2 / 56
プロローグ
プロローグ2 鍵かっこの位置が変わると意味合いは変わるもの
しおりを挟む
さらに、俺への恨みを込めたであろう、強力な正拳を俺の腹に見舞った。
「ぐは!」
「……あのさ! シイルが、私の『お兄ちゃん』だったことが……どれほど私を苦しめてきたか、分かるの!? ねえ!」
「ぐ……がは……!」
魔王の腕力は、その細腕からは想像も出来ない威力だ。俺は思わず口から血を吐き出した。
(やっぱり、か……ごめんな、俺なんかが兄で……)
そう思いながらもロナのほうを見やると、彼女はどこか暗い笑みを浮かべながら、先ほど戦士グリモアが傷つけた腕を見せつけてきた。
「けどさ……見てよシイル? ……この手の傷の跡……この血……赤くないでしょ?」
そしてロナは俺の体をぐい、と引き起こすと自身の腕の傷を見せた。
そこからは魔族特有の緑色の血がぽたぽたと流れていた。
「もう、さ……魔族に生まれ変わった私はね……? 忌々しい『お兄ちゃんと同じ血』は一滴も流れてないんだよ……?」
「……ああ……」
……「『忌々しいお兄ちゃん』と同じ血が流れている」、か。
それを聞いて、やはり俺のロナへの愛情は単なる独りよがりだったのか、と確信した。
(俺はロナに、そこまで嫌われていたのか……)
……やはり、俺が全ていけなかったのだ。
無力な癖に一方的な愛を押し付ける、そんな俺の身勝手な言動がロナを追い詰め、そして魔族に転生させてしまったのだ。
そう思うと、今ここに倒れている皆やこの世界の人々に対して謝っても謝り切れない気持ちになった。
「あはははははははは! シイル、分かる?」
そしてロナは狂ったように笑いながらくるりと体を翻す。
「私が魔族になったのはこの体と、この力が欲しかったからよ! ずっとずっと……前世から、ずーーーーっとね……見てよシイル、綺麗でしょ、今の私の体は……?」
そういうと魔王ロナは倒れこんだ俺の前に立ち、マントをそっと脱ぎ捨てた。
……ゲームに出てくる魔族がよく身にまとうような、露出の高い服とともに彼女の肢体があらわになる。
(……クソ! 何考えてるんだ俺は! ロナは妹だろ!?)
美しい銀髪に赤い瞳、そして引き締まりながらも柔らかそうな肌。
『魔王ロナ』の、その恐ろしいほどの美しい相貌に俺は一瞬トクン、と胸がなり言葉を失った。
「もう、さ……私のこと、誰にもブスなんて言わせないから……!」
ロナ……いや、ロナだった魔王は緑色の血を滴らせながら俺の頬に手を触れて呟く。
その刹那、不意にロナの殺気が緩むのを感じた。
「だからさ、シイル? これで分かったでしょ?」
「……何がだ?」
「……私とシイルは……もう血が繋がってないし『兄妹』じゃないってこと。……だからさ、シイル? これでシイルと私は……け」
「隙あり!」
だが、その一瞬の隙をついてマルティナがロナを切り付ける。
「ぐ……! 邪魔な……!」
袈裟斬りに放ったその一撃に、さすがの魔王ロナも苦悶の表情を見せる。
……が、浅い。
「フ……フヒヒ……! いい、痛みだったよ、魔王様……! まだまだ、ドMのあたしは満足してないよ! さあ、来てよ!」
マルティナはことあるごとに自分を『ドMである』と叫ぶ。
実際に彼女は、人から痛めつけられたりさげすまれたりするときに恍惚とした表情をいつも見せていた。
……そして今もまた、彼女は興奮するような表情でロナに対して剣を構えた。
「マルティナ……この女……!」
「ロナちゃん! あんたがシイルの妹だってことはもう忘れるよ! ……シイルは、あたしが守るから!」
「…………」
先ほどのロナの一撃も、魔王の薄皮をわずかに傷つけただけだったのだろう、痛みを覚える様子もなくロナは振り向き、氷のような目を見せた。
そして魔王ロナは独り言のように呟く。
「やっぱり邪魔ね、あんたは……」
弱冠14歳の女勇者マルティナは、その年齢にそぐわないほどの胆力を持つ。
