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第268話 探索者の軌跡
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~461さん~
ヴォークノスを倒して素材やアイテムを分け合った俺達は、桜田賢人達と打ち上げをすることになってしまった。
しかも……。
なんと、賢人達に案内されたのは俺達も自分達の時代でよく通っている「冒険家B」だった。12年前から存在してたのかよこの店……。
賢人達に驚きを悟られないようにして窓から中を覗き込むと見慣れたスキンヘッドが見えた。マスターだよな、あれ。厨房の奥で誰かと話してるみたいだ。
「何してるんだ鎧の兄さん? 早く入ろうぜ?」
「あ、ああ。すまん」
賢人に声をかけられたその時、小さな影が飛び出してきた。
「おじさん! またエッチな本見てたでしょ!!」
店の中から小学校低学年ほどの女の子が飛び出して来る。ショートカットの整った顔立ちに赤いランドセル。ランドセルに吊るされた巾着袋には「1年3組 なごゆかり」と書かれていた。
次に彼女を追うようにしてマスターが店の中から飛び出して来た。マスター、めちゃくちゃ若いな。12年前だから当然か。
「違うんだよ友香里ちゃん! これは紳士の嗜みで……ちょ、親方には言わないでくれって!」
「ダーメ! 真面目に仕事してなかったっておじいちゃんに言うもんね~!!」
彼女は舌を突き出すようなジェスチャーをすると、タタタッと路地の方へ走って行ってしまう。それを見て困ったようにツルツルの頭を撫でるマスター。走り去る「なご」という少女……ナゴ? ナゴってもしかして……。
「はぁ……グラビア見てただけでそんなに怒られるかぁ……? まーた名護の親方にドヤされるなこれは……」
盛大にため息を吐くマスター。彼は俺達を見てコロッと表情を変えた。
「お、アンタ達探索者か? ウチは探索者も大歓迎だ! どーぞ入ってくれ!」
マスターに案内されて奥の席に着く。真新しい木の匂いのする店内はオープンしたてのようだった。
「昨日ここで昼飯食ったんだが蒼が気に入ったんだよ!」
ニカリと笑う賢人。「嬉しいねぇ」と呟くマスター。蒼がマスターにアラカルトを注文し、過去の九条……アラタとバーンが頼みすぎだと怒っていた。
しばらくすると他の探索者達もやってきて、店内が一気に騒がしくなる。外だと探索者はほとんど見かけなかったが、秋葉原周辺だけでも結構いたんだな探索者。きっと裏路地とか人目のつかない所を行き来していたんだろう。昨日の俺みたいな職質を警戒して。
12年前から冒険家Bは探索者達の憩いの場だったのかもしれない。
……。
打ち上げもひと段落着いた頃、外のトイレで用を足して店に戻ろうとすると、店の前に賢人がいた。誰かに電話してるのか?
聞いてはいけないと思いつつ、なんとなく前を通るのは気が引ける。俺は店の角で賢人の電話が終わるのを待った。
「ああ、もうちょい稼いだら帰るよ。うん、うん、分かってるって。クリスマスにはそっちにいるからよ。あ、いや、この前はさ、ちょっと……ほら、ミスったせいで遅れただけで」
何かの言い訳をする賢人。電話相手は嫁さんか。所帯持ちの探索者は大変だな。
しばらくやり取りをした後、賢人の口調が変わる。普段より高く、甘やかすような声に。
「お~カナ! 幼稚園はどうだ? うん、うん、そうか! やっぱカナはすごいなぁ~!」
カナ……子供の頃のアイルだな。
ふとアイルの顔が脳裏をよぎる。ここに飛ばされる直前の顔。悲しそうな顔が……クソッ。待ってるよな、アイルのヤツ。こんなのんびりしてていいのかよ。
「うぉ!? 聞いてたのか!?」
考えていると、通話を終えた賢人が俺に気付いた。
「家族に電話してたのか?」
「ああ。嫁さんが怖くてよ~! 来週には帰らねぇとヤバそうだ」
「悪い、聞いちまったんだが……子供も待ってるんだろ? アンタの事を」
アイルの話題を振ると、賢人はパッと笑顔になる。しかし何か思う所があったのか、彼はすぐに暗い顔になってしまった。賢人は壁を背にしてしゃがみ込んだ。
「そうだな……待ってるはずだ。もうすぐクリスマスだってのによ、帰るって即答できねぇ……俺はダメだ。ダメな親父だよ」
「なんで帰れねぇんだよ?」
「……もし潜ったダンジョンでモンスターが狩り尽くされてたら? 宝が根こそぎ取られちまってたら? 稼ぎは0だ。そう思うとどうしても「もっともっと」ってなっちまう。安心できねぇのさ」
確かにダンジョン探索で稼ぐのは安定しない。モンスターやアイテムも時間が経ってから復活するからな。ボスと違って復活までの日数は数日だが、運悪く攻略後のダンジョンに当たってしまうと無駄骨になっちまうな。
「ふぅん。ダンジョンで稼ぎながら家族養うってのは大変なんだな」
家族を養うなら安定した稼ぎがいる、か。俺もリレイラさんに申し訳ないと思う日が来るのだろうか?
