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第125話 聖剣攻略のきっかけ
しおりを挟む翌日、俺達は上野不忍池でアスカルオの訓練をすることにした。
家の近くにダンジョン周辺地区があるのはやっぱり便利だ。スキルや武器、魔法の特訓に持って来い。ここにあるダンジョン「辯天堂」にもそのうち行きたい。小型ダンジョンだけどボス強そうだし。
とそんなことを考えていると、アイルが魔力を溜め終えたようでホーラの杖を真っ直ぐ向けた。月のようにうねった杖の先端にバチバチと電撃のエネルギーが迸る。
「準備できたわよヨロイさん」
「よし。じゃあ頼むぜ!」
聖剣アスカルオを引き抜いてアイルへと向き直る。
俺がアスカルオを鑑定した時、頭の中に電撃を操る3つ首竜「イァク・ザァド」の映像が流れた。その中で竜の放った電撃を飛び上がった戦士がアスカルオで受け止め、竜へと弾き返していた。
なら、アスカルオの能力は魔法を刀身に留めておく物のはずだ。
「ほ、本当に大丈夫よね?」
「大丈夫だって。何事も試してみないと分からないだろ?」
「分かった……やってみる」
アイルがキッと真剣な目付きになり、魔法名を告げる。
「電撃魔法!!」
アスカルオを構える。電撃に合わせるように刃を放つ。電撃と刃が接触した次の瞬間、アスカルオが電撃を吸い取っていく。
よし! やっぱりだ! 上手くいっ──。
「痛っつ!?」
突然、剣を握っていた俺の手を伝って電撃が全身に流れ込む。全身に走る痛みに思わず剣を手離してしまう。アスカルオはキンと高い音を響かせて地面に転がった。
クソ、失敗か。あの映像通りに再現しようと思ったのに……何がダメだったんだ?
「だ、大丈夫!?」
心配そうな声を上げるアイル。駆け寄ろうとするのでそれを手で制した。
「問題無い、今度は火炎魔法を頼む」
だが、手応えはあったんだ。まずは電撃はおいて他の可能性も模索するべきだ。他の属性でもできるなら、電撃へ応用してやればいい。
「分かったわ。本気で行くからね」
「ああ。来い!」
……。
その後、火炎、氷結、もう一度電撃と何度も魔法を放って貰ってはアスカルオで受け止めようとした。しかし……ダメだった。アイルの魔力を回復しつつ、80回ほど条件を変えて試してみたが、全て失敗。しまいにはアイルが涙目になってしまったので今日のところは切り上げることにした。
「なんで上手くいかないのかな? 鑑定の映像だと確かに剣で魔法を操ってたのよね?」
「操るというか、モモチーの魔法剣みたいなことをやってたな」
その上、魔法を放ってもいた。言うなればリフレクションと魔法剣を混ぜたような能力……使いこなすことができれば相当強力な武器になりそうだ。だが、糸口がない。確かにそれらしい現象は起きるのに。
「ま、悩んでいても仕方ないか。次はアイルのナイフの練習するか」
「大丈夫? もっと休んでても」
「いいさ。ほら、ナイフ構えろよ。まずは基本動作からいくぞ」
「うん」
その後は半日かけてアイルにナイフの使い方を教えて過ごした。
もっと、方法を考えないとな。
◇◇◇
──数日後。
あの後もずっと訓練は続けている。後一歩のような気がするのに、どうしても上手くいかない。そうしているうちに時間だけが過ぎていく。次のダンジョンにも早く挑みたいのに、妙な焦りが付き纏っていた。
「はっ!!」
今週はアイルが中間テストらしく、訓練するのは難しい。なのでずっとアスカルオの素振りをして過ごしている。今までのショートソードより10センチほど長い刀身は感覚が違うからだ。
「ふっ!」
動作を確認しながらアスカルオを振るっていく。上段、薙ぎ払い、下段……加えて抜刀や納刀も。
薙ぎ払いや叩き付けなんて単純な動きは問題ないが、式島と戦った時のような繊細な動きを求められると感覚のズレが命取りになるだろう。
渋谷にキル太を捕まえに行った時はボスがいないと分かっていたから使用したが……今度ジークに相手役頼むか。
