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第101話 ミナセ、妹と対峙する。
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461さんとジークリードがまだ武史達と戦っていた頃。
──元商業ビル「サンシャインシティ」
~ミナセ~
カズ君に全てを任せ、サンシャインシティへと辿りついた。ごめんカズ君……本当は一緒に戦いたかった。でも、絶対にカズ君は許してくれなかっただろうな……私の目的を達成させるために。
どうか無事でいて、カズ君。
ダンジョン化によって誰も歩いていないビル周辺。特に今はハンターシティの開催中だ。モンスターを解放した後のダンジョンなんて誰も来ないだろう。ユイもそれが狙いでこの場所を指定したのかな。
サンシャインシティの中へ足を踏み入れる。ビルの中は、カフェや雑貨屋が当時のまま残っていた。アパレルショップに貼られた「2020年ウィンターセール!」というポスターが妙に寂しい。六本木と同じか……昔の建造物がそのまま残ってるタイプ。12年前までは普通に人がいたんだろうな。
そんな事を考えていると、スマホが鳴った。画面には「非通知」の文字。
ユイだ。
通話をオンにすると付けていたワイヤレスイヤホンからユイの声が聞こえた。
『サンシャインシティに着いたか?』
朝に連絡して来た時とは違う冷たい声。彼女は中を進んだ先にある移動魔法の魔法陣へ乗れとだけ言い残し、通話を切った。
しばらく進むと、ユイの言った通り魔法陣が見えた。吹き抜けになっているエリア、そこから下を覗き込む。1つ下の階に広いスペースがあった。そこに見える。噴水と大型モニターがあるスペースに、移動魔法の魔法陣が。
止まってしまったエスカレーターを降りて魔法陣の前へ。
その魔法陣の前で脚が動かなくなる。手が震える。この後に及んでまだ死ぬのが怖いんだ、私は……。
この先に進むと、2度とカズ君やシィーリア、みんなに会えないかもしれない。
カズ君と気持ちが通じた。友達もできた。私の人生は、これから始まるんだ。だから、それを失うなんて、絶対に……嫌だ。覚悟を決めろ。ユイと戦う覚悟を。
ユイ。
私を殺したら今度はみんなを傷付けるでしょ?
奪わせない。私から、何も。
深呼吸してから、私は魔法陣の上に乗った──。
◇◇◇
目の前に広がったのは細い通路だった。黒い壁に、十字に伸びた細い通路。その中心に私は立っていた。物理防御上昇魔法を発動し、前後左右の道から目の前の道を選んで慎重に進んでいく。
道を抜けた先にあったのはまた通路だった。窓から見下ろせる池袋の街。入り口の案内板に展望台と書かれていたのを思い出す。きっとここがそうなんだろう。ということは、ここは四角状に通路が続く空間なのか。その中央部には十字の道……戦うには厄介な場所だな。
それにしても……。
もう一度窓を除く。駅方面は霧がかかっているけど他のエリアは綺麗に晴れている。。へんな感じだ。一部のエリアだけ霧がかかるなんてあるのかな?
「やっと来たねおね~ちゃん!」
声の方を向くとユイが通路の奥に立っていた。黒いジャージにショートパンツ。腕には私と同じように格闘用の籠手をしていた。中野で会った時と同じ装備……彼女は私を見た瞬間嬉しそうに笑った。
「……嬉しそうじゃん。私のこと許してくれる気になった?」
「ふふっ……やっとマイのこと殺せると思うと嬉しくてさぁ!!!!!」
交わらない会話、急にテンションを上げたユイがこちらへ飛び込んで来た。
「速い!?」
速度上昇魔法を発動する。魔法効果が現れると同時に、ユイの右拳が目の前に迫る。それを左手のひらで弾きユイの顔に掌底を入れる。ユイは、ギロリと横目で私を見ると、私の右腕に巻き付くように空中へ飛び上がった。
中野でやられた技!? 腕が持っていかれる……ッ!?
