461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第82話 ジークとミナセ、修行する。

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 ~ジークリード~

 鎧達と合流して1週間。

 シィーリアの屋敷の裏、広大な草原で俺とミナセは戦闘訓練をしていた。相手はシィーリア。今日からスキルが解禁されたが……それと同時に昨日までの戦闘訓練よりもさらに一段レベルが上がった。シィーリアの動きも桁違いだ。スキルを使っても、生身のシィーリアに一撃すら与えられない。

「はぁ……はぁ……」

「ほれ。早く飛び込んでこんかジーク。オヌシのスキルは足を止めて使うのか?」

 ジャージを着て、長い銀髪を後ろで結んだシィーリア。彼女は挑発するように右手をクイクイと動かした。

「クソッ……っ!!」

 閃光を発動する。高速で通り過ぎて行く景色。バルムンクを構え、弧を描くようにシィーリアへ突撃する。

「波動斬《はどうざん》!!」

  風の刃を放つ。バルムンク紫電の剣の帯電は使い切ってしまった。電撃の属性を付与できない。しかし、人型相手なら風の刃だけでも……っ!

「ほっ」

 シィーリアがヒラリと飛んでは波動斬を避ける。クソッまただ。この速度でもダメか。

「違う! オヌシに今必要なのは波動斬ではない。完全に『閃光』を使いこなすことじゃ!」

 閃光を使いこなす?

 一瞬逸れてしまう意識。その瞬間、目の前にはシィーリアがいた。

「のじゃ!」

「ぐぅ!?」

 腹部に直撃する小さな拳。しかし、その威力は、俺が経験したどんな攻撃よりも重い。息が止まり、大地に倒れ込んでしまう。

「よーく考えるのじゃ。渋谷を戦い抜いたオヌシにはもう分かっとるはずじゃぞ」

 渋谷を……?

「あの時オヌシは何を得た? 何が足りなかった? そしてオヌシの武器はなんじゃ? 今のままではダメ。しかし461の真似をしてもダメなのじゃ。オヌシはもうオヌシの道を歩んでおる。ならば、己自身の道を見つけねばな」

 鎧の真似……スキルを使わずに戦うこと、か。俺の武器……俺自身の道……。

「信念だけでは何者をも守れぬぞジーク……お前の大切な物もな」


 考えても答えは出ない。渋谷以降ずっと俺が考えていたことだ。461のように強くなるには、スキルに頼らないスタイルを確立しなければならないと……だが、それも間違っているというのか……。

「基礎を鍛えようとする方向性は良い。後は気付きだけじゃ」

「気付き……」

 拳を握り締める。渋谷で俺は何を得た? スキルを奪われた俺は、情けない攻撃しかできなかった。スキルに頼らず戦う術が必要だと気付いた。だが、シィーリアはそれだけではダメだと言う。461の真似をしてもダメだと……俺の武器、俺の武器は閃光と波動斬。だが、それだと一撃必殺の動きしかできない。だから俺はそれ以外の戦い方を……。

「ジーク。本当にお前は一撃必殺しかできぬのか?」


 シィーリアが俺の瞳を覗き込む。俺は、波動斬の読まれやすい軌道を克服するために閃光を育てた。それ以外の使い道は……。


 いや。

 
 本当にそうなのか? 閃光は……。


「シィーリア。もう一度頼む」

「ふむ。何か思いついたようじゃの」

 大地を踏み締め、バルムンクを構える。そうだ。俺はいつも閃光を相手を翻弄する為に使っていた。それはつまり、移動時の速度上昇のみに使用していたということだ。

 閃光を使わず、シィーリアへと駆け出す。俺を見た彼女はニヤリと笑った。

「はあ!!」

 袈裟斬りに斬撃を放つ。あっさりと避けてしまうシィーリア。剣を返し、2連撃目を与える。意識を集中。そう、この瞬間・・でも閃光は使える・・・・・・はずだ。

 スキルを使おうと意識を高めた瞬間、斬撃を放つ腕の速度が急速に上昇する。

「っ!?」

 加速した斬撃をシィーリアが紙一重で避ける。彼女の髪が斬られ、銀色の髪が空を舞う。

 掠めた……っ!? これなら……!

 再び刃先を返し3連撃目を放とうとした瞬間、体中に電流のような痛みが走った。

「うっ!?」

 ビキリと走る電流。加速に体が付いて来ないのか!?

「甘いの!」

 再び腹部に訪れる衝撃。思わず腹を抱えて倒れ込んでしまう。

「ぐっ……不意打ちだぞ……」

 シィーリアは「隙を見せたオヌシが悪い」とでも言いたげに鼻を鳴らした。

「よし。だが発想は良い。後は連続で放つ為の基礎が必要じゃな」

 俺の顔を覗きこむシィーリア。その顔は微笑みを浮かべていた。俺の閃光の「速度100%上昇」は剣の一振り、拳の一撃、大地を蹴った瞬間、全てに発動ができるんだ。身体への負荷は大きいが……これを使いこなすことができれば、俺は……さらに強くなれる。

 言うなれば基礎能力とスキルの混合戦術。俺は461にはなれない。だからこそ俺は、自分なりのスキルの使い方を編み出す必要がある。これがシィーリアの言う、俺の……道か。


