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第114話 461さん、天王洲アイルに誓う。
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~461さん~
──渋谷駅地下。
俺達はスキルイーターを捕まえる為にもう一度渋谷を訪れた。
池袋にもスキルイーターはいたが、狩られ尽くしたモンスターが復活するにはまだ時間が必要だ。反面、攻略して1ヶ月以上経った渋谷はボスは復活しておらず、雑魚だけが復活している状態……スキルイーターを捕まえるにはうってつけの場所になっているはず。
俺、アイル、ジーク、ミナセは少しでも早くスキルイーターを捕まえる為、二手に別れて探索していた。発見した場合すぐに探索者用スマホで連絡すると決めて。
ボスのいないダンジョンは流石に楽勝だった。戦闘で苦戦することはない。
ないのだが……。
「やった! 捕まえたわよ461さん!」
氷結魔法で凍り付いたスライムを指してアイルが飛び跳ねる。走って彼女のもとまで行くと、それはヤツじゃなかった。
「ソイツ、スキルイーターじゃなくて分裂スライムだぜ?」
「え?」
アイルが油断した隙に分裂スライムの氷が溶け、急速に膨れ上がる。そして、人間より大きくなったスライムは2つに分裂してしまった。
「わっ!? 2匹になったわ!?」
面食らうアイルを引き寄せて俺の後ろに隠す。聖剣アスカルオを引き抜き1体を一閃、もう1体が分裂する前に蹴り飛ばす。
「プギッ!?」
「オラァ!!」
壁面でバウンドしたスライムを縦に叩っ斬った。割れるスライムの核。スライムは形状を維持できずに溶けていった。
「プギュぅぅぅ……」
ジュウジュウという音と共に消滅する分裂スライム。アイルは溶けて水たまりになったスライムを杖の先端でつつく。
「レベルポイントの光が出たからもう大丈夫よね?」
確認を終えて先に進もうとすると、アイルが俺の腕を掴んだ。
「ごめんね。その、失敗しちゃって……」
アイルのツインテールがシュンと項垂れる。アイルは喜んだり怒ったりするとすぐ飛び跳ねる。だから、ツインテールがこんな風に落ち着いている時は気に病んでいる時だ。
「気にすんな。スキルイーターが死んでこのダンジョンの生態系は戻ったからな。アイルにとっては初見みたいなもんだし」
「うん。ありがとね、ヨロイさん」
アイルはこのダンジョンに挑んでからずっとこんな様子だった。心ここにあらず。復活したばかりの雑魚ばかりだからなんとかなっているが、この調子だと流石に危険だな。アイルにあまり無茶はさせられないか。
アイルが懐からビンを取り出す。シィーリアから預かった異世界の品。割れにくく、スライム種を入れても死んだりしないアイテムだそうだ。こんな物があるってことは……異世界ではモンスターを飼うヤツもいるってことか?
シィーリアに聞いても「どこの世界にも変態がおるのじゃ……」と言ってそれ以上は教えてくれない。なんなんだよ、一体。
「この小さいビンに入るスキルイーターなんているのかな?」
「スライム種は個体数が多いからな。生まれたてのヤツもいると思うぜ?」
俺達が探しているのは生まれたばかりのスキルイーターだ。残り1回しか使えない支配者の指輪。その効果を使って操るんだ。寿命の長い個体がいい。操ってから年老いた個体だったりしたら目も当たられないからな。
……
それから数時間かけて地下を探したが、スキルイーターは見つからなかった。後は地上階を残すだけ。隣を見ると流石にアイルの顔にも疲労の色が浮かんでいた。
「ちょっと休憩するか」
敵がいないか確認し、ジークに連絡してヒカリエ方面を中心に見て貰うよう頼んだ。今のアイルだと戦闘メインになるヒカリエは危険だと判断して。
今のうちにアイテムも確認しておくか。この階に来てから遭遇する幻影騎士が厄介だ。回復薬はいつでも取り出せるよう腰のバッグに移しておこう。
「アイル。お前も回復薬はすぐ出せるようにしておけよ」
……。
ん?
