二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~

フーラー

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第5章

5-4 人生で最初に倒した『四天王』の名前は何かな?

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それからしばらくして、俺たちは最後の古城の玉座の前で吸血鬼にとどめを指した。
恐らくこの古城の頭目と思しき吸血鬼は、俺の前で塵になろうとしている。


『まさか……我が吸血鬼の一族が……レベル1の弱者どもに……』
「弱者とは心外だな……俺たちは『伝説の勇者』マルティナと、魔導士シイルだ」
『なに……? フ……なるほど……それほどの相手だったか……ならば、これも運命か……』


俺たちはこのあたりは訪れたことがない。
そのため、彼らは名前は知っていても顔は知らないのだろう。

だが、レベルは1に落とされたとはいえ、名の知れた勇者であるマルティナに倒されたということは、プライドの高い彼らにとっては救いだったようだ。
どこか満足げな表情でその吸血鬼は消滅した。


「ふう……こりゃ俺たち、ヴァンパイアハンターになれるな……」
「そうかもね……これで全部かな?」


だが、マルティナの質問にセドナは首を振る。


「……配下はこれで最後だろうけど、肝心の四天王……ルネとルナがまだ残ってるね」
「あ、そうか……。けど、3つの古城のどこにもいなかったね」
「多分入れ違いになったんだな。……ニルバナが教えてくれた情報には、どこに普段居るかまでは分からなかったからね」
「けど、あいつの部下は全員始末したんだ。多分何かしら動きはあるだろうな」
「だね……。それでどうする? これからブラックパークの村に戻る?」


だが、最後の古城は思ったよりも道中が複雑だったこともあり、すでに日は暮れている。
夜間に吸血鬼と戦うなんて愚の骨頂だ。しかもそれが、ヴァンパイア・ロードとなればなおさらだ。

「いや……今日はここで休もう。もうこのあたりにモンスターはいないようだしな」

この古城は、一晩泊まるくらいであれば特に支障はなさそうだ。
マルティナも疲れていたのか、嬉しそうに頷く。


「うん! あたしはそれでいいよ! セドナは?」
「私もそれでいいよ。この辺はもうモンスターもいないと思うけど、見張りは任せて」

セドナはロボットという特性上、眠る必要がない。
俺は多少申し訳なく思いながらも、お願いすることにした。


「悪いな、助かるよ」
「それじゃあ、夕食に……と思ったけど、ちょっとシイル、ついてきてくれないか?」
「え?」
「昨日、ニルバナから聞いたのを思い出したんだ。実はこの古城の隠し部屋に、貴重なアクセサリーがあるって話でさ」


そういうと、セドナは一枚の細長い羊皮紙を見せてくれた。
なるほど、魔族のスパイであるニルバナとは、こうやって直接顔を合わせずに書面でやり取りをしているのか。


「えっと……なるほど、応接室のソファの下に小部屋があるんだな。……悪い、マルティナ。ちょっと行ってくる」
「うん! じゃああたし、夕食作っておくね!」

そういうと、俺たちは小部屋に向かった。




それから俺はアクセサリーを回収し、マルティナの作ってくれた夕食を口にした。
……やっぱり、マルティナの作る料理は美味しい。もし、ロナと一緒に食べることが出来る未来があったのなら……そう思ってしまうと悲しくなるほどに。

そして俺は、古城の一室で窓辺に腰かけ、先ほど手に入れたアクセサリーを月に照らす。


「親子愛のペンダント……か……」


俺が手に入れたアクセサリーは『親子愛のペンダント』だ。
持って念じると、対象に自身の経験値を譲渡できる力を持つ。


(まあ、貴重な品なんだろうけど……使い道が思いつかないな……)


……だが、このペンダントを使ってもマルティナやセドナに経験値を渡す意味はない。
村人たちに、自衛のために経験値を渡す? ……いや、ダメだ。安易に力を持った弱者がどんな愚行を起こすかなんて、歴史をひも解けばすぐに分かる。

持ち逃げのディラックが同行していれば経験値をくれてやっても良かったが、生憎彼が今どこにいるのかは分からない。

しょうがないので俺はいったん考えるのをやめ、空に浮かぶ月に視線を移した。


「今日は月が綺麗だな……」

この世界の月の形状は、現実世界のそれとほぼ同じだ。
そのため、見るたびに元の世界を思い出して懐かしい思いになる。


「月といえば、四天王の名前はルナ、か……。ハハハ、皮肉な名前だな……」


月明かりを見ながら独り言を言っていると、


「ねえ、シイル……?」

マルティナの声が後ろから聞こえてきたので、俺は振り返る。


「え……マルティナ、か……?」

そこには、薄桃色のドレスに身をまとった、美しい少女がいた。
月の明かりが彼女の身にまとうラメを反射させ、さながら月下の精霊のような美しさを見せていた。


「……どう、この服? セドナに見つけてもらったんだ……」
「あ、ああ……この古城にあったやつを拝借したのか……」


それにしては綺麗すぎるし、小柄なマルティナのサイズにピッタリ合うものがあるというのは、少々意外だった。
俺は率直に感想をいう。


「可愛いよ、マルティナ。本当に……綺麗すぎて驚いたよ」
「ありがと……あたしもさ。もう大人だって分かるよね? シイル……」
「……そうだな……マルティナはもう、子どもじゃないんだな」


