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第44話 ジークリード、461さんから学ぶ
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ジーク達と調整をして数日。明日はいよいよ渋谷ダンジョンへ挑む日になった。
再び冒険家Bに集まった俺達。アイルとミナセは配信の段取りをするとカウンターで話し込んでおり、それを横目に俺とリレイラさん、ジークは渋谷モンスターの分析をしていた。
今回は高難度ダンジョン。一筋縄では行かないはずだ。それにこれまでの生態系変化……どれだけ準備しても足りないくらいだ。
「リレイラさん。この前貰った資料は最新のモンスターって最新じゃないんですよね? 最後に渋谷が攻略されたのはいつですか?」
「2年前。渋谷ダンジョンはS級探索者鯱女王が攻略した以降、誰もまともに渋谷ダンジョンへ挑んでいない」
資料を読んでいたジークがピタリと手を止めた。
「2年前? 俺達が救出任務で入ったのは1年前だ」
1年前。ということは最新の情報を持っているのはジーク達ということになるか。
「ジーク君。モンスターの構成はこのような物だったか?」
ジークリードがリレイラさんから端末を受け取る。チラリと画面が見える。そこには「ウォタク」の攻略サイト──モンスターの画像と名称が一覧となったページが表示されていた。ジークは画面をスワイプさせると、首を傾げた。
「……いない」
「なんだよジーク。いないって何が?」
ジークが何度もページを往復する。そして何度目の往復か分からなくなった頃、端末をテーブルに置いた。
「俺とミナセが探索者の救出に入った時、渋谷地下はトレントに埋め尽くされるほどだった」
トレント? 木のモンスターか。
トレントは樹木に意志が宿ったようなモンスターだ。木の根を脚にして枝が腕……力は強いが植物らしく火炎に弱い。にしても何でそんなのが?
「おかしいな……管理局にもトレントなんて報告は上がって来ていないぞ」
リレイラさんが端末から何かを確認するが、やはり何も情報は無いようだった。
「森なら分かるぜ? 他の木に擬態できるし。でも高層ビルばかりの渋谷でトレントなんて、何の擬態もできないじゃん。リレイラさん。渋谷ダンジョンって内装は普通ですよね?」
「ああ。六本木に近い。一部が転移魔法の影響で我らの世界の建造物と融合しているが、基本はこの世界の渋谷駅と商業ビルのヒカリエそのままの姿を残している」
リレイラさんの端末を借りてモンスター情報を見る。シャドウバットに記憶虫、幻影騎士、人形使い、スキルイーターに分裂スライム……。
どいつもこいつも状態異常を多用する癖のあるモンスターばかり。だが……トレントに進化しそうなヤツもいない。なんだ? 渋谷ダンジョンで一体何が起こっている?
「いたのは間違いない。俺はバルムンクで10体以上斬り伏せたからな。なぁミナセ?」
ジークが同意を求めるようにカウンターを見る。それに気付いたミナセはニコリと笑った。
「ん~? 間違い無いよ。探索者が食べられそうになってる所ハッキリ見たし。なんかトゲトゲして松? みたいなヤツだった~」
「ま、松って……随分古風なモンスターね……異世界のダンジョンに和風なヤツがいるって信じられないんだけど」
疑いの目を向けるアイル。ミナセは笑顔のままアイルの頬をぐりぐりツネった。
「だって見たんだよ~! 信じろ信じろ~!」
「イタイイタイッ!? し、信じるわよぉ……」
何やってんだアイツら。
「いずれにせよ渋谷ダンジョンは今までの情報が通用しない状態ということだな。情報不足ですまない」
リレイラさん……管理局のデータだけじゃなくて攻略サイトの情報まで引っ張って来たもんな。よほど情報が少ないんだろう。
「リレイラさんが気にすることじゃない。後は俺達の目で確かめるさ。ついでに管理局のデータベースも更新すればリレイラさんの評価も上がるだろ?」
「ヨロイ君……」
リレイラさんが潤んだ瞳になる。俺を見つめる優しげな顔、この前のことを思い出して俺も恥ずかしくなってしまう。
「おい……俺の前で2人の世界に入るのはやめてくれないか?」
ジークが顔を背ける。腕を組んで視線を泳がせる姿……なんだか恥ずかしくなってしまう。
「あああ、あ、ああす、すまない! は、はは、暑いな今日は!」
リレイラさんは慌ててテーブルのアイスコーヒーを飲み干した。
「なーんか最近リレイラの様子が変なのよねぇ。ヨロイさんも打ち合わせの時絶対リレイラを送って行くしぃ」
「アイルも後で送ってくだろ?」
「そうだけど~! なんかリレイラの時は違う気がするもんっ!」
アイルが頬を膨らませて俺の方を睨んで来る。
……何で俺が睨まれるんだ?