返事がない?
不審に思ってアイルを見ると、アイルはボーッと俺の顔を見ていた。しかし、俺の視線に気付くと慌てて俯いてしまう。
「どうした?」
「今日の私、全然ダメだよね……」
「昨日散々駆けずり回ったんだ。疲れが出たのかもな。キツかったら先に帰っていいぞ。入り口まで送って」
言いかけた所でアイルが無言で首を振る。どうしたんだアイルのヤツ? 渋谷に来てからなんか変だ。
アイルが何かを言いかけては止めを繰り返し、やがて近くの階段に腰を下ろす。なんだか寂しげなその様子に放って置けなくなり、彼女の隣へ腰を下ろした。
「あのね、渋谷って私にとってすごく思い入れがあるの。だからなんだか……色々考えちゃって」
「思い入れ……」
その言葉でアイルとの出会いから今までを思い出す。雑司ヶ谷で出会って、渋谷で再開してコンビを組んで……色々あったな。ジーク達と挑んだのも渋谷だったし。武者と戦った時にアイルに泣かれたりもしたな。
出会った時のアイルは今と全然違ったよな。強引だし、ダンジョン甘く見てたし。本当に成長したな。
「今日は全然ダメだけど……私、変わった、でしょ?」
「ああ。頼れる相棒って感じするぜ」
「ありがとう。あの、ね……1つだけお願いしていい? そうしたら、いつも通りに戻れそうだから」
「なんだよ?」
「ヨロイさんの顔……見せて、くれない?」
「顔?」
「そう。ヨロイさんの顔……見たいなって。ユイさんのこと心配なのに、ここに来てから頭の中で何度も巡っちゃうの」
アイルは目をギュッと閉じると、涙目で俺を見た。その潤んだ瞳に紅潮した頬が、いつもの彼女と何か違う。彼女の言う「昨日」という言葉にあのことが思い浮かんでしまった。
──だって見たいじゃない、好きな人が喜ぶところ
ハンターシティで言っていたあれって……いや、歳離れすぎだし流石にありえないだろ。勘違いして変なこと言ったら目も当てられない。せっかく相棒として上手くいってるのにアイルに嫌われたら悲しいかも……俺。
悲しい?
俺も嫌われて悲しいとか思うんだな。
「いいぜ、アイルなら」
そう言うと、アイルが俺のヘルムに両手を当てた。普段なら、他人に顔を見られるなんて嫌悪感を持つはずなのに……なぜか今は思わない。アイルなら見られてもいいと思える。唯一、落胆されたらという不安だけが胸に残った。
「は、はずす、ね」
アイルがゆっくりとヘルムを外していく。伝わる新鮮な空気。目の前にいる少女は俺の顔を見て、目を大きく見開いた。
「あ……」
「がっかりしたか?」
「ううん、私の思ってた通り。ヨロイさんって感じ」
「なんだよそれ」
アイルの顔が徐々に綻んでいく。俺の中で温かい物が込み上げる。顔のせいでアイルに嫌われてなくて良かったという安心感、そして、彼女が笑ってくれる嬉しさが。
「はじめまして……って言った方がいいかな」
やがてアイルは恥ずかしそうに笑った。その姿に、彼女へ聞こうと思っていたことを思い出す。
「名前……」
「え?」
「俺も、アイルの本当の名前聞きたい」
アイルの顔が真っ赤になる。普通なら自己紹介の時に知るだろう名前。それを聞くだけでこんなに恥ずかしそうにしているのがなんだかおかしかった。アイルがモジモジと言いにくそうにするので俺の本名を伝える。すると彼女はまた嬉しそうな顔をした。
「私のね、本当の名前……桜田カナ……です」
まるで初めての自己紹介みたいだ。でも目の前にいるのはアイルで、それが頭を混乱させる。彼女が俺の手を取る。どちらの名前で呼べばいいか急に分からなくなってしまい、困っていると彼女はもう一度微笑んだ。
「アイルでいいよ。ヨロイさんにアイルって呼ばれるの好きだし……」
アイルが深く呼吸する。そして、俺の瞳をジッと見つめた。
