461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第235話 アイル、真実を知る

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 ~天王洲アイル~

 午前4時。私達は竜の逆鱗を手に入れるため、ダンジョン「雑司ヶ谷地下墓地」へと来ていた。初めてヨロイさんと出会った場所。こうしてまた来るとは思わなかったな。

 1時間ほどかけて私達はボス部屋へと辿り着き、ドラゴンゾンビ戦に入った。戦闘を続けるうち、チャンスが巡って来た。

 吹き出す毒霧ブレスをミナセさんのバリエルで防ぎ、暴れ回るドラゴンゾンビの口にユイさんがカラバの実を投げ込む。ドラゴンゾンビがゴクリと実を飲み込んだ瞬間、ドラゴンゾンビは2本脚で立ち上がり、首元からキラリと光る何かを落とした。

 ミナセさんがそれを拾い上げたのを確認してから私は速雷魔法ラピッドショックを発射した。

「グギャオ!?」

 バチバチと電撃を迸らせ動きを止めるドラゴンゾンビ。私は、剣を構えていたジークに向かって叫んだ。

「今よジーク!」

「よし……波動斬!!!」

「グギャアアアアアア!!?」

 ミナセさんとユイさんの強化魔法を受けたジークの波動斬。それがドラゴンゾンビの頭部に直撃する。ドラゴンゾンビはバタリと倒れ込むと、全身からレベルポイントを溢れさせた。

「はい、アイルちゃん」

 ミナセさんが逆鱗を渡してくれる。逆鱗は、角度を変えると色を変える不思議な見た目をしていた。ドラゴンゾンビのドロップアイテムだけど、これだけ見ると普通の竜から採取した物のように見える。

「外に出るまで油断するなよ」

「あ、待ってよ和巳カズミ!!」
「ブギ~!」

 ツカツカと歩いて行くジークとそれを追いかけるユイさん。それを見ていたミナセさんは肩をすくめた。

「最近なーんかユイがカズ君に近いんだよねぇ」

「ユイさん、ジークのこと好きだったりして」

 冗談で言ったつもりだったけど、ミナセさんはあからさまに顔をしかめた。

「やめてやめて~! 私はアイルちゃんやリレイラさんみたいに心広くないから! 姉妹で彼氏の取り合いとか勘弁だよ~!」

 考えたくもないという様子のミナセさん。なんだか申し訳ない事言っちゃったな……。というか、私達ってそんな風に思われてたんだ。

 そんな事を考えていると、通路からユイさんがヒョコっと顔を出した。

「何やってんだよマイ~! 置いてくぞ!」

 通路の奥からジークがミナセさんを呼ぶ声もする。この3人だとミナセさんが中心にいるんだな。

「ほら、そんな感じには見えないでしょ~?」

 ミナセさんは肘で私をつつくと笑みを浮かべた。



◇◇◇

 帰り道に現れたスカルゴブリンを倒しながら出口へ向かう。ジークは、私達を庇って先行してくれていた。

 ジークのバルムンクがスカルゴブリンを一閃する。ガラガラと崩れる骨のゴブリン。周囲を確認したジークは剣を振るって鞘へと納めた。

「ありがとねジーク。先行してくれて」

「気にするな。それに……」

 少しジークが言い淀む。彼は恥ずかしそうに顔を背けて頭を掻く。

「天王洲は鎧の相棒だからな。傷付けたりしたら……俺は自分を許せない」

 ぶっきらぼうだけど優しい言葉。初めて会った時はとんでもないヤツだって思ったけど、きっとこっちが本当のジークなんだろうな。ヨロイさんの事もすごく信頼してくれてるし、それが嬉しい。

「お! 出口が見えてきた!」
「ブギブギ~!」

 出口手前の広間。その先には外につながる階段が見えていた。階段に向かってユイさんが走り出す。しかし、彼女は部屋の中央で急に立ち止まってしまった。なんだか様子が変だ。私達は、急いでユイさんに駆け寄った。


「どうしたのユイさん?」

「……」


 無言のまま、ワナワナと手を震わせるユイさん。彼女の視線の先、階段の近くに1人の女の人が立っていた。青くて長い髪に、氷のように冷たい表情をした女の人。黒い手袋にパンツスタイルのスーツ姿……どことなく、その姿にリレイラが思い浮かんだ。なんでだろう? ツノが無いから人のはずなのに。

「あ、あの人……誰……?」

「スー」

 私の後ろにいたミナセさんが呟いた。


「久しぶり、2人とも」


 女の人が言うと、ミナセさんもユイさんも怒ったように叫ぶ。

「ふざけんじゃねえスージニア!!! 何のようだ!!」

「ユイを連れ戻すって言うなら私が……っ!!」

 2人とも敵意を剥き出して構える。ユイさんを連れ戻す? なら、あの人は九条商会の人間ってこと?

 ジークが、私を庇うように一歩前へと踏み出した。

「下がっていろ天王洲。ヤツは俺達がやる」

「で、でも……」

 スージニアと呼ばれた女の人は、ミナセさん達にはそれ以上興味が無いように私とジークへと顔を向けた。その瞬間、ゾクリと寒気がする。私達を物か何かと思っているような、そんな顔に。

 全身から逃げろと警告音が鳴り響く。彼女の力量は、私達からかけ離れているような気がする。

「お前達姉妹はどうでもいい。私は紫電の剣と、その剣の本来の持ち主の娘・・・・・・・・を回収に来ただけ」

「本来の持ち主の、だと……?」

 ジークが顔を真っ青にして私を見る。え、どういうこと? 何を言ってるの?


「よぉ、デカくなったじゃねぇか。ガキども」


 スージニアの後ろからもう1人現れる。同じような真っ黒なスーツを来た男が。彼はヘラヘラと嫌な笑みを浮かべると、ドカリと階段に座り込んだ。


「九条……テメェ……!!!」

 飛びかかろうとするユイさんを、ミナセさんが抱きしめるように止めた。ミナセさんが男を睨み付ける。

「九条……アラタ……やっぱりアンタもいたの?」

「悪りぃな。今日はお前ら姉妹と遊んでやる暇は無いんだ」


「何を訳わかんない事言ってんだよ!!」

 ユイさんの叫びに、九条アラタという男は肩をすくめる。

「はぁ……興味ねぇって言ってんだろ。どうでもいいんだよ。お前らの事なんかよ」

「ど、どうでもいい……? お前、自分がアタシ達に何をしたか」

「知らねぇな。あの状況を選んだのはお前達姉妹だぜ?」

 九条の答えにユイさんは声を荒げて走り出す。ミナセさんも同じだ。2人とも、怒ってる。だけど何かおかしい。九条の口調はワザと怒らせようとしてるみたいな感じがした。

「2人とも、ちょっと待」

「マイ、フォローしてくれ!!」
「分かった!!」

 2人は私の声を遮って走り出してしまう。強化魔法を使ったユイさんとミナセさんが、同時に九条へと飛び込んだ。


「させない」


 スージニアが右手を上げると魔法陣が現れ、そこから2体の狼が現れた。それは軽自動車くらいの大きさがあって、犬というより狼に近い形をしていた。2人の攻撃は、狼の体当たりで阻まれてしまう。


「ぐっ……やっぱウゼェなスージニアの能力……」
「なら障壁魔法で……っ!」


 2人が狼に反撃しようとした次の瞬間。


 九条が2人の前に現れた。一瞬。瞬きをした時には既にそこにいた・・・・・。何が起こったの? 速いとかいう次元を超えてる。気が付いたらそこにいたとしか言えないわ。

「なっ!?」
「速……っ!?」

「そういやこの力はお前らに見せてなかったな」

 九条が2人に蹴りを放つ。……放ったような気がした。そう思った時には2人とも苦しそうに地面に倒れ込んでいたから。

「な゛んだよ……これ……」
「い、痛い……」

 何……今の……。


 九条は、ユイさんの頭を踏み付けると蔑んだような顔で彼女を見た。

「お前は気に入ってたんだけどな。出て行っちまったらもう情も湧かねぇ」

「だ……まれ……」

「コイツがスキルイーターか」

「ブギ!?」

 九条が背後に視線を送る。そこには透明化していたキル太がいた。九条はキル太を何度も踏み付けた。ボロボロになったキル太がゴロリと倒れ込む。

「やめろ!!」

「なら寝てろ」

 九条がユイさんの腹部を蹴り上げる。

「かは……!?」

 空中に浮きそうなほどの強烈な蹴りに、ユイさんは血を吐いて動かなくなってしまう。

「ユ……イ……!!」

「お前もさ、一回見逃してやったんだから静かに暮らしてろって」

 ミナセさんの髪を掴んで地面に顔を叩き付ける九条。何度も叩き付けられ、ミナセさんも動かなくなってしまった。

「ミナセ! ユイ!」

 ジークが走り出そうとする。しかし、スージニアが私達の前に立ち塞がる。彼女が手を翳すと空中に魔法陣が3つ現れて、その中から3体の犬型の精霊が現れた。


「グァウ!!!」
「グウア!!!」


 狼が私達に襲いかかる。咄嗟に杖を構えようとした時、ジークが2体の狼を波動斬で吹き飛ばし、残った1体の噛みつきをバルムンクで受け止めた。

「ジーク! そのまま抑えてて! 私が決めるわ!」

 杖を構えようとした時、ジークが左手で私を制した。

「……逃げろ」

「え……何言ってるの?」

「お前を死なせる訳にはいかないんだ!! 早く逃げろ!!」

 ジークの様子がなんだか変だ。声が震えてる。ミナセさん達の事もあるけど、それにしても狼狽え方が異常だ。

 困惑していると、九条が私の方を見て声を上げた。その声はとても優しい物で、どこかで聞いた事があるような気もするものだった。


「カナ。迎えに来た。俺と一緒に賢人を助けに行こう」


「え」


 賢人ってお父さんのこと……?

 九条の声以外、何も聞こえなくなる。なんでこの人は私のお父さんの事を知っているの?

「天王洲!! ヤツの話を聞いてはダメだ! 九条がミナセ達に何をしたか聞いただろう!!」


「お前のせいでな」

「な、なにを……」


 九条が発した言葉で、ジークが後ずさる。襲いかかって来ていた狼が霧のように掻き消え、九条とジークが対峙する。ジークの表情は分からないけど、なんだか怯えているように見えた。

 九条がゆっくりとこちらへ向かって来る。

「ジークリード。俺の親友はお前のせいで死んだ。俺は……親友の賢人を蘇らせる為にあらゆる事をやってきた。ミナセも、ユイも、その為の犠牲だ」

 どういうこと……? ジークのせいでお父さんが、死んだ……?

 突然、背後に気配がした。いつの間にかスージニアが私の後ろに立っていて、私に囁いた。

「この男を庇ったせいで桜田賢人は死んだ。この男がいなければ、アナタは死んだ父親を探す事も無かった」

「そ、そんな嘘に」

「嘘じゃない。なら、なぜ私達が桜田賢人の事を知っている? 九条様の話は真実。嘘だと思うならジークリードに聞いてみるといい」

 聞いてはいけないと頭では分かっているのに、スージニアの言葉が入り込んでくる。視界がグニャリと曲がる。足に力が入らなくなってしまう。


「ウソ……お父さんがもういないなんて、そんなはず、ない……」


 でも、考えてしまう。いつまでも見つからない父親、私とお父さんの名前を知ってる九条達……私の事情はほとんど誰にも話していない。真実じゃないと、誰もそんな事言えないはず……。

 私は、今まで何をしていたの?

 ずっとお父さんがどこかにいるって信じてた。その為に探索者になるって……学校に入って、配信者になったのに……。

「わた、私は……何の為に……」

 もう、お父さんの声は聞けないの? 抱きしめて貰えないの? 私の中のお父さんは、小さかった時の記憶の中にしかいないの? あのぼんやりした思い出が、全てなの?

 お父さん。

 お父さん……なんで?

 なんで私を置いて行っちゃったの?

 涙が止まらない。息が苦しい。ジークが何かを叫んでるけど、何も聞こえない。

 ふらついて倒れそうになった瞬間、スージニアが後ろから私を抱きしめた。

「大丈夫。九条様はどんな事をしてもアナタの父親を助けてくれる。アナタの父親は蘇る。だから私達に協力して。アナタが最後の鍵。アナタが必要」


 お父さんが助かる? そんなのどうやって……。


 そう思った時、ジークが私達の前に飛び込んだ。スージニアが狼を召喚し、ジークがそれを波動斬で吹き飛ばす。そして、スージニアへ「お父さんの剣」を突き付けた。


「行ってはダメだ……俺は、お前を無事に鎧の元へ返さなければいけない。帰ろう、鎧の所へ」

 頭がグチャグチャになる。今までの事が次々に浮かんで、何も考えられない。


「ジークのせいでお父さんは死んだの……?」


 ジークが目を大きく見開く。なぜ否定しないの? なぜお父さんの剣を使ってるの? 


 不信感と嫌悪感が渦を巻く。信じたいと思っても、心がついていかない。


「そ、それは……」


 ジークが言い淀む。なんで目を逸らすの? こんなのは作り話だって言ってよ。


「ほら、言った通り」


 スージニアの囁きが、頭の中をグルグル回る。差し出されたジークの手がすごく嫌なものに見えてしまう。


「……事情はちゃんと説明する。だから今は!」


「い、いや……来ないで!」


 ジークが伸ばした手を反射的に弾いてしまう。弾いてしまうと、ジークの顔が固まった。それで全て悟った。全部本当なんだ。


 お父さんはずっと昔に死んでいて、それを私は知らなかった。知りもせず、配信者なんてやってたんだ。


 天王洲アイルでの日々は全部無駄だったんだ。


 全部嘘。私がやって来た事は全部意味が無かったんだ。ただ馬鹿みたいに笑って、前向きになろうって、人にいい顔して、アンチに酷い事言われても笑って流せば言いって言い聞かせて……。


 お父さん……。


「よくできた。後は私達に任せて」


 スージニアが私の顔に手を向ける。


睡眠魔法スリープ


 魔法がかけられた瞬間、猛烈な眠気に襲われて、私の意識は暗闇に落ちていく。



 意識が消える瞬間、ヨロイさんの事が脳裏によぎった。


 ヨロイさん。私……もう「天王洲アイル」じゃいられないよ……。




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