シィーリアが言っていた事を思い出す。子供の事。まだ付き合いだしたばかりで全然考えられないが、いずれそういう事も考えないといけないのかも。
「カナ……娘とも遊んでやる方がずっといいだろ? 俺は普通の父親じゃねぇ。父親としてアイツに何1つだって与えられてねぇんだ」
悲しそうな顔をする賢人。そうなんだろうか。アイルは親父さんから何も貰ってねぇのか? アイツが親父さんを求めていたのは間違いないけどよ。
「そんな事……ないだろ」
俺にはアイルや親父さんの気持ちは分からない。俺は引きこもりだったし、親との仲も良くなかったしな。だけど……。
幸か不幸か俺はアイルの代わりに親父さんに出会ってしまった。そんな俺がアイツにしてやれる事はなんだ?
色々頭を巡らせてみる。だけど、どれだけ考えてもこれしか思い浮かばなかった。
俺にはダンジョンしかない。ダンジョンの事しか分からない。だけど、アイルとも親父さんともダンジョンを通じて知り合った。そんな俺に出来る事は……。
「なぁ、今まで攻略して来たダンジョンの事、教えてくれよ」
「は? なんだよ急に?」
賢人が怪訝な顔をする。ミスったな。話をぶった斬ったみたいになっちまった。なんて言おうか迷うが、上手い言葉を思いつかない。
「あ~……ほら、アレだ。いつか俺がアンタの子供とパーティになってダンジョンに潜る事もあるかもしれないしな。アンタが攻略したダンジョンに挑むのも楽しいかもなって」
う……我ながら苦しい理由だな。普通に考えてありえねぇだろ。
「なんだよそれ? カナが探索者? ないない……と言いたい所だがあり得るかもしれねぇなぁ~」
賢人はニンマリと笑ってアイルの自慢話を始めた。運動神経がいいとか発想力が凄いとか、とにかく褒めまくっていた。これは……親バカってヤツか?
マシンガンのように娘の自慢話をした賢人は、急に真面目な顔になった。
「ま、そうなったら嬉しいがな。複雑さ、危険な事に変わりはねぇからよ。楓が許すか分からねぇし」
黙り込む賢人。俺は……考えるより先に口が動いていた。
「アンタの娘はいい探索者になる。俺が保証するよ」
「なんでそんな事分かるんだよ?」
「勘ってヤツだ。アンタも良い探索者だ。そんな親父の背中を見た子供だ。絶対なるぜ。絶対な」
少し考えるような素振りをした後、賢人はふっと笑った。
「面白いヤツだな、鎧の兄さんは」
……。
その後、店の中に戻った俺は賢人から今まで攻略したダンジョンの話を聞いた。そこに彼のパーティメンバーが加わり、どこへ行ったのか、何と戦ったのか、どんな事があったのかを教えてくれた。
いつの間にか店内にいた探索者はみんな賢人達の話に聞き入っていた。ダンジョン攻略の軌跡はみんな興味があるんだろう。ある者は未知のダンジョンへ思いを馳せ、ある者は秘宝に胸を高鳴らせたような顔をする。
まるで賢人達の講演会……いや、舞台みたいだ。手に汗握る冒険の話。身振り手振りを交えた彼らの冒険譚は、聞くだけでワクワクした。
全てが片付いたら、アイルと一緒に聞いたダンジョンを巡るのもいいかもなぁ。
「……ん?」
ふと目をやると、この時代の九条アラタが目に入った。仲間と笑い合っている姿が。その姿はアイル達と何ら変わらない。冒険を心から楽しむ探索者そのものだ。
あんな笑い方をするヤツが……なぜ俺達の知っている九条アラタになっちまったんだろうな。
ヴォークノスを倒して素材やアイテムを分け合った俺達は、桜田賢人達と打ち上げをすることになってしまった。
しかも……。
なんと、賢人達に案内されたのは俺達も自分達の時代でよく通っている「冒険家B」だった。12年前から存在してたのかよこの店……。
賢人達に驚きを悟られないようにして窓から中を覗き込むと見慣れたスキンヘッドが見えた。マスターだよな、あれ。厨房の奥で誰かと話してるみたいだ。
「何してるんだ鎧の兄さん? 早く入ろうぜ?」
「あ、ああ。すまん」
賢人に声をかけられたその時、小さな影が飛び出してきた。
「おじさん! またエッチな本見てたでしょ!!」
店の中から小学校低学年ほどの女の子が飛び出して来る。ショートカットの整った顔立ちに赤いランドセル。ランドセルに吊るされた巾着袋には「1年3組 なごゆかり」と書かれていた。
次に彼女を追うようにしてマスターが店の中から飛び出して来た。マスター、めちゃくちゃ若いな。12年前だから当然か。
「違うんだよ友香里ちゃん! これは紳士の嗜みで……ちょ、親方には言わないでくれって!」
「ダーメ! 真面目に仕事してなかったっておじいちゃんに言うもんね~!!」
彼女は舌を突き出すようなジェスチャーをすると、タタタッと路地の方へ走って行ってしまう。それを見て困ったようにツルツルの頭を撫でるマスター。走り去る「なご」という少女……ナゴ? ナゴってもしかして……。
「はぁ……グラビア見てただけでそんなに怒られるかぁ……? まーた名護の親方にドヤされるなこれは……」
盛大にため息を吐くマスター。彼は俺達を見てコロッと表情を変えた。
「お、アンタ達探索者か? ウチは探索者も大歓迎だ! どーぞ入ってくれ!」
マスターに案内されて奥の席に着く。真新しい木の匂いのする店内はオープンしたてのようだった。
「昨日ここで昼飯食ったんだが蒼が気に入ったんだよ!」
ニカリと笑う賢人。「嬉しいねぇ」と呟くマスター。蒼がマスターにアラカルトを注文し、過去の九条……アラタとバーンが頼みすぎだと怒っていた。
しばらくすると他の探索者達もやってきて、店内が一気に騒がしくなる。外だと探索者はほとんど見かけなかったが、秋葉原周辺だけでも結構いたんだな探索者。きっと裏路地とか人目のつかない所を行き来していたんだろう。昨日の俺みたいな職質を警戒して。
12年前から冒険家Bは探索者達の憩いの場だったのかもしれない。
……。
打ち上げもひと段落着いた頃、外のトイレで用を足して店に戻ろうとすると、店の前に賢人がいた。誰かに電話してるのか?
聞いてはいけないと思いつつ、なんとなく前を通るのは気が引ける。俺は店の角で賢人の電話が終わるのを待った。
「ああ、もうちょい稼いだら帰るよ。うん、うん、分かってるって。クリスマスにはそっちにいるからよ。あ、いや、この前はさ、ちょっと……ほら、ミスったせいで遅れただけで」
何かの言い訳をする賢人。電話相手は嫁さんか。所帯持ちの探索者は大変だな。
しばらくやり取りをした後、賢人の口調が変わる。普段より高く、甘やかすような声に。
「お~カナ! 幼稚園はどうだ? うん、うん、そうか! やっぱカナはすごいなぁ~!」
カナ……子供の頃のアイルだな。
ふとアイルの顔が脳裏をよぎる。ここに飛ばされる直前の顔。悲しそうな顔が……クソッ。待ってるよな、アイルのヤツ。こんなのんびりしてていいのかよ。
「うぉ!? 聞いてたのか!?」
考えていると、通話を終えた賢人が俺に気付いた。
「家族に電話してたのか?」
「ああ。嫁さんが怖くてよ~! 来週には帰らねぇとヤバそうだ」
「悪い、聞いちまったんだが……子供も待ってるんだろ? アンタの事を」
アイルの話題を振ると、賢人はパッと笑顔になる。しかし何か思う所があったのか、彼はすぐに暗い顔になってしまった。賢人は壁を背にしてしゃがみ込んだ。
「そうだな……待ってるはずだ。もうすぐクリスマスだってのによ、帰るって即答できねぇ……俺はダメだ。ダメな親父だよ」
「なんで帰れねぇんだよ?」
「……もし潜ったダンジョンでモンスターが狩り尽くされてたら? 宝が根こそぎ取られちまってたら? 稼ぎは0だ。そう思うとどうしても「もっともっと」ってなっちまう。安心できねぇのさ」
確かにダンジョン探索で稼ぐのは安定しない。モンスターやアイテムも時間が経ってから復活するからな。ボスと違って復活までの日数は数日だが、運悪く攻略後のダンジョンに当たってしまうと無駄骨になっちまうな。
「ふぅん。ダンジョンで稼ぎながら家族養うってのは大変なんだな」
家族を養うなら安定した稼ぎがいる、か。俺もリレイラさんに申し訳ないと思う日が来るのだろうか?
