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第20話 最強のD級 【配信回】
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「火炎魔法《ブレイズ》!!」
「ギイッ!?」
アイルが放った炎に反応し、マザースパイダーが後ろへと飛び退く。そのタイミングを計ったかのようにもう一度火炎を放つアイル。地面に広がった炎に警戒し、マザースパイダーはジリジリと後方へ下がる。
よし。あの炎が消えるまでは時間稼ぎできそうだな。
「アイル。マザースパイダーに動きがあったら教えてくれ」
「うん! 絶対目を離さないわ!」
その場をアイルに任せ、ボロボロになったジークリードをミナセの下へと連れていった。
〈ジークリードがこれほどの傷を負う相手:wotaku〉
〈A級探索者が勝てない相手とか〉
〈逃げた方がいいでしょ〉
〈アイルちゃんにげてぇ〉
〈つか普通にヤバくね?〉
「ジークリード!!」
半狂乱になったミナセが彼を抱きしめた。
「う゛……あ゛……」
「やだやだやだぁ……死なないで……」
泣き顔のミナセを引き剥がし、腰のバッグからボトルを取り出す。容器の中に満たされた液体が日光に照らされ鈍く光る。それをジークリードの全身へと浴びせた。
「がはっ!?」
苦悶の表情を浮かべるジークリード。彼の全身の傷口からジュワリと煙が沸き立った。
「高濃度の回復薬を使った。死にはしないさ」
「う、うん……」
ミナセがジークリードを抱き締める。彼女の真っ赤に腫らした目……よほど大切な存在なんだな。
ミナセにもう1本のボトルを渡す。
「飲めるように濃度調整してる回復薬。少しずつ飲ませろ」
初めて戦う敵。俺も経験の無い強敵。
だけど突破口はある。ジークリードの戦いでそれが分かったからな。逃げるなんて勿体無い。
「ヨロイさん。そろそろアイツが動き出しそうよ」
「俺が前衛。アイルが支援だ。絶対近付くなよ」
「うん! 炎が効くなら、私も役に立つ……がんばる。がんばる……」
アイルが気合いを入れるように自分に何度も言い聞かせる。その様子に笑みが溢れそうになった。
「2人じゃ無理だよ……」
目を赤くしたミナセが心配そうな顔で俺達を見上げる。
「大丈夫。ヨロイさんと私なら、絶対勝てる。だから心配しないで」
杖を握りしめるアイルの手は……僅かに震えていた。彼女自身も怖いんだろうな。それでも立ち向かう意志を瞳に込め、彼女はミナセを安心させるように笑った。
「ね? ヨロイさん」
アイルの瞳から俺への信頼を感じる。相棒であるアイルの信頼。それが俺の脳をフル回転させる。どうやって目の前の強敵を倒すか。胸の鼓動が高まる中、俺は頷いた。
「ああ。勝つぜ。アイツに」
〈いや、無理だろw〉
〈ジークリードやられてんだぞ〉
〈アイルちゃん逃げた方がいいって〉
〈普通に死ぬじゃん〉
〈グロとか勘弁〉
〈逃げとけ〉
ジークリードがマザースパイダーの脚を斬り飛ばしたことで分かった。あのボスは関節部を狙うことで部位破壊できる。そしてこの最上階での戦闘……。
狙った通りのことが再現できれば、倒せる。
そうなったら。
「絶対脳汁出るな」
〈!?〉
〈おかしくなったw〉
〈461さんちょいちょい頭おかしくなるよな〉
〈ゲーム脳かよ〉
〈普通に勝てない〉
〈勝つ算段があるのか?:wotaku〉
「ジークリードの戦い……無駄にはしない。行くぞアイル!」
「任せて!」
大地を蹴る。マザースパイダーへと真っ直ぐ走り抜ける。
〈お前にゃ無理だw〉
〈やめとけ!〉
