461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第19話 A級、敗れる。【配信回】

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 ~ジークリード~


「……なんだこれは」


「ギギィィィイイイイイイイイイイアアアアアアアァァァァ!!!」


 目の前の巨大なクモが雄叫びを上げる。その咆哮が大気を震わせる。入り口で見たボスとは全く異なる次元の威圧感。それだけで俺の全身は警告を告げていた。


 こんな魔物は見たことがない。


 六本木ヒルズ攻略は初めてではなかった。1年以上前だが、その時にこんな巨大なボスはいなかったはずだ。鎧達が戦ったサイズの存在しか……そういえば、鎧達が戦ったあのモンスターは俺が戦った時の姿だっただろうか?

 俺が戦ったのは……目の前にいるクモと同じだったのではないか?

 鎧が「生態系が変わりボスが入れ替わった」と言っていた。


 ……。


 全身に嫌な感覚が伝わる。額に汗が流れるのが伝わる。俺の勘が告げている。


 俺は、根本的な間違いを犯してしまったのだと。


 ……もはや試練などと言っている場合ではない。本気で戦わなければ……死人が出る。


 俺のせい・・・・で死人が出たりしたら……。


「ミナセ!! お前はそこの2人を守れ!」

「りょーかい!!」

 ミナセ達を置いて、マザースパイダーへ走る。スキル「閃光せんこう」が発動し、俺の速度を急激に引き上げた。


 誰かを死なせる訳にはいかない。


 周囲の景色が高速で後方へと流れていく。


「ギギギィィッ!!!」


 マザースパイダーの脚が迫る。その攻撃を飛んでかわし、落下防止用の手すりを蹴ってヤツへと突撃する。


〈速えええええ!?〉
〈尻が……〉
〈女ヲタさんが来てるw》
〈勝ち確〉
〈宣言早すぎww〉
〈ジークリードさんカッコいい〉


「ギギギギギギィィィィィィィィィィ!!!」



「当たるか……っ!」


 大グモの脚から繰り出される突き刺し攻撃。鋭利な先端。その隙間を縫うように避け、マザースパイダーへと向かう。


「ギギィッ!!」


 しかし、突如として大グモが飛び上がり、8本の脚で俺を取り囲むように着地した。大地に突き刺さる脚。逃げられぬよう動きを制限されたまま、マザースパイダーは3本の脚で再び攻撃を放った。


「ギギギギギィィィイィィィィィイィィ!!!」


 ……避けられないなら、迎え撃つまでだ。


 1本目の脚を蹴り、2本目の脚を鞘で弾く。愛剣バルムンクを引き抜き、3本目の脚へ斬撃を放つ。


 電撃を帯びた刀身が、巨大グモの脚を関節部から・・・・・切断する・・・・


「ギャアアアアアア!?」


〈TUEEEEE!!〉
〈つっよwww〉
〈やっぱ楽勝じゃんwww〉
〈461さん引退だねぇ~〉
〈勝ったな〉
〈ピッチリスーツエッ……!!〉
〈女ヲタさんそればっかじゃんw〉


 切断した脚の隙間を飛び抜け、大グモの檻から抜け出る。振り向くと同時にマザースパイダーへと技を放つ。


波動はどう──」


「ギギギギギギ!!!!」


 技を放つ直前にマザースパイダーが何か・・を大量に発射する。


「──斬《ざん》!!」


 刀身から風と電撃が入り混じった刃が放たれる。その刃が発射された大量の何かを切り裂いた。

「ギーー!!」
「ギギッ!」
「ギアッギ!」
「ギッ!」
「ギギギ!!」


 切り裂いた物体は卵だった。その中から5体の子グモが俺に向かって飛びかかってくる。


「……ちっ。鬱陶しい攻撃を」

 飛びかかってきた一体を蹴り飛ばし、もう一体へと直撃させる。怯んだ2体へとバルムンクを突き刺し、側面から襲いかかる子グモを殴り付けた。

「ギュッ!?」

 後ろに大きく飛び退きながら体勢を立て直す。着地と同時に大地を蹴り、子グモ達を切り裂いていく。

「次は仕留める……っ!」

 マザースパイダーへ向け再び技を放つ為、剣を構えた。


〈トドメ!〉
〈はい逝ったーーーー!!〉
〈速かったなぁ〉
〈何秒で決着?〉
〈楽勝すぎワロタw〉


 しかし。


 大グモの懐に飛び込むはずが、前に進まない。


 ふと足元に目を向けると俺の右足に何かが巻き付いていることに気が付いた。白い何か。まるでのような……。


 次の瞬間。


 俺の体が猛烈な勢いで引き寄せられる。


「なっ──!?」


「ギギギギギアアアアアアイイイイイアアアア!!」


〈おい!?〉
〈蜘蛛の糸!?〉
〈ジークリード!?〉
〈捕まった!?〉
〈糸斬って逃げろって!〉

 スキル閃光の力で振り切ろうにも、固く巻き付いた糸は振り解けない。大グモの巨体から発せられる力に、俺の体は宙に浮いてしまう。

 子グモはおとりだったのか……っ!? これではスキルが……!?

