461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

文字の大きさ
159 / 302

第153話 悪夢の悪夢。

しおりを挟む
 その悪夢の重装騎士ナイトメア・アーマーは無敗だった。

 このダンジョンがまだ異世界にあった頃、数多の冒険者・・・達を彼の領域へと誘い込み、脱出できぬ絶望を体感させ、疲弊した所を捕食していたのだ。

 何度も冒険者と対峙する中で、彼は1つのことに気付いた。

 擬態できる「もの」は、生物や物体だけではないことを。

 それは壁、それは床、それは天井。この迷宮という風景「あらゆるもの」への擬態が可能なのである。移動しながら擬態を使用し、捕食のタイミングを待つ。

 この場所を支配する悪夢の重装騎士ナイトメア・アーマーは、己の擬態能力と隠密魔法を組み合わせることで、気配を消し、標的を観察し、弱った瞬間を襲う戦法を編み出したのだ。

 加えて、他の悪夢の重装騎士ナイトメア・アーマーと戦った者はもろい。悪夢の重装騎士ナイトメア・アーマーが生物や物体に擬態していると思い込んでいるからだ。最初はモンスターを疑い、次にループの繋ぎ目である門を疑い、中には仲間を疑う者までいた。

 そのような冒険者達は自ら神経をすり減らして弱っていくのだ。そこを狙うのは実に簡単な狩りだった。

 彼は人間の味を好んでいた。特に女の冒険者は美味かった。蹂躙する快感も、泣き叫ぶ声も、柔らかい肉も、彼にとって至高の味であった。

 彼はより多くの冒険者を仕留める為、冒険者達の持ち物の中から人間達の文化を学んだ。


 魔族と神族と人族。3種の種族に分かれ「国」という群れを成していること。

 お互いの領域を侵食しない魔族と神族に比べ、人族は強欲で、定期的に領域侵犯や戦争をしかけること。

 亜人種達も人族と暮らしていたが、彼らの強欲さについていけず、各国に散らばり独自のコミュニティを築いたこと。

 魔族達は、自国を守る為に各地へダンジョンを出現させたこと。

 人間達はダンジョンから溢れ出るモンスターに対処するためにダンジョンへ挑むことを余儀なくされたこと。

 ダンジョンを攻略して回る冒険者・・・という職業の者がいる事を。


 このように、彼は冒険者のことを学び、より捕食しやすいように工夫を凝らした。

 最も冒険者が疲労を蓄積するのは、希望を見せてから絶望を味合わせること。彼はループの繋ぎ目をこの広い迷路の出口に設置し、時に人の屍を見せつけ疲弊させた。彼の思惑はことごとく成功し、何百組もの冒険者パーティを捕食することができた。

 しかしある日を境に、人間はパタリとダンジョンを訪れなくなった。


 12年。


 彼は12年という歳月を人を捕食できずに過ごした。


 それはこのダンジョンが新宿へと転移し、長らく魔族によって封印されていたからなのだが、それは転移した彼自身は知る由もない事象であった。

 長い年月は彼を飢えさせた。モンスター達の成長を待ち、数が増えた頃に捕食し、また増えるのを待つ。

 生きる事に問題は無かったが、人間の味を知ってしまった彼にとって、それは屈辱以外の何者でもない日々であった。


 ……。


 そんなある日、彼の領域に踏み込んだ人間がいた。彼はすぐに侵入に気付き、この迷宮の風景へと擬態して侵入者達を観察した。


 男2人、女2人、獣のような二足歩行の生物1匹。合計5人。


 見たことの無い装備をしている者ばかりであったが、1人だけフルヘルムにフリューテッドアーマーの戦士がいる。それを見て彼は冒険者が来たのだと確信した。


 彼は喜んだ。再び人間がこの領域へと侵入したことを。彼は風景に溶け込んだまま、冒険者達の様子を観察することにした。

 不思議なことに、彼らの言葉は自分の知らない物であった。彼は人間の言葉を理解していた。何人もの冒険者を仕留めてきた彼にとって言葉の意味を理解するのも自然な事であったのだろう。しかし、目の前の人間達の言葉は一切分からない。「人族の国の中でも言葉が分かれているのだろうか?」と彼は思った。

 だが、そんなことは今はどうでもいい。人間なのは間違いない。ヤツらは冒険者。ならば今まで通り、この迷路を突破したと見せかければいい。彼はその冒険者達が疲弊するまで観察した。

 数時間かけて彼らは迷路を進み、ついに出口へと辿り着いた。大きな扉を開けた先に広がる迷路。女が何かを喚き散らす。ヤツらが悪夢領域ループ空間に閉じ込められたことに気付いたようだが、もう遅い。ここからはゆっくり疲弊する様子を拝ませてもらおう。彼はそう思った。

 その後、彼らは再び数時間かけて迷路を進んだ。そして疲労が溜まったのか、2度目の門を開けた時に休憩に入った。

 食事は取らず、疲れ果てたような顔でヒソヒソと何かを話し合う冒険者達。

 どうする? もう少し様子を窺うか?

