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第88話 スタートの裏で。
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~ジークリード~
ハンターシティ開催の同時刻。
──西口公園周辺ビル。
廃棄された商業ビルの3階から下を覗く。西口公園ステージの上で、スーツ姿のシィーリアが両手を掲げていた。
次の瞬間、体が淡く光る。シィーリアの承認魔法か。左手を見ると異世界文字が浮かび上がった。これで魔法障壁の中へ入ることができるな。
次に、スマホの地図アプリを開く。同じ場所に俺達を表す4つのマーク。俺とミナセが青と赤、鎧と天王洲が緑と黄色……シィーリアが心配して解放してくれた機能。これで連携が取れる。
ミナセが左耳にワイヤレスイヤホンを装着する。それを横目に俺も。できれば鎧達に迷惑をかけたくはないが……ミナセのことが優先だ。もしもの時は頼むか。
「どうしたのカズ君?」
「あ、いや……その装備、久々だと思ってな」
「そっか、そうだよね……嫌なこと思い出させてごめんね」
「別に気にしてない。あやまるなよ」
「う、ごめ」
謝りそうになって咄嗟にミナセが顔を逸らす。彼女はいつもと違う装備をしていた。黒を基調とした軽装な胸当て、ロッドではなく格闘用の籠手、速度10%上昇の符呪を施したブーツ。その下に動きを阻害しないスポーツ用のインナーも。
ユイと戦う為の格闘戦に特化した装備。それは、初めて俺達が出会った時の装備だった。
「……シィーリア、ああいう時はカッコいいよね」
窓の端から外を覗き込んだミナセ。彼女は少しはにかんだような顔でシィーリアを見つめていた。それにつられて俺も窓を覗く。
シィーリアの横に座る派手な衣装の女……鯱女王、か。直接見たのは初めてだな。
S級探索者か。正直、俺には分からない。強さは間違いなく一級品だが、今までの活動から見るに他人に興味のない人間だろう。人を救ったとしても気まぐれ。俺とは相容れない存在だろうな。
「本当はあそこにいたかった?」
ミナセが悲しそうな顔をする。責任を感じているのだろうか? それをなんとかしてやりたくて、彼女の頬を撫でた。
「いや、俺はここがいい」
「……ありがとね、カズ君」
バルムンクを鞘から抜く。手入れも大丈夫。閃光の本当の使い方も体で覚えた。……亜沙山の人間に、ミナセは渡さない。
そんなことを考えていると、ミナセのスマホが鳴った。メッセージアプリ経由ではなく電話、か。画面覗くと非通知になっていた。
ミナセが俺の目を見る。頷いて返すと、彼女はスピーカーモードで通話ボタンを押した。俺達以外誰もいない部屋に、女の声が響く。
『おね~ちゃん! やっと始まったね! ちゃんとハンターシティに出てるぅ!?』
明るい声。それは、鎧達を襲った時とは全く異なる雰囲気を持っていた。だが電話越しでもユイだと分かる。ミナセと同じ声だから。
「……約束通り池袋にいるよ」
『ひひっ、良かった。じゃあサンシャインシティビルの最上階を目指しな。そこで待ってる』
「……ユイを助けたいよ」
『逃げたら仲間を殺すから』
交わらない会話のまま、ブツリと通話は切れてしまった。
「ミナセ、大丈夫か?」
「うん。私も覚悟決める。みんなが傷付くなんて、嫌だもん」
ミナセが腰のポーチから眠り薬を取り出す。大型モンスターをも眠らせる強力な消費アイテム。ユイを倒した後、身柄を確保する為のアイテム……ユイは本気で殺しに来る。それを殺さずのまま倒すのは、困難を極めるだろう。
だが……。
「そうか。なら、お前をユイの元へ連れて行くのが俺の仕事だな」
「カズ君……お願いが」
真剣な表情のミナセ。彼女の言いたいことはなんとなく分かった。この1ヶ月、今までは比べられないほど彼女とは深く繋がった気がする。だから分かる。例え俺の望まない言葉であっても。
「1人でユイと戦わせて欲しい……だろ?」
ミナセは黙ったまま、コクリと頷く。その瞬間、感情が溢れだしそうになってミナセを思い切り抱きしめた。
「あーあ。なんにも悩みがない時だったら泣くほど嬉しいのになぁ」
