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第195話 女王 VS 竜王 【配信回】
しおりを挟む探索者達の放った複数のドローンが舞い上がり、鯱女王とイァク・ザァドの周囲を飛び回る。
〈ファッ!? なんやアイツ!?〉
〈デカすぎぃ!?〉
〈3つ首て〉
〈キングギ⚪︎ラかよ!?〉
〈竜王イァク・ザァド、魔族達の世界の伝説竜。色は違うけど:wotaku〉
〈とんでもないヤツなんだ!〉
〈色違うってなんでや?〉
〈別個体ってことだろ〉
〈凶悪そうな顔してるわね!〉
ドローンが鯱女王へとカメラを向ける。彼女は足場として作った水球を蹴り、イァク・ザァドへと跳躍した。
空中で右腕を振り被る彼女。そのガントレットの肘部が開き、周囲から集められた水の粒が中へと吸収されていく。
「「「ガランドラの記憶から学習しているぞ!!! 我らにそのような攻撃は通用せん!!!」」」
漆黒の竜の頭が鯱女王に体当たりし吹き飛ばしてしまう。吹き飛ばされる鯱女王。竜は彼女へ向かって火炎弾を3連射した。
「「「消し炭になるがいい!!!」」」
〈うわああああああ!?〉
〈威力高すぎだって!!〉
〈あんなん3発も撃つんかよ!?〉
〈さすがに伝説になるだけはあるか:wotaku〉
〈なに感心しとんねん!!〉
火炎弾が当たる刹那、鯱女王は足元に小さな水球を生み出した。それを踏み付けた瞬間、彼女のブーツで水の爆発が巻き起こる。真横へと跳躍することで彼女は火炎弾を回避した。
〈!!?!?!!!?!?〉
〈避けた!?〉
〈ヤバ!?〉
〈ていうか鯱女王空飛べるんかよ!?〉
〈発生させた水球もそれを足場にするのも蒼海のスキルの力:wotaku〉
〈なんでもありかよw〉
〈すごいんだ!!〉
「「「これを避けるか!」」」
「中々の威力だけど、軌道は読みやすいね」
鯱女王が水球を空中に作り、それを蹴るように移動していく。中央の頭が大口を開けて彼女を狙う。鯱女王は、足元で小規模な爆発を起こして飛び上がり、竜の喰らいつき攻撃を紙一重で躱した。
「「「なっ!?」」」
首の頭上で鯱女王が構える。獲物を逃さぬよう敢えて紙一重で躱したことに、竜は気付いていなかった。
「鯱パンチ」
彼女の右肘で水の爆発が発生する。鯱女性が横に高速回転し、竜の横っ面を殴り飛ばす。殴られた中央の頭は右頭部に激突し、苦しみの声を上げた。
「「「があっ!? 貴様あああああああぁ!!!」」」
〈鯱パンチ来たあああああああ!!〉
〈この威力!!〉
〈ふざけた名前なのに……っ!〉
〈やっぱり強いな~!〉
〈凄すぎるんだ!〉
〈ひゃだ!? 勝てるんじゃない!?〉
〈……:wotaku〉
「「「ふざけるなふざけるなふざけるなぁああああああああ!!!! 竜王の力を得た私が負けるなどあってはならん!!!」」」
怒り狂ったズィケルが絶叫する。竜の全身に魔力を解放し、鯱女王へと電撃ブレスを放とうと口を開いた──その時。
「「「がっ!?」」」
電撃ブレスを放射しようとしていた竜が、突然動きを止めた。
〈ん?〉
〈どうした?〉
〈動かなくなったぞ?〉
〈もしかして……:wotaku〉
〈教えて欲しいんだ!〉
〈何が起こったの!?〉
「「「あ、あ、ああぁぁぁ………」」」
竜が苦しむように体を震わせる。竜の全身から光が溢れ出す。竜の胸部付近に先ほどの球体が現れ、その中にうっすらと竜人の影が映った。竜人の影が周囲の光に飲み込まれそうになりもがき苦しむ。
「「「がっ……や、やめろ……!? があ゛っ!? 私の中に入ってくるな゛!!!」」」
竜が悲鳴を上げる。やがて、球体の中にいた竜人の影は光に飲み込まれてしまった。
「「「あ゛、あ、ああああああ!!?」」」
一際大きな叫び声の後、全ての竜の首がダラリと下がってしまう。
沈黙。
辺りを不気味なほどの静寂が包み込む。
そして、竜の瞳にゆっくりと光が灯る。
それはギョロリと鯱女王を見ると、翼を広げ大地を揺らすほどの叫び声を上げた。
