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第221話 タルパマスター、修行する。
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~タルパマスター~
パララもんの家に来て3日が過ぎた水曜日。私はフィリナさんと一緒に彼女達の家の近くにある新小岩公園に来ていた。
川向こうのダンジョン「葛飾あらかわ水辺公園」が近くにあるそこは、ダンジョン周辺地区で魔法も使えるし、何より土地が広い。私の夢想魔法のトレーニングには最適な場所だった。
「昨日掴んだ感覚を忘れないように。マナを感じるのです。マナは貴女の周囲全てに存在する。より強い魔法を発動するにはマナを感じ、マナに触れ、マナを味方にするのです」
芝生の上にあぐらをかいて目をつぶる。瞑想のようなポーズをとると、集中力が上がっていく。
初日に言われた事を思い出す。
……。
フィリナさんにマナの話を聞いた。マナとは世界に漂う触媒。空気にも、水にも、植物や動物にも、目に見えないけど様々な物の中に存在し、魔力をマナに流し込む事で魔法を形成する。
スキルツリーによって探索者は自動でマナを扱うことができるけれど、強い魔法を使える者は感覚でマナを扱っているらしい。
「私が知っている中ではマナを感覚で捉えているのは鯱女王。そして、天王洲アイルさんしかおりません」
アイルさんの名前が出た時、驚いたけど腑に落ちた。アイルさんの放つ魔法は初期魔法でもずっと威力が高い。だから何かあるとは思っていたけど……それが理由だったんだ。
「ですが嘆く事はありません。マナを感じるのは魔法を使う者は誰しもが掴み得る感覚。貴女もコツが分かればすぐに掴めますよ」
「必ず」と言って貰えて嬉しかった。自分でもできる気がして、初日からずっとマナを掴む事に没頭していた。そして、昨日ついにそのキッカケを掴んだ。今日はそれの再現だ。
昨日の感覚を思い出しながら目を閉じ、周囲へと感覚を研ぎ澄ます。やがて皮膚にピリピリした感覚が始まる。それが周囲に広がって、今なら遠くにいるハトの動きまで感じ取れる気がする。
「掴めました」
「いい感じです。これで夢想魔法でより多くの魔力を使用することができます。できる事も増えますよ」
フィリナさんの声が優しくなる。嬉しい……っ! だけど気を抜いちゃダメ。ここからが本番だ。
「それでは夢想魔法を使って。お題はそうですね……昨日映画で見たサメという生き物にしましょう」
「はい……」
サメ、さめ、鮫……。サメを想像するんだ。
「夢想魔法」
想像しながら魔法を発動する。目を閉じていると、魔力の流れが鮮明に分かる。自分の体から魔力が放出されて、空気中のマナに伝播していく。それが伝播するたびに膨らみ、目の前の芝生で大きくなっていく。
この3日間、毎日マナの知覚の訓練の後に映画やマンガ、ゲームを鑑賞した。その時に見た物を思い出す。
ポイズン社長が熱心に映画やその中に登場するモンスターや生き物の事を解説してくれたから、かなり鮮明に想像はできる。
ポイズン社長、想像以上の熱の入り用だったけど……。
「余計な事は考えない」
「は、はい」
ダメだ。集中、集中……。
「キュウ」
夢想魔法によって、ぬいぐるみが生まれた声がした。魔力が形を作り、熊のぬいぐるみになったんだ。またぬいぐるみ……だけど本番はここからだ。構成直後ならまだ変化させられるはず。
サメ……サメだ。
サメを想像していく。ぬいぐるみの体が盛り上がる。それと同時に頭にモヤがかかって、鮮明なイメージが求められる気がする。
「ぐ……っ!!」
想像しろ。昨日見たサメ映画を。サメだ。サメを想像するんだ。大きな歯があって、眼は真っ暗で体は灰色。肌は……ザラザラしてるって聞いた。それを手で触った感触をイメージ。それはきっと紙やすりみたいな手触りのはず。
「グギャウウゥゥゥ……っ!!」
ぬいぐるみの体がさらに大きくなる。目を閉じていても分かる。目の前の魔力の塊が大きくなって、ぬいぐるみがサメのような造形へと変化していく。もうすぐ、もうすぐだ……っ!
「シャアアア……ッ!!」
鳴き声が変わった!?
