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第167話 シンとタルパと461さんパーティ。
しおりを挟む~タルパマスター~
──新宿駅構内。
ルミネエストを出発した翌日。昨日野営した場所を中心に、アイルさん達は食材の確保。私とシンくんと461さんは新宿駅構内を回ってモンスター狩りをしていた。
「ジガルビーは死ぬ直前に胸にある球体器官から仲間に信号を送る。そこを狙え」
「はい!」
461さんの指示でシンくんが走り出す。ジガルビーがシンくんに気付いた時、再び461さんが口を開いた。
「アイツの尾に注目しろ! そこから軌道は読めるはずだ!」
ジガルビーが尾の先端を向けた。尾先を見ていたシンくんがタイミングを狙ってローリングする。あらぬ方向に発射される針。その瞬間、ジガルビーに隙が生まれたのだとハッキリと分かった。
「今だ!」
シンくんがハチに飛びかかり、胸の球体にダガーを突き刺す。悲鳴を上げるジガルビー。あんな器官があったなんて……初めて遭遇した時はそんなの気にも止められなかった。
「タルパ! もういいぞ!」
「わ、分かりました」
461さんの合図で夢想魔法を発動する。射出したぬいぐるみがハチに直撃。嫌な音と共にハチが息絶えた。
「やりました461さん!」
走り出そうとするシンくんを止める。
「ダメだよシンくん。戦闘が終わったら気を抜く前に周囲の警戒でしょ?」
「あ、そうだった。ごめん」
2人で周囲を警戒してモンスターがいないと確認してから461さんの元に戻った。
「2人とも中々良くなってきたぜ」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
461さんに教えて貰うようになって半日。モンスターの行動予測を教えて貰って、魔力を温存するタイミングが測れるようになってきた。
たった半日なのに、こんなに効率よく戦えるなんて。
461さん……この人、本当にC級なの? ランクって必ずしも強さの基準じゃないのかも。
「タルパ、今から大事な話をする。集中しろ」
「あ、は、はい! すみません……」
考え込んでしまっていて恥ずかしい。せっかく私達の為に教えてくれてるのに。
気を抜くと飛んでいきそうになる思考を引き戻す。461さんは、私の顔を見て「よし」と呟くと口を開いた。
「強敵が現れた時、タルパの夢想魔法は敵の撹乱に使え。それだけで一気に戦闘が楽になるはずだ」
撹乱か……確かに私の夢想魔法は人間と同じくらいのサイズで熊のぬいぐるみを出せる。それを使えば気を逸らすこともできるかも。でも、なぜ楽になるんだろう? 聞いてみようかな。
「なんで戦闘が楽になるんですか?」
「攻撃対象が増えるということは敵はその両方に対処しなければならない。それは相手の行動に制約をかける事になるからだ」
制約?
461さんはシンくんと私を見て話を続ける。
「いいか2人とも。戦闘の基本は観察と制約だ。それを常に意識しろ。シンのスキルがあれば回避に集中して観察できる。タルパの夢想魔法なら制約ができる」
頭の中でシミュレーションしてみる。さっきのジガルビーなら、熊のぬいぐるみを1体出して、シンくんへの狙いを逸らせば、針攻撃をどちらに撃つか迷いが生まれる。相手の選択肢が増えて隙が生まれる事も。制約か……。
そんなこと考えた事もなかった。2人でそれぞれの役割を果たせば、私達ってもっと成長できるの?
「逃げ道がある戦闘は逃げていい。敵を観察してパターンを覚える。その上で次に勝てばいい。繰り返していけばやがて感覚を掴んで初見で敵の癖や行動原理を突き止められるようになる。それができるようになれば、お前達はもっと強くなれる」
461さんが「もっと強くなれる」を強調して言った気がした。
その一言が、嬉しい。そんなこと言われたことなんて無かったから……。
隣のシンくんに目を向ける。シンくんも461さんの言葉を真剣に聞いてる。きっと私と同じことを考えているのだと思う。
461さん……優しい人だな。
「じゃ、後はターロンベアの解体方法教えてやる。あとナーゴからターロンベアの胆のうの煮出し方も聞いとけ」
「え゛」
「ええ!?」
「ターロンベアの胆のうは煮出せば魔力が回復できる。調理器具は野営地にした飲食店で探すか。ライターなんかもありそうだしな」
「か、解体なんてできないですよ!」
「覚えるしかないな。このダンジョンで生き残るために習得は必要だ。駅を出たら2人だけで行くんだろ?」
「うっ!?」
「そ、そうですね……」
そう言われると何も言えない。シンくんも顔が引き攣ってるな……有無を言わせない461さんの雰囲気。やっぱりこの人厳しいかも……。
◇◇◇
夕方になって野営場所に戻って来た。駅構内で形状を残したままの飲食店。そこの厨房でナーゴさんからターロンベアの調理法を聞きながらご飯を作るのを手伝って、その後は胆のうの煮出し方を教えて貰う。
全部終わる頃には夜7時を回っていて夕食を食べることに。食べさせて貰ったのは調理を手伝ったターロンベアのスープカレー。臭みもスパイスで緩和されてすごく美味しかった。
みんなでご飯を食べた後は、ジークリードさんとミナセさん、461さんは西新宿エリアについて話をしていた。シンくんもその輪に入って真剣に話に聞き入っている。私は、シンくんから休むように言われて、その様子を離れた席から見ていた。
真剣だけど、どこか楽しそうな461さん達。その様子を見ていたら色んなことが頭をよぎる。もうダメだと思った所を助けて貰ったこと、シンくんや志村さん達の救出に力を貸して貰ったこと、私達に大切なことを教えてくれたこと。
私達は本当に運が良かった。こんな素敵なパーティに巡り会えたのだから。
……私達もここにいられたらどれだけいいんだろう?