〈アイルちゃん……〉
〈だから死ぬだろ普通に〉
〈あーあw〉
「ギイイイイイイイイイアアアア!!」
大気を震わせるほどの雄叫び。それと共に5つの卵が発射される。それが大地にぶつると、中から子グモが飛び出した。
「ギ!」
「ギギッ!」
「ギイッ!」
「ギア!」
「ギッギ!」
ダガーを子グモへ投擲する。刃が胴体に突き刺さった子グモが大地をのたうち回る。刺さったダガーを引き抜き、別の個体へと投げつける。振り向きざまに飛びかかっていたクモをショートソードで真っ二つにした。
「ヨロイさん!」
アイルが俺の背後を狙っていたクモを杖で叩き落とす。そのクモが動き体勢を立て直す前に蹴り飛ばし、もう一体へと直撃させた。
「火炎魔法!」
「ブギッ!?」
「ブギュゥ!?」
間髪容れずにアイルが火炎魔法を放ち、2体のクモを消滅させた。
「助かったぜ」
「えへへ~任せてって言ったもん!」
子供のような笑みを浮かべるアイル。2人での戦闘も慣れてきたかもな。
「アイル。ヤツの糸が何処から発射されるか覚えているか?」
「さっき見てたわ。あのカプセルみたいな胴体の中心部よね?」
「よし。お前は火炎魔法で糸に対処してくれ。魔力が尽きそうになったら魔力回復ポーション飲めよ」
「分かった!」
アイルがホーラの杖を構える。先端に付けられた水晶の中に、マザースパイダーの胴体が映る。
彼女のツインテールがフワリと舞い、杖の先端に炎が灯った。
「火炎魔法!!」
放たれる火炎に合わせるように再びマザースパイダーへと駆け出す。
「ギギッ?」
火炎に気づいたのか、マザースパイダーが飛び退いた。
入り口のボスの再現だな。
横目でリフレクションソードを見る。符呪の光が僅かに明滅していた。
……回数的にはこれが最後か。
だがここは地上ほど広くない。それにあの図体。回避性能は高くないはず、この一撃で十分だ。
「ゥオラァアアアア!!」
真横を火炎が通りすぎるタイミングでリフレクションソードを叩きつける。剣の反射魔法が発動し、火炎魔法を跳ね返す。それによって軌道が変わり、飛び退いたマザースパイダー本体へと直撃した。
「ギイイイイヤアアアアアアアアアアア!!!???」
燃え盛る胴体。苦しみの声を上げるマザースパイダーの懐へ飛び込み、脚の継ぎ目へリフレクションソードを叩きつける。
「ギィ!?」
しかし、刃を深く突き立てはしたものの、切断までには至らなかった。
「ちっ。ジークリードのようにはいかないか」
〈ダメじゃん〉
〈無理無理w〉
〈今までマグレやったんやね……〉
〈っぱこんなもんよw〉
〈アンチ沸いてるし……〉
……だったら別の方法で行くだけだ。
「ギギィィィイィィッ!!!」
マザースパイダーの鋭利な脚が襲ってくる。クモの関節に突き刺さった剣を残し、攻撃する3本の脚から距離を取った。
〈逃げたw〉
〈悲しいなぁ〉
〈アイルちゃんもう帰っていいぞww〉
〈アンチうぜ〉
〈461さん……死なないでぇ〉
「ギギギギギギギィィィィィ!!!」
襲い来る脚。それを避けながら逃げると、マザースパイダーが蜘蛛の糸を吐き出す。それが俺の左腕に巻き付いた。
〈ヤバい!〉
〈どうすんの!?〉
〈逝った~!〉
〈回避しろ!!〉
「ギイイイイイ!!」
マザースパイダーが俺を吹き飛ばそうと全身に力を入れた瞬間──。
ヤツの胴体が炎に包まれた。
「ギイャアアアアァァァ!!?」
「調子乗ってんじゃないわよこのクソグモ!!」
アイルが放った火炎魔法によって、マザースパイダーの胴体が燃え上がる。そこから発射されていた蜘蛛の糸にも引火し、熱によって糸が変質していく。
〈アイルちゃん!〉