「私はね、これからもずっとヨロイさんの相棒でいたいし、例えどんな風になっても相棒だって決めてるの。だから、もしね、もし……昨日私が言ったことを聞いてたとしても、ヨロイさんは何も気にしないで? 私が勝手に想っているだけだから」
アイル……。
「いつものようにヨロイさんといたいの。いつものように、ヨロイさんと冒険して……リレイラが迎えてくれて、それが私にとって最高に幸せなの、それを壊したくないよ」
アイルの真剣な表情……アイルがこう言う限り、俺がアイルの言ってくれた「それ」に、答えを出すのは違う気がする。俺はまだアイル自身と、ちゃんと向き合っていないと思うから。
「ワガママかな……?」
「そんなこと……ないだろ」
だけど今、アイルが伝えてくれたことには答えたい。探索者としての全てをかけて。
「じゃあ俺はこう答えるぜ」
面と向かって言うのが恥ずかしくて立ち上がる。彼女に背を向けて、それでも伝わるように声を張る。
「探索者「461さん」の相棒は生涯ただ1人! 「天王洲アイル」だけだ! 例えどんな状況になっても俺は天王洲アイルを裏切らない! アイルが望む限り、俺は相棒であり続ける!」
呼吸を置いて言葉を続ける。
「俺は、絶対にアイルの大切な物を壊したりしない。だからアイルは何も心配すんな。な?」
「……」
彼女の返事がない。流石にちょっとカッコ付けすぎたか?
横目でアイルを見る。するとアイルは……。
「な、何カッコ付けてんの……っ!?」
その大きな目からポロポロと涙を流していた。でも、嬉しそうな顔。それに釣られるように、俺も笑ってしまう。
……。
アイルと出会ってから、俺も初めてのことばかりだった。
彼女が誰かを想うから、俺も誰かを想うようになった。
彼女が誰かを助けたいと願うから、俺も助けたいと願うようになった。
……アイルには教えられてばかりだ。ダンジョンだけでは分からなかったことを、沢山教えて貰っている。年齢も経験も性別も……俺とは全然違うけど、俺はアイルのことを大事にしたいと思うし、尊敬してる。そんなことは恥ずかしくてとても言葉にできないが……。
「これからもよろしくね、ヨロイさん」
「ああ。頼むぜ、アイル」
そんなアイルと、俺も離れたくないなと思った。
◇◇◇
その後、俺達は前回の攻略の時には気付かなかった別ルートを見つけた。
非常口のような扉を開くと、スライム種の生息地に繋がっていた。分裂スライムやスキルイーターの棲家。ゾッとした顔のアイルを連れてその先を進み、目的の生まれたてのスキルイーターを発見、上手く追い込んでビンへと詰め、ジーク達と合流した。
……。
ビンに詰まったスキルイーターを手のひらに出す。逃げないように体の端をつまむと、小さなスライムを見たミナセが感心したように呟いた。
「こんな小さなスキルイーターがいるんだ……っ!」
「捕まえるの結構大変だったわね~ってそんなことよりミナセさん、支配者の指輪お願い」
アイルの言葉にミナセが支配者の指輪をはめる。そして、ミニスキルイーターに指輪をかざすと、スライムの頭上に赤い光が灯った。
「ぷきゅっ♡」
ミニスキルイーターがミナセの手にのり、スリスリと体をなすりつけた。彼女がビンを出すとスライムは自らビンの中へと入っていった。
「へぇ~! 懐くと結構可愛いわね!」
「うぅ……私は前取り込まれかけたことあるからちょっと苦手かなぁ……」
目を輝かせるアイルに苦笑するミナセ。まずは第一条件はクリアだな。
「後は鎧の言った通り、ユイにこのスキルイーターを引き合わせるだけだ」
ジークが安堵したような顔をする。2人ともかなり気を張ってたからな……早くユイの元へ連れて行くか。
──渋谷駅地下。
