聖女が追放されたことで豊穣チートを失ったけど、プロテインとヤンデレ美少女のおかげで人生逆転しました

フーラー

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第2章

意中の相手に振られるように仕向けて、慰めようとするヤンデレ少女、良いよね

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「あの、ミレイユ様……」
「はあ……」

シリルと二人っきりになったとたんに、ミレイユはあからさまな溜息と共に、近くにあったお菓子をぼりぼりと口に入れ始めた。

「このお菓子、美味しいですね……」
「そう? じゃあ、あなたに残りあげるわ」

そう言って、残りのお菓子が置かれた皿を乱雑にシリルの前に置く。
そして、ミレイユは悪意を込めた表情で答える。

「あんた、ちょっと調子に乗ってんじゃないの?」
「え?」
「最近ちょっと稼いで小金を持ったからって、なんか私と対等になったみたいな態度じゃない?」
「別に、俺は……」
「私の可愛い妹分のスファーレを傷つけたことは、聴いてるわ? 今回は領の子どもたちのために顔を合わせたけど、本当は会いたくもなかったもの」
「ちょっと待ってください! 傷つけたって、どういうことですか?」

その発言に、やや激昂するようにミレイユは答えた。

「やった方は忘れても、やられた方は忘れないのよ! あなた、スファーレがお風呂に入ってる時に覗きをしたり、体重が増えたことをからかったり、散々あの子を傷つけたんでしょ?」
「は……?」

当然だが、この話はスファーレのついた嘘であり、シリルがそのようなことをしたことは無い。身に覚えのない罪をいきなり糾弾され、シリルは慌てるように尋ねた。

「ちょっと待ってください。スファーレ様がそんなことを言ったんですか?」
「ええ、そうよ。あんたがひどい男だって、いつも言ってたもの」
「それは誤解です! 俺はそんなことは一度も……」
「あの子の言うこととあんたの言うこと、どっちを信じるかなんて聞くまでもないでしょ? 言い訳するなんて、見苦しいわよ!」

ミレイユはそう言いながら、紅茶のポットを手に持って、シリルに投げつけた。

「うわ……!」

勿論、いくらミレイユであっても通常であれば、いきなり相手に紅茶をかけるような真似はしない。

だが、最近は自身の薬よりもシリルたちの販売する薬の評判が町できかれるようになってきたことが面白くなかったことと、その中心人物のシリルが自分にとって代わって賞賛されていること、そして先ほどの事実上『自身の能力が足かせになっている』と言うことを伝えられて不愉快だったことが相まって、このような行動を取ったのだろう。

さらに、追い打ちをかけるように続けて答える。

「しかも、スファーレから聞いたわ。あんた、私のことが好きなんですってね?」
「え?」
「どうなの、シリル?」
「……ええ。そうです。俺は……あなたのことを幼いころから好きでした」

紅茶をかけられてスーツを茶色に染めていたシリルは、それでも尚、そのように答えた。
幼少期からずっと思って来た気持ちをどんな結果になるにせよ、はっきりと伝えるべきだと考えたためだろう。

「あっそ。……あのさ、あなた昔あった観劇『星空の剣闘士』で会ったセリフ、覚えている?」
「……ええ……」

それは有名な観劇なのでシリルも覚えていた。エルフの剣闘士が人間たちの主催する戦いの中で、次々に人間の相手を倒しながら奴隷から解放する物語だ。

「なら、分かるわよね?」

そう言った後、ミレイユは蔑むような目つきで答える。



「短命種が長命種に向ける愛なんて、暴力以外の何物でもないの。……すぐに老いさばらえるあなたに愛されるなんて、はっきり言って不愉快よ」



「…………」
シリルは思わず黙り込んだところに、追い打ちのように付け加える。
「あんた、自分が3年で中年になる女と恋愛できるの? できないでしょ? なんで自分が出来ないことを相手にやらそうとするの?」
「……ぐ……」
「人間って、いつもそうよね。あんた達から見たら私たちエルフは『老いない上に美しい、理想の妻』なんでしょ? けどね、あたしたちから見たらあんたたちは『すぐに老いる上に醜い夫』なのよ。……だから、あんたがスファーレに何もしてなくても結婚は出来ないわ」
「そうですか……」
「それとも……。スファーレを人質に取って、結婚をお願いでもする? そうすればできるかもしれないわよ? ……そんなことをしたら、あんたの命は無いけどね」
「……は……」