軽口を叩いているが、声が暗い。それが余計辛かった。自分を抑える為に目を強く閉じて、ゆっくりと開く。
「お前なら、大丈夫」
「カズ君、私ね? もう迷わないから。ユイを倒すことに全力をかける。シィーリアが言ってたもん「迷いある戦いは勝敗を生まない」って」
「ああ。ミナセが思うことをしろ。何があっても俺が支えるから」
「優しいね」
「今までが優しくなかっただけだ」
ミナセを横抱きに抱き上げ、反対の部屋へ。窓から身を乗り出し、隣のビルまでの距離を測る。
閃光を発動。隣のビルとの間は2メートルほど。三角飛びの要領で勢いを殺しながら降りれば下まで行けるな。
自分に言い聞かせる。ミナセは大丈夫だ。シィーリアとも散々戦闘訓練した。絶対に、負けはしない。
「行くぞ」
「うん」
ミナセがギュッと俺に抱き付く。彼女が影を抱いているのが辛い。これが終われば、俺の知っているミナセに戻れるはず……それが彼女の望んでいる姿なのだから。そう思いながら、俺は窓から飛び出した──。
◇◇◇
~ダンジョン配信者 鉄塊の武史~
池袋駅東口。
開会式をスタート地点ギリギリで迎えたオレと亜沙山一家の探索者達。指揮をしているのはルリア嬢ちゃんの付き人、式島のオッサンだった。
式島の部下達は、承認魔法の発動と同時駆け出し、ジークリードを探す為、サンシャインシティ方面へと向かった。
聞けば向こうには鯱女王が現れたらしい。いいなぁ……オレも見たかったわ。せっかく東京まで来たのにこんなことになるなんてなぁ……。
後悔に打ちひしがれていると、亜沙山の探索者が1人、式島のオッサンに話しかけた。
「式島さん。いいんですか? サンシャイン方面にばかり探索者を配置して」
「ああ、ツェッターにヤツらを見たという話があった。闇雲に探し回るよりはマシだからな。現れなければ分散して探せばいい」
亜沙山一家は探索者を30人以上投入しとるらしい。ルリア嬢ちゃんは相当お怒りみたいやな。ジークリードの相棒のミナセも捕まったらどうなるか……お~怖っ。俺は知らんで……。
俺の雰囲気を察したのか、式島のオッサンに肩を叩かれる。
「武史。お前もお嬢に雇われているのだからちゃんと働け」
「分かっとるって。だけど俺は人殺しに加担する気はないで」
「……ミナセを捕らえた後の処遇はお前が気にすることじゃない」
気にするわ! 絶対飯不味くなるやん。とは言わずに心の中に止めておく。あーあ、美少女が死ぬなんて考えたくないわ。
だけどなぁ……俺としてもルリア嬢ちゃんやボコされた伊達のオッサンには一宿一飯の恩義がある。仕事を貰ったおかげでハンターシティまで東京に滞在できたんや。それを返せと言われたら、返すのが男ってもんや。
しゃあない。俺は俺のできることをやるだけや。それに……。
「鉄壁のスキルを持つお前ならジークリード相手でも戦えるだろ?」
そう、ジークリード。A級探索者のアイツと戦うのが俺の仕事……それだけは魅力や。ヨッさんも強者やが、俺とタイプが違いすぎる。あの人と比べても俺の本来の立ち位置が認識できん。スキル特化のジークリードと戦えば、俺が今どれほどの実力か分かるやろ。そこには興味がある。
横目で式島のオッサンを見る。今どき珍しい紙巻タバコを吸う姿……このオッサンも相当な手だれやけどな。
「なんだ?」
式島のオッサンがジロリと俺を見る。真っ白な白髪頭にピシッとしたスーツ、それにポン刀……ヤクザ感満載。嬢ちゃんの近くにおる時は優しいオッサンやが、何回か訓練で戦った俺には分かる。俺にはクラスをずっと隠しとるが、A級か? 強すぎるでコイツ。
「いや……なんでもないわ」
俺がジークリードを引き付け、式島のオッサンがミナセを確保する……そういう段取り。問題のジークリードの波動斬対策もバッチリや。アレが物理属性なら俺の持つ鉄壁で防ぐことができる。魔法に近い性質であっても対策は取ってある。ヨッさんとの中野ダンジョンの攻略で色々ヒントは掴ませて貰ったしな。
ハンターシティ優勝は捨てざるを得んが……やれるだけのことはやってみるか。俺だってこの一ヶ月考え抜いて装備も用意し直したんや。特訓だってこなした。前の俺より進んでいるはずや。
