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第229話 シンの目覚め
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~シン~
真っ暗な空間を僕は漂っていた。
目の前では走馬灯のように色々な景色が流れていく。どれも懐かしい記憶……今でも鮮明に思い出せる。
それが賢人……桜田賢人との思い出だ。
賢人と僕は幼馴染だった。2人とも親はいない。僕らは9歳の頃、たまたま入った施設で出会って、同じヤツにいじめられたことで仲良くなった。
毎日毎日修二という中学生に嫌がらせを受けて……ついに我慢の限界に来た僕は、修二へ復讐をした。背後から飛びかかってヤツを殴り付けた。だけど、所詮子供の喧嘩だ。何倍も体格差がある僕はソイツにボコボコにされた。
そんな時、加勢してくれたのが賢人だった。体格差があっても2人なら勝てる。そう言って賢人は修二に殴りかかった。その日、僕らは初めて理不尽に反抗することができた。
なぜ助けてくれたのか聞いた。すると賢人は「見てみないフリをしたら後でムズムズして気持ち悪い」と言った。
僕にはよく分からなかったけど、その後彼と付き合う内になんとなく言っていた意味が分かるようになった。
賢人は喧嘩っ早くて気が強くて、でも自分より強いヤツにも物怖じしないヤツだった。
子供の世界は過酷だ。弱いと見られると真っ先にイジメの標的にされる。だけど、賢人はそんな理不尽にも真っ向から立ち向かった。いつになっても、何歳になっても、誰かを守ってボロボロになっていた。みんな賢人の事が大好きで、慕っていて、彼の周りには常に人がいた。
だけど、賢人はいつも僕と一緒にいた。僕達は真反対な性格だったけど、なぜか気が合った。
14歳の夏。
クラスメイトがヤンキーグループに目を付けられた。僕達は、クラスメイトを助けようとヤンキーグループと戦った。僕が作戦を考えてヤンキー達を夜の学校に誘き寄せ、賢人と2人で用意した罠で撃退した。ボス1人になったヤンキーと賢人はタイマンを張って、かろうじて賢人が勝った。
賢人は「お前といるとなんでもできそうだな!」とニカリと笑った。腫れ上がったボロボロの顔だったけど、僕はカッコいいと思った。
14歳の秋。
賢人は同じクラスの咲村楓という女子にやたら絡まれるようになった。
楓も気が強くて、ちょっとした事ですぐ喧嘩していた。だけど不思議と気は合うみたいで、楓は僕達と一緒に過ごす事が多くなった。
3人で帰って、喧嘩したり、遊んだり……楽しい日々が続いて……なんとなくだけど、賢人と楓はお似合いだなと思った。
16歳の春。
僕達3人は同じ公立高校に受かった。だけど僕と賢人はお金が無かったから。学費や生活費を稼ぐ為にバイトに勤しんだ。みんなが部活動や放課後に遊ぶ中、バイトに明け暮れる日々……だけどいい事もあった。自分で使えるお金も少しできたから、少しずつ貯金をして、僕達は東京へ旅行に行った。
16歳になって初めて見た東京。そこはすごく輝いていて、いつかこんな場所に住みたいと思った。
決して楽しい事ばかりじゃなかったけど、賢人がいて、楓がいて、充実していた。賢人は「大人になったら自分の会社を作る。だから手伝って欲しい」と僕に言った。その為にお金も貯めているのも見てきたから、本気なんだと思った。
僕は嬉しかった。賢人は僕にとって頼れる友人だったけど賢人も僕をそうやって見てくれていたと分かって。
そうして僕達は17歳に……。
17歳に……。
僕は……。
ここで記憶が飛ぶ。これ以上は何回やっても思い出せない。浮かぶのは断片的な光景だけ。次にハッキリと浮かぶ記憶はこうだ。
オレンジ色に染まる夕方の公園。そこに僕は立っていて、目の前には青い髪の女の人。その人にスマホを渡され、こう告げられる。
「桜田賢人は死んだ」と。
僕は混乱して、ついさっきまで賢人と楓がいたはずなのに僕だけかそこにいて……訳が分からなかった。
すると内なる声というものが聞こえてきて、説明してくれた。ダンジョンの事や、賢人の死を。そうしているうちに賢人が死んだ実感と、色んなことへの知識だけが浮かんだ。探索者、ダンジョン、スキルツリー。まるで僕の頭に馴染むように、思い出すように、僕の記憶に刻まれていった。
目の前にいた青い髪の女の人はダンジョン管理局の人で、僕の担当だと言った。僕にスキルの事や、色んな事を教えてくれた。