そこまで言われて、さすがに返す言葉が無かったのだろう。
とどめとばかりに、ミレイユは言い放つ。



「そもそも私、自分が不幸になってまで相手を幸せにする人生なんて、まっぴらごめんだから」


その冷たい言葉に対して、シリルは胸に突き刺さるような痛みを感じた。
そして、

「すみません。ミレイユ様、あなたを……好きになってしまったこと……謝罪します……愛して、ごめんなさい……」

そう必死に涙をこらえながら答えた。



そしてしばらく気まずい沈黙が流れた後、セドナが一人で戻ってきた。

「どうしたの、シリル? 紅茶でびしょ濡れじゃない?」
「あ……」
「ハハハ、悪い。ちょっと手を滑らせて、紅茶をこぼしたんだ」

シリルは力なく笑いながら、ミレイユが何か口にしようとする前にそうつぶやいた。
それを聞いたセドナは心配そうに、シリルの腕を引いて立たせた。

「早く体を拭かないと、風邪ひいちゃうよ? ほら、一度宿に戻って、体を乾かしてきなよ?」
「え? ……ああ、そうするよ」

そう言うと、シリルはこの場の雰囲気にいたたまれなくなったのだろう、宿の方に歩いて行った。




「はあ……」
ミレイユにこっぴどい振られ方をされたことに、シリルはひどく落ち込んでいた。

「どうして俺は人間なんだろう……俺がエルフだったら……こんなことにならなかったんだろうな……」

そう言いながら、シリルはラルフに用意してもらっていた替えの服を受け取り、部屋で着替えた。
しばらくして着替えが終わったタイミングで、とんとん、とドアをノックする音が聞こえてきた。

「はい、誰ですか?」

一瞬ミレイユが謝りに来たのかと思ったが、シリルの期待は外れた。

「お兄様……よろしいですか?」

スファーレだった。

「スファーレ様?」

シリルは少し不思議そうに思いながらも、ドアを開けた。

「お茶会に戻らなくていいのですか?」
「ええ、ちょっとくらい問題ありませんわ。それより、お兄様が気になったので……何かあったのですか? 私で良かったら、話聞きますわね?」

そう言うと、やや強引に部屋に入り、ドアの内鍵を閉め、
「これで、お兄様が何をしても、外からは分かりませんわよ?」
そっと耳元でささやき、隣のベッドに座った。

「あの、スファーレ様……」
「……ミレイユとは、どうでしたか?」

スファーレは事情を知らないかのように訊ねてきた。
彼女が『お姉さま』ではなく『ミレイユ』と呼び捨てにしていることに疑問を持つような心の余裕は、今のシリルにはなかった。

「ああ、こっぴどく振られちゃったよ……」

そう頭を抱えるように言いながら、シリルはことの顛末を説明した。
そしてスファーレは『自身が風呂を覗かれた』といった下りの話を聴くなり、怒りの表情で席を立ちあがる。

「まあ、ミレイユがそんなことを?」
「ええ。あの、ひょっとしてスファーレ様……」

だがシリルが質問をしようとしたその瞬間、それを遮るように、スファーレが怒りをあらわにした態度で立ち上がる。

「私、お兄様がそんなことをする方じゃないと信じていますのに!」
「え?」
「きっと、お兄様を振るためにそんな嘘を言ったに違いありません! 絶対に許せません! 私、抗議してきます! そして、ミレイユとは絶縁いたしますわ!」
「ま、まってください、スファーレ様!」

だが、それをシリルは止める。

「別にいいんです。仮に誤解が解けても……エルフであるミレイユ様が、人間を好きにあることはない……そうおっしゃっていましたから……」
「そうだったんですの? ……私も人間なのに……私も老いたら、友達でいられなくなるのか心配ですわ?」

スファーレは心にもないことをつぶやいた。
実際に人間とエルフの友情は外見年齢の乖離に伴って崩壊する場合が多いが、はなからスファーレは本心ではミレイユを嫌っている。
しかし、スファーレが怒りを見せたことにシリルは少し安堵するように答えた。

「けど、そう怒ったってことは……スファーレ様がミレイユ様に嘘をついた、ってことは無かったんですね。少しだけ、安心しました」
「お兄様……」

そう言うと、スファーレは感激したように、にこりと笑う。だが本心では、

(バカなお兄様……。ちょっと怒って見せたら、すぐに私を信じるなんて……。けど、そう言うところが、愛しいのですわ……。ほら、お兄様……目の前に、あなたが好きにできる女がいますよ? お兄様の怒りや悲しみ、全部ぶつけていいんですのよ?)