悪いなジークリード。お前に恨みはないが全力で挑ませて貰うで。
ハンターシティ開催の同時刻。
──西口公園周辺ビル。
廃棄された商業ビルの3階から下を覗く。西口公園ステージの上で、スーツ姿のシィーリアが両手を掲げていた。
次の瞬間、体が淡く光る。シィーリアの承認魔法か。左手を見ると異世界文字が浮かび上がった。これで魔法障壁の中へ入ることができるな。
次に、スマホの地図アプリを開く。同じ場所に俺達を表す4つのマーク。俺とミナセが青と赤、鎧と天王洲が緑と黄色……シィーリアが心配して解放してくれた機能。これで連携が取れる。
ミナセが左耳にワイヤレスイヤホンを装着する。それを横目に俺も。できれば鎧達に迷惑をかけたくはないが……ミナセのことが優先だ。もしもの時は頼むか。
「どうしたのカズ君?」
「あ、いや……その装備、久々だと思ってな」
「そっか、そうだよね……嫌なこと思い出させてごめんね」
「別に気にしてない。あやまるなよ」
「う、ごめ」
謝りそうになって咄嗟にミナセが顔を逸らす。彼女はいつもと違う装備をしていた。黒を基調とした軽装な胸当て、ロッドではなく格闘用の籠手、速度10%上昇の符呪を施したブーツ。その下に動きを阻害しないスポーツ用のインナーも。
ユイと戦う為の格闘戦に特化した装備。それは、初めて俺達が出会った時の装備だった。
「……シィーリア、ああいう時はカッコいいよね」
窓の端から外を覗き込んだミナセ。彼女は少しはにかんだような顔でシィーリアを見つめていた。それにつられて俺も窓を覗く。
シィーリアの横に座る派手な衣装の女……鯱女王、か。直接見たのは初めてだな。
S級探索者か。正直、俺には分からない。強さは間違いなく一級品だが、今までの活動から見るに他人に興味のない人間だろう。人を救ったとしても気まぐれ。俺とは相容れない存在だろうな。
「本当はあそこにいたかった?」
ミナセが悲しそうな顔をする。責任を感じているのだろうか? それをなんとかしてやりたくて、彼女の頬を撫でた。
「いや、俺はここがいい」
「……ありがとね、カズ君」
バルムンクを鞘から抜く。手入れも大丈夫。閃光の本当の使い方も体で覚えた。……亜沙山の人間に、ミナセは渡さない。
そんなことを考えていると、ミナセのスマホが鳴った。メッセージアプリ経由ではなく電話、か。画面覗くと非通知になっていた。
ミナセが俺の目を見る。頷いて返すと、彼女はスピーカーモードで通話ボタンを押した。俺達以外誰もいない部屋に、女の声が響く。
『おね~ちゃん! やっと始まったね! ちゃんとハンターシティに出てるぅ!?』
明るい声。それは、鎧達を襲った時とは全く異なる雰囲気を持っていた。だが電話越しでもユイだと分かる。ミナセと同じ声だから。
「……約束通り池袋にいるよ」
『ひひっ、良かった。じゃあサンシャインシティビルの最上階を目指しな。そこで待ってる』
「……ユイを助けたいよ」
『逃げたら仲間を殺すから』
交わらない会話のまま、ブツリと通話は切れてしまった。
「ミナセ、大丈夫か?」
「うん。私も覚悟決める。みんなが傷付くなんて、嫌だもん」
ミナセが腰のポーチから眠り薬を取り出す。大型モンスターをも眠らせる強力な消費アイテム。ユイを倒した後、身柄を確保する為のアイテム……ユイは本気で殺しに来る。それを殺さずのまま倒すのは、困難を極めるだろう。
だが……。
「そうか。なら、お前をユイの元へ連れて行くのが俺の仕事だな」
「カズ君……お願いが」
真剣な表情のミナセ。彼女の言いたいことはなんとなく分かった。この1ヶ月、今までは比べられないほど彼女とは深く繋がった気がする。だから分かる。例え俺の望まない言葉であっても。
「1人でユイと戦わせて欲しい……だろ?」
ミナセは黙ったまま、コクリと頷く。その瞬間、感情が溢れだしそうになってミナセを思い切り抱きしめた。
「あーあ。なんにも悩みがない時だったら泣くほど嬉しいのになぁ」
軽口を叩いているが、声が暗い。それが余計辛かった。自分を抑える為に目を強く閉じて、ゆっくりと開く。
「お前なら、大丈夫」
「カズ君、私ね? もう迷わないから。ユイを倒すことに全力をかける。シィーリアが言ってたもん「迷いある戦いは勝敗を生まない」って」