ひるむことなく見据えるのを見て、ロナは不快そうな表情を見せた。
「そんなにシイルが大事?」
「当たり前でしょ! シイルのこと、あたしは大好きだよ!」
「気に入らないわね……。けど、今あんたを殺したら、あんたはシイルの中で生き続ける、か……。なら……いいことを思いついたわ!」
そういうと、ロナの全身から凄まじい魔力がほとばしる。
「ぐは!」
「きゃあ!」
その魔力に、満身創痍だった俺たちは勢いよく跳ね飛ばされ、ボロボロになった壁にたたきつけられた。
そしてロナはゆっくりと、倒れ伏したマルティナに近づいていく。
「フフフ、あんたの持つ勇者の力も、鍛えたレベルも、全部封じてあげる……! 二度と戦えない体にしてあげるわ……!」
マルティナは、立ち上がれないようでこちらを見据えながら辛そうに頭を下げた。
「ゴメン、シイル……」
「う……くそ……俺は……諦め……」
マルティナにかけよろうとしたが、体がもう動かない。
急速に意識が薄れる中、ロナはゆっくりとマルティナに近づいて、何かの呪文をかけた。
「術式はこれで完了ね……せっかくだから、他の連中にもかけておかないとね……」
そういいながら、ロナは倒れていた仲間たちにも同じように魔法を唱える。……俺はそれを見ているしか出来なかった。
「最後はシイル……あなたの番ね? 田舎で精々畑でも耕して暮らしていなさい?」
(くそ……あの優しいロナがこんなことするなんて……! 俺が……全部悪かったんだ……! 俺が、全部……)
そう思いながらも、目の前が暗くなってきた。
「術式完了。これでもう戦えないでしょ……? 私が世界を征服するまで、村で大人しくしててね、シイル……。私はシイルを絶対……絶対に迎えに行くから……」
そして俺が完全に気を失う一瞬、ロナのその悲しそうな一言とともに、唇に何か柔らかくて暖かく……そしてどこか悲し気な感触が伝わった。
……そして俺たちは全滅した。
「ぐは!」
「……あのさ! シイルが、私の『お兄ちゃん』だったことが……どれほど私を苦しめてきたか、分かるの!? ねえ!」
「ぐ……がは……!」
魔王の腕力は、その細腕からは想像も出来ない威力だ。俺は思わず口から血を吐き出した。
(やっぱり、か……ごめんな、俺なんかが兄で……)
そう思いながらもロナのほうを見やると、彼女はどこか暗い笑みを浮かべながら、先ほど戦士グリモアが傷つけた腕を見せつけてきた。
「けどさ……見てよシイル? ……この手の傷の跡……この血……赤くないでしょ?」
そしてロナは俺の体をぐい、と引き起こすと自身の腕の傷を見せた。
そこからは魔族特有の緑色の血がぽたぽたと流れていた。
「もう、さ……魔族に生まれ変わった私はね……? 忌々しい『お兄ちゃんと同じ血』は一滴も流れてないんだよ……?」
「……ああ……」
……「『忌々しいお兄ちゃん』と同じ血が流れている」、か。
それを聞いて、やはり俺のロナへの愛情は単なる独りよがりだったのか、と確信した。
(俺はロナに、そこまで嫌われていたのか……)
……やはり、俺が全ていけなかったのだ。
無力な癖に一方的な愛を押し付ける、そんな俺の身勝手な言動がロナを追い詰め、そして魔族に転生させてしまったのだ。
そう思うと、今ここに倒れている皆やこの世界の人々に対して謝っても謝り切れない気持ちになった。
「あはははははははは! シイル、分かる?」
そしてロナは狂ったように笑いながらくるりと体を翻す。
「私が魔族になったのはこの体と、この力が欲しかったからよ! ずっとずっと……前世から、ずーーーーっとね……見てよシイル、綺麗でしょ、今の私の体は……?」
そういうと魔王ロナは倒れこんだ俺の前に立ち、マントをそっと脱ぎ捨てた。
……ゲームに出てくる魔族がよく身にまとうような、露出の高い服とともに彼女の肢体があらわになる。
(……クソ! 何考えてるんだ俺は! ロナは妹だろ!?)