幸運のスキルや、内なる声のことも。
彼女が説明する度に、内なる声がそれは真実だと告げる。その度に僕もそうだと確信を持った。不思議と疑問には思わなかった。眼を閉じれば、口から血を流しながら死んでいる賢人の姿が目に浮かんだから。
その女の人の言葉も信じた。賢人を助ける方法がある。それを僕はやるべきだって。数え切れないほどの恩がある賢人を……助けなきゃいけないと思ったから。
だから僕は賢人を助ける為の鍵がある新宿迷宮へ挑む事にした。オーヴァルさんのパーティに入って、探索者試験に挑戦して……461さん達に出会った時も、内なる声に従って彼らの好意に甘えさせて貰った。
今思えば……そう仕向けられていたんだ。全部、九条アラタに……。
僕は、僕じゃない……。
暗い闇の中で身動きが取れなくて、ふと気付くと僕は存在しない人間なんだと思い知らされて叫びたくなる。
だけど、何もできない。
僕には何も無いから。
九条アラタのように記憶も、肉体も、力も、何も、無いから……。
そう考えるたびに意識は薄れていって、でも消えたくなくて、ずっとこの暗闇を彷徨ってる。
僕は……。
──新宿迷宮に挑んだ時、私はある人とパーティを組む約束をしました。
声が聞こえる。優しそうな女の子の声。
それを聞いた瞬間、記憶が鮮明に蘇る。新宿迷宮で出会った女の子。僕と同じくらいの年頃で、自分に自信が無くて、でもすごく優しい子の事が。
頭の中で彼女と初めて会った時の事が思い浮かぶ。不安にしていた僕に声をかけてくれたこと。でも本当は自分も不安で、仲間が欲しかったこと。スキルツリーの事を教えてくれたこと。スキルの事で悩んでいた僕に「自分と同じだ」と言ってくれた事を。
──シン君。私は……君の事が好き、です。君とパーティを組んで、また冒険がしたい。それがどうしても伝えたくて……。
タルパちゃん……。
僕は……。
──私、ずっと君のこと待ってるから……だから、お願い。声を聞かせて? また君に会いたいよ……。
会いたい……僕と会いたいって……君はそう言ってくれるの……?
……。
……そうだ。何も無いなんて……そんな事、無い。
僕にはタルパちゃんと出会った思い出があって、2人で色んな事を乗り越えて、461さんやみんなと出会って……新宿迷宮を攻略したんだ。
短い時間だったけど、その記憶は間違いなく、僕のものだ。
僕は僕だ。タルパちゃんが僕を呼んでくれる限り、僕は……諦めちゃだめだ。だって僕もタルパちゃんとまた会いたいから。
彼女の自信がなくて、頑張り屋で、すごく優しい所が……好きなんだ。
僕は、タルパちゃんの隣にいたい。一緒に冒険して、色んな事を経験して、一緒に大人になりたい。
ふと振り返ると賢人の姿が浮かんだ。彼は子供の頃姿のまま、笑っていた。
賢人……絶対助けたいと思った、僕の友達。
僕の記憶じゃないけど、眼を閉じれば鮮明に思い出せる。賢人が死んだ時の想い、悲しみ、絶望……色んな感情が。そこから何度も希望と絶望を繰り返したことを。
ごめん賢人……僕は明日に行くよ。僕を呼んでいる人がいるから。
賢人に別れを告げると、彼も僕に「さようなら」と言った。
次の瞬間。
僕の意識と九条アラタがハッキリと分離したのを感じた。
暗闇だったはずの空間が一気に明るくなる。自分の思考がクリアになって、ずっと漂っていた消えることへの不安感や恐怖が消えた。
意識を集中させると、あのスージニアという女の人との会話が聞こえてくる。九条の思考も見え始める。何を考えて、何をしようとしているのかも。
……。
九条は……アイルさんやジークリードさん達を襲撃しようとしてる。賢人の死に囚われて、本当に大切な物まで見失っている……。
それが分かるのは、僕だけだ。
なんとかしないと。彼女達を守る事が、僕が自分の体を取り戻す為に必要な事だと……方法は分からないけど、そんな気がする。
考えろ。誰かに伝えるんだ。
メッセージじゃダメだ。履歴が残る。九条に僕に意識が残っていると気付かれたら終わりだ。だから、履歴が残らない方法にしないと。電話……電話なら、後で通話履歴を消せばいい。
必死で思い返すと、タルパちゃんが電話番号を教えてくれた時の事が浮かんだ。メッセージアプリを交換して、その後に。
後は、九条の体を少しでも奪うことができれば……。
……内なる声は、この状態でも力が使えた。九条はこの状態でも体を取り戻した。僕の意識がハッキリ戻った今、同じことができるはずだ。
