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第76話 ミナセ、帰宅する。
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~ジークリード~
結局。シィーリアとの訓練は夜まで続き、マンションに帰って来たのは21時を回っていた。
ドアを開けてもミナセは帰っていなかった。アイツ、どこで何をしているんだ? もっと俺を頼れよ。いつもは俺が頼ってばかりなんだから……。
ソファーに座り、傷だらけになった上半身をタオルで拭いていく。回復薬を染み込ませたタオル。傷口にジュワリと回復薬が染み込み、全身に痛みが走った。
「ぐぅっ!? シィーリアの奴……やりすぎだろ……」
魔族とはこれほどまでに差があるのか? 攻撃が当たらないどころか、確実にカウンターを入れて来る。格闘技か? いや、武道のような動き……それも達人級だ。スキルを使ったとしても勝てる気がしない。
「しかも、引き摺り回されて全身傷まみれになるなんてな」
人に見られていなくて良かった……見られていたら、幼女に一方的にやられる無様な成人男性のように映っただろうからな。
シィーリアは明日もやると言っていた。何とか明日は糸口を見つけたいな……。
だが、これはチャンスでもある。今までシィーリアは俺達のことを見守るだけで、指導らしい指導をしてくれることはなかった。今回はなぜ指導してくれる気になったんだ?
そんなことを考えていると、ドアが1度、ドンと鳴った。なんだ? 何かが当たったような音が……。
インターホンからモニターを付けても何も映っていない。幽霊とか……な訳はないか。ははっ。そんな物いるはずがない。
……。
なぜか、ミナセが以前プレイしていたホラーゲームを思い出した。
ね、念の為確認しておくか。
恐る恐るドアを開く。しかし何かが引っ掛かって上手く開かない。なんだ? 扉の前に何か置いてある?
力をいれて扉を開けるとそこには……。
「!? ミナセ!?」
ボロボロになったミナセが倒れていた。頭の中が真っ白になる。いや、真っ白になっている場合ではないだろう!
周囲を確認しても敵らしき姿は無い。ここまで逃げて来たということか……。
急いでミナセを抱き上げ部屋に戻る。鍵をかけ、チェーンもして。ミナセは、呻き声を上げながら小さな声で何事かを呟く。弱り切った顔……一体何があった?
「うっ……き、気にしないで……」
「気にしない訳無いだろ」
良かった。意識はある……だがどうする? シィーリアに連絡を……いや、とにかく回復薬で治療するのが先だ。
ミナセをソファーに寝かせて顔を見る。酷い傷だ。右腕も……折られているのか?
「痛いっ!? う、あ゛あ……っ!?」
「暴れるな!!」
暴れるミナセの体を押さえ付けジャージの袖を捲る。ダメだ、このままじゃ傷の状態もわからない。
「すまん。脱がすぞ」
意を決してミナセのジャージのジッパーを開く。中に来ていたTシャツも脱がせると、全身は酷い有様だった。打撲に擦り切れたような跡……腕もやはり折られている。痛め付けたようにしか思えない。身体強化魔法を使うミナセ相手に一体どんなヤツが……。
「はぁ……はぁ……はぁ……うぅ……あ……」
ミナセがうわ言のように声を上げる。その苦しそうな顔を見ると、胸にズキリと痛みが走る。朝、無理やりにでもついて行けば……。
「回復薬はある。腕は固定して……」
折れた箇所は前腕部。そこに高濃度の回復薬をかけ、ソファーの上に真っ直ぐに伸ばす。呻き声を上げるミナセ。暴れないように押さえ付けながら、回復薬を再びかける。
このままでは動かせない、か。
ふと、今日使っていた木刀が目に入る。それをバルムンクで叩き斬って、腕の添木として固定した。他の傷跡にも回復薬を。
「うぅあ、ああぁぁぁ……っ!」
「シィーリアに連絡する。安静にしていろよ」
この時間でもシィーリアの屋敷なら治療できる。この状況だ、彼女も許してくれるはず。
……。
シィーリアは2つ返事で屋敷を訪ねるのを了承してくれた。急がなければ。
「う……っ カズ君……」
「大丈夫だからな。安心しろ」
ミナセを横向きに抱き上げ、シィーリアの元へ向かう。夜の空気、時折聞こえる車の音、普段なら何とも思わない景色が苛立ちに変わって行く。なぜ? が頭の中を巡り、そのたびに思考を追い払う。
「ぅ、あ……」
ミナセの呻き声で怒りに支配されそうになる。クソッ! 誰だか知らないがミナセにこんなことをしてただで済むと思っているのか……っ!!
