461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第249話 死闘 461vs九条

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 ~461さん~


 九条へ向かって駆け抜ける。先ほど投擲したクロウダガーに目を向けると、回転したダガーはダンジョンの壁面に向かって真っ直ぐ飛んでいた。

 ジークに聞いた話では、九条は閃光を超えた速度で動く。それはヤツの使う時壊魔法タイムクラッシュが時を操る能力だからだ。

 ……ただの探索者である俺にそれを正面から越える力を出す事はできない。だから、お前の弱点・・を突かせて貰う。

 ジークの話、そしてタルパから聞いたシンが九条という事実、シンについて俺が今まで見て来たもの……シンの「幸運スキル」が、時壊魔法を「低出力」で発動したものだとしたら……。

 そこから時壊魔法の弱点は予想できる。時間を操るなんて能力、人間が持ち合わせるには大き過ぎる。


 俺達人間に万能の力なんて無いんだよ、九条。


 そう考えた瞬間、目の前に九条が現れた。

 ……早速時壊魔法タイム・クラッシュを使ったか。想像はついていた。初回攻撃は正面から来る……俺に力の差を見せ付ける為の行動だからだ。俺の精神を揺さぶるために。

「死ね、461!!」

 ヤツがダガーを切り上げる。既に回避行動に入っていたが完全に避ける事はできず、ヘルムが切り裂かれて縦に亀裂が走った。

 ……この威力。ヤツのダガーには符呪が施されているな。鎧を装備している優位性は無いか。

「なに?」

 九条が怪訝な顔をする。ヤツの表情、攻撃を回避されるとは思っていない顔だ。行動が先読みされたとはまだ気付いていない。この隙に俺のペースに引き込ませて貰う。

「オラァ!!!」

 袈裟斬りにアスカルオの一撃を放つ。ヤツの肩に切先が触れた瞬間、九条の体が青く光る。それを認識した次の瞬間、無防備になった俺の右側面に九条が現れる。

「無駄だ」

 俺の認識では九条は瞬間移動したように見えるが、実際は「俺の認知がズレただけ」のはずだ。ヤツの時壊魔法で俺の動き、脳、思考、その全てが止められたんだろう。

 だが、それは全ての時を操作できる訳じゃねえ。操れるのは「九条自身の肉体」と「ヤツの視界の映ったもの」だけ。

 ジークの話を聞いた時そうだと仮定したが、それが今確信に変わった。


 なぜなら……。


「俺は時間を操れる。お前に俺は殺せない」

「本当にそうか?」


 ヤツが顔を顰めた次の瞬間、ダンジョンの壁面に反射したクロウダガーが、九条の背中にザクリと突き刺さった。

「がはっ……!? な、なんだと……?」

「武器の能力までは計算外だったかよ!!」

 九条が視界に映った物しか時間を操れないと確信したのは、ヤツの視覚外に飛んだクロウダガーがその動きを継続させていたからだ。壁に向かって飛び、反射することで俺へと戻ってくるクロウダガー。それが止まっていない以上、ヤツが止められる時間は視界に映った物だけだ。


 横目でタルパを見る。彼女の表情に不安の色は無い。タルパは俺の事信じてくれてるみたいだな……俺がシンを助けるつもりだってことを。なら、俺はこのままやるだけだ。


 時壊魔法には、まだ弱点がある。致命的な弱点が。それを突いていく。


 九条を蹴り飛ばしてアスカルオで九条の首を一閃する。血飛沫を上げた九条は床に膝を付いた。ヤツの背からクロウダガーを引き抜き、再び壁へ向かって投擲した。

「か……は……」

「立てよ九条。傷を巻き戻せるんだろ?」

「て、め゛ぇ……」

 九条の傷が治っていく。左手でアスカルオを薙ぎ払うとヤツの体が再び青く光った・・・・・

 時壊魔法の発動時、ヤツの体が青く光る。その光を俺が認知できるとすれば、俺の攻撃と同時。青く光れば時壊魔法は発動されている。つまり、ヤツは確定で攻撃を避けることになる。

 横一線の薙ぎ払い。この状況でヤツが現れるのは最も無防備な背後。右手でブレイジアナイフを引き抜く。

 そして俺の推測通り、背後に気配がした。

「死ね!!!」

「お前がな」

 左足を軸に回転し、真後ろに向かってブレイジアナイフを突き立てる。ヤツの腹部に突き刺さったブレイジアナイフ。九条は、自分の動きを読まれていた事に眼を見開いた。

「ぐぅ!?」

「お前が散々ジークに時間を操れると語ったのは時壊魔法が万能の力だと見せるためだ。テメェの弱点を読ませないようにするためにな」

「弱点だと……?」

「シラ切るんじゃねぇよ。お前の動き、煽り、全部相手に正確な判断をさせない為のもんだ。俺には通じねえ」

「ふざけんな!! 俺は!!」

 九条が叫ぶのを遮り、ヤツへ告げる。

「聞いてやりたいが悪いな。そろそろ3秒・・だ」

 脳内で3秒のカウントが終わった直後、九条に刺さったブレイジアナイフの切先から火柱が上がる。九条の体を貫くように炎が噴き出した。

「があ゛ああああああああああ!?」

 ブレイジアナイフを引き抜く。ヤツは反射的に腹に手を当てた。ヤツが時壊魔法を発動し、その手が淡く光る。

「回復させてる暇あんのか?」

 聞こえた風切り音を合図に半身をずらす。直後、反射で戻って来ていたクロウダガーがヤツの首筋を切り裂いた。

「ごふ……っ!?」

 ヤツを切り裂いたクロウダガーはそのまま壁面へ向かって飛んで行った。九条の喉元から噴き上がる血飛沫。ヤツが首を回復させた瞬間、アスカルオを一閃する。ヤツの胴体から横一文字に鮮血が噴き出し、再び九条が膝を付く。ヤツが胴体を回復させた瞬間、肩へアスカルオを突き刺した。

「があ゛!?」

 アスカルオを引き抜く。再度ヤツが傷を回復させた瞬間、袈裟斬りのフェイントをかけ、狙った場所に誘導する。誘導した後は簡単だ。ヤツを「殺す」一撃を加えるだけ。

 九条は確実に相手へ致命傷を与える動きをする。そんな相手は逆に誘導しやすい。隙を見せれば反射的にそこへ喰らいつく。今までのヤツの戦闘スタイルを逆手に取る。直接的な痛みを受けた九条は正確な判断ができず、俺の誘導通りに動く。それを繰り返していく。

 また九条の傷が治る。俺は、九条に全力でアスカルオを振り下した。

「ぐ……」

 九条の体が発光しない。それを確認した時。ヤツの首筋直前でアスカルオの斬撃を止める。

 九条の探索者用バッグを奪い、足で後方へ蹴り飛ばす。ヤツが他にアイテムを持っていないことを確認して、タルパに声をかけた。

「ヤツのバッグを頼む」

「だ、大丈夫なんですか……?」

「ああ。九条は魔力切れ・・・・だ。これ以上時壊魔法は使えねぇ」

 時壊魔法の話を聞いた時、タルパの空想魔法に近い性質だと考えた。この世界の理を歪めるほどの力。それを俺達人間が自由自在に使うのは無理だろう。だからこそ、空想魔法はとてつもない魔力を消費する。

 時壊魔法も同じだ。人間が使うには大きすぎる力。当然消費魔力が高いだろう。それに加えて九条の戦闘スタイル。魔力を温存するような力の使い方……魔力消費量が低いなら、もっと早くジークや俺達を殺せたはずだ。

 後はヤツに強制的に力を使わせればいい。魔力切れになるまで。だから……致命傷になる攻撃を浴びせ続ければ九条の時壊魔法は攻略できると考えた。

「回復魔法を使用するモンスターへの正攻法は敵の能力が尽きるまで殺し続ける・・・・・事だ」

 普通人間相手にここまでの攻撃はできない。人を殺す事に躊躇いがあるからだ。我ながら頭おかしい作戦だ。だが、俺にはそれしか勝ち目が無い。その為に全力で九条へ致命傷を与え続けた。


