461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第216話 ジークの過去:モンスター流出事件

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 12年前。

 ──東京、秋葉原周辺。


 小学校が終わって、僕達は通学路を4人で帰っていた。僕とレン大和ヤマト、それに颯太ソウタ。みんな小学1年の頃から仲が良いメンバーだ。

「今日家帰ったら和巳カズミの家に集合な!」
「いや、昨日も来たじゃん」
「いいじゃん。俺まだTレックス倒してないし!」
大和ヤマトはビビりすぎなんだって!だから倒せないんだよ!」
「うるさいな~!」

 最近はみんなが僕の家に遊びに来る。目的は買ったばかりのプレステ5。そこに初めから入ってたゲームに夢中だ。白い小さなロボットが冒険するゲーム。それを何周も何周もプレイしてしまうくらいみんなあのゲームが好きらしい。

「でも良いよな~クラスでもプレステ5持ってるの和巳カズミだけだし」

 蓮は唇を尖らせて僕を見た。

「た、たまたまだって」

 父さんが自分でやりたいから買って来ただけだし……。

 それにしても今週に入ってもう4回目だぞ? 流石に母さんの機嫌も悪くなって来たし、何とか公園で遊ぶ方向に持っていけないかなぁ。

 そんな事を考えながら、末広町の交差点を渡った。みんなとゲームの話をしていると何だか周囲がザワザワと騒がしくなる。すれ違う大人達はみんな急いでいて、僕達の学校の方へ向かって行った。

「あ」

 秋葉原の方を見ると、ゲームの世界にいるような武器を持ってる人がいる。なんだろう? イベントでもやってるのかな?

「どうしたんだよ和己?」

 蓮が不思議そうな顔をする。僕は、武器を持った人が入っていった路地を指差した。

「あそこにデッカい剣みたいなのを持ってる人が……」

「それって探索者じゃね!? うわ~武器見て~!! 行ってみようぜ!」

 大和ヤマトが興奮したように走り出す。蓮も颯太もダンジョン探索者に興味津々で一緒に走り出してしまう。ランドセルをガシャガシャ鳴らしながらみんなは走って行ってしまった。

「あ、ちょっと待ってよみんな!!」

 僕もみんなを追いかけて走った。必死に走って、でもみんな足が速くて追い付けない。

 みんなが角を曲がって路地に入る。それを追いかけて僕も角を曲がった。


 次の瞬間。


 目の前を何かが通り過ぎた。すごい風と大きな音が響いて、次に変な声が聞こえた。悲鳴のような、なにかの鳴き声のような、甲高い声。僕は尻餅をついてしまって、それが何の声なのか分からなかった。

 ビルに何かが叩きつけられて、ビシャリと水っぽい音がした。振動がすごくて、ビルの壁が崩れて来る。僕の近くにもガレキが降ってきた。


「うわあ!?」


 ビックリして体を丸める。ガレキが僕の脚に当たってものすごい痛みが走った。

「うあ゛……っ!?」

 痛すぎて声が出ない。僕の脚が変な方向に向いていて、見だだけで痛くて気持ち悪くて涙が出る。脚を見たくなくて、僕はそこで初めて周囲を見渡した。

 何かが叩き付けられたビルには、赤い染みができていた。それが何なのか、分からない。すぐ傍に何かが転がっていて……手、みたいな……。


「うっ……っ!?」


 吐き気に襲われてまた目を逸らす。すると、目の前にいるヤツに気付いた。そこには電柱くらいある大蛇・・がいて、空を見上げてゴボリと何かを飲み込んでいる。その口の端からこぼれ落ちたのは子供用のスポーツシューズだった。