 悪夢の重装騎士ナイトメア・アーマーの中で迷いが生まれた時、1人の女が立ち上がった。先程喚いていた女だ。


「もうこんなの嫌!!! 私帰る!!!」


「待てミナセ! 仲間と離れるのは危険だ!」


「付いてこないでカズ君!!」


 男女が言い争い、白いマントに金色のロッドを持った女が1人、通路へと歩いて行く。言葉は分からないが、あの女が根を上げたのが手に取るように分かる。

 女がキョロキョロと辺りを見て、細い通路へと入って行く。

 しめた。あの先は行き止まりだ。絶好の機会だな。

 そう思った彼は、女の後を付いていく。彼女を良く観察してみる。しなやかな身体つきに程よく発達した筋肉。胸はそこそこだが腰つきと尻がいい。これは食いごたえがありそうだ。

 悲鳴を上げさせたいが……ヤツらに気付かれても面倒だ。極力早く仕留めなければ。いや、せめて恐怖に歪む顔くらい……。

 女の背後に回る。擬態を解除し、その首筋に手を伸ばす。

 もうすぐだ。久々の人間。もうすぐ……。

 彼が、完全に白マントの女へと気を取られた瞬間──。


 魔法名が聞こえた。


炎渦魔法ブレイジングストーム!」


 背後から伝わる熱風。彼が振り返ると、炎の渦がこちらへと向かっていた。狭い通路は竜巻のような炎の渦に埋め尽くされ逃げ場が無い。

「……!?」

 後退した瞬間、バチりと背中に衝撃が伝わる。驚いてもう一度振り返ると、白マントの女が魔法障壁を展開しており、イタズラっぽい笑みを浮かべた。


「ごめんね~」


 罠にかけられたのは自分だと気付いた時には遅かった。全身に炎が纏わり付いてしまう。


「ギャアアアアアァァァ!?」


 火だるまになりながら、通路の出口へと走る。開けた空間に出て地面を転がる、身体にまとわりついた炎を消火する。火が消えたと思った次の瞬間、目の前には鎧の男がいた。


「じゃあな、間抜け野郎」


 首に剣が振り下ろされる。ザクリという音と共に悪夢の重装騎士ナイトメア・アーマーの首が飛んだ。

 空中を漂う視界、ドンッという衝撃と共に首は地面に転がった。

 首が切断された己の体を見た瞬間、彼は後悔した。なぜもっと待たなかったのか。ヤツらが完全に衰弱するまで待てば……飢えさせれば……。


 彼にとって最大の誤算であったのは461さんの存在であった。この悪夢の重装騎士ナイトメア・アーマーは同じ種族と戦った経験のある者の固定概念を逆手に取って擬態を駆使していた。

 しかし、461さんはその経験の数が違った。異世界の普通の冒険者が戦った悪夢の重装騎士ナイトメア・アーマーの数は平均して1度か2度。


 対して461さんが戦った回数は56・・回。


 これは生活の全てをダンジョンへ挑むことに捧げなければ達成できない数字。異世界基準においても461さんの経験値は異常であった。

 その戦いの中で、自分と同じような考えに至った別個体がいた事は、この悪夢の重装騎士ナイトメア・アーマーには知る由もなかった。


「やったやった! ボスを瞬殺できたわ!」

「抱き付くなってアイル」

「本体を直接倒してループ空間を抜けるなんて流石ヨロさんだにゃ♡」


 目の前で喜ぶ彼らを見ながら、悪夢の重装騎士は意識を失っていく。レベルポイントの光が溢れ出す。もう助からない。彼はそれを実感してしまった。


 悪い夢なら……覚めてくれ……。

 
 それは、人に悪夢を見せる存在が最後に見た「悪夢そのもの」であった。



 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性転のへきれき

廣瀬純七
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...