461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第77話 凶暴

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 ~461さん~

 聖剣アスカルオを回収し、ダンジョン管理局へ納品してから1週間後。


 ──上野。不忍池しのばずのいけダンジョン周辺。


 いつもの俺のランニングスポット。不忍池周辺でアイルの新魔法しんまほうを見ることになった。アイルのヤツ自信満々に「見せたい物がある」と言っていたが、どんなスキル解放したんだ?

 早朝の不忍池の広場。そこでアイルと向き合う。左手の装備した盾が、淡く青色に光る。リフレクションを符呪エンチャントした盾。俺のアイテム倉庫に眠っていた品だ。回数は3回。どうにも中途半端な回数なので保管していたが、こういう時こそ使い時だろう。

「よーし! 本気でやっていいのよね?」

 準備運動のように両手をプラプラと揺らすアイル。それが終わると、彼女は杖を両手で持って伸びをした。

「2人とも本気を出すのはいいがケガには気を付けるのだぞ~」

 リレイラさんの方を見る。ベンチに座っていた彼女へ頷いてからショートソードを抜いた。

「いいぜアイル。俺も対魔法戦の訓練にちょうどいいしな」

「そう……驚かせてあげるわ!」


 そのアイルの言葉で彼女へ向かって走り出す。50メートルの距離。全力疾走なら数秒だ。アイルは間合いに近付けさせないようにできるのか……見せて貰うぜ!


 アイルに向かって走る。視線の先の彼女は、なぜか杖の持っていない右手を空へと向けた。なんだ? なぜ杖を使わない?


速雷魔法ラピッド・ショック!!」


 魔法名と共にアイルの右手にバチバチと電撃が帯びる。指先を俺に向けたアイルは再び叫んだ。


発射ショット!」


 その指先から弾丸状の電撃が発射される。速い……っ! 反射的に盾を構えるとリフレクションが発動する。跳ね返される弾丸。驚いたが威力は弱い。これなら対処可能──。

「二重発射《ダブルショット》!!」

 すぐさま発射される2発の弾丸。それは避ける間も無く盾に直撃し、2度のリフレクションが発動する。

 リフレクション切れが狙いか。

「へっへ~! これでもう魔法反射できないわよ!」

「言ってろ」

 構わず走る。アイルが慌てて俺の方へと指先を向けた。アイルはまだこの魔法を使い慣れていないな。あの指先から発射されるなら……。

「発射《ショット》!!」

 狙いを定めさせないようにジグザグに走る。発射された弾丸は虚しく空を切った。さらに続けて2発目、3発目と発射するが、それも俺の足元に当たるだけ。撹乱される指先と発射される弾丸速度。そのズレの影響で、俺に魔法を直撃させることはできなかった。

「あ!?」

 驚いたアイルの声に彼女の右手を見ると、先程の電撃は消えていた。速雷魔法ラピッド・ショックは6発が限界か。驚いたがまだ甘い……これなら次の魔法発動までに間合いへ飛び込まれるぞ。


 全力で走る。アイルへ残り数メートルという所で彼女が杖を向けた。


「氷結魔法《フロスト》!!」

「うおっ!?」

 ノータイムで発動する氷結魔法。迫る冷気。マジか、初級魔法とは言え発動時間が短すぎる。

「やった! 私の勝ち──」

 無理矢理体に命令を出す。速い攻撃は今まで何度も経験している。まだだ。まだ直撃前に体を動かせるはずだ!

「うおおおおおおああああ!!」

 冷気が当たるギリギリで地面へ飛び込む。地面を転げて、起き上がると同時にアイルの喉元に剣先を突き付けた。

「う、嘘……っ!?」

「ストップ! ヨロイ君の勝ちだ」

 リレイラさんの声。それと同時にアイルがヘタリと地面へ座り込む。

「アレを避けられるなんて……っ!?」

「いやぁビビッたぜ。まさか最初の速雷魔法が囮とはな」

 彼女の腕を掴んで引き起こす。すると、なぜかアイルは恥ずかしそうに顔を伏せて前髪を指で弄んだ。もっと悔しがると思ったのになんだか変だな。目も合わせて来ないし、どうしたんだ?

「あ、あのね。速雷魔法は、一度発動すると、電撃が物体に留まるの。そこからエネルギーを分けて発射するっていう……魔法……」

 雷を帯電させて、分けて発射する……か。

「速雷魔法は一度発動すると、魔力を練らずに連続発射できる。アイルはそれを利用して、次の魔法のチャージ時間を稼いだ。ってことか?」

「そうよ。威力は弱いけど、相手の動きは妨害できるし、避けることに集中させれば相手の行動をある程度コントロールできるかなって。威力が弱いから、取得する人は少ないらしいけど」

 行動キャンセルとコントロール。中々のセンスだ。しかも擬似的に魔法の連続発動まで可能にする……か。これは磨けば相当強力な戦術になる。援護、防御、撹乱。使い方次第でなんでもできるな、これは。

「あのね、ヨロイさんが戦ってる時、魔法発動できなくてもどかしい時とかいっぱいあったから……これならもっとコンビネーション磨けると思って」

「これ、めちゃくちゃ使い方のアイデア湧いてくるぜ。誰もこの魔法の有用性に気付いてないってことだろ? スゲーよ!」

「ホント……!?」

 ついテンションが上がって大きな声を出してしまう。アイルの顔が急に明るくなった。しかしハッとした顔をすると顔を背けてしまう。

「わ、私はヨロイさんのダンジョン攻略を1番近くで見て来たのよ? お台場ダンジョンだってそれで攻略できたんだから!」

 強気なことを言っているがその後、小さな声で「やった」と呟いたのが聞こえた。それを聞いて嬉しくなる。何より、アイルが自分で考え抜いたことが。


「むぅ~」


 なんだか間の抜けた声がする。リレイラさんの方を見ると、彼女はジーッとこちらを見ていた。睨むような、心配そうな……どういう顔なんだあれ?


「あ!」


 急に何かを思い出したのかアイルがリレイラさんへと駆け寄る。そして、ベンチに置いてあったリュックから箱を取り出す。

「な、なんだこれは?」

 面食らったような顔をするリレイラさん。そんな彼女にアイルは恥ずかしそうに箱を渡した。

「ほら、お台場ダンジョンの情報沢山くれたでしょ? その御礼……その、チョコレートだから早めに食べてねリレイラ!」

 頭を掻きながら照れ臭そうに笑うアイル。受け取ったリレイラさんはなぜかボロボロと泣き出してしまった。


「ア゛イ゛ル゛く゛ん゛……っ!?」


「え!? なんで泣いてるのよ!?」


「私は……っ! 私は自分が恥ずかしい……っ!」


「そ、そんなに……? でも、喜んで貰えて良かった」


 おいおいと泣きだした彼女をアイルが苦笑しながら慰めていた。何やってんだよ……。

 だが、アイルの新魔法か。コンビネーションを高めれば、俺達はさらに強くなれる。ハンターシティに向けてもっと鍛えないとな。


 そんなことを考えていると聞き慣れた声がした。




「へぇ~魔族とも仲良いんだねぇ」



 声の主……それは見慣れた顔だった。私服姿のミナセがブランコに揺られてこちらを見ている。ニヤニヤと笑みを浮かべながら。見慣れた声、見慣れた笑顔のはずなのに、妙な違和感を感じた。


「あ! ミナセさん! 私この前ね~!」


 アイルが笑顔で駆け寄って行く。その姿を見て胸騒ぎを感じる。なんだ? 今ミナセがおかしなことを言った気が……。


 ──魔族とも・・・・仲良いんだねぇ。


 なんで。


 なんでリレイラさんと会ったことのあるヤツがそんなこと言うんだよ……っ!

 そう思った時には全力で走っていた。


「アイル!! ソイツから離れろ!!!」


「え?」


 振り向いたアイルに向かってミナセが拳を振り上げる。魔法名が聞こえる。「物理攻撃上昇インクリズ・アタック」の魔法名が。


 拳が当たる直前、アイルの服を掴んで全力で引き寄せる。空を切ったミナセの拳。彼女はそのまま俺へと狙いを変え突撃して来た。


「気付くなんて偉いじゃん!!!」


 放たれた一撃を盾でガードする。その威力は凄まじく、一撃で盾を砕いてしまう。中央部だけを残し飛び散る盾。粉々になった異世界金属の破片が周囲へと散乱する。


 通常の物理攻撃上昇インクリズ・アタックじゃない? ミナセの能力と身体強化だけではこれほどまでの威力は出せないはずだ。


「惚けてるねぇ!!」


 口調が荒くなり、凶悪な笑みを浮かべたミナセ、彼女が再び拳を放つ。それをバックステップで避ける。鼻先ギリギリで止まる拳。その一撃でヤツのリーチを測る。連続で放たれる拳をギリギリで避けると、ミナセが関心したように声を漏らした。


「へぇ。鳴石なるいしのヤツを倒しただけのことはあるね」


 鳴石? 今コイツ、鳴石って言ったか?


「じゃあ……コイツは!?」


 体勢を低く保ち突撃するミナセ。ヤツが拳を構える。俺の顔面を狙っている?


「死ねぇええええ!!」


 盾を破った一撃が来る。割れた盾を構え、直撃の瞬間を測る。


「そんな盾で防げるわけないじゃん!!」


 叩き付けられる拳。世界が急激に遅くなった。


 速い。避けるのは無理だ。


 だが、破壊されでもこの盾ならアレ・・ができる。狙いも読んだ、攻撃も直線的、対処可能だ。


 拳が当たる刹那、盾を使って拳を弾き飛ばすパリィする


「なっ──!?」


 腕が弾かれミナセに隙ができる。その隙を見逃さず、拳を振り被った。


「本気で来たってことは、本気で殴られる覚悟があるってことだよな!!」


 彼女の顔面に渾身の一撃を叩き込む。


「ウラアアアアア!!」


「かはっ!?」


 吹き飛ぶミナセ。彼女は空中でクルリと回転して着地する。口元を拭ったヤツは、手に付いた血を見て悔しそうな顔をした。


「ちっ、物理防御上げててもこれ? カウンターヤバすぎ」


 物理防御? アイツ、攻撃しながら物理防御強化フィジカルシルド使ってやがったか。


 ゆらりと立ち上がるミナセ。彼女は凶暴な笑みを見せながら俺を睨み付けた。


「だけど、ふ、へへへへはははは……まだまだこれから──」


 ミナセが言いかけた時、突然、風と電撃の入り混じった刃がミナセの元へ飛び込んだ。


「……!?」


 ミナセがそれを察知し飛び退く。衝撃が地面に直撃し、土煙を上げる。これは……波動斬か? これを使えるヤツは1人・・しか知らない。


「大丈夫か?」


 声に振り返ると男が立っていた。パーカーにショートパンツ、その内側に白銀龍のスーツを着た……ジークリードが。彼は愛剣のバルムンクを2度振り払うと、ミナセへ向けて真っ直ぐに剣を構えた。

「な、なんでジークがミナセさんを攻撃してるのよ!?」

「ジーク君、一体何が起きているんだ……?」

 困惑した表情を浮かべるアイルとリレイラさん。俺も同じ顔をしてるだろうな。ミナセが襲って来てジークが彼女に技をはなった。どういうことなんだ?


「アイツはミナセではない・・・・


 ミナセじゃない?


 ミナセに似た女は、イタズラがバレた子供のように残念そうな声を上げる。


「あーあもう終わりか。ま、警告・・だからそれで良いけど」


 女はケタケタと笑うと焦点の合わない目をこちらに向ける。それがなんとも言えない気持ち悪さを感じさせた。


「ジークリードだっけ? ま、伝えといてよアイツ・・・にさ。『ハンターシティ、逃げたら分かってるだろうな?』って。あははっ」


 そう言うと、女は走り去って行った。

「追いかけなくて良いの!?」

 慌てるアイルを、ジークが手で制す。

「追わない方がいい。罠かもしれないからな」

「罠って……」

 アイルの言葉に答える事なくクルリと背を向けるジーク。彼は横目で俺達を見ると一言だけ口を開いた。


「来てくれ」


 正直頭の中は混乱しかない。だが、このまま放っておく訳にはいかないよな。アイツが俺達の知ってるミナセじゃないなら、本物はどこにいるんだ? 大丈夫なのか?


 頭を巡る疑問。その答えを求めるように、俺達はジークの後に付いて行った。

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