咄嗟に地面を蹴ってユイを窓ガラスに叩き付ける。蜘蛛の巣のようにヒビが入るガラス。ユイが小さな悲鳴をあげた。その隙に腕を引き抜き、後ろへ飛び退いて距離をとる。
「はぁ……はぁ……」
危なかった……あそこで判断を間違っていたら腕が折られてた。
「なんで避けるんだよぉ。マイは私よりいい思いしてるんだから腕ぐらい恵んでくれってぇ~ひひっ」
ユイが焦点の合わない目で私の方を見る。避けられたのに嬉しそう。なんだか言葉と表情がチグハグで嫌な感じがする。
「ずっと思ってたけど……変だよユイ。なんでそんな風になってるのさ……」
「え? アタシは変じゃないよ~ひひひ。というか、お前に変とか言われるのウザいんだけど。何様? 自分だけシャバに戻って常識人ってか? ふざけんじゃねぇぞ」
急にユイの口調が変わる。その変わりように背筋にゾクリと寒気が走る。ユイの全身から、ううん、ユイ自体が殺気の塊みたい。
「幸せそうなお姉ちゃんは私のためにグチャグチャになって死んで!!!!! 遊んであげるからぁ!!」
再びユイが飛び込んでくる。さっきよりさらに速い……!?
ユイが一瞬にして距離を詰める。放たれた拳を紙一重で避け、ユイの頬に全力の拳を叩きつける。その瞬間、ユイの表情が怒りに染まった。私への怒りに満ちた顔。その顔を見た瞬間、胸にナイフが突き刺されたような痛みが走る……胸が苦しい。だけど、それを自分の中でかき消してユイの腹部に膝蹴りを入れる。
「がっ!? ふざけるなあああああ!!! 物理攻撃上昇!!!」
ユイが顔を歪めながら強化魔法を使う。ボワリと光る体。一瞬遅れて私と同じ攻撃を放った。膝がみぞおちにめり込み、全身に衝撃が走る。防御上昇使ってもこの威力なの……!?
「かはっ……!?」
思わず体を丸めてしまう。ユイは、その隙を見逃さず私を押し倒した。
マズイと思った時には遅かった。腰骨を両脚で固定されマウントポジションを取られてしまう。抜けようと思って体を捻るけど、がっしりと抑えられているせいで抜けることができない。
「アタシはぁ!!!」
ユイが拳を振り上げる。咄嗟に物理防御上昇魔法を重ねがけして顔を両腕で守る。叩き付けられた拳が重い。両腕がミシミシと悲鳴を上げる。早く……早く抜けないと……。
「お前の為にあのスキルを取った!! お前のせいで気持ち悪いんだ!!! なのになんで私を捨てた!! なんでなんでなんで!!!!!」
「くぅ……っ!?」
何度も何度も叩き付けられる拳。両腕が軋む音がする。防御上昇魔法を重ねがけしていなかったら両腕とも折られてしまうかもしれない。だけど、それよりもユイが言った一言だけが頭の中を巡った。
スキル? ユイは何かのスキルのせいで変になったの?
「あははははは死ね死ね死ねぇ!!」
今度は絶叫のような笑い声を上げるユイ。腕の感覚が無くなってきた。痛くて涙が出そう。でも、ユイに何が合ったのか……知りたい。知らなきゃいけない気がする。
腕の隙間からユイの装備を確認する。どこだ? 肌身離さずアレを持っているはずだ。ユイが探索者なら……。
「うぅぅぅうううう……死ねよぉ!!! 私のために死ねえええええええ!!!」
涙を流すユイ。感情がめちゃくちゃだ。こんなの絶対におかしい。確かめないと……ポケットは? 無い。どこだ? どこにある?