「おもしろ~い」
ミナセがなぜか笑いを噛み殺しながら呟いた。アイルはミナセを引っ張ると、カウンター席の奥へと連れて言った。
(ちょっとミナセさん! 面白いって何よ!)
(いや、分かるよ。分かる。相方にそういう想い持っちゃうってあるよねぇ)
(そ、そういう想いって何!? 別に私は何も……)
(あ~アイルちゃんに親近感持っちゃったな~♪)
(ちょっと! 1人で納得しないでよ!)
怒るアイルにうんうんと頷くミナセ……何を話してんだアイツら?
◇◇◇
~ジークリード~
俺達の打ち合わせが終わっても、ミナセと天王洲の配信段取りは続いていた。鎧の戦闘スタイルを知ろうと思った俺は、ダンジョン管理局の端末を借り、シミュレーションアプリでボス戦の状況を再現した。
画面の中で3Dのキャラクターがボスモンスターと対峙する。装備を鎧のショートソードへと変更し、端末を差し出した。
「……このような状況だ。鎧。お前ならどう対処する?」
画面に映ったのはトレントのボスクラス「タイタントレント」。トレントに埋め尽くされた渋谷のボスはコイツになっている可能性が非常に高い。
「これはアイルやお前達もいるって想定でいいのか?」
「いや、できれば鎧の単独戦の場合を想定したい」
ここで鎧の戦闘技術を少しでも知っておきたい。もうクイーンスパイダーの時のような失態はごめんだからな。
「場所は? 戦闘時のマップ配置はどうなってる?」
「マップ……」
モンスター情報だけだと不足なのか?
とりあえず、1番高い可能性……ヒカリエの展望フロア11階をボス戦地点だと仮定した。ここは構造的に広くなっている。図体のデカいタイタントレントが徘徊するのはこの辺りになるはずだ。
「ふぅん……普通の商業ビル。オシャレなカフェに……エレベーター。それにエスカレーターか」
「そうだ。どう戦う?」
「う~ん……」
マップとタイタントレントを交互に見る461。そして、何かを思い付いたように俺を見た。
「エスカレーターだな」
「は? エスカレーター?」
「11階のこの空間。エスカレーター周辺だけ天井が低くなっている。ここに誘い込めば……」
「タイタントレントの動きを防ぐということか?」
「そう。上手くやれば一方的に攻撃できる」
それは……どうなんだ? 俺はいつも真正面から敵を突破して来た。それは、卑怯と言うのでは……。
「ジーク」
俺の戸惑いに気付いたのか、鎧が俺の顔を覗き込んだ。
「お前、モンスターは自分と対等かそれ以下だと思ってないか?」
「何? そんなことは……」
口では否定しつつも、反論できない自分がいた。
正直、クイーンスパイダーと戦うまでモンスター戦で苦労したことは無かった。加速と攻撃に特化したビルドの俺は、閃光で敵の動きを翻弄し、波動斬で仕留める。これが俺の必勝のスタイルだったから。
「モンスターはな、常に俺達より格上だ」
「格、上……」
「そう。ヤツらは人間よりも力も体力も上、おまけにスキルや魔法まで使って来る。生身の人間ではまず倒せない。そう意識を持て」
鎧の言葉にクイーンスパイダーの姿が浮かんだ。巨大な体に圧倒的な威圧感。あの時確かに俺は、クイーンスパイダーに恐怖を感じた。倒せないと感じてしまった。俺はあの時、必死でその感覚を振り払って戦ったが……それを持ったままで、いいのか。
「持ってどうするんだ?」
「そう思った時、初めて回る場所がある。ココだ」
鎧が自分のヘルムをコツコツと叩く。
「俺達は非力だ。だからこそ知恵を使う。自分より強いヤツから生き残るのに知恵を使うのは、当然だろ?」
そうか、だから鎧はクイーンスパイダーの時、落下死を狙って……。
「使える物は全部使え。全てを使って勝利を引き寄せろ。その為には自分の周囲に何があるのか、何が使えるのか、よく見るしかない」
「勝利を、引き寄せる」
目から鱗だった……今まで俺が研究して来たどんな探索者とも違う。強者ではない。派手さも無い。だが、確かに感じるその説得力。
鎧は実際にそれでクイーンスパイダーを倒したのだから。
「そうか……そうかもしれない。考えてみる」
「お、いいじゃん。A級のお前にこんなこと言うのもアレだけどよ、お前はもっともっと強くなれると思うぜ! 俺より若いしな~!」
カラカラと笑う鎧の男。自分よりもずっとランクが下のはずの男。だが、俺よりもずっとダンジョンに挑み続けた男……。
俺には、その全てから学ぶ物があると思えた。