タルパちゃん、僕も君に会いたい。君に全てを伝えるから……だから、もう少しだけ待ってて。
真っ暗な空間を僕は漂っていた。
目の前では走馬灯のように色々な景色が流れていく。どれも懐かしい記憶……今でも鮮明に思い出せる。
それが賢人……桜田賢人との思い出だ。
賢人と僕は幼馴染だった。2人とも親はいない。僕らは9歳の頃、たまたま入った施設で出会って、同じヤツにいじめられたことで仲良くなった。
毎日毎日修二という中学生に嫌がらせを受けて……ついに我慢の限界に来た僕は、修二へ復讐をした。背後から飛びかかってヤツを殴り付けた。だけど、所詮子供の喧嘩だ。何倍も体格差がある僕はソイツにボコボコにされた。
そんな時、加勢してくれたのが賢人だった。体格差があっても2人なら勝てる。そう言って賢人は修二に殴りかかった。その日、僕らは初めて理不尽に反抗することができた。
なぜ助けてくれたのか聞いた。すると賢人は「見てみないフリをしたら後でムズムズして気持ち悪い」と言った。
僕にはよく分からなかったけど、その後彼と付き合う内になんとなく言っていた意味が分かるようになった。
賢人は喧嘩っ早くて気が強くて、でも自分より強いヤツにも物怖じしないヤツだった。
子供の世界は過酷だ。弱いと見られると真っ先にイジメの標的にされる。だけど、賢人はそんな理不尽にも真っ向から立ち向かった。いつになっても、何歳になっても、誰かを守ってボロボロになっていた。みんな賢人の事が大好きで、慕っていて、彼の周りには常に人がいた。
だけど、賢人はいつも僕と一緒にいた。僕達は真反対な性格だったけど、なぜか気が合った。
14歳の夏。
クラスメイトがヤンキーグループに目を付けられた。僕達は、クラスメイトを助けようとヤンキーグループと戦った。僕が作戦を考えてヤンキー達を夜の学校に誘き寄せ、賢人と2人で用意した罠で撃退した。ボス1人になったヤンキーと賢人はタイマンを張って、かろうじて賢人が勝った。
賢人は「お前といるとなんでもできそうだな!」とニカリと笑った。腫れ上がったボロボロの顔だったけど、僕はカッコいいと思った。
14歳の秋。
賢人は同じクラスの咲村楓という女子にやたら絡まれるようになった。
楓も気が強くて、ちょっとした事ですぐ喧嘩していた。だけど不思議と気は合うみたいで、楓は僕達と一緒に過ごす事が多くなった。
3人で帰って、喧嘩したり、遊んだり……楽しい日々が続いて……なんとなくだけど、賢人と楓はお似合いだなと思った。
16歳の春。
僕達3人は同じ公立高校に受かった。だけど僕と賢人はお金が無かったから。学費や生活費を稼ぐ為にバイトに勤しんだ。みんなが部活動や放課後に遊ぶ中、バイトに明け暮れる日々……だけどいい事もあった。自分で使えるお金も少しできたから、少しずつ貯金をして、僕達は東京へ旅行に行った。
16歳になって初めて見た東京。そこはすごく輝いていて、いつかこんな場所に住みたいと思った。
決して楽しい事ばかりじゃなかったけど、賢人がいて、楓がいて、充実していた。賢人は「大人になったら自分の会社を作る。だから手伝って欲しい」と僕に言った。その為にお金も貯めているのも見てきたから、本気なんだと思った。
僕は嬉しかった。賢人は僕にとって頼れる友人だったけど賢人も僕をそうやって見てくれていたと分かって。
そうして僕達は17歳に……。
17歳に……。
僕は……。
ここで記憶が飛ぶ。これ以上は何回やっても思い出せない。浮かぶのは断片的な光景だけ。次にハッキリと浮かぶ記憶はこうだ。
オレンジ色に染まる夕方の公園。そこに僕は立っていて、目の前には青い髪の女の人。その人にスマホを渡され、こう告げられる。
「桜田賢人は死んだ」と。
僕は混乱して、ついさっきまで賢人と楓がいたはずなのに僕だけかそこにいて……訳が分からなかった。
すると内なる声というものが聞こえてきて、説明してくれた。ダンジョンの事や、賢人の死を。そうしているうちに賢人が死んだ実感と、色んなことへの知識だけが浮かんだ。探索者、ダンジョン、スキルツリー。まるで僕の頭に馴染むように、思い出すように、僕の記憶に刻まれていった。
目の前にいた青い髪の女の人はダンジョン管理局の人で、僕の担当だと言った。僕にスキルの事や、色んな事を教えてくれた。
幸運のスキルや、内なる声のことも。
彼女が説明する度に、内なる声がそれは真実だと告げる。その度に僕もそうだと確信を持った。不思議と疑問には思わなかった。眼を閉じれば、口から血を流しながら死んでいる賢人の姿が目に浮かんだから。