「できた!!」
目を開けるとそこにいたのは、私の膝下くらいの大きさのサメクマぬいぐるみだった。
熊のぬいぐるみとサメが合成されたような可愛らしいぬいぐるみ……ギザギザの歯につぶらな瞳……それにセビレと短い手足。イメージと全然違ってガッカリしてしまう。
「シャア!」
サメクマは、威嚇するように両手を上げたけど、それが逆に情けなさを強調しているようだった。
「だ、ダメだぁ……」
自分の限界を超えるのってそう簡単にはできないんだな。
「はい、そこで諦めない。なぜ失敗したのかを良く考えて?」
フィリナさんに言われて首を傾げてしまう。なぜ失敗したか? なんだろう?
「造形に意識を取られ過ぎたから……ですかね?」
「確かに。これを見て下さい」
「シャッ!?」
フィリナさんがサメクマを抱き上げる。彼女に促されるままにその背中を撫でると、ザラザラした感触が手のひらを伝わった。
「あ、ここはイメージ通りだ」
「少し細部にこだわり過ぎましたね。大まかなイメージを持ちながら想像を固めていきましょう。貴女が呼び出したいのはあくまで戦闘での使い魔。なので攻撃や空を飛ぶイメージなどを想像すると良いかもしれません」
「でも、どうして熊のぬいぐるみになっちゃうのかなぁ」
自分の意思とは関係なく……今の私にはこれが足枷だ。このぬいぐるみ自体が私という殻に見えてしまう。
「熊のぬいぐるみには何か思い出が?」
「思い出……」
そういえばなぜ熊のぬいぐるみなんだろう? 夢想魔法で初めて出したのは熊のぬいぐるみだった。それからずっとそうだ。
……あ。
「そういえば……子供の頃、ずっと遊び相手だったのはぬいぐるみだった気がする。いつも魔法で出すのはその子に似てるかも」
あのぬいぐるみ、ずっと連れて歩いていたし、寝る時も一緒だった。その抱きしめた感触や匂いなんかが私の中に残っている気がする。
フィリナさんは考えるように顎に手を乗せると、ブツブツと何かを呟いた。
「なるほど。それがタルパさんの中に根付いているのかも……魔法名は力を表す。結びついてしまったイメージは簡単には払拭できない、か……なら、魔法名に少し手を加えてみるのはどうだろう?」
「フィリナさん?」
「……別の魔法名を告げては魔法は発動しない。なら、元の意味はそのままに、少しだけ変えてやれば……うん、いけそう」
彼女はひとしきり考えたあと、パンッと両手を叩いた。
「タルパさんにおまじないをあげましょう!」
「おまじない?」
「そう。魔法名を告げる時に……」
フィリナさんは、イタズラっぽい笑みを浮かべて耳打ちして来た。
◇◇◇
さらに2日経った金曜日。明日はいよいよ海ほたる海底ダンジョンに挑む日だ。私はパララもん達にも公園に来て貰って、魔法を披露することにした。
「よっしゃ。俺は準備ええで~」
武史さんが大剣を構えて手を挙げる。それをみたフィリナさんは、私の肩を叩いて距離をとった。私達から離れた場所でポイズン社長、パララもん、フィリナさんが私達の事を見守ってくれている。
「タルパちゃんの魔法が強力になったって言ってたけどどうなるんだろうな~」
「楽しみなのだ!」
ポイズン社長とパララもんの声を聞きながら、集中力を高める。肌にあのピリピリした感覚を覚える。魔法を使える準備は整った。
フィリナさんが私を見て声を上げた。
「ではタルパさん! お題は恐竜! 昨日見た映画を思い出して!」
魔力を周囲のマナへと伝播させる。両手を広げて、フィリナさんに教えて貰ったおまじないを告げた。
「空想魔法」
魔法名を告げた直後──。
目の前に巨大なTレックスが現れた。
「グオオオオオオオオオン!!」
「うおおおおおあああ!?」
Tレックスが尻尾を薙ぎ払い、武史さんに直撃する。大剣で防御した武史さんだったが、その勢いで吹き飛ばされてしまった。
「ぬわあ~!?」
吹き飛ばされた武史さんはそのままゴロゴロと転がって、木にぶつかってしまった。
「グオオオオオオオオオオン!!!!」
Tレックスが雄叫びを挙げる。それに向かって「消えろ」と念じると、Tレックスは霧のように掻き消える。消えた瞬間、ポカンと口を開けていたポイズン社長とパララもんが飛び上がった。
「すげ~!!!」
「すごいのだ!!」
「び、ビビったで……流石に……」
吹き飛ばされてしまった武史さんに駆け寄る。彼を引き起こすと、パララもんが目を輝かせて質問してきた。
「どうやったのだ!?」
「それは……魔法名を少しだけ変えたんです」
「魔法名を変えたのだ? でもそれだと取得した魔法と違うから魔法が使えないはずなのだ」
フィリナさんが小さく笑いをこぼした。
「ふふっ。ほんの少し。意味は変えていないの。だから使ってる魔法は通常の夢想魔法と同じなのです」
「同じって……どういうことだ?」
「よく分からんよなぁ」
ポイズン社長と武史さんが顔を見合わせる。フィリナさんは優しげな笑みを浮かべると、手にしていた杖で地面に絵を描いた。地面に私と熊のぬいぐるみを書き、2つを線でつなぐ。そして、その間に「夢想魔法」と書いた。
「タルパさんの潜在意識には幼少期に安心感を得た熊のぬいぐるみがあるのです。それが夢想魔法と結びついてしまった……それがタルパさんがぬいぐるみしか出せない理由です」
フィリナさんが説明してくれる。私の無意識化で夢想魔法とぬいぐるみが固定されてしまっているから私は熊しか出せない。だったら、繋がってしまった魔法名を変えたらどうなるのか?