「ダメ……だ、よ」
「え……?」
ミナセがぼんやりと俺の顔を見た。
「ジ……ク……ドは、仕返しなんて、しちゃダメ……これ、は……私の問題……」
「私の問題じゃない!! お前に何かあったなら、俺の問題だ!! 1人で抱え込むな!!」
「う……っ」
苦しそうにうめくミナセ。しまった……つい、大声をあげてしまった。
「……すまん。だが俺は、もう嫌なんだ。お前の苦しむ顔を見ている事しかできないのは」
スキルイーターと戦った時、ミナセを助けたくても助けられなかった時、俺の中でハッキリした。ミナセを失うのは嫌なんだ。俺は……。
「カズ君……」
ミナセは虚ろな目で俺を見つめた。
「……あり、がと。あ、後で、ぜ……ぶ話すね……」
ミナセが項垂れる。一瞬心臓が止まりそうになって彼女の顔に耳を向ける。うっすら聞こえる呼吸音。良かった……気絶しただけか。
夜の暗闇を走り抜ける。いつもミナセのことには口を出さないようにしていた。彼女の意思を、俺が妨げるのはいけないと思っていたから。だが……そのせいでこの状況を作り出してしまった。
出会った時から、ミナセの中に何かがあるのは分かっていたじゃないか。彼女を助けた時、ボロボロの姿を見た時、守りたいと思ったじゃないか。
だが俺は……ミナセに踏み込まなかった。助けたクセに、彼女の好意に気付いていたクセに……踏み込むのが怖かった。失う物を作るのが怖かった。どこか壁を作っていたんだ。いつしかミナセはそれを見せなくなった。笑うようになった。それに甘えていたのは……俺だ。もっとちゃんと向き合っていれば……。
俺は間違えてばかりだ、いつも。
結局。シィーリアとの訓練は夜まで続き、マンションに帰って来たのは21時を回っていた。
ドアを開けてもミナセは帰っていなかった。アイツ、どこで何をしているんだ? もっと俺を頼れよ。いつもは俺が頼ってばかりなんだから……。
ソファーに座り、傷だらけになった上半身をタオルで拭いていく。回復薬を染み込ませたタオル。傷口にジュワリと回復薬が染み込み、全身に痛みが走った。
「ぐぅっ!? シィーリアの奴……やりすぎだろ……」
魔族とはこれほどまでに差があるのか? 攻撃が当たらないどころか、確実にカウンターを入れて来る。格闘技か? いや、武道のような動き……それも達人級だ。スキルを使ったとしても勝てる気がしない。
「しかも、引き摺り回されて全身傷まみれになるなんてな」
人に見られていなくて良かった……見られていたら、幼女に一方的にやられる無様な成人男性のように映っただろうからな。
シィーリアは明日もやると言っていた。何とか明日は糸口を見つけたいな……。
だが、これはチャンスでもある。今までシィーリアは俺達のことを見守るだけで、指導らしい指導をしてくれることはなかった。今回はなぜ指導してくれる気になったんだ?
そんなことを考えていると、ドアが1度、ドンと鳴った。なんだ? 何かが当たったような音が……。
インターホンからモニターを付けても何も映っていない。幽霊とか……な訳はないか。ははっ。そんな物いるはずがない。
……。
なぜか、ミナセが以前プレイしていたホラーゲームを思い出した。
ね、念の為確認しておくか。
恐る恐るドアを開く。しかし何かが引っ掛かって上手く開かない。なんだ? 扉の前に何か置いてある?
力をいれて扉を開けるとそこには……。
「!? ミナセ!?」
ボロボロになったミナセが倒れていた。頭の中が真っ白になる。いや、真っ白になっている場合ではないだろう!
周囲を確認しても敵らしき姿は無い。ここまで逃げて来たということか……。
急いでミナセを抱き上げ部屋に戻る。鍵をかけ、チェーンもして。ミナセは、呻き声を上げながら小さな声で何事かを呟く。弱り切った顔……一体何があった?