俺達はスキルイーターを捕まえる為にもう一度渋谷を訪れた。
池袋にもスキルイーターはいたが、狩られ尽くしたモンスターが復活するにはまだ時間が必要だ。反面、攻略して1ヶ月以上経った渋谷はボスは復活しておらず、雑魚だけが復活している状態……スキルイーターを捕まえるにはうってつけの場所になっているはず。
俺、アイル、ジーク、ミナセは少しでも早くスキルイーターを捕まえる為、二手に別れて探索していた。発見した場合すぐに探索者用スマホで連絡すると決めて。
ボスのいないダンジョンは流石に楽勝だった。戦闘で苦戦することはない。
ないのだが……。
「やった! 捕まえたわよ461さん!」
氷結魔法で凍り付いたスライムを指してアイルが飛び跳ねる。走って彼女のもとまで行くと、それはヤツじゃなかった。
「ソイツ、スキルイーターじゃなくて分裂スライムだぜ?」
「え?」
アイルが油断した隙に分裂スライムの氷が溶け、急速に膨れ上がる。そして、人間より大きくなったスライムは2つに分裂してしまった。
「わっ!? 2匹になったわ!?」
面食らうアイルを引き寄せて俺の後ろに隠す。聖剣アスカルオを引き抜き1体を一閃、もう1体が分裂する前に蹴り飛ばす。
「プギッ!?」
「オラァ!!」
壁面でバウンドしたスライムを縦に叩っ斬った。割れるスライムの核。スライムは形状を維持できずに溶けていった。
「プギュぅぅぅ……」
ジュウジュウという音と共に消滅する分裂スライム。アイルは溶けて水たまりになったスライムを杖の先端でつつく。
「レベルポイントの光が出たからもう大丈夫よね?」
確認を終えて先に進もうとすると、アイルが俺の腕を掴んだ。
「ごめんね。その、失敗しちゃって……」
アイルのツインテールがシュンと項垂れる。アイルは喜んだり怒ったりするとすぐ飛び跳ねる。だから、ツインテールがこんな風に落ち着いている時は気に病んでいる時だ。
「気にすんな。スキルイーターが死んでこのダンジョンの生態系は戻ったからな。アイルにとっては初見みたいなもんだし」
「うん。ありがとね、ヨロイさん」
アイルはこのダンジョンに挑んでからずっとこんな様子だった。心ここにあらず。復活したばかりの雑魚ばかりだからなんとかなっているが、この調子だと流石に危険だな。アイルにあまり無茶はさせられないか。
アイルが懐からビンを取り出す。シィーリアから預かった異世界の品。割れにくく、スライム種を入れても死んだりしないアイテムだそうだ。こんな物があるってことは……異世界ではモンスターを飼うヤツもいるってことか?
シィーリアに聞いても「どこの世界にも変態がおるのじゃ……」と言ってそれ以上は教えてくれない。なんなんだよ、一体。
「この小さいビンに入るスキルイーターなんているのかな?」
「スライム種は個体数が多いからな。生まれたてのヤツもいると思うぜ?」
俺達が探しているのは生まれたばかりのスキルイーターだ。残り1回しか使えない支配者の指輪。その効果を使って操るんだ。寿命の長い個体がいい。操ってから年老いた個体だったりしたら目も当たられないからな。
……
それから数時間かけて地下を探したが、スキルイーターは見つからなかった。後は地上階を残すだけ。隣を見ると流石にアイルの顔にも疲労の色が浮かんでいた。
「ちょっと休憩するか」
敵がいないか確認し、ジークに連絡してヒカリエ方面を中心に見て貰うよう頼んだ。今のアイルだと戦闘メインになるヒカリエは危険だと判断して。
今のうちにアイテムも確認しておくか。この階に来てから遭遇する幻影騎士が厄介だ。回復薬はいつでも取り出せるよう腰のバッグに移しておこう。
「アイル。お前も回復薬はすぐ出せるようにしておけよ」
……。
ん?