そういうということは、無意識に俺はマルティナを子ども扱いしていたのだろう。
これからは気を付けないと。


「それでさ、シイル……? さっき、ルナってつぶやいてたけど……気になる名前なの?」

マルティナが隣にちょこんと座って、尋ねてきた。
着る服は人の性格に影響を与えるのだろう、マルティナはいつもよりもしっとりとしたような口調だ。俺は思わずドギマギしながらも答える。


「あ、ああ……昔を思い出してな」
「昔って? ……ひょっとして、昔の女?」
「ハハハ、ある意味な。……ルナってのは……俺とロナが生まれて初めて倒した『四天王』だったんだよ」


そういうと、マルティナはきょとんとした表情をする。


「え? ……けど、この世界の『ルナ』とは全然違う奴だよね?」
「ああ。小さい時に、ロナと一緒にやっていたゲームに出てきたキャラのことだよ。俺たちの世界のゲームには、それはもう『四天王』がよく出てくるからな」
「へえ……」

幼少期、まだロナと仲が良かったころは、よく一緒にゲームで遊んでいた。
その中で、通算で考えれば、恐らく3ダースは四天王を倒しただろう。あの頃に戻りたいと思ったことは一度や二度じゃないが。


(……ん?)

そこで俺は気づいた。
本来は仏教用語である『四天王』という言葉がこの世界にあるのは不自然だ。
……誰か仏教に明るいものが魔王軍にいるのか? まあ、そんなことは俺には関係ないか。


「シイルはさ……本当にロナと仲がよかったんだね……」
「ああ。……ま、あいつが不登校になってからは……無理して友達を作ってたから、ゲームをする暇がなくなったんだけどな。人気の映画や流行りのファッションや髪型、話題のアニメ。そういう情報を集めてばかりだったからな」


俺がクラスで人気者になれば、ロナをいじめる奴は居なくなる。
そう思って、俺はゲームをしなくなったことを思い出した。


「そうだったんだ……ねえ、シイル?」
「なんだ?」
「……元の世界に帰りたい?」
「元の世界、か……そうだな……何度もあったよ……」


正直、それは何度も思うことがあった。
俺が頷くと、マルティナは少し寂しそうな表情をした。


「そう、なんだ……。どんな時に思うの? ……やっぱり、元カノ?」
「いや……もう、あいつに未練はないよ。それより、夜に思うことが多いかな」
「夜?」
「ああ。……この世界じゃやることが本当にないだろ? 元の世界では夜でもパソコンやスマホで出来ることが沢山あったし、ラジオの番組も充実してたからな」


スマホやパソコンなどについては以前マルティナにも説明している。
そのことを聞いて、マルティナは少し羨ましそうな表情をした。


「そっか……。夜でもずっと起きていたくなる世界なんだね、シイルの国は……」
「ハハ……まあ、そのおかげで昼夜逆転している奴もいるけどな」
「そうなの!? そこまでみんな、夜を楽しめるなんて、羨ましいな……」


そういうと、マルティナは少し考える表情をした後、俺に耳元で呟く。


「けどさ、シイル? ……この世界でも夜に出来ることは、他にもあるよね? ……シイルがしてほしいこと……してあげるよ?」
「……いいのか?」
「うん……あたしは『ドM』だから……」


そしてマルティナは俺に手を重ねて、まっすぐ目を見つめる。
……そんな彼女がとても愛おしく感じる。


(……本当に、いい子だな……マルティナは……)


俺にとっては、マルティナはもう一人の妹のように大切な存在だ。
マルティナの手をぎゅっと握りながら俺は答える。


「……ならさ、マルティナ。歌ってほしい曲があるんだ」
「え? 歌? その……そんなのでいいの?」


夜に娯楽が少ないこの世界では、歌や踊りだって『そんなの』じゃない、とても大切なコンテンツだ。なにより、俺はマルティナの歌が大好きだ。


「以前マルティナが歌っていた、あの『星屑の瞬く日』ってあるだろ? あれが聞きたいな」
「え、その曲?」

そのリクエストは少し意外だったのか、マルティナは驚いた表情を見せる。

「……なんで覚えてるの? 凄い前だよね、その曲歌ったの……」
「マルティナが歌ってくれた曲は全部覚えてるよ。どれも素敵な歌だからな」


元の世界では、周りに合わせるために流行の歌を必死で覚えていたこともあり、俺は数回も聞けば曲は完全に覚えられるようになった。

……その時の経験が、マルティナの歌を鑑賞するのにも役になってくれたのだから、何とも皮肉な話だ。


「ありがと……なんか、凄い嬉しい……じゃあ、今夜はセドナだけの『オルゴール』になるね?」
「ああ……俺も一緒に歌っていいか?」
「勿論!」


そういうと、俺はマルティナと一緒に夜の風を感じながら、夜が更けるまで歌を歌った。


(俺たちの世界は『ずっと起きていたくなる世界』か……。今は……この世界も、俺にとってはそうだな……)


幻想的なまでに透き通ったマルティナの歌声に合わせながら、俺はそう思った。
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