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第148話 出発の朝
しおりを挟むそれぞれの3週間が過ぎ、新宿迷宮へ挑む日がやって来た。
~ナーゴ~
──ナーゴの自宅。
仏壇に手を合わせると、自分の手が震えているのに気が付いた。怖いんだな、私。
だけど……新宿迷宮に行けば、新しい食材が見つかるかもしれない。
「ヨロさん達もいるから大丈夫。おじいちゃん、おばあちゃん、私のこと見守ってて」
待っててね。2人が好きだったメニュー、私が絶対再現してみせるから。2人が生きていた証を……取り戻してみせるから。
ダンジョン出現によって日本の生態系は大きく変わってしまった。特に日本食。それをなんとしても復活させないと。
髪留めで髪を後ろで止める。インナースーツを着てリュックの中にあるアイテムや調理器具、野営に使う道具をチェック。忘れ物が無いかを確認すると、鞄を玄関に置いた。
和室に置いてあったナーゴスーツを装備していく。胴体、腕、そして顔。全てを装備して接続部分を止め金で固定すると、全身に施された符呪が発動して、着ぐるみ内部が淡く光る。
大きなリュックを背負うと、重量負荷軽減の符呪が発動、一気に肩への負荷が無くなった。
「よし、行って来ますにゃ!」
ナーゴは、新天地に向けて踏み出したにゃ!
◇◇◇
~461さん~
──冒険家B。
店に着くと既にリレイラさんが席に座っていた。厨房を覗くとナーゴはおらず、マスターが1人で料理を作っている。他の客がまだいない店を進み、リレイラさんのいる席へ。
リレイラさんと2人で会うのは浅草攻略の時以来だ。緊張しているのを悟られないように、俺は彼女の向かいに座る。
「すまないな。集合までまだ時間があるのに」
「謝らないで下さい。俺も会いたかったんで」
リレイラさんが恥ずかしそうに俯く。正直、俺は嬉しかった。先日の試験クリア後は、リレイラさんがアイルのことを心配してくれて送っていけなかった。そのことがずっと心残りだったから。新宿迷宮に行く前に、どうしても彼女とは会っておきたかった。
「そ、そうか……」
運ばれて来たコーヒーに、リレイラさんが口を付ける。コーヒーとモーニングセットを運んできたマスターは、俺とリレイラさんの顔を交互に見て「青春だねぇ」と一言呟いて厨房に戻って行った。リレイラさんの顔が真っ赤になってしまう。多分俺も、同じような顔をしてるかも。
「コホン、それで……ヨロイ君達の仕上がりはどうなんだ?」
「やれることは全部やりました。戦闘に野営、アイル達のメンタルも大丈夫だと思います」
「ふふっ。君はもう立派なリーダーだな」
「いや、そんなこと……俺は……」
「謙遜しなくていいよ。君は立派にやっている」
「……ありがとうございます。リレイラさんに言って貰えると、嬉しいです」
パーティを組んでから……いや、アイルと組んでから今までのソロとは違う難しさを感じていた。
仲間の力にどこまで頼るか、仲間を生き残らせる為に何をすればいいか。それは、ソロでやっていた時よりもずっと難しい。仲間と自分は違うから。どこまでできるのか、全力を出せる状態なのか、全て把握しておく必要がある。
リレイラさんは、俺の手をそっと取った。
「新宿迷宮に行く前の君にどうしてもそのことを伝えたかった。君は立派だ。例え迷宮内でどんな選択をすることになっても、後悔なんてする必要はないよ?」
「はい」
「それともう一つ」
「? なんですか?」
リレイラさんの表情が先程の真剣な表情から変わる。彼女は頬を染め、少し潤んだ瞳で俺を見た。
「絶対帰って来て。私は、君に伝えたいことがあるから」
その言葉に、彼女が何を言いたいのか分かった。そして、なぜそれを帰って来た後にと言ったのかも。
……。
優しいな、リレイラさんは。
「絶対帰って来ます。俺もリレイラさんにまた会いたいから」
「うん……待ってる……ずっと」
なんだか……言葉にしていないのに、彼女の気持ちが分かることが嬉しい。
その後、リレイラさんと他愛無い会話を交わしながら食事を取って、みんなとの待ち合わせ場所、上野駅へと向かった。
◇◇◇
~天王洲アイル~
──アイルの部屋。
部屋の戸締りを確認する。何日家を空けるかわからないからゴミ出しもしっかりした。家の方は問題無いかな。