「はぁ……はぁ……」
スマホを見るともうすぐ12時……朝から剣撃の型を振り返りながら3000回以上素振りをしていたから……流石に疲れて来たな。
日陰になったベンチに座り、スポーツ飲料を飲む。夏用に鎧へ符呪した「氷冷」魔法のおかげで熱中症は防げているが、動いた時の汗までは抑えられないよな。ヘルムの口元……マスク部分の装甲を外してタオルで顔を拭く。
「やっぱりここにいた」
聞き慣れた声に振り返るとリレイラさんが立っていた。
「あれ? 今日仕事じゃなかったでしたっけ?」
「あ、その……」
尋ねてみると、急にリレイラさんが言いにくそうに俯いてしまう。その恥ずかしそうな反応が可愛い。俺のことを気にかけてくれたんだろうな。最近なんとなくだけど、リレイラさんの考えてることが分かるようになって来た。
「ほ、ほら……アスカルオが上手く使えないって言っていただろう? だから、管理局の書庫でその剣にまつわる本を探したんだ。それで、外回りの間に……」
持って来てくれたってことか。
「ありがとうございます」
リレイラさんが俺の隣に座ってゴソゴソとカバンの中を漁る。彼女の長い髪がフワリと揺れて、花のような香りがする。周囲に人がいないのを確認してヘルムを外す。外した瞬間、涼しい風が頬を伝って彼女の香りが一層強くなった気がした。
「この本だ。私達の世界の本だから読むのは手伝うよ」
見せてくれたのは分厚い本。立派な皮で作られた表紙。いかにもファンタジーのアイテムと言った見た目の物だな。
リレイラさんがページをめくると、ぎっしりと並んだ異世界文字が目に入る。
「手書きなんですね」
「印刷技術はそこまで進歩していないんだ。私達の世界にはその方が都合がいいから」
「都合?」
「君達の世界と違って一部の特権階級だけが知識を専有している。私達の世界は国が3つしかないから……それぞれが広大な領地を統治するために知識は広く開放しない方がいいのだそうだ」
「へぇ……俺達の常識だと考えられない世界ですね。でも、手書きの本かぁ。ファンタジー感あっていいな」
そう言うと、リレイラさんが嬉しそうに俺の顔を覗き込んだ。
「ヨロイ君は興味あるのか? 私達の世界のこと?」
「難しいことはわからないけど、リレイラさんのことだったら知りたいかも。どんな所で育ったとか」
俺ってリレイラさんのこと何も知らないもんな。子供の頃とかどんな風だったのとか。今のしっかりしたリレイラさんなら、幼い時から英才教育とか受けて来たんだろうか?
「し、知りたい……? 私のことを?」
リレイラさんが頬を染める。そういうつもりじゃなかったんだが……。
「知りたい、ですよ?」
リレイラさんが恥ずかしそうに目を伏せる。その艶やかな表情に不意に中野のことを思い出してしまう。あの時のクラクラした感じにリレイラさんの香り。アレが鮮明に蘇ってしまう。
「なら今度、ゆっくり話せる時に言うよ」
リレイラさんが笑った瞬間、胸が跳ねるような感覚がする。咄嗟に顔を背けて横目で彼女を見た。変に思われたかと心配したが、当の本人は俺の反応には気付かなかったようで、本のページをパラパラとめくっている。
良かった……あの時の雰囲気みたいになったらヤバかったかも。
「? どうしたんだヨロイ君?」
「い、いえ。聖剣の話を……お願いします」
「ふふっ。せっかちだな君は」
リレイラさんがあるページで手を止めた。そこに描かれた3つ首竜の挿し絵。それはアスカルオを鑑定した時に見た姿そのものだった。リレイラさんが文字をなぞっていく。
「前知識が無いと分かりにくいだろうから、補足も入れよう」
彼女の話してくれた内容は古い伝承の一節だった。
──世界歴九百十六年。三つ首竜イァク・ザァド現る。その首黄金に輝き、ウェヌス国を三日で滅ぼす。その竜、千の魔法を操りし者。その翼、世界を覆い尽くし、人々、恐れ慄く。三つ首、人々に苦痛・苦悩・死を与えん。
「数千年前、私達の世界は1つの国「ウェヌス」だった。それが3つ首竜イァク・ザァドにより一度破滅したんだ」