「「「キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」
〈どした!?〉
〈なにか変なんだ!?〉
〈恐らく竜の力に自我が飲み込まれた:wotaku〉
〈飲み込まれた!?〉
〈暴走したってコト!?〉
〈制御しようとすることが間違っていたのかも:wotaku〉
〈ヤバくない!?〉
「「「キュアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」
3つの頭全てが鯱女王に襲いかかる。その動きは先程までと全く違っていた。
左頭部が彼女へ体当たりし、彼女が体勢を立て直す前に中央の頭が突撃する。鯱女王が空中に跳んで避けようとするが、そこに先ほど吹き飛ばされた右頭部が喰らい付こうとする。水球を蹴って躱わす彼女。彼女を追う3つの頭。逃走劇を続ける内、竜の首は本来あった首の長さを超えていた。
〈首伸びてる!?〉
〈長いんだ!?〉
〈キモ!?〉
〈射程距離どれだけあるのよ!?〉
〈読んだ本に無かった能力:wotaku〉
〈パワーアップまでしてるってコト!?〉
中央の頭が口を開く。その口に電撃が迸り、電撃ブレスを放つ。鯱女王が回避に気を取られた瞬間、左頭部が彼女の右脚に喰らいつく。
〈噛まれた!?〉
〈死ぬやろあんなん!!〉
〈鯱女王……〉
〈負けないで欲しいんだ!!〉
〈魔法で防いでいるように見える:wotaku〉
〈魔法?〉
〈ホントだ!耐えてるぞ!〉
右脚にギリギリと歯を突き立てられる彼女。しかし、彼女の発動している水壁魔法がその攻撃を食い止めた。埒が明かないと感じた竜は、再び彼女を放り投げ、頭部による体当たりへと攻撃方法を変更した。
水球を蹴って攻撃を躱し続ける鯱女王。彼女が中央の頭の体当たりを避けた瞬間、竜の左頭部が黒い球体を吐き出した。
「っ!?」
鯱女王が物凄い速度で黒い球体に吸い寄せられる。球体の近くで待ち構えていた左頭部が、彼女の体を薙ぎ払った。
「「「キュアアアアアアアア!!!」」」
鯱女王が吹き飛ばされる。鯱女王が水球を爆発させて軌道を変えようとする。が、黒い球体は彼女を逃さず再び吸い寄せてしまう。
〈あの黒い球何よ!?〉
〈引き寄せられてるんだ!?〉
〈引力魔法だと思う。あの球体には目標を吸い寄せる力がある:wotaku〉
〈引力!?〉
〈反則やろ!?〉
〈自我が飲み込まれた影響で力のタガが外れたのかも……:wotaku〉
〈ヤバスギィ!?〉
〈あんなのどうやって勝つんだよ!?〉
引力球へと引き寄せられた彼女に、四方八方から竜の頭が突撃する。その度に鯱女王は吹き飛ばされ、引き寄せられ、反撃に転じることもできなくなっていく。
拳を構えた瞬間、別の頭に薙ぎ払われ、反撃しようとすれば、さらに別の頭部の体当たりを受ける。攻防を繰り返すうち、彼女の口から鮮血が飛び散った。
「かは……っ!?」
〈体格の差が大き過ぎる:wotaku〉
〈ワ……ワァ……〉
〈血吐いてるじゃん〉
〈逃げた方がいいわよ!〉
〈ウソ……鯱女王負ける……?〉
〈負ける訳ないんだ!!〉
〈でもあんなの勝てる気しねぇって!〉
彼女はダメージを負っていた。先ほどよりも竜の一撃は威力を上げており、彼女の水壁魔法は、もはや防御壁ではなく、威力をわずかに軽減するだけとなっていた。
その竜は、彼女が今まで戦ってきていたモンスターとは一線を画す力を持っていた。
「「「キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」
引力球が消えた瞬間、中央の頭が彼女を上空へ跳ね上げ、左右の頭部から電撃ブレスが放たれる。
〈ヤベェって!!〉
〈鯱女王……死なないでぇ……〉
〈誰か助けろ!〉
〈近くにいないわけ!?〉
〈空中だぞ!?〉
〈こんな所に助けに来れるヤツおらんやろ!〉
〈鯱女王……〉
〈死んじゃ嫌なんだ!!〉
〈……:wotaku〉