鏡で装備を確認。杖にローブに腰のナイフ。鞄にはアイテムもしっかり入ってる。
「よし、大丈夫」
後はみんなと合流するだけだ。リレイラとヨロイさんはもう会ってるだろうな。
リレイラから出発前にヨロイさんと2人きりにさせて欲しいと頼まれた。もちろん了承した。言わなくても良かったのに。リレイラはずっと仕事も忙しかったし、ダンジョンに一緒にいけないんだから。
がんばってね、リレイラ。
出発しようとして、ふとお父さんの写真が目に入る。
お父さんと小さい頃の私が写った写真。そういえば、お父さんが話をしてくれたことがあったっけ。新宿迷宮は未知のダンジョン。挑戦したらきっと想像を絶する冒険が待ち受けているって、楽しそうに話してくれたな。
「お父さん、見ててね。私、絶対クリアするから。仲間達と一緒に」
新宿迷宮をクリアしたら、大きなニュースになるはずだ。そうすれば、きっとお父さんも気付いてくれるはず。
「よし、行こう」
私は勢いよく扉を開けて、家を出た。
◇◇◇
~シィーリア~
──シィーリアの屋敷。
「ふわあ~」
「シィーリア眠そうだねぇ」
「当たり前じゃ。妾のベッドに入ってきおって……オヌシら姉妹に挟まれていたせいで寝不足じゃ」
昨日、ミナセとジークが妾の屋敷に泊まりにきた。しばらくユイと2人じゃったから静かじゃったのに。それも、寝る時にミナセとユイに挟まれてずっと話かけられたせいで全然寝れんかったのじゃ。
「シィーリアが寂しいかと思って」
「寂しくなんかないのじゃ!」
「え~? どう思うユイ?」
「明らかに最近元気無かったからなぁ……寂しかったんじゃない?」
「寂しくなんかないのじゃ!!」
妾が否定するとミナセとユイが顔を見合わせてクスクスと笑う。キル太まで混ざりおって。なんじゃ妾のことを子供扱いしおって。
顔を背けると、部屋の前にジークが立っていた。
「ミナセ。準備は終わった。そろそろ行くぞ」
……何じゃジークのヤツ。ミナセほどじゃないがもう少し妾の事を気にしても……ちっ。なんか甘ったれた事を考えてしまったのじゃ。せめてこの子らを気持ち良く送り出してやらんといかんのに。
ミナセとジークを屋敷の入り口まで送る。転移魔法のかけられた扉の前まで来ると、ジークが妾の目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「どうしたジーク?」
「う~ん……何と言っていいか分からないが……」
ジークが恥ずかしそうに頭を掻く。いつもの鋭い顔ではなく、優しげな顔になる。そして、恐る恐るといった様子で妾を抱きしめた。
「な、何をするのじゃ!?」
「す、すまん」
「カズ君にね、うまく言えないならこうしてあげてって言ったんだ~」
ミナセはいつもの調子じゃが、ジークと同じような顔をしていた。優しげな顔。2人の顔を見ていると、胸の奥が引き裂かれそうな感覚がした。今の顔を見られたくなくて、ジークの胸に顔を埋めた。
「余計なことをしおって」
「シィーリアには感謝している。弱かった俺を鍛え直してくれた」
「ユイのことも助けてくれたよね」
「ジーク……ミナセ……」
「すまないな。出発する前に、伝えておきたかった」
ジークは妾を強く抱きしめると、そっと手を離した。
「今生の別れみたいなことを言いおって……2人とも無事に帰って来なければ怒るぞ……」
「もちろんだ」
ジークが微笑みを浮かべる。ミナセは、ユイとキル太をみて真剣な表情になった。
「ユイ、キル太。シィーリアのこと……頼んだよ」
「任せとけ。マイも、絶対帰って来いよ。アタシじゃマイの代わりはできないからな」
「ブギィ!」
ジークとミナセが扉に手をかける。本当は止めたい。だが、妾の立場ではそのようなことは言えぬ。だから…だから……こう言おう。2人が安心して出発できるように。
「いってらっしゃい」
「ああ! 言ってくる!」
「行ってくるよシィーリア!」
元気良く扉を出ていく2人。扉が閉じる。その瞬間。眼から涙がこぼれ落ちた。隣にいたユイが妾の背中を摩ってくれる。
「大丈夫だよシィーリア。あの2人なら大丈夫」
「そうじゃの……ありがとう。ユイ」
ジーク、ミナセ。2人とも……みんな、どうか無事で──。
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