3日間で世界を滅ぼした? 翼で世界を覆い尽くす? ドラゴンというより怪獣だなそれは。
「話だけ聞いてるととんでもないヤツな気がするんですけど」
「伝説だからな。きっと脚色されているのだろう」
リレイラさんがページを進める。そこには竜と戦う戦士の絵が描いてあった。俺みたいな鎧にフルヘルム。その戦士が聖剣を構えている絵が。
「ある時、竜へ立ち向かう者が現れた。生き残った人々は勝てるはずがないと彼を止めた。しかし、彼はその忠告を聞かず、1000の魔法を操る竜へ対抗するために「魔喰い」の符呪を剣に宿し、竜を討ち取ったという」
「魔喰い? それって……」
俺のことをチラリと見たリレイラさん。彼女は魔喰いの説明ページを開いてくれた。
「ふふ。ヨロイ君に昔話したことがあったな。魔喰いは原初の符呪の1つだ。属性ではなく、魔力そのものを喰らい、支配下に置く。ただ符呪するにはやたら手間を食うらしく、能力を簡素化してその問題を解決したのがリフレクションや魔法剣だ」
……符呪するのは大変だが、その分リフレクションや魔法剣よりも強力ってことか。
「そんな貴重な物、なんで賞品にしたんですか?」
「強力だが、これによって人と魔族のパワーバランスが崩れるほどではないと判断された。それよりも積極的に攻略する探索者に渡した方が役立つだろうと」
ふぅん……管理局的には探索者を強力にしてダンジョンに挑ませた方が良いと考えたってことか。魔族の目的はダンジョン攻略のデータを取ることだから。
「それが、1番探索に熱心なヨロイ君の手に渡った……私は嬉しいよ」
顔を綻ばせるリレイラさん。そんな顔で見られたら、ますます気合い入れないとな。
だけど魔喰いのスキルか……これを使うにはどうしたらいいんだ?
支配するのは魔力。アイルの電撃を受け止めた時、あの一瞬だけは確かに刀身が魔力を受け止めた感覚があった。他の属性も全て同じ。だけどそう思った矢先に全身を伝って流れてしまったんだ。
魔力を支配する能力。
魔力の流れを止めて、支配。
流れ出る。
流れ……。
待てよ。
俺が照明魔法を使う時はどうしてる? いつもは体の中に魔力の流れみたいな物を作る。それを右手に集中させて魔法名を告げると照明魔法の光の球になる。アイルの電撃や火炎も同じ構造だろう。
流れ……流れか。そういえば使い終わった後の魔力はどこへ行くんだ?
「照明魔法」
照明魔法を唱える。右手に眩く光る球体が現れる。それを確認してから力を抜くとスッと光の球が消えてしまう。
消えた。この消える瞬間はどうなってる? 考えろ、感覚を研ぎ澄ませ。
もう一度照明魔法を発動する。今度は消える直前まで全神経を集中させる。すると、光の球が消える瞬間、魔力が逆流しているような感覚を捉えた。
「あ……魔法が消える時、行き場を失った魔力は放出されるんだ!」
どこへ? 使った後の魔力が俺の体に流れて、そこで止まるなら魔力回復なんて不要なはずだ。だからどこかに流れて……。体を伝うならそこは……。
ふと足元に目をやると、真っ直ぐ地面へと伸びた脚が見えた。
再度照明魔法を発動する。今度は足元に感覚を研ぎ澄ませて。照明魔法が消えると、使い終わった魔力は俺の体を伝って大地へと流れ込んでいた。
「これだ!! そうか、魔法は地面を伝って魔力が放出されることで消滅するんだ!」
なら、アスカルオを構えたまま、魔力が流れ出るのを強制的に止めてやれば……。
いけるかもしれない。まずはイメージトレーニングだ。今日は魔力が尽きるまで照明魔法でトレーニングしよう!
手がかりが掴めたと喜んでいると、ふとリレイラさんが目に入った。頬杖を付いた彼女は、俺のことをジッと見つめていた。
「あ……すみません。急に1人の世界に入っちゃって」
「いいよ。ヨロイ君のそういうところ……可愛いと思うな、私は」
「え?」
「ずっと見ていたくなるよ」
リレイラさんは頬を染めて、そう言った。
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