美しい銀髪に赤い瞳、そして引き締まりながらも柔らかそうな肌。
『魔王ロナ』の、その恐ろしいほどの美しい相貌に俺は一瞬トクン、と胸がなり言葉を失った。
「もう、さ……私のこと、誰にもブスなんて言わせないから……!」
ロナ……いや、ロナだった魔王は緑色の血を滴らせながら俺の頬に手を触れて呟く。
その刹那、不意にロナの殺気が緩むのを感じた。
「だからさ、シイル? これで分かったでしょ?」
「……何がだ?」
「……私とシイルは……もう血が繋がってないし『兄妹』じゃないってこと。……だからさ、シイル? これでシイルと私は……け」
「隙あり!」
だが、その一瞬の隙をついてマルティナがロナを切り付ける。
「ぐ……! 邪魔な……!」
袈裟斬りに放ったその一撃に、さすがの魔王ロナも苦悶の表情を見せる。
……が、浅い。
「フ……フヒヒ……! いい、痛みだったよ、魔王様……! まだまだ、ドMのあたしは満足してないよ! さあ、来てよ!」
マルティナはことあるごとに自分を『ドMである』と叫ぶ。
実際に彼女は、人から痛めつけられたりさげすまれたりするときに恍惚とした表情をいつも見せていた。
……そして今もまた、彼女は興奮するような表情でロナに対して剣を構えた。
「マルティナ……この女……!」
「ロナちゃん! あんたがシイルの妹だってことはもう忘れるよ! ……シイルは、あたしが守るから!」
「…………」
先ほどのロナの一撃も、魔王の薄皮をわずかに傷つけただけだったのだろう、痛みを覚える様子もなくロナは振り向き、氷のような目を見せた。
そして魔王ロナは独り言のように呟く。
「やっぱり邪魔ね、あんたは……」
弱冠14歳の女勇者マルティナは、その年齢にそぐわないほどの胆力を持つ。
ひるむことなく見据えるのを見て、ロナは不快そうな表情を見せた。
「そんなにシイルが大事?」
「当たり前でしょ! シイルのこと、あたしは大好きだよ!」
「気に入らないわね……。けど、今あんたを殺したら、あんたはシイルの中で生き続ける、か……。なら……いいことを思いついたわ!」
そういうと、ロナの全身から凄まじい魔力がほとばしる。
「ぐは!」
「きゃあ!」
その魔力に、満身創痍だった俺たちは勢いよく跳ね飛ばされ、ボロボロになった壁にたたきつけられた。
そしてロナはゆっくりと、倒れ伏したマルティナに近づいていく。
「フフフ、あんたの持つ勇者の力も、鍛えたレベルも、全部封じてあげる……! 二度と戦えない体にしてあげるわ……!」
マルティナは、立ち上がれないようでこちらを見据えながら辛そうに頭を下げた。
「ゴメン、シイル……」
「う……くそ……俺は……諦め……」
マルティナにかけよろうとしたが、体がもう動かない。
急速に意識が薄れる中、ロナはゆっくりとマルティナに近づいて、何かの呪文をかけた。
「術式はこれで完了ね……せっかくだから、他の連中にもかけておかないとね……」
そういいながら、ロナは倒れていた仲間たちにも同じように魔法を唱える。……俺はそれを見ているしか出来なかった。
「最後はシイル……あなたの番ね? 田舎で精々畑でも耕して暮らしていなさい?」
(くそ……あの優しいロナがこんなことするなんて……! 俺が……全部悪かったんだ……! 俺が、全部……)
そう思いながらも、目の前が暗くなってきた。
「術式完了。これでもう戦えないでしょ……? 私が世界を征服するまで、村で大人しくしててね、シイル……。私はシイルを絶対……絶対に迎えに行くから……」
そして俺が完全に気を失う一瞬、ロナのその悲しそうな一言とともに、唇に何か柔らかくて暖かく……そしてどこか悲し気な感触が伝わった。
……そして俺たちは全滅した。
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる