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第248話 彷徨う者達
しおりを挟む──461さんがアイルを説得している頃。
「次元魔法・刃」
イシャルナが右手に次元魔法の剣を出現させ、刀身を薙ぎ払う。彼女の斬撃によってシィーリアの目の前が真っ黒に塗り潰された。
「伏せるのじゃ!!」
地面に飛び込み斬撃を回避するシィーリア。彼女の声に続くように狼達も地面へ飛び込んだ。
「スージニア! 攻撃する!! 合わせろ!!」
シィーリアの叫びに遠方にいたスージニアが頷く。
スージニアの表情からは既に動揺の色は消えていた。元よりイシャルナとの戦闘に敗北すれば彼女にとって大切な九条自身も消えてしまうのだ。彼女にとってそれを防ぐ事が最優先事項であった。
「隙は私が作る」
スージニアが狼から降り、さらに3体の狼を召喚する。乗っていた個体も合わせて合計4体の狼達をシィーリアの加勢へ向かわせる。
一方、シィーリアの近くで斬撃を回避した2体の狼は、攻撃が止むと同時にイシャルナへ飛びかかった。
「単調な攻撃だな」
イシャルナは、飛びかかる狼を蹴り飛ばし、次元魔法の剣でその首を飛ばした。首を飛ばされ2体の狼が消滅する。しかし、その攻撃によってイシャルナに隙が生まれる。その隙にシィーリアが彼女の元へ踏み込んだ。
「螺旋撃!!」
シィーリアから放たれる蹴り。螺旋の軌道を描いた一撃がイシャルナを捉える。
が、イシャルナが目の前にいたにも関わらずシィーリアが放った蹴りは空を切った。その場にいたはずのイシャルナはどこへともなく消え去っていた。
「……ちっ。次元魔法を回避に使ったか」
イシャルナは次元魔法の力で亜空間の門を開き、その中に姿を隠していた。
周囲へ意識を向けるシィーリア。援護に到達した4体の狼が彼女を囲い、周囲を警戒するように唸り声を上げる。
次の瞬間、シィーリアの目の前に光の球体が現れる。球体が分身するように増え輪を作り、彼女の目の前に亜空間の門が現れた。
イシャルナが上半身を覗かせた瞬間、シィーリアが拳を放つ。彼女の拳をイシャルナが紙一重で避け、スルリと亜空間の門から抜け出て地面へ着地する。
イシャルナが右手に持つ次元魔法の剣で回転斬りを放つ。黒い斬撃が円を描く。シィーリアと2体の狼は上空へと飛び上がり攻撃を回避したが、回避が遅れた他の狼達は胴体を真っ二つにされ消滅した。
「なぜこの世界を巻き込む!? この世界の者達は関係無いじゃろ!?」
「……無数にあった選択肢の中で最もおぞましい存在、人間が支配するこの世界を選んだ」
「な、なんじゃと……?」
「奪い、略奪し、他者を虐げる歴史を持つ人間ども。我らの世界の人間と同じだ。一欠片の情けも湧かぬ」
イシャルナが連続で斬撃を放つ。シィーリアはそれを紙一重で避け、反撃の蹴りを放った。イシャルナがそれを体をのけ反らせて避ける。その瞬間を狙って狼がイシャルナの首に食らいつこうとするが、イシャルナは狼の首を掴み、あらぬ方向へ捻じ曲げた。
「それが全てでは無いのは分かっておるじゃろ! 妾が知っておる者達はそんな事は無い!! 少しでもアイルと接したお主にも分かっておるはずじゃ!!」
「……狭き世界しか知らぬ故そのような事が言えるのだ」
「分かっておらんのはお主の方じゃあ!!!」
イシャルナが放った斬撃を躱し、シィーリアがイシャルナの体へ拳を叩き込んだ。叩き込んだが……イシャルナの背後に亜空間の門が現れた。
「悪いなシィーリア。貴様の相手は後だ。我が部下と話をさせて貰う」
吹き飛ばされながらイシャルナは亜空間への門を開き、その中へと逃げ込んた。