だからこそ魔法名をずらした。熊のぬいぐるみと夢想魔法が繋がっているなら、同じ意味で別の言葉にすればいい……これは、本当におまじないだと思う。私の殻を破るためのおまじないなんだ。
「良く分からないけどすごいのだ!!」
「いや、この短時間でここまで成長させたフィリナもすげーな」
感心するパララもんとポイズン社長に、フィリナさんは静かに首を横に振った。
「私はキッカケを与えただけ。全てはタルパさんの積み重ねた努力が身を結んだだけのことですよ」
身を結んだ? 今までの私の努力が?
……嬉しい。私にもこんな事ができたんだ。学校でずっとバカにされて、使えないスキルだって言われて見返してやろうって必死だった。
シン君と出会って、その気持ちが少し変わってシン君と冒険したいから強くなりたいになった。
そして……461さんや、フィリナさんや……みんなに応援して貰ってやっと……私は、前に進めたんだ。
視界が歪む。武史さんが白い歯を見せて親指を上げた。
「めちゃくちゃ強い魔法やで空想魔法! 俺が保証したる! ……だから自信持って海ほたる攻略してくるんやで?」
優しい声。ポイズン社長もパララもんも、フィリナさんも……みんな優しい。優しくて涙が出てしまう。
私は、涙を拭ってみんなに頭を下げた。
「ありがとうございました!」
これなら……やれる。見ててねシン君。私、絶対攻略して君に届けるよ。私の気持ちを。
パララもんの家に来て3日が過ぎた水曜日。私はフィリナさんと一緒に彼女達の家の近くにある新小岩公園に来ていた。
川向こうのダンジョン「葛飾あらかわ水辺公園」が近くにあるそこは、ダンジョン周辺地区で魔法も使えるし、何より土地が広い。私の夢想魔法のトレーニングには最適な場所だった。
「昨日掴んだ感覚を忘れないように。マナを感じるのです。マナは貴女の周囲全てに存在する。より強い魔法を発動するにはマナを感じ、マナに触れ、マナを味方にするのです」
芝生の上にあぐらをかいて目をつぶる。瞑想のようなポーズをとると、集中力が上がっていく。
初日に言われた事を思い出す。
……。
フィリナさんにマナの話を聞いた。マナとは世界に漂う触媒。空気にも、水にも、植物や動物にも、目に見えないけど様々な物の中に存在し、魔力をマナに流し込む事で魔法を形成する。
スキルツリーによって探索者は自動でマナを扱うことができるけれど、強い魔法を使える者は感覚でマナを扱っているらしい。
「私が知っている中ではマナを感覚で捉えているのは鯱女王。そして、天王洲アイルさんしかおりません」
アイルさんの名前が出た時、驚いたけど腑に落ちた。アイルさんの放つ魔法は初期魔法でもずっと威力が高い。だから何かあるとは思っていたけど……それが理由だったんだ。
「ですが嘆く事はありません。マナを感じるのは魔法を使う者は誰しもが掴み得る感覚。貴女もコツが分かればすぐに掴めますよ」
「必ず」と言って貰えて嬉しかった。自分でもできる気がして、初日からずっとマナを掴む事に没頭していた。そして、昨日ついにそのキッカケを掴んだ。今日はそれの再現だ。
昨日の感覚を思い出しながら目を閉じ、周囲へと感覚を研ぎ澄ます。やがて皮膚にピリピリした感覚が始まる。それが周囲に広がって、今なら遠くにいるハトの動きまで感じ取れる気がする。
「掴めました」
「いい感じです。これで夢想魔法でより多くの魔力を使用することができます。できる事も増えますよ」
フィリナさんの声が優しくなる。嬉しい……っ! だけど気を抜いちゃダメ。ここからが本番だ。
「それでは夢想魔法を使って。お題はそうですね……昨日映画で見たサメという生き物にしましょう」
「はい……」
サメ、さめ、鮫……。サメを想像するんだ。
「夢想魔法」
想像しながら魔法を発動する。目を閉じていると、魔力の流れが鮮明に分かる。自分の体から魔力が放出されて、空気中のマナに伝播していく。それが伝播するたびに膨らみ、目の前の芝生で大きくなっていく。
この3日間、毎日マナの知覚の訓練の後に映画やマンガ、ゲームを鑑賞した。その時に見た物を思い出す。
ポイズン社長が熱心に映画やその中に登場するモンスターや生き物の事を解説してくれたから、かなり鮮明に想像はできる。
ポイズン社長、想像以上の熱の入り用だったけど……。
「余計な事は考えない」
「は、はい」
ダメだ。集中、集中……。
「キュウ」
夢想魔法によって、ぬいぐるみが生まれた声がした。魔力が形を作り、熊のぬいぐるみになったんだ。またぬいぐるみ……だけど本番はここからだ。構成直後ならまだ変化させられるはず。
サメ……サメだ。
サメを想像していく。ぬいぐるみの体が盛り上がる。それと同時に頭にモヤがかかって、鮮明なイメージが求められる気がする。
「ぐ……っ!!」
想像しろ。昨日見たサメ映画を。サメだ。サメを想像するんだ。大きな歯があって、眼は真っ暗で体は灰色。肌は……ザラザラしてるって聞いた。それを手で触った感触をイメージ。それはきっと紙やすりみたいな手触りのはず。
「グギャウウゥゥゥ……っ!!」
ぬいぐるみの体がさらに大きくなる。目を閉じていても分かる。目の前の魔力の塊が大きくなって、ぬいぐるみがサメのような造形へと変化していく。もうすぐ、もうすぐだ……っ!
「シャアアア……ッ!!」
鳴き声が変わった!?
「できた!!」
目を開けるとそこにいたのは、私の膝下くらいの大きさのサメクマぬいぐるみだった。
熊のぬいぐるみとサメが合成されたような可愛らしいぬいぐるみ……ギザギザの歯につぶらな瞳……それにセビレと短い手足。イメージと全然違ってガッカリしてしまう。
「シャア!」
サメクマは、威嚇するように両手を上げたけど、それが逆に情けなさを強調しているようだった。
「だ、ダメだぁ……」
自分の限界を超えるのってそう簡単にはできないんだな。
「はい、そこで諦めない。なぜ失敗したのかを良く考えて?」
フィリナさんに言われて首を傾げてしまう。なぜ失敗したか? なんだろう?
「造形に意識を取られ過ぎたから……ですかね?」
「確かに。これを見て下さい」
「シャッ!?」
フィリナさんがサメクマを抱き上げる。彼女に促されるままにその背中を撫でると、ザラザラした感触が手のひらを伝わった。
「あ、ここはイメージ通りだ」
「少し細部にこだわり過ぎましたね。大まかなイメージを持ちながら想像を固めていきましょう。貴女が呼び出したいのはあくまで戦闘での使い魔。なので攻撃や空を飛ぶイメージなどを想像すると良いかもしれません」
「でも、どうして熊のぬいぐるみになっちゃうのかなぁ」
自分の意思とは関係なく……今の私にはこれが足枷だ。このぬいぐるみ自体が私という殻に見えてしまう。
「熊のぬいぐるみには何か思い出が?」
「思い出……」
そういえばなぜ熊のぬいぐるみなんだろう? 夢想魔法で初めて出したのは熊のぬいぐるみだった。それからずっとそうだ。
……あ。
「そういえば……子供の頃、ずっと遊び相手だったのはぬいぐるみだった気がする。いつも魔法で出すのはその子に似てるかも」
あのぬいぐるみ、ずっと連れて歩いていたし、寝る時も一緒だった。その抱きしめた感触や匂いなんかが私の中に残っている気がする。
フィリナさんは考えるように顎に手を乗せると、ブツブツと何かを呟いた。
「なるほど。それがタルパさんの中に根付いているのかも……魔法名は力を表す。結びついてしまったイメージは簡単には払拭できない、か……なら、魔法名に少し手を加えてみるのはどうだろう?」
「フィリナさん?」
「……別の魔法名を告げては魔法は発動しない。なら、元の意味はそのままに、少しだけ変えてやれば……うん、いけそう」
彼女はひとしきり考えたあと、パンッと両手を叩いた。
「タルパさんにおまじないをあげましょう!」
「おまじない?」
「そう。魔法名を告げる時に……」
フィリナさんは、イタズラっぽい笑みを浮かべて耳打ちして来た。
◇◇◇
さらに2日経った金曜日。明日はいよいよ海ほたる海底ダンジョンに挑む日だ。私はパララもん達にも公園に来て貰って、魔法を披露することにした。
「よっしゃ。俺は準備ええで~」