「まだだ……!!」


 九条が地面を握り締める。その眼は死んでいない。


  ……当然か。こんなあっけない決着はお互い望む所じゃねぇよな。


 アスカルオを鞘へ納め、戻って来たクロウダガーを受け止める。九条へ向けてその切先を向けた。


「来いよ九条。テメェは能力が使えねぇ。俺はそもそも能力がねぇ。これでフェアだろ? 本気で俺を殺しに来いよ」

 ……俺もこれで終わらせる気はねぇ。コイツは正面から叩き潰さねぇと俺の気が収まらねぇからな……!!

 九条がふらつく足を踏み締め起き上がる。ヤツは吐いた血を袖で拭った。

「お前を殺さねぇと俺はぁ……!!」

 九条がダガーを構える。その構えには一分の隙もない。以前池袋で式島と戦ったが、それと同等か、それ以上のプレッシャーだ。

「うおおおおおおお!!!」

 九条がダガーを構えて突撃する。放たれる斬撃。回避したつもりが肩装甲の一部を切断される。

 ……コイツ、能力に頼らなくても動きは一級品だ。式島や鯱女王と同じ第1世代探索者ってヤツか。

 ヤツが放った斬撃をクロウダガーで受け止め、その顔面に拳を叩き込む。九条に追い討ちをかけようとした瞬間、ヤツのダガーが胸部プレートを一閃した。回避が一瞬遅れる。胸部プレートが切り裂かれ、血飛沫が舞う。

「ぐっ……!?」

「時壊魔法を潰したからって調子乗ってんじゃねぇよ!!」

 九条が連続で斬撃を放つ。ダガーでいなすが、軽装な九条の方が動きが速い。ヤツの斬撃を避けるが半歩及ばず、傷口が増えていく。先程までのような読みやすい動きからも脱却している……気を抜くと殺られる。

「ふざけやがって!! ここまで来て邪魔されてたまるか!!!」

 九条が斬撃を放つ。避けた瞬間脚を祓われ地面に倒れ込む。追撃のダガーを躱した瞬間、ヘルムをガシリと掴まれた。

「賢人はなぁ……死ぬようなヤツじゃなかったんだ!! いつも誰かを守ってたんだよ!! みんなを引っ張ってたんだ!! それがなんでアイツが貧乏くじ引かなきゃならねぇ!! おかしいだろうが!!」

 ヘルムが剥がされる。九条がダガーを振り下ろす。ヤツの手首を掴んで何とか止めたが、ダガーの切先が俺の右眼寸前に迫る。


「ヨロイさん!!」


 横目で声の方を見ると、こちらに駆け寄って来るアイルの姿が見えた。

「来るなアイル!! 俺にやらせろ!!!」

 叫んだ瞬間、九条の力が強くなる。ヤツは、俺の顔を睨み付けて叫んだ。

「カナも賢人が生き返る事を望んでいたんだ!! それを余計な事しやがって!!」

「テメェはアイルを犠牲にしようとしただろうが!! 親友が助かったらアイルはどうなってもいいってか? 矛盾してんだよ!!!」

 ヤツのダガーを押し返す。無防備になったヤツの顔面に全力の拳を叩き込んだ。


「アイルはなぁ!!! いつも楽しそうにしてんだ!! 配信も!! 攻略も!! それをアイルから奪うな!!! アイルの親父だって娘が犠牲になって喜ぶ訳ねぇだろうが!!」

 馬乗りになって拳を叩き込む。何度も何度も叩き込む。何度目かの拳を振り下ろした瞬間、九条が上体を起こして頭突きを放つ。カウンターの形で頭突きが顔面に直撃し、目の前が点滅した。咄嗟に拳を放って追撃を防いだが、ヤツは俺の拘束から抜け出し、再びダガーを構えた。