 ポトリと落ちた靴。反射的にそれを見つめてしまう。それが何か分かってしまう。

 今朝、大和ヤマトが自慢していたスポーツシューズ。それが僕の目の前に転がっていた。

「あ……」

 よく見たら赤い染みの近くに転がっている物もランドセルで、見たことがある服が壁に……え、あ…なんで……。


 大蛇が僕に気付いた。


「……」



 大蛇が僕を見下ろす。チロチロと舌を出していて、僕なんか丸呑みできそうなくらい大きな頭の……見たことないような生き物。これってモンスター!? ダンジョンからは出てこないって先生が言ってたのに、なんでこんな所に……。


 逃げようとしても、足が変な方向に曲がってて走れない。助けを求めるように振り返ると、大通りの向こうで大人達が僕を見てる事に気付いた。

「た、助けて!!」

 叫んだ瞬間、大人達は我に返ったようにその場を立ち去ってしまった。

「動けないんです! お願いします! 助けて!!」

 どれだけ必死に呼びかけても誰も目を合わせてくれない。みんな僕を見ないようにして足早に通り過ぎていく。


 そんな……。


 誰も助けてくれないの? 


「シャアァァ……」

「ひっ……!?」


 大蛇が近づいてくる。後退りしようとしても上手く逃げられない。蛇の奥に探索者が見えて、その人達にも助けを求めたけど、別のモンスターと戦うのに必死な様子だった。よく見ると、裏通りにはそこら中にモンスターがいて、探索者達はそれと戦っていた。


「神田明神からモンスターが出て来たらしいぞ!!」
「どけ!!」
「押すな馬鹿!!」
「きゃあああああああ!?」


 周囲の声が耳に入って周囲がずっと騒がしかった事に気付いた。神田明神? モンスター? なんで……? この辺りは絶対安全だって……学校で……。

 ゆっくり大蛇が近付いて来る。怖い……怖い怖い……。


「た……助けてぇ!!! 誰か!!」 


 体が動かないから声を振り絞って必死に叫んだ。それが蛇を刺激したみたいで、蛇は僕に威嚇して来た。


「シャアァ!!!」


「来るなぁ!!」


 その口に牙が現れる。ランドセルを必死に振っても大蛇はお構いなしに近付いて来る。僕を食べようと近付いて来る。

 嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ!! お願い!! 誰か……!


 そう思った時──。


「うおおおおおお!!!」


 大蛇の胴体に剣を突き刺したおじさんがいた。その人は、大蛇の攻撃を避けながら僕を庇うように剣を構える。でもその手は震えていて、無理して助けてくれたんだと分かった。

「クソッ。アイツにも頼むんだった……っ!」

 おじさんは一瞬呟くように言ったけど、すぐに剣を構え直した。


「……安心しろ坊主。コイツは絶対に倒してやる」


 そう言って、おじさんは大蛇と戦ってくれた。敵の攻撃を見極めながら攻撃を加えていくおじさん。戦いを続けるうちに大蛇は徐々に弱って、もう少しで倒せそうだと思えた。だけど、男の人も何度か攻撃を受けてボロボロで、動くのも辛そうに見えた。


「死ねええええええええええ!!!」


「ギシャアアアアアア!?」

 大蛇の攻撃を受けても構わず男の人が突撃して、大蛇の額を剣で突き刺す。大蛇は、一際大きな叫び声を上げてバタリと倒れた。


「はぁ……はぁ……」

 おじさんは、血を沢山流しながら僕の前まで来て、ドサリと座り込んだ。

「おじさん!!」

「は、は……やってみるもんだな」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 おじさんは項垂れるとポツリと呟いた。

「子供が死ぬのは見たくなかった、だけだ……俺にも、子供……いるから……」

「な、んで、僕なんか……」

 おじさんは、空ろな表情で僕を見る。その目は僕じゃなくて、どこか遠くを見ていた。


「ごめんな……」


 その言葉は、ここにいないおじさんの子供に言った気がした。力が抜けたようにおじさんが倒れ込む。僕がどれだけ呼びかけても、反応しなくなって……やがて動かなくなってしまった。