〈やっば!〉
〈アイルちゃん……立派になって……〉
〈目から水が……〉
〈感動してるやつおるやんけ〉
アイルの魔法のタイミングは完璧だった。攻撃していた脚。俺を糸で薙ぎ払おうと力を入れたマザースパイダー。それら全てが俺の条件に噛み合う。
「うおおおおお!!!」
蜘蛛の糸に振り回される力を使いヤツへと飛ぶ。脚関節に刺さった剣の下へ。剣に最も近づいたタイミングを見計らって、ナイフで変質した糸を切断した。
「ギ、ギ、ギイイイイイィィィ!?」
蜘蛛の糸が切断されたことが引き金となり、マザースパイダーがバランスを崩す。そのタイミングに合わせて関節に突き刺さったリフレクションソードを掴む。
大グモの巨体が倒れ込む力を利用し、全体重をかけて剣を思い切り手前へと引いた。
「う、らあ゛ああああああああ!!!」
全身の筋肉が軋む。蜘蛛の脚から聞こえるメキメキという嫌な音。それと共にマザースパイダーの脚が切断される。
「ギィヤアアアアアアァァァァァァア!!?」
〈!!!?!?!???!?〉
〈うおおおおおお!?〉
〈やべぇええええええええ!?〉
〈ダメージ入った!?〉
脚が切断される。悲鳴と共に倒れ込む大グモ。ヤツが体勢を立て直す前に別の脚へと飛び移り、その関節を剣で滅多刺しにする。
「ふんっ!!!」
滅多刺しにして広げた傷跡に剣を突き刺す。テコの原理を利用して脚を引き剥がしにかかる。
ベキッ……ッ!
まだだ。もっと力をかけろ。
ベキベキッ……!!
「ぬ゛、ううううううぅぅぅ……っ!!」
「グギ!? ギギャア!?」
攻撃を放とうとしたマザースパイダー本体に再び火炎が直撃する。
ベキベキバキバキャッ……!!
悶える蜘蛛の動きで、もう1本の脚も完全に引き剥がれた。
〈うおおおおお!!!?〉
〈2本目!?〉
〈ジークリードと合わせれば3本目:wotaku〉
〈行けるかも……っ!?〉
「ぎ……ギ……ィィィイィィ!!!」
大グモが怒りの声を上げる。それによって反射的に理解した。コイツの脅威は全く無くなっていないと。
だが、それでいい。そちらの方が都合が良い。
「アイル! 逃げるぞ!」
背を向けて全力で走る。呆気に取られるアイルを担ぎ上げ、落下防止用の柵へと駆け抜ける。ジークリードが叩き付けられた柵へ。
「ちょっ!? 離してよ!」
「暴れるなって! もうちょいで倒せるんだからよ!」
〈は? なんで逃げんだよ?〉
〈倒せるだろ!〉
〈戦えよ!〉
〈アイルちゃんが……汚い男にぃ(泣)〉
〈言うてる場合か!〉
「ギギギギギギギアアアアアアアアアアアアギギギギアアア!!!」
怒り狂ったマザースパイダーが追いかけてくる。残った5本の脚を巧みに使い猛スピードで。その速度は凄まじく、あっという間に背後まで迫ってきた。
〈怖えええええ!?〉
〈まだ全然元気じゃん!?〉
〈ヤバいってこれ!?〉
〈追い付かれる!?〉
「ギギギギギギガガガガガアアアアアアアアアアアアァァァァ!!」
「ヨロイさん!! も、もう追い付かれちゃうわ!」
「しっかり掴まってろよ!」
「ギギギギギギギガギギギギギギキキギギギィィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
迫るマザースパイダー。激昂の雄叫び。ヤツに追い付かれる刹那──。
──大地を蹴り、真横へと飛び込む。
横を通り過ぎる大グモの体、地面を転げ回る俺とアイル。痛みを堪えながら顔を上げる。
マザースパイダーが急ブレーキをかけるが、5本の脚では踏ん張りが利かず、空中へと投げ出されてしまった。
「ギィィ!?」
〈うわああああああああ!?〉