そう心の中でつぶやいていた。

「……あ、あの、お兄様……」
「どうしました、スファーレ様?」
「えっと、その……」

ベッドに隣り合って座っていたことに気づいたシリルは、さりげなく立ち上がりスファーレのドアの前に立った。
その佇まいは、いつもの『使用人』としての態度に戻っていた。

「あの、その……」

それに対して、先ほどまで心の中で思ったことを口に出そうとするミレイユ。だが、どうしてもシリルを誘惑する言葉を口に出せない。
そこで少し考えを変え、

「お兄様、苦しかったら泣いても良いんですのよ?」
そう答えた。

「泣いても、ですか?」
「ええ。今は、誰にも見られない部屋の中です。どんなに大声を出しても、外には聞こえませんわ?」

勿論この言葉の裏には『自分を襲っても、問題はない』と言う意味が含まれている。
一方で、純粋にシリルが自分に甘えるように弱みを見せて欲しい、という気持ちも含まれていた。

「お兄様は、幼いころからずっとミレイユが好きだったのでしょう? 私はそのことをよく存じておりますわ?」
「ええ……昔から、私はそう言ってましたからね……」
「それに、今まで薬の行商をがんばってらしたのも、ミレイユ様に肩を並べるくらいの富を得て、自分に振り向いてもらうため、ですよね?」
「アハハ……ミレイユ様にはお見通しでしたか……」

ラルフは少し恥ずかしそうに笑った。

「お兄様が誰よりも努力していたことは、私が一番……そう、一番分かっておりますわ。そんなお兄様の努力を全てあの女は否定したのですから……辛かったですよね、お兄様?」
「……ええ……」

感情を煽るように一つ一つ言葉を重ねていくスファーレ。それに対して、シリルはまた悲しむような表情を見せた。

「ですので、その……私の胸をお貸ししますわ? ……ちょっと小さいかもしれませんが、お兄様の悲しみを受け止めるくらいのことは、出来ますもの」
「スファーレ様……」

意図的に、性的な興奮を煽るような表現をしながら、スファーレはそうつぶやいた。
だがシリルは、その様子にふっと笑うと、

「ありがとうございます、スファーレ様。そこまで気を遣わせていただいて……」
「お兄様……」
「ですが、スファーレ様のきれいなドレスを私の涙で汚すわけにはいきません。……さあ、そろそろお茶会に戻りましょう?」
「……そ、そうですわね……」

そう言って、ピンと背筋を伸ばしてにこやかな表情を見せるシリル。
その姿はいつもの『使用人』としての余所行きのものであることは、スファーレにも分かった。

(お兄様……私には、弱みを見せることすらしてくれないんですのね……)

無論シリルのこの態度は、両者の身分の差を考えればおかしなことではない。
だが、そのことにスファーレは心の中で歯噛みした。

「あの、お兄様?」
「はい?」
「実は、私はお兄様が、その……」

部屋を出ようとするシリルの服をきゅっとつかみ、自分の気持ちを伝えようとするが、その言葉が出てこないスファーレ。
代わりに、別の質問をすることにした。

「これからカルギス領でどう生きていくのかが気になっていますの。……良かったら、グリゴア領に来る気はありませんか? 結婚するなら、きっとうちに来た方が良いと思いますわ?」

だが、シリルは首を振った。

「いえ……。私は、ラルフ様のもとで働き続けます。……結婚は……しばらく考えるつもりはありませんよ」
「そう、ですか……」
「それに、今は薬の販売で忙しいですから。……きっと、もっと大きな商売にしてカルギス領を盛り立てていこうと思っています」
「そうですよね。……ところで……」

そこで一呼吸置き、スファーレは探りを入れるように尋ねる。

もし、その薬の販売が出来なくなったら……どうしますか?」

なぜそんな質問をするのかに一瞬疑問を感じたが、シリルはすぐに笑って答えた。

「そんなことはさせませんよ。……やっと、ラルフ様に恩返しできる機会を得られたんです。どんなことをしてでも、この薬の販売業を守り続けますよ」
「『どんなことをしてでも』……ですね? やっぱり、そこがお兄様の急所ですわね……」
「急所、ですか?」
「あ、いえ、何でもありません! それより、もうお茶会に戻りましょう? セドナとミレイユもそろそろ心配しているでしょうし?」

そう言うと、ミレイユはシリルの手を取ろうとした。
だが、やはり恥ずかしくて手を取れなかったのだろう、そのままドアのカギを開けた。


……その夜、シリルがラルフとセドナに慰められながら、失恋のショックで号泣したのは言うまでもない。
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