「うっ……き、気にしないで……」
「気にしない訳無いだろ」
良かった。意識はある……だがどうする? シィーリアに連絡を……いや、とにかく回復薬で治療するのが先だ。
ミナセをソファーに寝かせて顔を見る。酷い傷だ。右腕も……折られているのか?
「痛いっ!? う、あ゛あ……っ!?」
「暴れるな!!」
暴れるミナセの体を押さえ付けジャージの袖を捲る。ダメだ、このままじゃ傷の状態もわからない。
「すまん。脱がすぞ」
意を決してミナセのジャージのジッパーを開く。中に来ていたTシャツも脱がせると、全身は酷い有様だった。打撲に擦り切れたような跡……腕もやはり折られている。痛め付けたようにしか思えない。身体強化魔法を使うミナセ相手に一体どんなヤツが……。
「はぁ……はぁ……はぁ……うぅ……あ……」
ミナセがうわ言のように声を上げる。その苦しそうな顔を見ると、胸にズキリと痛みが走る。朝、無理やりにでもついて行けば……。
「回復薬はある。腕は固定して……」
折れた箇所は前腕部。そこに高濃度の回復薬をかけ、ソファーの上に真っ直ぐに伸ばす。呻き声を上げるミナセ。暴れないように押さえ付けながら、回復薬を再びかける。
このままでは動かせない、か。
ふと、今日使っていた木刀が目に入る。それをバルムンクで叩き斬って、腕の添木として固定した。他の傷跡にも回復薬を。
「うぅあ、ああぁぁぁ……っ!」
「シィーリアに連絡する。安静にしていろよ」
この時間でもシィーリアの屋敷なら治療できる。この状況だ、彼女も許してくれるはず。
……。
シィーリアは2つ返事で屋敷を訪ねるのを了承してくれた。急がなければ。
「う……っ カズ君……」
「大丈夫だからな。安心しろ」
ミナセを横向きに抱き上げ、シィーリアの元へ向かう。夜の空気、時折聞こえる車の音、普段なら何とも思わない景色が苛立ちに変わって行く。なぜ? が頭の中を巡り、そのたびに思考を追い払う。
「ぅ、あ……」
ミナセの呻き声で怒りに支配されそうになる。クソッ! 誰だか知らないがミナセにこんなことをしてただで済むと思っているのか……っ!!
「ダメ……だ、よ」
「え……?」
ミナセがぼんやりと俺の顔を見た。
「ジ……ク……ドは、仕返しなんて、しちゃダメ……これ、は……私の問題……」
「私の問題じゃない!! お前に何かあったなら、俺の問題だ!! 1人で抱え込むな!!」
「う……っ」
苦しそうにうめくミナセ。しまった……つい、大声をあげてしまった。
「……すまん。だが俺は、もう嫌なんだ。お前の苦しむ顔を見ている事しかできないのは」
スキルイーターと戦った時、ミナセを助けたくても助けられなかった時、俺の中でハッキリした。ミナセを失うのは嫌なんだ。俺は……。
「カズ君……」
ミナセは虚ろな目で俺を見つめた。
「……あり、がと。あ、後で、ぜ……ぶ話すね……」
ミナセが項垂れる。一瞬心臓が止まりそうになって彼女の顔に耳を向ける。うっすら聞こえる呼吸音。良かった……気絶しただけか。
夜の暗闇を走り抜ける。いつもミナセのことには口を出さないようにしていた。彼女の意思を、俺が妨げるのはいけないと思っていたから。だが……そのせいでこの状況を作り出してしまった。
出会った時から、ミナセの中に何かがあるのは分かっていたじゃないか。彼女を助けた時、ボロボロの姿を見た時、守りたいと思ったじゃないか。
だが俺は……ミナセに踏み込まなかった。助けたクセに、彼女の好意に気付いていたクセに……踏み込むのが怖かった。失う物を作るのが怖かった。どこか壁を作っていたんだ。いつしかミナセはそれを見せなくなった。笑うようになった。それに甘えていたのは……俺だ。もっとちゃんと向き合っていれば……。
俺は間違えてばかりだ、いつも。
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