〈落下死狙い?〉
〈やべwww〉
〈死ぬのか?〉
〈六本木ヒルズ屋上は53階。地上238m:wotaku〉
〈イケるやん!!〉
「ギギィ!!」
マザースパイダーが咄嗟に糸を吐き、落下防止用の手すりに絡み付ける。
「マズイわ! 燃やさないと!」
「いや、大丈夫だ。アイツはもう終わった」
「え?」
疑問符を浮かべるアイルの前で、手すりがメキメキを音を立てて折れる。ジークリードが激突し、歪んだ柵では巨大グモの体重を支えることはできなかった。
「ギイイイィイィィィヤァァァアアアアアアアア!?」
遠ざかっていく断末魔の悲鳴。
数秒の後に訪れる轟音。
大量に飛んできたレベルポイントの光が俺とアイルのスマホへと吸収される。
〈レベルポイントの光が出たってことは……〉
〈マザースパイダー倒したってことだよな?〉
〈やべえええええええ!!?〉
〈ジークリードが倒せなかったボス倒しやがった!!!〉
〈ありえんやろ〉
〈マグレだこんなん!!〉
〈アンチ顔真っ赤で草w〉
〈マジか……:wotaku〉
「ちょ!? 同接23万人!? めちゃくちゃ見られてるじゃない!?」
アイルがスマホを見ながら慌て出す。
「み、見てヨロイさん!! すごいわよ!!」
「倒したぜ~!!」
全身に血が巡る。生きている実感。見たことのない強敵を倒せた達成感。誰かを守れたことへの安堵。
全てがグチャグチャに混ざって最高な気分だ。
耳元で騒いでいるアイルを放って、ゴロリと大地に転げ空を見上げる。
目の前に広がった空は気持ちいいほどの青色をしていた。
……。
…。
後に、六本木ヒルズ最上階の真のボス……強大に成長したマザースパイダーは「クイーンスパイダー」と命名された。
このクイーンスパイダー戦は広く拡散され、鎧の男が初討伐したと日本中で話題となる。
そして、その男が「D級探索者」であることも。
A級探索者ジークリードが倒せなかったクイーンスパイダー。それを倒したD級の男。
あり得ぬ結末。あり得ぬ結果。
多くの者はそれが何故か理解できなかった。スキルすら使わず戦う男の真の実力を。
しかし……映像を見た一部の強者のみが彼の力を感じ、密かにこのように呼んだ。
「最強のD級探索者」と。
そしてその称号は、新たな配信者達の呼び水となった。
「ギイッ!?」
アイルが放った炎に反応し、マザースパイダーが後ろへと飛び退く。そのタイミングを計ったかのようにもう一度火炎を放つアイル。地面に広がった炎に警戒し、マザースパイダーはジリジリと後方へ下がる。
よし。あの炎が消えるまでは時間稼ぎできそうだな。
「アイル。マザースパイダーに動きがあったら教えてくれ」
「うん! 絶対目を離さないわ!」
その場をアイルに任せ、ボロボロになったジークリードをミナセの下へと連れていった。
〈ジークリードがこれほどの傷を負う相手:wotaku〉
〈A級探索者が勝てない相手とか〉
〈逃げた方がいいでしょ〉
〈アイルちゃんにげてぇ〉
〈つか普通にヤバくね?〉
「ジークリード!!」
半狂乱になったミナセが彼を抱きしめた。
「う゛……あ゛……」
「やだやだやだぁ……死なないで……」
泣き顔のミナセを引き剥がし、腰のバッグからボトルを取り出す。容器の中に満たされた液体が日光に照らされ鈍く光る。それをジークリードの全身へと浴びせた。
「がはっ!?」
苦悶の表情を浮かべるジークリード。彼の全身の傷口からジュワリと煙が沸き立った。
「高濃度の回復薬を使った。死にはしないさ」
「う、うん……」
ミナセがジークリードを抱き締める。彼女の真っ赤に腫らした目……よほど大切な存在なんだな。
