461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第230話 電話

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 ~タルパマスター~

 海ほたる海底ダンジョンをクリアしてから2週間。私は魔法の訓練の為、毎日のようにフィリナさんの所へ通っている。私の魔法は気を抜くとすぐに失敗してしまうから、とにかく反復が大事。そう思って毎日続けてる。

 いつもの新小岩公園。誰もいない静かな公園であぐらをかいて目を閉じる。マナを感じ、マナを操作する……その修行が日課になりつつあった。

「今日はここまでに致しましょう」

 フィリナさんが私の肩をポンと叩く。目を開けると、デフォルメされたパララもんのイラスト入りボトルを差し出された。パッケージのパララもんが「ビリリッと痺れるのだ♪」と言っているイラストが可愛い。

 どうやら小さな飲料メーカーとコラボしたとかで、かなりの試供品が彼女達の手元に届いたと言っていた。これを飲むのも毎日の日課になってるかも。

「ありがとうございました」

 渡されたジュースを飲むと、オレンジジュースの味の中にスパイスが効いてる。これがパララもんの麻痺魔法パラライズを再現してるらしい。

 ポイズン社長もコラボしたかったらしいけど、流石に飲料に「毒」は洒落にならないと断られたらしく、本人はガッカリしていた。


 フィリナさんは、優しげな笑みを浮かべて「マナの扱いが上手になりましたね」と言ってくれた。

 今まで人に褒められることなんて無かったからすごく嬉しい。それから2人でパララもん達の家に戻った。

 みんなに挨拶をしてから家に帰ろうとしたら、パララもんからまた夕食に誘われてご飯を食べる事になった。食事はいつもポイズン社長が作ってくれる。生活力が高くてすごいなと思う。私なんて料理全然なのに……。

 ご飯を食べ終えると、武史さんが駅に用事があるからと送ってくれた。外はもう真っ暗で、もしかしたら心配してくれたのかもしれない。道すがら、海底ダンジョンでの戦闘を褒めてくれた。


 新小岩駅から総武線に乗って飯田橋で乗り換える。神楽坂駅で降りた時、スマホがブブッと振動した。見るとメッセージアプリに通知マークが。アイルさんからだ。聞いていた461さんの誕生日パーティ……そのお店の住所が誕生日用のグループトークに流れて来ていた。

 グループトークにお礼を入れる。そこには461さんのパーティメンバーの他に、モモチーさんとヤンナさんという方もいる。パララもん達も誘っているようだった。

 スタンプがすごい勢いで流れて、一気に賑やかになる。主にモモチーさんとヤンナさんが掛け合いのようなことをしているけど、時折アイルさんもメッセージを送っている。凄いな、当日もこんな風になるんだろうか? だとしたら楽しそう。

 そんなことを考えながら歩いていると、自分のマンションに着いた。電気をつけてソファーに深く座り込む。


「ふぅ……」


 魔力消費が激しいからか、家に着いた瞬間、一気に疲れが押し寄せて来る。


 ……あれから2週間、ネットでは私達の配信が何度も流れていて、再生数もリツイート数もすごく伸びた。

 私は、毎日フィリナさん達と会うようになって、アイルさんとやり取りして、生活が一変した気がする。


 でも……。


 シン君だけがいない。私が嬉しいことも、楽しいことも、全部、シン君と一緒が良かった。

 海ほたるで気持ちを伝えればなんとかなるって……自分に言い聞かせていたけど、やっぱりダメだったの?


 シン君、どこにいるの? 会いたいよ。


 静かになった瞬間、涙が溢れてくる。悲しさに押し潰されそうになる。強くなったら泣き虫なのも変われるかもって思っていたけど、まだ全然ダメみたい。

 私は……。

 新宿での出来事から今日までの事がグルグルと頭を回る。ボーッとその事を考えていると、いつの間にか私の意識は無くなっていた。


 ……。


 あれ、私……いつの間にか眠ってたみたい。

 時計を見ると、明け方の4時を過ぎた所だった。もうこんな時間? シャワー浴びなきゃ……。


 ソファーから立ち上がろうとした時。


 スマホが振動した。

「え……」

 こんな時間に? 