シィーリアが言っていた事を思い出す。子供の事。まだ付き合いだしたばかりで全然考えられないが、いずれそういう事も考えないといけないのかも。
「カナ……娘とも遊んでやる方がずっといいだろ? 俺は普通の父親じゃねぇ。父親としてアイツに何1つだって与えられてねぇんだ」
悲しそうな顔をする賢人。そうなんだろうか。アイルは親父さんから何も貰ってねぇのか? アイツが親父さんを求めていたのは間違いないけどよ。
「そんな事……ないだろ」
俺にはアイルや親父さんの気持ちは分からない。俺は引きこもりだったし、親との仲も良くなかったしな。だけど……。
幸か不幸か俺はアイルの代わりに親父さんに出会ってしまった。そんな俺がアイツにしてやれる事はなんだ?
色々頭を巡らせてみる。だけど、どれだけ考えてもこれしか思い浮かばなかった。
俺にはダンジョンしかない。ダンジョンの事しか分からない。だけど、アイルとも親父さんともダンジョンを通じて知り合った。そんな俺に出来る事は……。
「なぁ、今まで攻略して来たダンジョンの事、教えてくれよ」
「は? なんだよ急に?」
賢人が怪訝な顔をする。ミスったな。話をぶった斬ったみたいになっちまった。なんて言おうか迷うが、上手い言葉を思いつかない。
「あ~……ほら、アレだ。いつか俺がアンタの子供とパーティになってダンジョンに潜る事もあるかもしれないしな。アンタが攻略したダンジョンに挑むのも楽しいかもなって」
う……我ながら苦しい理由だな。普通に考えてありえねぇだろ。
「なんだよそれ? カナが探索者? ないない……と言いたい所だがあり得るかもしれねぇなぁ~」
賢人はニンマリと笑ってアイルの自慢話を始めた。運動神経がいいとか発想力が凄いとか、とにかく褒めまくっていた。これは……親バカってヤツか?
マシンガンのように娘の自慢話をした賢人は、急に真面目な顔になった。
「ま、そうなったら嬉しいがな。複雑さ、危険な事に変わりはねぇからよ。楓が許すか分からねぇし」
黙り込む賢人。俺は……考えるより先に口が動いていた。
「アンタの娘はいい探索者になる。俺が保証するよ」
「なんでそんな事分かるんだよ?」
「勘ってヤツだ。アンタも良い探索者だ。そんな親父の背中を見た子供だ。絶対なるぜ。絶対な」
少し考えるような素振りをした後、賢人はふっと笑った。
「面白いヤツだな、鎧の兄さんは」
……。
その後、店の中に戻った俺は賢人から今まで攻略したダンジョンの話を聞いた。そこに彼のパーティメンバーが加わり、どこへ行ったのか、何と戦ったのか、どんな事があったのかを教えてくれた。
いつの間にか店内にいた探索者はみんな賢人達の話に聞き入っていた。ダンジョン攻略の軌跡はみんな興味があるんだろう。ある者は未知のダンジョンへ思いを馳せ、ある者は秘宝に胸を高鳴らせたような顔をする。
まるで賢人達の講演会……いや、舞台みたいだ。手に汗握る冒険の話。身振り手振りを交えた彼らの冒険譚は、聞くだけでワクワクした。
全てが片付いたら、アイルと一緒に聞いたダンジョンを巡るのもいいかもなぁ。
「……ん?」
ふと目をやると、この時代の九条アラタが目に入った。仲間と笑い合っている姿が。その姿はアイル達と何ら変わらない。冒険を心から楽しむ探索者そのものだ。
あんな笑い方をするヤツが……なぜ俺達の知っている九条アラタになっちまったんだろうな。
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