ミナセにもう1本のボトルを渡す。
「飲めるように濃度調整してる回復薬。少しずつ飲ませろ」
初めて戦う敵。俺も経験の無い強敵。
だけど突破口はある。ジークリードの戦いでそれが分かったからな。逃げるなんて勿体無い。
「ヨロイさん。そろそろアイツが動き出しそうよ」
「俺が前衛。アイルが支援だ。絶対近付くなよ」
「うん! 炎が効くなら、私も役に立つ……がんばる。がんばる……」
アイルが気合いを入れるように自分に何度も言い聞かせる。その様子に笑みが溢れそうになった。
「2人じゃ無理だよ……」
目を赤くしたミナセが心配そうな顔で俺達を見上げる。
「大丈夫。ヨロイさんと私なら、絶対勝てる。だから心配しないで」
杖を握りしめるアイルの手は……僅かに震えていた。彼女自身も怖いんだろうな。それでも立ち向かう意志を瞳に込め、彼女はミナセを安心させるように笑った。
「ね? ヨロイさん」
アイルの瞳から俺への信頼を感じる。相棒であるアイルの信頼。それが俺の脳をフル回転させる。どうやって目の前の強敵を倒すか。胸の鼓動が高まる中、俺は頷いた。
「ああ。勝つぜ。アイツに」
〈いや、無理だろw〉
〈ジークリードやられてんだぞ〉
〈アイルちゃん逃げた方がいいって〉
〈普通に死ぬじゃん〉
〈グロとか勘弁〉
〈逃げとけ〉
ジークリードがマザースパイダーの脚を斬り飛ばしたことで分かった。あのボスは関節部を狙うことで部位破壊できる。そしてこの最上階での戦闘……。
狙った通りのことが再現できれば、倒せる。
そうなったら。
「絶対脳汁出るな」
〈!?〉
〈おかしくなったw〉
〈461さんちょいちょい頭おかしくなるよな〉
〈ゲーム脳かよ〉
〈普通に勝てない〉
〈勝つ算段があるのか?:wotaku〉
「ジークリードの戦い……無駄にはしない。行くぞアイル!」
「任せて!」
大地を蹴る。マザースパイダーへと真っ直ぐ走り抜ける。
〈お前にゃ無理だw〉
〈やめとけ!〉
〈アイルちゃん……〉
〈だから死ぬだろ普通に〉
〈あーあw〉
「ギイイイイイイイイイアアアア!!」
大気を震わせるほどの雄叫び。それと共に5つの卵が発射される。それが大地にぶつると、中から子グモが飛び出した。
「ギ!」
「ギギッ!」
「ギイッ!」
「ギア!」
「ギッギ!」
ダガーを子グモへ投擲する。刃が胴体に突き刺さった子グモが大地をのたうち回る。刺さったダガーを引き抜き、別の個体へと投げつける。振り向きざまに飛びかかっていたクモをショートソードで真っ二つにした。
「ヨロイさん!」
アイルが俺の背後を狙っていたクモを杖で叩き落とす。そのクモが動き体勢を立て直す前に蹴り飛ばし、もう一体へと直撃させた。
「火炎魔法!」
「ブギッ!?」
「ブギュゥ!?」
間髪容れずにアイルが火炎魔法を放ち、2体のクモを消滅させた。
「助かったぜ」
「えへへ~任せてって言ったもん!」
子供のような笑みを浮かべるアイル。2人での戦闘も慣れてきたかもな。
「アイル。ヤツの糸が何処から発射されるか覚えているか?」
「さっき見てたわ。あのカプセルみたいな胴体の中心部よね?」
「よし。お前は火炎魔法で糸に対処してくれ。魔力が尽きそうになったら魔力回復ポーション飲めよ」
「分かった!」
アイルがホーラの杖を構える。先端に付けられた水晶の中に、マザースパイダーの胴体が映る。
彼女のツインテールがフワリと舞い、杖の先端に炎が灯った。
「火炎魔法!!」
放たれる火炎に合わせるように再びマザースパイダーへと駆け出す。
「ギギッ?」
火炎に気づいたのか、マザースパイダーが飛び退いた。
入り口のボスの再現だな。