「丸くなってんじゃねぇ!!」
苛立ったユイが私の腕を顔から引き剥がそうと掴み掛かる。ギリギリと腕が締め上げられる。すごい握力……並みの人間なら簡単に腕を折られてしまうかも。でも、動きが止まった。今ならユイのスマホを探せる。
「分かんないよ!! だってユイは私のことずっと無視してたじゃん!! 言ってくれないと何もしてあげられないよ!」
「うるさい!!! 私のこと何も知らないくせに!!」
腕を引き剥がされる。無防備になった額に頭突きを入れられる。額が割れるような痛みが走り、生暖かい感触がする。
「う゛あ゛っ!?」
「死ね!!」
頬を殴られる。痛みを耐えながら視線を彷徨わせると、ユイの腰に探索者用の小さなバッグがあることに気付いた。あの中に……あるはずだ。スマホが。スマホを取れば、ユイのスキルツリーが見れる。この子に何が合ったのか分かる。ユイが攻撃に集中している間に左手をバッグに伸ばした。
「死ねぇ!!!」
もう一度殴られる。痛みも感じなくなってくる。意識が飛びそうだ。だけど……もう少し。
「物理……攻撃……上昇」
口の中が痛い。でも、なんとか言えた。カバンも、もう少し……。
「うあああああああああ!!!!」
絶叫しながらユイが拳を振りかぶる。その瞬間、カバンに手が届いた。
「死ねえええええええ!!!」
ユイが拳を振り下ろす。ユイ、怒りに飲まれてる。体重まで乗せて殴りにきてる。
ユイの拳に被せるように、彼女の顎へ右拳を放つ。体重を乗せて前のめりになったことで、ユイの顔に拳が届いた。相打ちに近い形でカウンターを放つことができた。
「がっ!? あ゛……っ!?」
ユイが脚をガクガクと振るわせる。その瞬間、ユイのカバンを左手で引きちぎり、体を捩らせてマウントポジションを解く。フラつく脚で、ユイから全力で逃げた。
「逃げるんじゃねぇええええ!!」
後ろから聞こえるユイの声。振り返ってみると、ユイは起きあがろうとして上手く起き上がれないようだった。一か八か顎を狙ったけど良かった……昔、九条商会で、顎を殴れば脳を揺らせると習ったから……こんな時までそれが頭をよぎるなんて。
でも、今の私もユイを倒せる状態じゃない。下手にトドメを刺そうとして返り討ちに合う可能性が高い。
今は……回復して、ユイの事を知らないと……。
走って走って……十字の通路を渡ってユイのいる通路の反対側へ回る。
「マイいいいいいいいいい!!! どこだあああああ!!!」
怒ったユイの声が聞こえる。まだ声が遠い。見つからないように移動していると、フロアの反対側へと出た。角から様子を伺う。そこに倉庫であろう扉を見つけた。周囲を確認してその扉の奥へと入り、部屋の中を見渡す。あの奥の空間なら、隠れられるかも。
角のスペースに飛び込み、自分の持っていた高濃度回復薬を半分飲む。残りは両腕にかけた。ジュワリと煙が上がり、ボロボロだった腕が綺麗になっていく。腕が動くようになったら次はユイの探索者カバンを漁る。ここにユイのスマホがあるはずだ。
……。
あった。
ユイの探索者用スマホがあった。昔のスマホのままだ。パスワードが昔のままなら、私達が2人で施設から逃げた日の日付に……。
「開いた」
スマホを操作し、スキルツリーを開く。取得された強化系魔法のさらに先を見ていくと、見覚えのないスキルがあった。
「何これ……? 狂乱……? それも、最大の5段階目まで育て上げてる……」
タップしてスキル説明文を表示させる。
狂乱。
常在スキル。全能力を20%上昇する。怒り、悲しみ、嫉妬、憎悪の感情が20%増幅する。この能力は5段階まで育成可能。
常在スキルは、技スキルとは違って一度取得すると常に発動し続けるスキルだ。こんなのを最大まで取得したら……正気でいられなくなる。
「ウソ……こんなのが出現してるなんて、私には一度も……」
答えを求めるようにアプリメニューを見ていく。ユイのスマホは必要最低限のアプリしかない。メッセージアプリも何も残っていない。九条商会は記録を残さないよう通話しかしないから当然か……となると何かを残すならメモアプリくらいしか……。
角から外を覗く。まだこの場所は気付かれてないか。