鯱女王の視界に、眩いまでの光が広がった時。
「ははっ」
鯱女王は笑みを浮かべた。
ドローンのカメラからでは気付かないほどの微笑を。
それは、かつての自分を思い出したから。初めてダンジョンへ挑み、ボスと対峙した時を。ボスとの圧倒的な力の差に絶望を感じ、生き残る為に己の全てを使ってボスを倒したことを。
その時の興奮。死を前にした緊張感。それが彼女を虜にした。探索者になるまでなぜ生きているのか分からなかった彼女にとって、それは初めて感じた生の実感だったのである。
彼女は「それ」を求めてダンジョンを攻略し続けた。
強い敵に当たればそれを真正面から打ち砕く為に己を鍛えた。
苦手な相手と当たればそれを跪かせる為にスキルを伸ばした。
それを延々と繰り返すこと12年。気付けば彼女は最強という名に相応しい探索者へと成長していた。東京のダンジョンは「新宿迷宮」と「東京パンデモニウム」を残し全てクリアした。その後も全国を回り、ダンジョンを攻略し続けた。
しかし、彼女は強くなりすぎた。もはや彼女にとってどんなダンジョンも心躍らせる体験を与えてくれなかったのである。
だからこそ、彼女は「難易度を上げる」ために己に「縛り」を設けた。
それは──。
「蒼球魔法」
彼女の眼前に水の粒が急速に集まっていく。それは薄い膜を作り、巨大な中空の球体となった。水の表面を水壁魔法の膜が包み込む、まるでシャボン玉のような物体……。
それは、水壁魔法の最上位魔法だった。
〈あ、アレ……〉
〈知ってんの?〉
〈鯱女王が昔使ってた魔法だ〉
〈え?〉
〈こんな魔法あった!?〉
〈蒼球魔法。水属性の最上位防御魔法:wotaku〉
〈初めて見たぞ〉
〈どんな効果なんだ!?〉
〈魔法をあの球体の中に封印する:wotaku〉
〈封印!?〉
〈クソ強いやんけ!〉
「「「キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」
巨大な水球に電撃ブレスが直撃する。側から見ればただの水球。電撃の直撃を受ければ一瞬で蒸発してしまうほどの脆い水球。しかし、電撃ブレスが直撃する寸前……その巨大なシャボン玉がぽっかりと口を開け、電撃を全て飲み込んでしまった。
「「「……ッ!?」」」
シャボン玉の口が閉じる。行き場を無くした電撃が水球の中でバチバチと放電するが、そのシャボン玉は壊れない。電撃を帯びた水球はただ静かに空中を漂っていた。
困惑の表情を浮かべる3つ首竜。その様子を見た鯱女王は、額から血を流しながら笑みを浮かべた。
「ははっ……いいね……これなら、僕の全部、見せられるよ……」
彼女が己に課した縛り。それは……3つのスキル以外、全てのスキルを封印する事。彼女はそれによって疑似的に難易度を上げていた。
彼女が普段使えるのは──。
初級魔法の「水壁魔法」。
初級技の「水流激」。
常在スキルの「蒼海」。
この3つのみ。彼女の代名詞である「鯱パンチ」と「鯱キック」は常在スキル「蒼海」を利用しただけのただの体術なのである。
しかし、今彼女は悟った。この局面において難易度を上げる必要はない。なぜなら、これほどまでに強大な敵が目の前にいるのだから。それは、彼女に初めてのボス戦を想起させていた。
「流撃爪《アクアクロウ》」
鯱女王の両手が、その手よりも二回りほど大きな水の鉤爪に包まれる。
〈!!?!?!?〉
〈あんな技初めて見たぞ!?〉
〈水系の最上位スキルだ:wotaku〉
〈アレも!?〉
〈使ってるところ見たことないんだ!〉
〈昔は使ってたよ〉
〈え、いつくらい前?〉
〈9年くらい前……?〉
〈古参すぎぃ!!?〉
彼女へ再び訪れた死の感覚と生の実感が、封印していた最上級スキルを使う事を決心させた。
「本気……出させて貰うよ」
スキル特化型成長構築を極めた鯱女王。
その真の力が、解放された。
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