横目でリフレクションソードを見る。符呪の光が僅かに明滅していた。
……回数的にはこれが最後か。
だがここは地上ほど広くない。それにあの図体。回避性能は高くないはず、この一撃で十分だ。
「ゥオラァアアアア!!」
真横を火炎が通りすぎるタイミングでリフレクションソードを叩きつける。剣の反射魔法が発動し、火炎魔法を跳ね返す。それによって軌道が変わり、飛び退いたマザースパイダー本体へと直撃した。
「ギイイイイヤアアアアアアアアアアア!!!???」
燃え盛る胴体。苦しみの声を上げるマザースパイダーの懐へ飛び込み、脚の継ぎ目へリフレクションソードを叩きつける。
「ギィ!?」
しかし、刃を深く突き立てはしたものの、切断までには至らなかった。
「ちっ。ジークリードのようにはいかないか」
〈ダメじゃん〉
〈無理無理w〉
〈今までマグレやったんやね……〉
〈っぱこんなもんよw〉
〈アンチ沸いてるし……〉
……だったら別の方法で行くだけだ。
「ギギィィィイィィッ!!!」
マザースパイダーの鋭利な脚が襲ってくる。クモの関節に突き刺さった剣を残し、攻撃する3本の脚から距離を取った。
〈逃げたw〉
〈悲しいなぁ〉
〈アイルちゃんもう帰っていいぞww〉
〈アンチうぜ〉
〈461さん……死なないでぇ〉
「ギギギギギギギィィィィィ!!!」
襲い来る脚。それを避けながら逃げると、マザースパイダーが蜘蛛の糸を吐き出す。それが俺の左腕に巻き付いた。
〈ヤバい!〉
〈どうすんの!?〉
〈逝った~!〉
〈回避しろ!!〉
「ギイイイイイ!!」
マザースパイダーが俺を吹き飛ばそうと全身に力を入れた瞬間──。
ヤツの胴体が炎に包まれた。
「ギイャアアアアァァァ!!?」
「調子乗ってんじゃないわよこのクソグモ!!」
アイルが放った火炎魔法によって、マザースパイダーの胴体が燃え上がる。そこから発射されていた蜘蛛の糸にも引火し、熱によって糸が変質していく。
〈アイルちゃん!〉
〈やっば!〉
〈アイルちゃん……立派になって……〉
〈目から水が……〉
〈感動してるやつおるやんけ〉
アイルの魔法のタイミングは完璧だった。攻撃していた脚。俺を糸で薙ぎ払おうと力を入れたマザースパイダー。それら全てが俺の条件に噛み合う。
「うおおおおお!!!」
蜘蛛の糸に振り回される力を使いヤツへと飛ぶ。脚関節に刺さった剣の下へ。剣に最も近づいたタイミングを見計らって、ナイフで変質した糸を切断した。
「ギ、ギ、ギイイイイイィィィ!?」
蜘蛛の糸が切断されたことが引き金となり、マザースパイダーがバランスを崩す。そのタイミングに合わせて関節に突き刺さったリフレクションソードを掴む。
大グモの巨体が倒れ込む力を利用し、全体重をかけて剣を思い切り手前へと引いた。
「う、らあ゛ああああああああ!!!」
全身の筋肉が軋む。蜘蛛の脚から聞こえるメキメキという嫌な音。それと共にマザースパイダーの脚が切断される。
「ギィヤアアアアアアァァァァァァア!!?」
〈!!!?!?!???!?〉
〈うおおおおおお!?〉
〈やべぇええええええええ!?〉
〈ダメージ入った!?〉
脚が切断される。悲鳴と共に倒れ込む大グモ。ヤツが体勢を立て直す前に別の脚へと飛び移り、その関節を剣で滅多刺しにする。
「ふんっ!!!」
滅多刺しにして広げた傷跡に剣を突き刺す。テコの原理を利用して脚を引き剥がしにかかる。
ベキッ……ッ!
まだだ。もっと力をかけろ。
ベキベキッ……!!
「ぬ゛、ううううううぅぅぅ……っ!!」
「グギ!? ギギャア!?」
攻撃を放とうとしたマザースパイダー本体に再び火炎が直撃する。
ベキベキバキバキャッ……!!