「賢人が喜ぶ訳ないだと……? そんなもん生きてる奴が勝手に決め付けてるだけなんだよ!! ふざけんな!! 死んだヤツは死にたく無かったに決まってんだろうが!!」

 九条が飛び込み、ダガーの斬撃を放つ。クロウダガーでその刃を受け止める。ギリギリと軋む刀身。九条は、怒りの形相で喚き散らした。

「他の仲間にも言われたぜ……「賢人は子供を守って死んだ。立派だった」ってなぁ……ふざけんなふざけんなふざけんな!! 生きて帰るつもりだったに決まってんだろうが!! カナや楓の所に帰りたかったに決まってんだろうが!! 勝手に決め付けんじゃねぇ!!!」

 九条の力がさらに強くなる。

「だがアイツはもういねぇ! だったらどうすりゃいい!? 時間魔法で過去が改変できるなら、それに賭けるしかねぇんだよ!!」


「お前……それ本気で言ってんのかよ……!」


 時間魔法? 改変? ふざけるな。だからのアイルが消えちまってもいいと思ってんのかよ……! だからのジーク達に何してもいいと思ってんのかよ!!


 この男の矛盾に猛烈な怒りが湧き上がる。今までアイルが見せた笑顔が、ジークやミナセ、ユイ達が楽しそうにしていた姿が浮かぶ。そして、九条がアイツらにしたことも。

 左拳を握りしめる。ふざけるな。テメェが賢人ってヤツをどれだけ大事に思ってたかは分かったぜ……だけどなあ……!!

「それでお前がやった事を許す訳ねぇだろ!!!!」

 ヤツのダガーをクロウダガーの刃で絡めとる。バランスを崩したヤツの脚を払い、倒れ込んだヤツの右手を足で踏み付ける。九条の拳が緩んだ瞬間、ヤツのダガーを蹴り飛ばした。

「クソがあああ!!」

 飛びかかって来た九条の拳が頬に叩き込まれる。だが、痛みよりも怒りの方が勝っていた。ヤツの追撃に合わせるようにカウンターを叩き込む。

「お前がやろうとしてる事を止めねぇ訳ねぇだろうが!!!」

「うるせぇ!! テメェには分かんねぇんだよ!!!」

 九条が拳を放つ。その拳を左手で受け止め、クロウダガーを投げ捨てる。再びヤツが放った右拳を受け止め、両拳を手前に引いて頭突きを放つ。


「分かるから許せねぇんだよ!!!」


「がっ……!?」


「アイルはいつも笑ってんだよ!! ジークは優しいヤツだ!! ミナセとユイは喧嘩しても仲が良いんだよ!!」

「知るか!! 俺は……!!」

 九条の拳を受けても構わずその顔面を殴り続ける。


 お前はアイツらに何をした!?


 九条の反撃を紙一重で躱し、鳩尾に膝蹴りを入れる。くの字に曲がったヤツの胸ぐらを掴んで頭突きを放つ。九条の頭が跳ね上がる。その隙に拳を叩き込む。


 俺はアイツらみたいな過去も、願いも、信念も、何も無い! そんなペラッペラな人間の俺を!! 慕ってくれたアイツらに!! 信じてくれたアイツらに!!


 お前は何をしやがった!?


「テメェはミナセ達を引き裂いた!!」


 殴る。


「テメェはジークを否定しやがった!!!」


 殴り続ける。


「がはっ……っ!?」


「それに……!!」


 先ほどまでのアイルの顔が浮かぶ。いつものアイツと真逆の顔が。


 フラついた九条の顔面に全体重を乗せて右拳を放つ。


「俺のアイルを泣かせてんじゃねぇ!! このクソ野郎があああああああ!!!」


「があああああああああ!?」


 拳でヤツを地面に叩き付け、九条の胸ぐらを掴む。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 乱れた息を整えながらヤツの眼を覗き込む。そして俺は、大切な者を失った人間に最も残酷な言葉を告げた。


 桜田賢人を知らない俺だから言える、最も残酷な言葉を。


「いつまでも死んだヤツの事引きずってんじゃねぇよ……!」


「て……め……ぇ……」


 九条は、振り上げた拳をダラリと垂らし、意識を失った。


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