「……」
でも、私は……私達は自分達の脚で進まないと。いつまでも461さん達に頼ってばかりはいられない。それが、私とシンくんで話し合った結論。
シンくんはあの司祭から「弱い者は要らない」と言われたらしい。だから私達の力量だと、仮に竜人達に捕まってもレベルポイントを奪われて461さん達に迷惑をかけることは無いだろうと分かったから。
それに、彼らと別れてしなきゃいけないこともできたし。
「どうしたのタルパちゃん?」
考えていると、隣にポスンとアイルさんが座った。
「アイルさん……休もうと思ったんだけど色々考えちゃって」
「あ~分かるわ。私も新宿に来てからずっとそんな感じだし」
アイルさんが苦笑いする。彼女はすごいな。私より1歳上なだけなのに、すごく大人に見える。461さんとも息ピッタリだし。
「アイルさんってすごいね」
「どうして?」
「だってすごく落ち着いてるし、ヨロイさんのサポート完全にこなしてるし……」
そう言ったらアイルさんが吹き出した。
「私が? そんな事ないわよ。初めてヨロイさんと探索に行った時、関係無いお菓子とかいっぱい持っていって呆れられたし、浅草でモンスターと一騎打ちした時なんて危うく死ぬ所だったんだから」
「あ。浅草攻略見てたよ。真竜と戦ってたところ」
あの時もすごいと思ったけど裏でそんなことがあったんだ。
「ふふっ、ありがと。私だけじゃないわ。ジークだって死にかけたし。ミナセさんはジークがやられて大泣きしてたもん」
「あ~その話する? あの時のカズ君、鎧さんに敵意剥き出しでさ~」
「そ、その話はやめろミナセ!」
ミナセさんが話に混ざろうとして、ジークリードさんが必死になって止める。そう言えば私もネットニュースで見たことあるかも……。
「ね? みんなそんなもんだよ」
アイルさんが面白そうに笑う。そっか……みんな沢山失敗してるんだ。失敗しても進んで来た先に今があるんだ。
「私とシンくんも、アイルさんと461さんみたいなコンビになれるかな?」
「タルパちゃんとシンならきっとなれるわ。そしたらコラボしようね?」
ニコリと笑うアイルさん。その顔を見ていたら、私の中に残っていたモヤモヤした気持ちが晴れた気がした。
◇◇◇
翌日、新宿駅西口へ出た私達。そこで私達は461さん達へ別の方向へ向かうと伝えた。
シンくんと2人で決めたこと……より多くの探索者に竜人達のことを伝えて、アイツらを倒すための協力をお願いするために。
これは私達ができる461さん達へのお礼。きっとこのダンジョンを最後まで進んだら、あの竜人達と戦うことになる。そうなった時、彼らを助ける人が絶対に必要だと思うから。
周囲を見渡す。西新宿エリアは広大な森がビル群を包んでおり、いくつもの道に分かれてる。どこに探索者がいるかも分からない。でも、絶対に見つけてみせる。
ふいに肩を叩かれる。振り返ると461さんとアイルさんが私達を見つめていた。
「シン、タルパ。死ぬなよ」
「危なくなったら連絡してね」
シンくんがみんなの顔をゆっくりと見渡して、頭を下げた。
「461さん、色々ありがとうございました。皆さんも……」
「アイルさん、ありがとう」
「気を付けてな、2人とも」
「また会おうね~!」
「攻略したら打ち上げするにゃ!」
ジークリードさんにミナセさん、ナーゴさんも手を振って歩いていく。私達は、みんなが見えなくなるまで見送った。
私達以外誰もいなくなる。静まり返った森の中にいると、先程までの騒がしさが嘘のように思えた。
「……僕達も行こうか、タルパちゃん」
「うん、行こう」
どちらともなく手を取って歩き出す。2人で協力しながら進もう。その為に461さん達が沢山、大事なことを教えてくれたんだから。
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