「ハハハ……。いずれにせよ、アダンも無事で何よりだ。……ツマリ、私の精気を少し分けてやるから、アダンを解放してやれ」
そう言うと、クレイズは腕を差し出した。
体格が大きい分、当然クレイズの方が精気の量は多い。
「え~? ……まあ、いいわ。それじゃクレイズ、貰うわね」
そういうと、ツマリはアダンからようやく体を離すと、クレイズの腕に軽く唇をつけ、こくり、こくりとのどを鳴らした。
「ふう……。やっとお腹が膨れたわね……」
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その様子にクレイズは呆れながらも、安堵の表情を浮かべた。
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