悶える蜘蛛の動きで、もう1本の脚も完全に引き剥がれた。
〈うおおおおお!!!?〉
〈2本目!?〉
〈ジークリードと合わせれば3本目:wotaku〉
〈行けるかも……っ!?〉
「ぎ……ギ……ィィィイィィ!!!」
大グモが怒りの声を上げる。それによって反射的に理解した。コイツの脅威は全く無くなっていないと。
だが、それでいい。そちらの方が都合が良い。
「アイル! 逃げるぞ!」
背を向けて全力で走る。呆気に取られるアイルを担ぎ上げ、落下防止用の柵へと駆け抜ける。ジークリードが叩き付けられた柵へ。
「ちょっ!? 離してよ!」
「暴れるなって! もうちょいで倒せるんだからよ!」
〈は? なんで逃げんだよ?〉
〈倒せるだろ!〉
〈戦えよ!〉
〈アイルちゃんが……汚い男にぃ(泣)〉
〈言うてる場合か!〉
「ギギギギギギギアアアアアアアアアアアアギギギギアアア!!!」
怒り狂ったマザースパイダーが追いかけてくる。残った5本の脚を巧みに使い猛スピードで。その速度は凄まじく、あっという間に背後まで迫ってきた。
〈怖えええええ!?〉
〈まだ全然元気じゃん!?〉
〈ヤバいってこれ!?〉
〈追い付かれる!?〉
「ギギギギギギガガガガガアアアアアアアアアアアアァァァァ!!」
「ヨロイさん!! も、もう追い付かれちゃうわ!」
「しっかり掴まってろよ!」
「ギギギギギギギガギギギギギギキキギギギィィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
迫るマザースパイダー。激昂の雄叫び。ヤツに追い付かれる刹那──。
──大地を蹴り、真横へと飛び込む。
横を通り過ぎる大グモの体、地面を転げ回る俺とアイル。痛みを堪えながら顔を上げる。
マザースパイダーが急ブレーキをかけるが、5本の脚では踏ん張りが利かず、空中へと投げ出されてしまった。
「ギィィ!?」
〈うわああああああああ!?〉
〈落下死狙い?〉
〈やべwww〉
〈死ぬのか?〉
〈六本木ヒルズ屋上は53階。地上238m:wotaku〉
〈イケるやん!!〉
「ギギィ!!」
マザースパイダーが咄嗟に糸を吐き、落下防止用の手すりに絡み付ける。
「マズイわ! 燃やさないと!」
「いや、大丈夫だ。アイツはもう終わった」
「え?」
疑問符を浮かべるアイルの前で、手すりがメキメキを音を立てて折れる。ジークリードが激突し、歪んだ柵では巨大グモの体重を支えることはできなかった。
「ギイイイィイィィィヤァァァアアアアアアアア!?」
遠ざかっていく断末魔の悲鳴。
数秒の後に訪れる轟音。
大量に飛んできたレベルポイントの光が俺とアイルのスマホへと吸収される。
〈レベルポイントの光が出たってことは……〉
〈マザースパイダー倒したってことだよな?〉
〈やべえええええええ!!?〉
〈ジークリードが倒せなかったボス倒しやがった!!!〉
〈ありえんやろ〉
〈マグレだこんなん!!〉
〈アンチ顔真っ赤で草w〉
〈マジか……:wotaku〉
「ちょ!? 同接23万人!? めちゃくちゃ見られてるじゃない!?」
アイルがスマホを見ながら慌て出す。
「み、見てヨロイさん!! すごいわよ!!」
「倒したぜ~!!」
全身に血が巡る。生きている実感。見たことのない強敵を倒せた達成感。誰かを守れたことへの安堵。
全てがグチャグチャに混ざって最高な気分だ。
耳元で騒いでいるアイルを放って、ゴロリと大地に転げ空を見上げる。
目の前に広がった空は気持ちいいほどの青色をしていた。
……。
…。
後に、六本木ヒルズ最上階の真のボス……強大に成長したマザースパイダーは「クイーンスパイダー」と命名された。
このクイーンスパイダー戦は広く拡散され、鎧の男が初討伐したと日本中で話題となる。
そして、その男が「D級探索者」であることも。
A級探索者ジークリードが倒せなかったクイーンスパイダー。それを倒したD級の男。
あり得ぬ結末。あり得ぬ結果。
多くの者はそれが何故か理解できなかった。スキルすら使わず戦う男の真の実力を。
しかし……映像を見た一部の強者のみが彼の力を感じ、密かにこのように呼んだ。
「最強のD級探索者」と。
そしてその称号は、新たな配信者達の呼び水となった。
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オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
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『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
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「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
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