「よし、次はミナセ。来るが良い、組み手をしてやろ
う」

 シィーリアが言ったか言わずかのタイミングでミナセが飛び込む。俺はなんとか自分の体を起こし、芝生の上に座った。

「行くよシィーリア!!」

「来い」

 ミナセが攻撃と速度強化魔法を発動し、シィーリアへと踏み込んだ。強化された彼女の体は踏み込みだけで衝撃波のような物を発生させた。

「はぁ!!」

 ミナセの拳をシィーリアが手のひらで受け止めたと思った次の瞬間、ミナセが蹴りを放っていた。流れるような動き……流石対人戦は慣れているな。隙がない。

 だが……。

「迷いがある」

 シィーリアがミナセの腕を引く。子供が戯れる時のような動き、しかし次の瞬間、ミナセの体が大きくバランスを失い、同時に彼女の顔面には掌底が叩き込まれていた。

「くぅっ!?」

「オヌシもまだまだじゃ。本当の力を発揮できておらぬ」

「ま、まだだよ……っ!」

 空中で体勢を立て直し着地するミナセ。彼女が再び飛び込もうとした瞬間、シィーリアの瞳がギラリと光る。


「ふんっ!!!」


 一瞬にしてミナセの懐に飛び込む銀髪の少女、彼女の放った拳が空を切り裂き、周囲の芝生を揺らす。凄まじい風圧。眼前で寸止めされてはいたが、ミナセはヘナヘナと大地へと座り込んでしまった。

「は……はぁ……し、死んだと思った……」

「オヌシはユイと本気で戦えるのか? ユイは本気で殺しに来るのじゃぞ?」

「そ、それは……」

「……『迷いある戦いは勝敗を生まぬ』。妾の世界のことわざじゃ」

 シィーリアがミナセの手をとって起こす。彼女はミナセを見上げて、その頬を両手でパンッと挟んだ。

「痛っ!?」

「ミナセ。ユイに悪いと思っておるのか?」

「う、うん……」

「お前は出て行くことを選んだ。ユイは残ることを選んだ。それはオヌシ達が出した答えじゃ。決してどちらかが間違っているということではない」

「……」

「オヌシの謝罪は自己満足。ユイの怒りは逆恨みじゃ」

「何を言ってるのか、分かんないよ……」

「ミナセが気に止むことは無いということじゃ。オヌシは生きる為に最善のことをした。ユイも同様じゃ。だから、自分を責めるな」

 シィーリアは、クルリと振り返ると振り向かずに俺達へと声をかけた。

「残り3週間。お前達の答えを出せ。妾はどんな結末でも見届けよう」

 去って行くシィーリア。彼女はピタリと足を止めると、今度は振り返って俺達の目を見つめた。

「じゃが妾個人・・の意思を伝えるならば、お前達がいなくなったら……寂しいよ」

 少しだけ笑みを浮かべる彼女。幼い姿なのに、俺達を見守るような、そんな優しさを感じる微笑みだった。



◇◇◇

「痛つつ……シィーリア容赦無いなぁ……」

 ミナセが掌底を食らった顔を抑える。うっすら浮かべる涙。直撃だったしな……痛むだろう。

「俺なんてお前が治療している間もずっとやり合っているんだぞ」

「その割には全然勝てないねぇ」

「う、うるさいな! 色々考えているんだ、これでも」

 だが、今日は掴んだ。きっかけを。絶対にこの感覚を物にしてみせる。

「ねぇカズ君?」

「なんだ?」

「カズ君はさ、何で怒らなかったの? 私が……その……」

 言いにくそうにするミナセ。配信者になった後に人を襲ったことを言っているのだろう。確かに、以前の俺ならミナセのことを許せなかったかもしれない……。

「……俺は、何よりも人を救うことが大事だと思っていた」

「うん」

「だが、今はこう思う。守りたいと」

「守りたい?」

 これはただの言葉遊びだ。だが、俺には違う意味も持っている。親しい者も含めて、守りたい。もう傷付く姿を見るのは……悲しいから。

「その中に、ミナセも入っているということだ」

「え……っ」

 ミナセの頬が赤くなる。それを見た瞬間恥ずかしくなった。だが、その恥ずかしさもら心地良いような気がする。

「だから、これ以上はやるな。そんなことしなくても俺は大丈夫。してしまったことは……2人で償おう。許されなくても」

「……うん、約束する、もうあんな事しないって」

 ミナセが指を絡めて微笑む。繋がったような感覚。ずっと側にいたのに、やっと手にしたような感覚だった。照れるように笑うミナセ、その顔は今までのどんな顔よりも綺麗で……。


「俺はずっとミナセのそばにいるから」

「カズ君……」

 ミナセが目を閉じる。何を求めているのか反射的に分かってしまう。顔が熱くなる感覚がしたが、それを振り払うように自分も目を閉じた。ミナセの呼吸がすぐ近くに聞こえる。早鐘のように打つ鼓動を感じながら、そっと唇を重ねた──。





「ほ、ほあああぁぁぁ……っ!」



 ん?


 突然、間の抜けたような声がする。


 振り返るとリレイラ・ヴァルデシュテインがすぐ後ろにしゃがみ込んでいた。


「り、リレイラさん!? いつから見てたの!?」


 ミナセの驚いた声。リレイラは、ジーッと観察するようにこちらを見ていた。


「えっと、最初から、かも? い、いいなぁ……」



 ……。



 何故か涙目で。


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