再び冒険家Bに集まった俺達。アイルとミナセは配信の段取りをするとカウンターで話し込んでおり、それを横目に俺とリレイラさん、ジークは渋谷モンスターの分析をしていた。
今回は高難度ダンジョン。一筋縄では行かないはずだ。それにこれまでの生態系変化……どれだけ準備しても足りないくらいだ。
「リレイラさん。この前貰った資料は最新のモンスターって最新じゃないんですよね? 最後に渋谷が攻略されたのはいつですか?」
「2年前。渋谷ダンジョンはS級探索者鯱女王が攻略した以降、誰もまともに渋谷ダンジョンへ挑んでいない」
資料を読んでいたジークがピタリと手を止めた。
「2年前? 俺達が救出任務で入ったのは1年前だ」
1年前。ということは最新の情報を持っているのはジーク達ということになるか。
「ジーク君。モンスターの構成はこのような物だったか?」
ジークリードがリレイラさんから端末を受け取る。チラリと画面が見える。そこには「ウォタク」の攻略サイト──モンスターの画像と名称が一覧となったページが表示されていた。ジークは画面をスワイプさせると、首を傾げた。
「……いない」
「なんだよジーク。いないって何が?」
ジークが何度もページを往復する。そして何度目の往復か分からなくなった頃、端末をテーブルに置いた。
「俺とミナセが探索者の救出に入った時、渋谷地下はトレントに埋め尽くされるほどだった」
トレント? 木のモンスターか。
トレントは樹木に意志が宿ったようなモンスターだ。木の根を脚にして枝が腕……力は強いが植物らしく火炎に弱い。にしても何でそんなのが?
「おかしいな……管理局にもトレントなんて報告は上がって来ていないぞ」
リレイラさんが端末から何かを確認するが、やはり何も情報は無いようだった。
「森なら分かるぜ? 他の木に擬態できるし。でも高層ビルばかりの渋谷でトレントなんて、何の擬態もできないじゃん。リレイラさん。渋谷ダンジョンって内装は普通ですよね?」
「ああ。六本木に近い。一部が転移魔法の影響で我らの世界の建造物と融合しているが、基本はこの世界の渋谷駅と商業ビルのヒカリエそのままの姿を残している」
リレイラさんの端末を借りてモンスター情報を見る。シャドウバットに記憶虫、幻影騎士、人形使い、スキルイーターに分裂スライム……。
どいつもこいつも状態異常を多用する癖のあるモンスターばかり。だが……トレントに進化しそうなヤツもいない。なんだ? 渋谷ダンジョンで一体何が起こっている?
「いたのは間違いない。俺はバルムンクで10体以上斬り伏せたからな。なぁミナセ?」
ジークが同意を求めるようにカウンターを見る。それに気付いたミナセはニコリと笑った。
「ん~? 間違い無いよ。探索者が食べられそうになってる所ハッキリ見たし。なんかトゲトゲして松? みたいなヤツだった~」
「ま、松って……随分古風なモンスターね……異世界のダンジョンに和風なヤツがいるって信じられないんだけど」
疑いの目を向けるアイル。ミナセは笑顔のままアイルの頬をぐりぐりツネった。
「だって見たんだよ~! 信じろ信じろ~!」
「イタイイタイッ!? し、信じるわよぉ……」
何やってんだアイツら。
「いずれにせよ渋谷ダンジョンは今までの情報が通用しない状態ということだな。情報不足ですまない」
リレイラさん……管理局のデータだけじゃなくて攻略サイトの情報まで引っ張って来たもんな。よほど情報が少ないんだろう。
「リレイラさんが気にすることじゃない。後は俺達の目で確かめるさ。ついでに管理局のデータベースも更新すればリレイラさんの評価も上がるだろ?」
「ヨロイ君……」
リレイラさんが潤んだ瞳になる。俺を見つめる優しげな顔、この前のことを思い出して俺も恥ずかしくなってしまう。
「おい……俺の前で2人の世界に入るのはやめてくれないか?」
ジークが顔を背ける。腕を組んで視線を泳がせる姿……なんだか恥ずかしくなってしまう。
「あああ、あ、ああす、すまない! は、はは、暑いな今日は!」
リレイラさんは慌ててテーブルのアイスコーヒーを飲み干した。
「なーんか最近リレイラの様子が変なのよねぇ。ヨロイさんも打ち合わせの時絶対リレイラを送って行くしぃ」
「アイルも後で送ってくだろ?」
「そうだけど~! なんかリレイラの時は違う気がするもんっ!」
アイルが頬を膨らませて俺の方を睨んで来る。
……何で俺が睨まれるんだ?
