461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第260話 退屈、鯱女王

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 ──2032年。

 東京都、乃木坂ダンジョン周辺地区……鯱女王のマンション。


 ~鯱女王~


 符呪の模様を傷付けないよう慎重にガントレットの装甲を開いていく。中を覗くと、水を通すノズルに細かな亀裂が入っていた。これか……イァク・ザァドと戦って以降、鯱パンチの威力が想定より低かったんだよな。この傷のせいで圧力が逃げていたのか。

『ヤッホー流花るかちゃん! ちょっと聞いて聞いて!』

「……」

 思い出しただけでゾクゾクする。都庁に叩きつけられた一撃、再生の能力……そのどれもが初体験だった。僕の魂から悦びが湧き上がる感覚……しばらく寝付けなくてヤバかった。あんな敵ともう一度戦いたいな。

 手探りで箱を漁り、ガントレットの第3ノズル交換部品を取り出す。新品のノズルに交換し、別の箇所へ。

『株主総会の話したでしょ? それがねぇ~』

「……」

 うわぁ……内部構造がどれも傷んでる。相当ダメージ大きかったんだろうな。これはブーツも全部点検しないとな。

 早く点検終えないと次の攻略に行けないじゃないか。ここ最近は近場で体の慣らしをしていたけどそろそろ生死をかけた戦いをしないと……欲求不満で僕、死んじゃうよ。

『ホント信じられない! 株主のヤツら、もうニューモデルの発表を要求して来るのよ? 革新的機能を搭載しない新製品なんて何の価値もないっていうのに!』

「……」

 ……さっきから集中したいのに、邪魔者がずっと居座ってて集中できない。僕の周囲をドローンが飛び回り、そこからホログラムが写し出される。その光の先には、僕によく似た顔が映し出されている。

 その人物は、僕がめんどくさそうにしているのもお構いなしで自分の会社の愚痴を延々と聞かせて来た。

『それでねぇ……新型ドローンの開発用に良いテスターが居ないんだけどぉ。昔みたいにやってくれない? 鯱女王オルカ推薦モデルって箔もつくし』

「……うるさいな。僕は忙しいんだ。ママ・・の会社のテスターなんてやってらんない」

『そんな事言わないでぇ~! ほら、株式譲渡してあげるから!』

「報酬に見せかけて勝手に経営陣に入れようとするのやめなよ。僕はドローン会社なんて継ぐ気無いよ」

『はぁ……初めてドローン開発した時はあんなに素直だったのにぃ~』

 ママは目をウルウルと潤ませて目頭を押さえた。僕と似たような見た目でぶりっ子みたいな仕草するのやめて欲しい。気持ち悪いから。

 でも僕は知っている。この人のこういう仕草は演技だ。もっと内面はクレバーで自分の事しか考えてなくて、気が狂ってる。僕には分かるんだ。じゃなきゃ当時14歳の娘に探索者なんてやらせない。

「もう切るから。請求送っといて」

『あ!? 流花ちゃんはまた!』

 ママが暴れ出す前に蒼海のスキルを発動する。ペットボトルの中にあった水が空中に飛び出し、ドローンを包み込む。水球の中に閉じ込められたドローン。水球を圧縮して包み込んだドローンをグシャリと潰した。

『流花ちゃ──』

 ママの姿がプツリと消える。部屋が静かになって、やっと落ち着いた気がした。

 それにしても……。

「通話切る度に7ケタの請求書来るのも馬鹿らしいな」

 とはいえ集中を邪魔されるのは困る。僕は一刻も早くボスと戦いたいんだ。

 ガントレットを直しながら考える。ボス自体は久々だからとりあえず選り好みしないでおこう。

 六本木ヒルズのマザースパイダーは復活したんだっけ? 461が倒したクイーン化してるといいな。女王対女王……いいじゃないか。燃えるシチュだ。後は強ければ最高なんだけど。

 ちょっと遠出して日光東照宮に行くのもいいな。あそこのボスって何だったっけ? そう、確かエレパスとか言う象に似たボスだった。生態系が変わっていなければそのままいるだろうな。

 考えながら作業していると、突然インターホンが鳴った。


 ピンポーン。


 ……なんだ? 宅配とかは頼んでいないはず。

 ったく。せっかくママを追い出したっていうのになんだよ今日は。

「変なファンかもな。無視無視」

 ピンポーン。

 ブギ君なら喜んで入って貰うけど、彼の性格だったらいきなり押しかけて来たりしないはずだ。そもそも向こうから連絡して来ないだろうし。あ~思い出したらイライラしてきた。あの掲示板のヤツらなんで邪魔するのさ。


 ピンポーン。


 ……しつこいな。


 通報するか? いや、警察が来たらもっと厄介になる。前の家は特定されたせいでめんどくさい事になったし。できれば居留守で乗り越えたい。


 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン。


「あ゛ぁ!! うるさいな!!」


 腹が立ってドアホンの画面を付けると、高校生くらいの女子が映った。薄い青髪と紫のメッシュの入ったツインテールに、黄色いローブ。それに魔導士らしい杖を持った見知った少女が。


「ん? 461の相棒の……」


 天王洲アイルだ。そういえば、彼女からメッセージが数回来ていたかもしれない。攻略と関係無いから無視してたけど。


「邪魔されたく無いな」


 ドアホンを切ろうとした時、ブギ君の言葉が思い浮かんだ。新宿迷宮を攻略した後に掲示板で言われた言葉を。



 ──みんなに囲まれてる鯱女王見てると嬉しい気持ちになるんだ!





 ブギ君……。




 

 ……。




 (*^◯^*)スキナンダ!



 ふひひっ……可愛い……www


 ……よし、全然興味無いけど、頑張ってみよう。ブギ君の為に。


 ドアホンの通話ボタンを押す。すると、天王洲アイルが真剣な表情でカメラを見つめた。というかなんで僕の家を知ってるんだ? 誰にも言ってないはずだし、細心の注意を払っていたはず。なんでだ?


鯱女王オルカのマンションよね?』


「……何のよう?」

『アンタ、神様と戦いたくない?』


 神様?


 画面の向こうの天王洲アイルは不敵な笑みを浮かべる。


『そう、イァク・ザァドよりずっとヤバいラスボスと戦うの。アンタの力が必要よ』




 神様……ラスボス……?







 なんだそれ。ふざけてるのか?







 ったく。






「そんなの戦うに決まってるだろ!!!!」





 僕は初めて人を招き入れた。


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