 その後、おじさんの仲間が駆け付けておじさんに縋りついていたけど、僕は、それを見ることしか出来なかった。



◇◇◇

 12年後。

 ──シィーリアの屋敷。


「俺の、俺のせいでみんな死んだ……蓮も、大和も、颯太も……あの探索者も……お、俺があの時……気付かなかったら……」

 全身がガタガタ震える。みんなの最期が脳裏に焼き付いている。変わり果てた姿、人の形じゃなかった……俺が……俺のせいで……。

「お主のせいじゃないのじゃ。大丈夫……」

 シィーリアに抱きしめられて頭を撫でられる。子供の頃と同じ慰め方で。俺は変わっていないのか……あの時から……情け無い。よりにもよってシィーリアの屋敷に泊まりにきた日に発作が起こるなんて……。

 この世界に帰って来たシィーリアを労うつもりだったのに……俺は‥‥俺は……。

「大丈夫。お主は強い。皆を守っておる。自分を責めるでない」

「う……うぅ……」

「大丈夫じゃ、お主は大丈夫じゃ……」

 ずっと「大丈夫」と慰めてくれるシィーリア。彼女の腕の中はすごく安心して、徐々に震えが止まる、落ち着いてくる。シィーリアは、静かに俺の話を聞いてくれていた。

「す、すまない……帰って来たばかりなのに……」

「良い。お主にとってそれは消えぬ傷となっておる。むしろ気付けて良かったよ」

 シィーリアは、俺の部屋をノックしても反応が無かった事を心配に思ったらしい。扉をこじ開けて入って来て、ベッドの上で震えて動けなくなっていた俺を……抱きしめてくれた。

 震える手を握りしめる。またあの光景が浮かぶ。友達が死んで、あの探索者が俺の代わりに死んでしまった時のことを。

 ミナセに話せるのは俺が探索者となるきっかけとしての話だけだ。俺を救ってくれたあの男性への憧れを。

 だけど……それだけじゃない。今でもずっと……罪悪感で押しつぶされそうだ。

「じゃが、ミナセを頼っても良いのじゃぞ? あの子も薄々勘付いておるじゃろう」

「それは……そうだが……」

 ミナセも辛い過去を抱えている。ユイが戻って、彼女の人生はこれからだ。俺が今、ミナセが立ち直る邪魔をしてはいけない。それは、できない。

 シンと静まり返った来客用の部屋。彼女は優しげな笑みを浮かべて、俺の両手を取った。

「ジーク。お主は立派じゃ。ミナセを想い、皆を守り続けようとしている。たとえそれが罪悪感から来ているものだとしても、妾は誇らしい。泣くことしか出来なかったあの子がこのように立派な男になったのじゃから」

 シィーリアは俺が子供の頃、何度も病院に足を運んでくれた。今のように何度も何度も俺の話を聞いてくれた。俺が立ち直って探索者になりたいと言った時も全力で支えてくれた。

 またこうしてカウンセリングのような事を……自分が情け無い。

「もう治ったと思ったのに、起こるなんて……」

「新宿で死を間近にした緊張感。そして、その状況から解放された影響じゃろう」

「……ありがとう」

「気にするな、お主もミナセも、ユイも……お主達の為ならば、妾はどんなことでもしてみせよう」

 本当に……感謝してもしきれない。俺達が今こうして立ち直れているのは、シィーリアが支えてくれたおかげなのだから。俺にとって彼女は、家族も同然だ。


 ……家族、か。


 俺を救ってくれた探索者にも子供がいると言っていた。彼の事を調べたが、全くと言っていいほど情報が掴めない。

 ──ごめんな……。


 彼の最期の言葉が蘇る。彼の家族はどうしているのだろうか? 


「さて、そろそろ寝るが良い。明日はお主達のランクについて話をする。皆の顔を見れば気分も良くなるじゃろう」

「ああ……ありがとう」

 シィーリアが扉を開く。彼女は部屋を出る前にクルリと振り返った。


「おやすみジーク。良き夢を」


 彼女は、少女のような姿からは想像もできないほど……暖かな笑みを浮かべていた。





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