「おもしろ~い」
ミナセがなぜか笑いを噛み殺しながら呟いた。アイルはミナセを引っ張ると、カウンター席の奥へと連れて言った。
(ちょっとミナセさん! 面白いって何よ!)
(いや、分かるよ。分かる。相方にそういう想い持っちゃうってあるよねぇ)
(そ、そういう想いって何!? 別に私は何も……)
(あ~アイルちゃんに親近感持っちゃったな~♪)
(ちょっと! 1人で納得しないでよ!)
怒るアイルにうんうんと頷くミナセ……何を話してんだアイツら?
◇◇◇
~ジークリード~
俺達の打ち合わせが終わっても、ミナセと天王洲の配信段取りは続いていた。鎧の戦闘スタイルを知ろうと思った俺は、ダンジョン管理局の端末を借り、シミュレーションアプリでボス戦の状況を再現した。
画面の中で3Dのキャラクターがボスモンスターと対峙する。装備を鎧のショートソードへと変更し、端末を差し出した。
「……このような状況だ。鎧。お前ならどう対処する?」
画面に映ったのはトレントのボスクラス「タイタントレント」。トレントに埋め尽くされた渋谷のボスはコイツになっている可能性が非常に高い。
「これはアイルやお前達もいるって想定でいいのか?」
「いや、できれば鎧の単独戦の場合を想定したい」
ここで鎧の戦闘技術を少しでも知っておきたい。もうクイーンスパイダーの時のような失態はごめんだからな。
「場所は? 戦闘時のマップ配置はどうなってる?」
「マップ……」
モンスター情報だけだと不足なのか?
とりあえず、1番高い可能性……ヒカリエの展望フロア11階をボス戦地点だと仮定した。ここは構造的に広くなっている。図体のデカいタイタントレントが徘徊するのはこの辺りになるはずだ。
「ふぅん……普通の商業ビル。オシャレなカフェに……エレベーター。それにエスカレーターか」
「そうだ。どう戦う?」
「う~ん……」
マップとタイタントレントを交互に見る461。そして、何かを思い付いたように俺を見た。
「エスカレーターだな」
「は? エスカレーター?」
「11階のこの空間。エスカレーター周辺だけ天井が低くなっている。ここに誘い込めば……」
「タイタントレントの動きを防ぐということか?」
「そう。上手くやれば一方的に攻撃できる」
それは……どうなんだ? 俺はいつも真正面から敵を突破して来た。それは、卑怯と言うのでは……。
「ジーク」
俺の戸惑いに気付いたのか、鎧が俺の顔を覗き込んだ。
「お前、モンスターは自分と対等かそれ以下だと思ってないか?」
「何? そんなことは……」
口では否定しつつも、反論できない自分がいた。
正直、クイーンスパイダーと戦うまでモンスター戦で苦労したことは無かった。加速と攻撃に特化したビルドの俺は、閃光で敵の動きを翻弄し、波動斬で仕留める。これが俺の必勝のスタイルだったから。
「モンスターはな、常に俺達より格上だ」
「格、上……」
「そう。ヤツらは人間よりも力も体力も上、おまけにスキルや魔法まで使って来る。生身の人間ではまず倒せない。そう意識を持て」
鎧の言葉にクイーンスパイダーの姿が浮かんだ。巨大な体に圧倒的な威圧感。あの時確かに俺は、クイーンスパイダーに恐怖を感じた。倒せないと感じてしまった。俺はあの時、必死でその感覚を振り払って戦ったが……それを持ったままで、いいのか。
「持ってどうするんだ?」
「そう思った時、初めて回る場所がある。ココだ」
鎧が自分のヘルムをコツコツと叩く。
「俺達は非力だ。だからこそ知恵を使う。自分より強いヤツから生き残るのに知恵を使うのは、当然だろ?」
そうか、だから鎧はクイーンスパイダーの時、落下死を狙って……。
「使える物は全部使え。全てを使って勝利を引き寄せろ。その為には自分の周囲に何があるのか、何が使えるのか、よく見るしかない」
「勝利を、引き寄せる」
目から鱗だった……今まで俺が研究して来たどんな探索者とも違う。強者ではない。派手さも無い。だが、確かに感じるその説得力。
鎧は実際にそれでクイーンスパイダーを倒したのだから。
「そうか……そうかもしれない。考えてみる」
「お、いいじゃん。A級のお前にこんなこと言うのもアレだけどよ、お前はもっともっと強くなれると思うぜ! 俺より若いしな~!」
カラカラと笑う鎧の男。自分よりもずっとランクが下のはずの男。だが、俺よりもずっとダンジョンに挑み続けた男……。
俺には、その全てから学ぶ物があると思えた。
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