「ああ。ミナセが思うことをしろ。何があっても俺が支えるから」
「優しいね」
「今までが優しくなかっただけだ」
ミナセを横抱きに抱き上げ、反対の部屋へ。窓から身を乗り出し、隣のビルまでの距離を測る。
閃光を発動。隣のビルとの間は2メートルほど。三角飛びの要領で勢いを殺しながら降りれば下まで行けるな。
自分に言い聞かせる。ミナセは大丈夫だ。シィーリアとも散々戦闘訓練した。絶対に、負けはしない。
「行くぞ」
「うん」
ミナセがギュッと俺に抱き付く。彼女が影を抱いているのが辛い。これが終われば、俺の知っているミナセに戻れるはず……それが彼女の望んでいる姿なのだから。そう思いながら、俺は窓から飛び出した──。
◇◇◇
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池袋駅東口。
開会式をスタート地点ギリギリで迎えたオレと亜沙山一家の探索者達。指揮をしているのはルリア嬢ちゃんの付き人、式島のオッサンだった。
式島の部下達は、承認魔法の発動と同時駆け出し、ジークリードを探す為、サンシャインシティ方面へと向かった。
聞けば向こうには鯱女王が現れたらしい。いいなぁ……オレも見たかったわ。せっかく東京まで来たのにこんなことになるなんてなぁ……。
後悔に打ちひしがれていると、亜沙山の探索者が1人、式島のオッサンに話しかけた。
「式島さん。いいんですか? サンシャイン方面にばかり探索者を配置して」
「ああ、ツェッターにヤツらを見たという話があった。闇雲に探し回るよりはマシだからな。現れなければ分散して探せばいい」
亜沙山一家は探索者を30人以上投入しとるらしい。ルリア嬢ちゃんは相当お怒りみたいやな。ジークリードの相棒のミナセも捕まったらどうなるか……お~怖っ。俺は知らんで……。
俺の雰囲気を察したのか、式島のオッサンに肩を叩かれる。
「武史。お前もお嬢に雇われているのだからちゃんと働け」
「分かっとるって。だけど俺は人殺しに加担する気はないで」
「……ミナセを捕らえた後の処遇はお前が気にすることじゃない」
気にするわ! 絶対飯不味くなるやん。とは言わずに心の中に止めておく。あーあ、美少女が死ぬなんて考えたくないわ。
だけどなぁ……俺としてもルリア嬢ちゃんやボコされた伊達のオッサンには一宿一飯の恩義がある。仕事を貰ったおかげでハンターシティまで東京に滞在できたんや。それを返せと言われたら、返すのが男ってもんや。
しゃあない。俺は俺のできることをやるだけや。それに……。
「鉄壁のスキルを持つお前ならジークリード相手でも戦えるだろ?」
そう、ジークリード。A級探索者のアイツと戦うのが俺の仕事……それだけは魅力や。ヨッさんも強者やが、俺とタイプが違いすぎる。あの人と比べても俺の本来の立ち位置が認識できん。スキル特化のジークリードと戦えば、俺が今どれほどの実力か分かるやろ。そこには興味がある。
横目で式島のオッサンを見る。今どき珍しい紙巻タバコを吸う姿……このオッサンも相当な手だれやけどな。
「なんだ?」
式島のオッサンがジロリと俺を見る。真っ白な白髪頭にピシッとしたスーツ、それにポン刀……ヤクザ感満載。嬢ちゃんの近くにおる時は優しいオッサンやが、何回か訓練で戦った俺には分かる。俺にはクラスをずっと隠しとるが、A級か? 強すぎるでコイツ。
「いや……なんでもないわ」
俺がジークリードを引き付け、式島のオッサンがミナセを確保する……そういう段取り。問題のジークリードの波動斬対策もバッチリや。アレが物理属性なら俺の持つ鉄壁で防ぐことができる。魔法に近い性質であっても対策は取ってある。ヨッさんとの中野ダンジョンの攻略で色々ヒントは掴ませて貰ったしな。
ハンターシティ優勝は捨てざるを得んが……やれるだけのことはやってみるか。俺だってこの一ヶ月考え抜いて装備も用意し直したんや。特訓だってこなした。前の俺より進んでいるはずや。
悪いなジークリード。お前に恨みはないが全力で挑ませて貰うで。
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