返事がない?
不審に思ってアイルを見ると、アイルはボーッと俺の顔を見ていた。しかし、俺の視線に気付くと慌てて俯いてしまう。
「どうした?」
「今日の私、全然ダメだよね……」
「昨日散々駆けずり回ったんだ。疲れが出たのかもな。キツかったら先に帰っていいぞ。入り口まで送って」
言いかけた所でアイルが無言で首を振る。どうしたんだアイルのヤツ? 渋谷に来てからなんか変だ。
アイルが何かを言いかけては止めを繰り返し、やがて近くの階段に腰を下ろす。なんだか寂しげなその様子に放って置けなくなり、彼女の隣へ腰を下ろした。
「あのね、渋谷って私にとってすごく思い入れがあるの。だからなんだか……色々考えちゃって」
「思い入れ……」
その言葉でアイルとの出会いから今までを思い出す。雑司ヶ谷で出会って、渋谷で再開してコンビを組んで……色々あったな。ジーク達と挑んだのも渋谷だったし。武者と戦った時にアイルに泣かれたりもしたな。
出会った時のアイルは今と全然違ったよな。強引だし、ダンジョン甘く見てたし。本当に成長したな。
「今日は全然ダメだけど……私、変わった、でしょ?」
「ああ。頼れる相棒って感じするぜ」
「ありがとう。あの、ね……1つだけお願いしていい? そうしたら、いつも通りに戻れそうだから」
「なんだよ?」
「ヨロイさんの顔……見せて、くれない?」
「顔?」
「そう。ヨロイさんの顔……見たいなって。ユイさんのこと心配なのに、ここに来てから頭の中で何度も巡っちゃうの」
アイルは目をギュッと閉じると、涙目で俺を見た。その潤んだ瞳に紅潮した頬が、いつもの彼女と何か違う。彼女の言う「昨日」という言葉にあのことが思い浮かんでしまった。
──だって見たいじゃない、好きな人が喜ぶところ
ハンターシティで言っていたあれって……いや、歳離れすぎだし流石にありえないだろ。勘違いして変なこと言ったら目も当てられない。せっかく相棒として上手くいってるのにアイルに嫌われたら悲しいかも……俺。
悲しい?
俺も嫌われて悲しいとか思うんだな。
「いいぜ、アイルなら」
そう言うと、アイルが俺のヘルムに両手を当てた。普段なら、他人に顔を見られるなんて嫌悪感を持つはずなのに……なぜか今は思わない。アイルなら見られてもいいと思える。唯一、落胆されたらという不安だけが胸に残った。
「は、はずす、ね」
アイルがゆっくりとヘルムを外していく。伝わる新鮮な空気。目の前にいる少女は俺の顔を見て、目を大きく見開いた。
「あ……」
「がっかりしたか?」
「ううん、私の思ってた通り。ヨロイさんって感じ」
「なんだよそれ」
アイルの顔が徐々に綻んでいく。俺の中で温かい物が込み上げる。顔のせいでアイルに嫌われてなくて良かったという安心感、そして、彼女が笑ってくれる嬉しさが。
「はじめまして……って言った方がいいかな」
やがてアイルは恥ずかしそうに笑った。その姿に、彼女へ聞こうと思っていたことを思い出す。
「名前……」
「え?」
「俺も、アイルの本当の名前聞きたい」
アイルの顔が真っ赤になる。普通なら自己紹介の時に知るだろう名前。それを聞くだけでこんなに恥ずかしそうにしているのがなんだかおかしかった。アイルがモジモジと言いにくそうにするので俺の本名を伝える。すると彼女はまた嬉しそうな顔をした。
「私のね、本当の名前……桜田カナ……です」
まるで初めての自己紹介みたいだ。でも目の前にいるのはアイルで、それが頭を混乱させる。彼女が俺の手を取る。どちらの名前で呼べばいいか急に分からなくなってしまい、困っていると彼女はもう一度微笑んだ。
「アイルでいいよ。ヨロイさんにアイルって呼ばれるの好きだし……」
アイルが深く呼吸する。そして、俺の瞳をジッと見つめた。