その女の人の言葉も信じた。賢人を助ける方法がある。それを僕はやるべきだって。数え切れないほどの恩がある賢人を……助けなきゃいけないと思ったから。
だから僕は賢人を助ける為の鍵がある新宿迷宮へ挑む事にした。オーヴァルさんのパーティに入って、探索者試験に挑戦して……461さん達に出会った時も、内なる声に従って彼らの好意に甘えさせて貰った。
今思えば……そう仕向けられていたんだ。全部、九条アラタに……。
僕は、僕じゃない……。
暗い闇の中で身動きが取れなくて、ふと気付くと僕は存在しない人間なんだと思い知らされて叫びたくなる。
だけど、何もできない。
僕には何も無いから。
九条アラタのように記憶も、肉体も、力も、何も、無いから……。
そう考えるたびに意識は薄れていって、でも消えたくなくて、ずっとこの暗闇を彷徨ってる。
僕は……。
──新宿迷宮に挑んだ時、私はある人とパーティを組む約束をしました。
声が聞こえる。優しそうな女の子の声。
それを聞いた瞬間、記憶が鮮明に蘇る。新宿迷宮で出会った女の子。僕と同じくらいの年頃で、自分に自信が無くて、でもすごく優しい子の事が。
頭の中で彼女と初めて会った時の事が思い浮かぶ。不安にしていた僕に声をかけてくれたこと。でも本当は自分も不安で、仲間が欲しかったこと。スキルツリーの事を教えてくれたこと。スキルの事で悩んでいた僕に「自分と同じだ」と言ってくれた事を。
──シン君。私は……君の事が好き、です。君とパーティを組んで、また冒険がしたい。それがどうしても伝えたくて……。
タルパちゃん……。
僕は……。
──私、ずっと君のこと待ってるから……だから、お願い。声を聞かせて? また君に会いたいよ……。
会いたい……僕と会いたいって……君はそう言ってくれるの……?
……。
……そうだ。何も無いなんて……そんな事、無い。
僕にはタルパちゃんと出会った思い出があって、2人で色んな事を乗り越えて、461さんやみんなと出会って……新宿迷宮を攻略したんだ。
短い時間だったけど、その記憶は間違いなく、僕のものだ。
僕は僕だ。タルパちゃんが僕を呼んでくれる限り、僕は……諦めちゃだめだ。だって僕もタルパちゃんとまた会いたいから。
彼女の自信がなくて、頑張り屋で、すごく優しい所が……好きなんだ。
僕は、タルパちゃんの隣にいたい。一緒に冒険して、色んな事を経験して、一緒に大人になりたい。
ふと振り返ると賢人の姿が浮かんだ。彼は子供の頃姿のまま、笑っていた。
賢人……絶対助けたいと思った、僕の友達。
僕の記憶じゃないけど、眼を閉じれば鮮明に思い出せる。賢人が死んだ時の想い、悲しみ、絶望……色んな感情が。そこから何度も希望と絶望を繰り返したことを。
ごめん賢人……僕は明日に行くよ。僕を呼んでいる人がいるから。
賢人に別れを告げると、彼も僕に「さようなら」と言った。
次の瞬間。
僕の意識と九条アラタがハッキリと分離したのを感じた。
暗闇だったはずの空間が一気に明るくなる。自分の思考がクリアになって、ずっと漂っていた消えることへの不安感や恐怖が消えた。
意識を集中させると、あのスージニアという女の人との会話が聞こえてくる。九条の思考も見え始める。何を考えて、何をしようとしているのかも。
……。
九条は……アイルさんやジークリードさん達を襲撃しようとしてる。賢人の死に囚われて、本当に大切な物まで見失っている……。
それが分かるのは、僕だけだ。
なんとかしないと。彼女達を守る事が、僕が自分の体を取り戻す為に必要な事だと……方法は分からないけど、そんな気がする。
考えろ。誰かに伝えるんだ。
メッセージじゃダメだ。履歴が残る。九条に僕に意識が残っていると気付かれたら終わりだ。だから、履歴が残らない方法にしないと。電話……電話なら、後で通話履歴を消せばいい。
必死で思い返すと、タルパちゃんが電話番号を教えてくれた時の事が浮かんだ。メッセージアプリを交換して、その後に。
後は、九条の体を少しでも奪うことができれば……。
……内なる声は、この状態でも力が使えた。九条はこの状態でも体を取り戻した。僕の意識がハッキリ戻った今、同じことができるはずだ。
タルパちゃん、僕も君に会いたい。君に全てを伝えるから……だから、もう少しだけ待ってて。
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