 閃光が無効化されたまま、俺の速度が殺されたまま、大地へと叩き付けられる。全身に衝撃と痛みが走りゴキゴキという鈍い音が聞こえた。


「がっ……!?」


「ジークリード!!」

 ミナセの叫ぶ声が聞こえる。マズイ……完全に不意を突かれた。この糸を斬らなければ……。

 糸を斬ろうとバルムンクの刃を当てるが、強靭な糸は斬ることができない。思考が追い付く前に手すりに衝突し、肋骨に電流が走る。


「がはあっ!?」


 遠のく視界、ひしゃげた手すりが視界に入り、一撃の威力を痛感する。


 引きり回され、ガリガリと地面のコンクリートがえぐられる。白銀龍のスーツを着ていなければ……それが頭をよぎった瞬間、強烈な焦燥感に襲われた。

 クソッ!? なぜこの糸は切れん!?

 地面を削りながらそれでもバルムンクで切断を試みるがしかし、強靭な蜘蛛の糸は斬れる予兆すらない。

 その間にも地面、手すり、剥き出しの鉄骨に叩きつけられ意識が朦朧もうろうとし始める。身体が言うことを聞かなくなっていく。


「嫌ああああああッ!!」


 ミナセの悲鳴。視界の隅で、ミナセが駆け寄ろうとする姿が映った。


「来るなぁ!!」


 叫んだ瞬間、再び手すりへと叩き付けられる。鋭い痛みが内臓を駆け巡り、目の前が赤色に染まる。


「ごふっ……っ!?」


 それが俺が吐いた血だと気付くのに数秒の時間が必要だった。


 ダメだ……内臓がいかれた……このままじゃ他の者まで……。


〈やべぇって!?〉
〈ジークリード死んじゃう?〉
〈死んじゃう?じゃねぇよ!〉
〈どうすんの!?〉
〈ジークリードさん……〉


 ダメだダメだダメだ……っ!? 誰かを死なせては……っ! 悲しむ者が出てしまう。


「に゛、逃げろ゛……お゛」


 咄嗟にミナセと鎧達に向かって叫ぶが、声が上手く出ない。視界がブレる。


「ギイイイイイイイイイアアアア!!」


 叩きつけられる。上手く息ができない。額に生温かい感触が伝わる。


「がっ!? は゛や゛く゛……に゛げろ゛」


「ギイアアアアアアアアアアア!!」


「に゛げ……っ!」


 叩きつけられる。骨が砕ける音がする。


 ダメだ……俺がこんな勝負なんて……言ったから……未熟者のクセに……調子に乗って……。


 このままじゃ俺はあの人みたいになれない。俺を救うために命を落としたあの人へつぐなえない。


 ミナセまで巻き込んでしまう……。


 逃げ……ろ……。



「ギィィィィイイイイ!!!」



 ダメだ……っ!




 誰……か……俺は……まだ……や……。





「うおおおおおおおおお!!!!」



 朦朧もうろうとする意識の中、鎧の男が映った。


「アイル!! 言ったとおり頼む!!」


「分かってるわ! 火炎魔法ブレイズ!!」


 アイルという女が放った火炎魔法。それが俺を絡めとった蜘蛛の糸に直撃し、一気に糸に燃え広がる。強靭だった糸がジュクジュクと変質していくのが視界の隅に入った。


「オラああああああ!!!」


 鎧の男が燃え盛る蜘蛛の糸に剣を叩きつける、すると先程までびくともしなかった糸が嘘のように断ち切られる。


 フワリと浮く感覚。太陽を背にした鎧。フルヘルムの影。それが俺を抱き上げた。

「おい、大丈夫か?」

「に゛げろ゛と言っだ、だろ゛……」


「ボロボロのヤツ捨てて帰れる訳ないじゃん」


「な゛……だと?」


「お前とは共闘すると言ったよな? なら今の俺達はパーティだ。仲間を捨てて帰る探索者には美学がねぇ」


 パーティ……? 美学……? 何を言っているんだ?


 だが……。


 ヘルムの奥から飄々ひょうひょうとした声が聞こえる。なぜだ? なぜこんなにも……俺は……。


「後は俺に任せとけって」


 「任せておけ」という言葉。ヘルムの奥の見えない表情。なぜだか分からないが……先程まで憎々しいと感じていた男の声に安堵している自分がいた。




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