そうだ。昔……初めてスマホを手に入れた時、確かあの子日記アプリを入れたはずだ。私が見ようとすると怒って画面を隠してた。
……。
あった。残ってた……ユイの日記。
アプリを開くとそこには日付の書かれたファイルがいくつかあった。私達が九条商会に入った日付から始まって……最後が私が九条商会を抜けた日に、なってる。
「ユイ……」
知らないと。私はあの子のこと知らないまま戦っちゃいけない。なぜだか無性にそんな気持ちに駆られる。
私は、そのファイルをゆっくりと開いた──。
──元商業ビル「サンシャインシティ」
~ミナセ~
カズ君に全てを任せ、サンシャインシティへと辿りついた。ごめんカズ君……本当は一緒に戦いたかった。でも、絶対にカズ君は許してくれなかっただろうな……私の目的を達成させるために。
どうか無事でいて、カズ君。
ダンジョン化によって誰も歩いていないビル周辺。特に今はハンターシティの開催中だ。モンスターを解放した後のダンジョンなんて誰も来ないだろう。ユイもそれが狙いでこの場所を指定したのかな。
サンシャインシティの中へ足を踏み入れる。ビルの中は、カフェや雑貨屋が当時のまま残っていた。アパレルショップに貼られた「2020年ウィンターセール!」というポスターが妙に寂しい。六本木と同じか……昔の建造物がそのまま残ってるタイプ。12年前までは普通に人がいたんだろうな。
そんな事を考えていると、スマホが鳴った。画面には「非通知」の文字。
ユイだ。
通話をオンにすると付けていたワイヤレスイヤホンからユイの声が聞こえた。
『サンシャインシティに着いたか?』
朝に連絡して来た時とは違う冷たい声。彼女は中を進んだ先にある移動魔法の魔法陣へ乗れとだけ言い残し、通話を切った。
しばらく進むと、ユイの言った通り魔法陣が見えた。吹き抜けになっているエリア、そこから下を覗き込む。1つ下の階に広いスペースがあった。そこに見える。噴水と大型モニターがあるスペースに、移動魔法の魔法陣が。
止まってしまったエスカレーターを降りて魔法陣の前へ。
その魔法陣の前で脚が動かなくなる。手が震える。この後に及んでまだ死ぬのが怖いんだ、私は……。
この先に進むと、2度とカズ君やシィーリア、みんなに会えないかもしれない。
カズ君と気持ちが通じた。友達もできた。私の人生は、これから始まるんだ。だから、それを失うなんて、絶対に……嫌だ。覚悟を決めろ。ユイと戦う覚悟を。
ユイ。
私を殺したら今度はみんなを傷付けるでしょ?
奪わせない。私から、何も。
深呼吸してから、私は魔法陣の上に乗った──。
◇◇◇
目の前に広がったのは細い通路だった。黒い壁に、十字に伸びた細い通路。その中心に私は立っていた。物理防御上昇魔法を発動し、前後左右の道から目の前の道を選んで慎重に進んでいく。
道を抜けた先にあったのはまた通路だった。窓から見下ろせる池袋の街。入り口の案内板に展望台と書かれていたのを思い出す。きっとここがそうなんだろう。ということは、ここは四角状に通路が続く空間なのか。その中央部には十字の道……戦うには厄介な場所だな。
それにしても……。
もう一度窓を除く。駅方面は霧がかかっているけど他のエリアは綺麗に晴れている。。へんな感じだ。一部のエリアだけ霧がかかるなんてあるのかな?
「やっと来たねおね~ちゃん!」
声の方を向くとユイが通路の奥に立っていた。黒いジャージにショートパンツ。腕には私と同じように格闘用の籠手をしていた。中野で会った時と同じ装備……彼女は私を見た瞬間嬉しそうに笑った。
「……嬉しそうじゃん。私のこと許してくれる気になった?」
「ふふっ……やっとマイのこと殺せると思うと嬉しくてさぁ!!!!!」
交わらない会話、急にテンションを上げたユイがこちらへ飛び込んで来た。
「速い!?」
速度上昇魔法を発動する。魔法効果が現れると同時に、ユイの右拳が目の前に迫る。それを左手のひらで弾きユイの顔に掌底を入れる。ユイは、ギロリと横目で私を見ると、私の右腕に巻き付くように空中へ飛び上がった。
中野でやられた技!? 腕が持っていかれる……ッ!?