「私はね、これからもずっとヨロイさんの相棒でいたいし、例えどんな風になっても相棒だって決めてるの。だから、もしね、もし……昨日私が言ったことを聞いてたとしても、ヨロイさんは何も気にしないで? 私が勝手に想っているだけだから」
アイル……。
「いつものようにヨロイさんといたいの。いつものように、ヨロイさんと冒険して……リレイラが迎えてくれて、それが私にとって最高に幸せなの、それを壊したくないよ」
アイルの真剣な表情……アイルがこう言う限り、俺がアイルの言ってくれた「それ」に、答えを出すのは違う気がする。俺はまだアイル自身と、ちゃんと向き合っていないと思うから。
「ワガママかな……?」
「そんなこと……ないだろ」
だけど今、アイルが伝えてくれたことには答えたい。探索者としての全てをかけて。
「じゃあ俺はこう答えるぜ」
面と向かって言うのが恥ずかしくて立ち上がる。彼女に背を向けて、それでも伝わるように声を張る。
「探索者「461さん」の相棒は生涯ただ1人! 「天王洲アイル」だけだ! 例えどんな状況になっても俺は天王洲アイルを裏切らない! アイルが望む限り、俺は相棒であり続ける!」
呼吸を置いて言葉を続ける。
「俺は、絶対にアイルの大切な物を壊したりしない。だからアイルは何も心配すんな。な?」
「……」
彼女の返事がない。流石にちょっとカッコ付けすぎたか?
横目でアイルを見る。するとアイルは……。
「な、何カッコ付けてんの……っ!?」
その大きな目からポロポロと涙を流していた。でも、嬉しそうな顔。それに釣られるように、俺も笑ってしまう。
……。
アイルと出会ってから、俺も初めてのことばかりだった。
彼女が誰かを想うから、俺も誰かを想うようになった。
彼女が誰かを助けたいと願うから、俺も助けたいと願うようになった。
……アイルには教えられてばかりだ。ダンジョンだけでは分からなかったことを、沢山教えて貰っている。年齢も経験も性別も……俺とは全然違うけど、俺はアイルのことを大事にしたいと思うし、尊敬してる。そんなことは恥ずかしくてとても言葉にできないが……。
「これからもよろしくね、ヨロイさん」
「ああ。頼むぜ、アイル」
そんなアイルと、俺も離れたくないなと思った。
◇◇◇
その後、俺達は前回の攻略の時には気付かなかった別ルートを見つけた。
非常口のような扉を開くと、スライム種の生息地に繋がっていた。分裂スライムやスキルイーターの棲家。ゾッとした顔のアイルを連れてその先を進み、目的の生まれたてのスキルイーターを発見、上手く追い込んでビンへと詰め、ジーク達と合流した。
……。
ビンに詰まったスキルイーターを手のひらに出す。逃げないように体の端をつまむと、小さなスライムを見たミナセが感心したように呟いた。
「こんな小さなスキルイーターがいるんだ……っ!」
「捕まえるの結構大変だったわね~ってそんなことよりミナセさん、支配者の指輪お願い」
アイルの言葉にミナセが支配者の指輪をはめる。そして、ミニスキルイーターに指輪をかざすと、スライムの頭上に赤い光が灯った。
「ぷきゅっ♡」
ミニスキルイーターがミナセの手にのり、スリスリと体をなすりつけた。彼女がビンを出すとスライムは自らビンの中へと入っていった。
「へぇ~! 懐くと結構可愛いわね!」
「うぅ……私は前取り込まれかけたことあるからちょっと苦手かなぁ……」
目を輝かせるアイルに苦笑するミナセ。まずは第一条件はクリアだな。
「後は鎧の言った通り、ユイにこのスキルイーターを引き合わせるだけだ」
ジークが安堵したような顔をする。2人ともかなり気を張ってたからな……早くユイの元へ連れて行くか。
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