武史さんが大剣を構えて手を挙げる。それをみたフィリナさんは、私の肩を叩いて距離をとった。私達から離れた場所でポイズン社長、パララもん、フィリナさんが私達の事を見守ってくれている。
「タルパちゃんの魔法が強力になったって言ってたけどどうなるんだろうな~」
「楽しみなのだ!」
ポイズン社長とパララもんの声を聞きながら、集中力を高める。肌にあのピリピリした感覚を覚える。魔法を使える準備は整った。
フィリナさんが私を見て声を上げた。
「ではタルパさん! お題は恐竜! 昨日見た映画を思い出して!」
魔力を周囲のマナへと伝播させる。両手を広げて、フィリナさんに教えて貰ったおまじないを告げた。
「空想魔法」
魔法名を告げた直後──。
目の前に巨大なTレックスが現れた。
「グオオオオオオオオオン!!」
「うおおおおおあああ!?」
Tレックスが尻尾を薙ぎ払い、武史さんに直撃する。大剣で防御した武史さんだったが、その勢いで吹き飛ばされてしまった。
「ぬわあ~!?」
吹き飛ばされた武史さんはそのままゴロゴロと転がって、木にぶつかってしまった。
「グオオオオオオオオオオン!!!!」
Tレックスが雄叫びを挙げる。それに向かって「消えろ」と念じると、Tレックスは霧のように掻き消える。消えた瞬間、ポカンと口を開けていたポイズン社長とパララもんが飛び上がった。
「すげ~!!!」
「すごいのだ!!」
「び、ビビったで……流石に……」
吹き飛ばされてしまった武史さんに駆け寄る。彼を引き起こすと、パララもんが目を輝かせて質問してきた。
「どうやったのだ!?」
「それは……魔法名を少しだけ変えたんです」
「魔法名を変えたのだ? でもそれだと取得した魔法と違うから魔法が使えないはずなのだ」
フィリナさんが小さく笑いをこぼした。
「ふふっ。ほんの少し。意味は変えていないの。だから使ってる魔法は通常の夢想魔法と同じなのです」
「同じって……どういうことだ?」
「よく分からんよなぁ」
ポイズン社長と武史さんが顔を見合わせる。フィリナさんは優しげな笑みを浮かべると、手にしていた杖で地面に絵を描いた。地面に私と熊のぬいぐるみを書き、2つを線でつなぐ。そして、その間に「夢想魔法」と書いた。
「タルパさんの潜在意識には幼少期に安心感を得た熊のぬいぐるみがあるのです。それが夢想魔法と結びついてしまった……それがタルパさんがぬいぐるみしか出せない理由です」
フィリナさんが説明してくれる。私の無意識化で夢想魔法とぬいぐるみが固定されてしまっているから私は熊しか出せない。だったら、繋がってしまった魔法名を変えたらどうなるのか?
だからこそ魔法名をずらした。熊のぬいぐるみと夢想魔法が繋がっているなら、同じ意味で別の言葉にすればいい……これは、本当におまじないだと思う。私の殻を破るためのおまじないなんだ。
「良く分からないけどすごいのだ!!」
「いや、この短時間でここまで成長させたフィリナもすげーな」
感心するパララもんとポイズン社長に、フィリナさんは静かに首を横に振った。
「私はキッカケを与えただけ。全てはタルパさんの積み重ねた努力が身を結んだだけのことですよ」
身を結んだ? 今までの私の努力が?
……嬉しい。私にもこんな事ができたんだ。学校でずっとバカにされて、使えないスキルだって言われて見返してやろうって必死だった。
シン君と出会って、その気持ちが少し変わってシン君と冒険したいから強くなりたいになった。
そして……461さんや、フィリナさんや……みんなに応援して貰ってやっと……私は、前に進めたんだ。
視界が歪む。武史さんが白い歯を見せて親指を上げた。
「めちゃくちゃ強い魔法やで空想魔法! 俺が保証したる! ……だから自信持って海ほたる攻略してくるんやで?」
優しい声。ポイズン社長もパララもんも、フィリナさんも……みんな優しい。優しくて涙が出てしまう。
私は、涙を拭ってみんなに頭を下げた。
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