咄嗟に地面を蹴ってユイを窓ガラスに叩き付ける。蜘蛛の巣のようにヒビが入るガラス。ユイが小さな悲鳴をあげた。その隙に腕を引き抜き、後ろへ飛び退いて距離をとる。
「はぁ……はぁ……」
危なかった……あそこで判断を間違っていたら腕が折られてた。
「なんで避けるんだよぉ。マイは私よりいい思いしてるんだから腕ぐらい恵んでくれってぇ~ひひっ」
ユイが焦点の合わない目で私の方を見る。避けられたのに嬉しそう。なんだか言葉と表情がチグハグで嫌な感じがする。
「ずっと思ってたけど……変だよユイ。なんでそんな風になってるのさ……」
「え? アタシは変じゃないよ~ひひひ。というか、お前に変とか言われるのウザいんだけど。何様? 自分だけシャバに戻って常識人ってか? ふざけんじゃねぇぞ」
急にユイの口調が変わる。その変わりように背筋にゾクリと寒気が走る。ユイの全身から、ううん、ユイ自体が殺気の塊みたい。
「幸せそうなお姉ちゃんは私のためにグチャグチャになって死んで!!!!! 遊んであげるからぁ!!」
再びユイが飛び込んでくる。さっきよりさらに速い……!?
ユイが一瞬にして距離を詰める。放たれた拳を紙一重で避け、ユイの頬に全力の拳を叩きつける。その瞬間、ユイの表情が怒りに染まった。私への怒りに満ちた顔。その顔を見た瞬間、胸にナイフが突き刺されたような痛みが走る……胸が苦しい。だけど、それを自分の中でかき消してユイの腹部に膝蹴りを入れる。
「がっ!? ふざけるなあああああ!!! 物理攻撃上昇!!!」
ユイが顔を歪めながら強化魔法を使う。ボワリと光る体。一瞬遅れて私と同じ攻撃を放った。膝がみぞおちにめり込み、全身に衝撃が走る。防御上昇使ってもこの威力なの……!?
「かはっ……!?」
思わず体を丸めてしまう。ユイは、その隙を見逃さず私を押し倒した。
マズイと思った時には遅かった。腰骨を両脚で固定されマウントポジションを取られてしまう。抜けようと思って体を捻るけど、がっしりと抑えられているせいで抜けることができない。
「アタシはぁ!!!」
ユイが拳を振り上げる。咄嗟に物理防御上昇魔法を重ねがけして顔を両腕で守る。叩き付けられた拳が重い。両腕がミシミシと悲鳴を上げる。早く……早く抜けないと……。
「お前の為にあのスキルを取った!! お前のせいで気持ち悪いんだ!!! なのになんで私を捨てた!! なんでなんでなんで!!!!!」
「くぅ……っ!?」
何度も何度も叩き付けられる拳。両腕が軋む音がする。防御上昇魔法を重ねがけしていなかったら両腕とも折られてしまうかもしれない。だけど、それよりもユイが言った一言だけが頭の中を巡った。
スキル? ユイは何かのスキルのせいで変になったの?
「あははははは死ね死ね死ねぇ!!」
今度は絶叫のような笑い声を上げるユイ。腕の感覚が無くなってきた。痛くて涙が出そう。でも、ユイに何が合ったのか……知りたい。知らなきゃいけない気がする。
腕の隙間からユイの装備を確認する。どこだ? 肌身離さずアレを持っているはずだ。ユイが探索者なら……。
「うぅぅぅうううう……死ねよぉ!!! 私のために死ねえええええええ!!!」
涙を流すユイ。感情がめちゃくちゃだ。こんなの絶対におかしい。確かめないと……ポケットは? 無い。どこだ? どこにある?