「待て!!」
暗闇の中へ姿を消すイシャルナ。シィーリアが彼女を追ってその中へと飛び込もうとした瞬間、亜空間の門からイシャルナの手が伸び、次元魔法を発動した。
「次元魔法・波動」
直後、シィーリアの目の前に漆黒の波動が現れる。彼女は咄嗟に背後へと飛び退いた。
「厄介な魔法を使ってくれるのじゃ!!」
漆黒の波動がうねりとなってシィーリアへ襲いかかる。避けてもなお空中で踵を返して襲いかかる波動。シィーリアはその攻撃への対応を余儀無くされた。
……。
次にイシャルナが現れたのはスージニアの目の前だった。
亜空間の中は通常の空間とは異なる時間、物理法則の世界。イシャルナはその中を通る事で瞬時に空間を移動する事ができる。彼女の能力を把握していたスージニアは、イシャルナの両側面から狼を突撃させる。2匹の狼がイシャルナの両腕に噛み付いた。
「主人に牙を剥くか。何故だ? 我は貴様達を救済しようとしているのだぞ」
「……貴女には感謝してる、けど……九条様が死ぬのは、嫌……」
イシャルナが大きくため息を吐く。そして、冷たい眼差しでスージニアを睨み付けた。
「……所詮はただの女だったか。我の目が狂っていたようだ」
イシャルナの両手から漆黒の刃が現れる。彼女の両腕に噛み付いていた狼が跡形も無く消失してしまう。イシャルナが両手の刃を合わせると、彼女の右手には再び次元魔法の剣が握られていた。
「くっ……!!」
スージニアが片手を突き出すと、頭上に大ガラスが召喚される。大ガラスは、イシャルナへと襲いかかった。
「甘い。そのような攻撃は我に通じぬ」
イシャルナが空中へ飛び上がり大ガラスを一閃する。大ガラスは、彼女の一撃によって消滅した。
着地と同時にイシャルナがスージニアの髪を掴んで床へ叩き付けた。
「ぐぅっ……っ!」
「貴様は己が運命を呪っていたのではないのか? 貴様の村で起きた惨劇を忘れたとは言うまいな?」
「わ、私は……」
「焼け落ちたあの村には幼き子らや赤子までいた。何故そのような者達が死なねばならなかった?」
「……私達は何もしていない」
「分からぬのならば教えてやる。我らツノ無しが虐げられる運命にあるからだ」
イシャルナがスージニアの髪を掴んで持ち上げる。イシャルナの両腕、狼に噛まれた傷跡からボタボタと流れ落ちる血。彼女は漆黒の瞳でスージニアの顔を覗き込んだ。
「我らツノ無しは創生神の失敗作だ。魔族にも、神族にも、人族にもなれなかった出来損ない。突然変異によって生まれる異物……それが我らだ。その運命を変えるには根源そのものを断ち切らねばならぬ」
「何を……言っているのか分かりません……私はただ……居場所が欲しかった……」
「そのようなもの我らには無い。永遠に訪れる事は無い。このままではな」
イシャルナが手を翳すと、亜空間の門が出現する。
「貴様は愚かだが……我が同胞だ。全てが終わるまで暗闇を彷徨うが良い」
「い……いや……!!」
イシャルナが手を握りしめると、スージニアが亜空間の門へと飲み込まれてしまう。空中には門がある事を示す光の球が浮かぶだけであった。
◇◇◇
──シィーリア達が戦っている時。
「シャアアアア!!!」
「シャアアア!!」
「シャアアア!!!」
タルパマスターが召喚したサメクマ達が九条へ襲い掛かる。海ほたるでの配信の後、彼女がさらに修行を重ねて強化したサメクマは、その鋭い歯で岩をも噛み砕く存在になっていた。
「夢想魔法!」
タルパマスターがさらに夢想魔法でぬいぐるみ達を召喚する。撹乱と時間稼ぎにのみ集中する彼女は、数と驚異を与える事で九条の動きをコントロールしようと考えた。