 スマホの画面を見る。それは、メッセージアプリじゃなくて、電話だった。それも非通知の番号から。何かのいたずら?


 でも……。


 もしかしてという思いを捨てきれず、恐る恐る電話に出る。

「もしもし」

 電話の向こうから声を漏らす音が聞こえた。その人は、何度も話そうとして戸惑っているような……そんな雰囲気を感じた。


 相手が話し出すのを待つ。ドキドキして、心臓が口から飛び出しそう。でも、もしシン君なら……。


 電話の向こうの人は、深呼吸してからゆっくりと声を上げた。


『……タルパちゃん、ごめん、こんな時間に電話して』


 その声で、呼び方で、誰なのかすぐに分かった。分かった瞬間、嬉しくて私の眼から涙がとめどなく溢れてしまう。

「シン君? どこにいるの!? 無事……なの?」

『……無事と言えるか分からない。けど、君の配信を見て、少しだけ、体を奪うことができるようになったんだ。2週間もかかっちゃったけど……』

 体を奪う? 何を言ってるの?

『その、今から言うこと、嘘だと思うかもしれないけど……全部本当の事なんだ。信じて欲しい』

「信じるよ! だってシン君のことなんだもん!」

『ありがとう……全部話すよ。僕が今どうなっているかを』



◇◇◇

 シン君は、自分の身に起こったことを全て話してくれた。九条アラタという人がシン君の未来の姿で、彼は九条が作り出した人格なのだと。

 普通なら信じられないような話だけど、私は信じることにした。だって、シン君の言葉が嘘だって思えなかったから。

 私の配信を見て意識を取り戻したシン君は、九条アラタが眠った隙に時壊魔法を発動して、体を奪い返したらしい。だけど九条の方が力がずっと強くて、もうすぐ元の九条に戻ってしまうとも言っていた。

「ごめん、でも……聞いてたから、タルパちゃんの言葉、全部」

「うん……」

 届いていたんだ。私の言葉が。

 嬉しい。この2週間が、ううん……新宿から帰ってからシン君のことばかり想ってた。それが届いたような気がして。

「……それとごめん、タルパちゃんにどうしてもやって欲しい事があるんだ」

 彼は、最後に九条の目的とやろうとしている事を教えてくれた。アイルさんと、ジークさんの剣を狙っている事を。

 アイルさん達、確か461さん抜きで探索に行くと言っていた……そこを狙われたの?

『だから、タルパちゃんは461さんを連れてアイルさん達の所へ行って。もう時間が無いから。九条の仲間が彼女達の所に向かってる』

「……シン君はどうなるの?」

『……僕も、もう戻ってしまう。九条に会っても、絶対油断しちゃダメだ。アイツは僕じゃない。君達の敵だから』

「せっかく話せたのに、嫌だよ……」

『……絶対タルパちゃんとの約束、守るから。だから今は、アイルさん達を』

「うん……」

 また涙が溢れる。嬉しさと安心と悲しさがグチャグチャで、自分でも今どんな顔をしているのか分からない。だけど、シン君がそこにいるということが、たまらなく嬉しかった。

『じゃあ、もう切るよ。これ以上はアイツを騙せそうにない」

 電話が切れそうになる。本当は引き止めたい、だけどできない。彼の命に関わるから。だから、何も言えない。

 上手く言葉が見つからなくて声を出せないでいると、もう一度シン君の声がした。

『僕もタルパちゃんのことが好きだから……だから、諦めない』

 その言葉を最後に、通話が切れた。無音のスマホを耳に当て続ける。

「う、うぅ……」

 膝をついてしまう。なんで? なんでシン君がこんな思いをしなくちゃいけないの? 変わってあげたいよ……。

「……ダメだ」

 自分の頬を叩く……泣いてちゃダメだ。シン君が私に連絡してくれた。アイルさん達の事を伝えてくれたんだ。今私がやる事は、みんなを助ける事だ。


 私は、急いで準備をして部屋を飛び出した。





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