「丸くなってんじゃねぇ!!」
苛立ったユイが私の腕を顔から引き剥がそうと掴み掛かる。ギリギリと腕が締め上げられる。すごい握力……並みの人間なら簡単に腕を折られてしまうかも。でも、動きが止まった。今ならユイのスマホを探せる。
「分かんないよ!! だってユイは私のことずっと無視してたじゃん!! 言ってくれないと何もしてあげられないよ!」
「うるさい!!! 私のこと何も知らないくせに!!」
腕を引き剥がされる。無防備になった額に頭突きを入れられる。額が割れるような痛みが走り、生暖かい感触がする。
「う゛あ゛っ!?」
「死ね!!」
頬を殴られる。痛みを耐えながら視線を彷徨わせると、ユイの腰に探索者用の小さなバッグがあることに気付いた。あの中に……あるはずだ。スマホが。スマホを取れば、ユイのスキルツリーが見れる。この子に何が合ったのか分かる。ユイが攻撃に集中している間に左手をバッグに伸ばした。
「死ねぇ!!!」
もう一度殴られる。痛みも感じなくなってくる。意識が飛びそうだ。だけど……もう少し。
「物理……攻撃……上昇」
口の中が痛い。でも、なんとか言えた。カバンも、もう少し……。
「うあああああああああ!!!!」
絶叫しながらユイが拳を振りかぶる。その瞬間、カバンに手が届いた。
「死ねえええええええ!!!」
ユイが拳を振り下ろす。ユイ、怒りに飲まれてる。体重まで乗せて殴りにきてる。
ユイの拳に被せるように、彼女の顎へ右拳を放つ。体重を乗せて前のめりになったことで、ユイの顔に拳が届いた。相打ちに近い形でカウンターを放つことができた。
「がっ!? あ゛……っ!?」
ユイが脚をガクガクと振るわせる。その瞬間、ユイのカバンを左手で引きちぎり、体を捩らせてマウントポジションを解く。フラつく脚で、ユイから全力で逃げた。
「逃げるんじゃねぇええええ!!」
後ろから聞こえるユイの声。振り返ってみると、ユイは起きあがろうとして上手く起き上がれないようだった。一か八か顎を狙ったけど良かった……昔、九条商会で、顎を殴れば脳を揺らせると習ったから……こんな時までそれが頭をよぎるなんて。
でも、今の私もユイを倒せる状態じゃない。下手にトドメを刺そうとして返り討ちに合う可能性が高い。
今は……回復して、ユイの事を知らないと……。
走って走って……十字の通路を渡ってユイのいる通路の反対側へ回る。
「マイいいいいいいいいい!!! どこだあああああ!!!」
怒ったユイの声が聞こえる。まだ声が遠い。見つからないように移動していると、フロアの反対側へと出た。角から様子を伺う。そこに倉庫であろう扉を見つけた。周囲を確認してその扉の奥へと入り、部屋の中を見渡す。あの奥の空間なら、隠れられるかも。
角のスペースに飛び込み、自分の持っていた高濃度回復薬を半分飲む。残りは両腕にかけた。ジュワリと煙が上がり、ボロボロだった腕が綺麗になっていく。腕が動くようになったら次はユイの探索者カバンを漁る。ここにユイのスマホがあるはずだ。
……。
あった。
ユイの探索者用スマホがあった。昔のスマホのままだ。パスワードが昔のままなら、私達が2人で施設から逃げた日の日付に……。
「開いた」
スマホを操作し、スキルツリーを開く。取得された強化系魔法のさらに先を見ていくと、見覚えのないスキルがあった。
「何これ……? 狂乱……? それも、最大の5段階目まで育て上げてる……」
タップしてスキル説明文を表示させる。
狂乱。
常在スキル。全能力を20%上昇する。怒り、悲しみ、嫉妬、憎悪の感情が20%増幅する。この能力は5段階まで育成可能。
常在スキルは、技スキルとは違って一度取得すると常に発動し続けるスキルだ。こんなのを最大まで取得したら……正気でいられなくなる。
「ウソ……こんなのが出現してるなんて、私には一度も……」
答えを求めるようにアプリメニューを見ていく。ユイのスマホは必要最低限のアプリしかない。メッセージアプリも何も残っていない。九条商会は記録を残さないよう通話しかしないから当然か……となると何かを残すならメモアプリくらいしか……。
角から外を覗く。まだこの場所は気付かれてないか。
そうだ。昔……初めてスマホを手に入れた時、確かあの子日記アプリを入れたはずだ。私が見ようとすると怒って画面を隠してた。
……。
あった。残ってた……ユイの日記。
アプリを開くとそこには日付の書かれたファイルがいくつかあった。私達が九条商会に入った日付から始まって……最後が私が九条商会を抜けた日に、なってる。
「ユイ……」
知らないと。私はあの子のこと知らないまま戦っちゃいけない。なぜだか無性にそんな気持ちに駆られる。
私は、そのファイルをゆっくりと開いた──。
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“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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