サメクマ達とぬいぐるみが九条へ襲い掛かる。サメクマ達が九条を飲み込んだと思った次の瞬間。サメクマ達がピタリと動きを止めた。
「あれが、時壊魔法……」
動きを止めたサメクマ達の隙間を九条が進む。その手に握るダガーでぬいぐるみ達を切り裂きながら彼女へと向かってくる。タルパマスターは乗っていた狼を走らせ、追加のサメクマを召喚して九条の両サイドから襲わせた。
「シャアアアアア!!!」
「ふざけた攻撃しやがって」
九条がサメクマの噛みつきを紙一重で回避してダガーを一閃する。サメクマ達は中の綿を飛び散らせながら真っ二つになった。
「……なら!!」
タルパマスターが意識を集中する。上空に現れる氷の不死鳥。不死鳥は、九条目がけて氷結ブレスを放った。
「キュオオオオオオオオオ!!!」
「そんな攻撃当たらねえよ」
九条が呟いた次の瞬間、ブレスごと不死鳥が動きを止める。ダガーを投擲する九条。それが不死鳥の胸に突き刺さる。九条が不死鳥の元へ歩いていくと、不死鳥が地面へと落下した。
「ギュオオ、ォォォ……」
「死ね」
九条が不死鳥の胸からダガーを引き抜き、その頭部へと突き刺した。トドメを刺された不死鳥は、光となって消滅してしまった。
「そんな……」
タルパマスターに迷いが生まれる。彼女は思う。「時間操作にどうやって対応すれば」と。
距離を取りながらナーゴドリンクを飲んで魔力を回復させるタルパマスター。彼女が再び不死鳥を呼び出そうとイメージを固めた瞬間──乗っていた狼が消滅した。
「きゃあ!?」
タルパマスターが地面に投げ出されてしまう。彼女がシィーリア達の方向を見ると、スージニアが真っ暗な空間に飲み込まれるのが見えた。
「ウソ……イシャルナはあんな魔法が使えるの……?」
「おい」
声がしたと思った瞬間、彼女の首が掴まれる。九条はタルパマスターの首を掴んでゆっくりと持ち上げた。
「かは……っ!」
「諦めろ。お前はもうどうすることもできない」
「スー、ジニア……の話を聞いたでしょ? 時間魔法を使えばこの世界のマナが亡くなって滅びて……しまう。貴方は、騙されてる」
「……そんな事分かってんだよ。その上で俺はやってる。可能性さえ広げられればそれでいい」
「どう、いう事……?」
「今、時の迷宮は特異点だ。ここで起こるあらゆる可能性へ未来は分岐する。この時間軸の俺達が死のうが消えようが関係無いんだよ。分岐した世界にはな」
「……でも、私達が消える事に、変わりないじゃない!」
「はぁ……もう話すのもめんどくせぇ」
九条がダガーを振り下ろす。それがタルパマスターの首筋に刺さる瞬間、その切先がピタリと動きを止めた。
「……またかよ」
九条が苛立ちを込めた顔で呟く。手を見ると、ダガーを握りしめる手がブルブルと震えていた。まるで誰かに止められているように。
「シン……君?」
タルパマスターが直感的にそう感じた瞬間、九条が彼女を突き飛ばした。
2人の間を高速回転したクロウダガーが飛び去っていく。彼女はそれが鎧の男の攻撃だと気付いた。自分の役目を果たせたのだと。ダガーが飛んできた場所へ向かって全力で走る。クロウダガーの主、鎧の男の元へ。
「ありがとな、後は俺がやる」
「はい、お願いします」
タルパマスターが彼の背へ隠れると、九条がゆっくりと鎧の男へと目を向ける。
「……カナはダメだったか」
「テメェに俺の相棒を呼び捨てにされる筋合いはねぇ」
鎧の男が聖剣を構え、九条へ向かって宣言する。
「テメェは殺す。徹底的にな」
鎧の男は、九条へ向かって駆け出した──。
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