461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第274話 新たなる剣

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 ~ジークリード~

 廊下に出てハルフェルメイド長を探す。片目のせいで距離感を掴めず、至る所に体をぶつけてしまうが構わず進む。手すりに捕まりながら踊り場の階段を降りた時、ミナセとユイが慌てて駆け寄って来た。

「カズ君……どうしたの!?」
「なんで装備着てるんだよ!?」

「先ほどリレイラさんから連絡があった。秋葉原にモンスターが出現したらしい」

「今見てたけどカズ君ボロボロじゃん……それでも行くの?」

 ミナセが真剣な表情で俺の瞳を覗き込んでくる。

「……それでも行きたいんだ。今行かなければ多くの犠牲者が出る。片目に慣れなければいけないなら、意地でも慣れてみせる」

 そう返すと、ミナセもユイもなぜかニッと笑みを浮かべた。

「カズ君! 先に行っちゃダメだからね!!」
「アタシ達がサポートするからな!」

 2人が階段を駆け上って行く。装備を取りに行ったのか。一切のためらいなく俺について来ると言ってくれた……2人には感謝しかない。

 ……俺も準備を整えないと。今の俺には武器がいる。バルムンクは無くとも俺は戦う。戦わなければならない。守らなければならない。それが俺のやりたい事だから。

 廊下を進み、ハルフェルメイド長を見つけた。俺の顔を見た彼女はうやうやしく頭を下げた。

「ハルフェル、この屋敷にある武器を使わせてくれ」

「そのお言葉……お待ちしておりました」

 俺の言葉を待っていた? どう言う事だ……?

「どうぞこちらへ」

 近くにいたメイドにミナセ達へ伝言を頼み、俺はハルフェルの後に続いた。屋敷の中を別棟へ進み、地下への階段を降りていく。ハルフェルが立ち止まった扉、そこには見覚えがあった。

「ここは……」

「ジーク様が子供の頃、この部屋に入ろうとしてシィーリア様に注意された事がございましたね」

 ハルフェルが扉を開ける。中は武器が展示されてる部屋だった。いくつもの珍しい武器。その中の1つへハルフェルが歩み寄る。

 それは……異世界文字が刻まれた西洋剣だった。鎧の武器、アスカルオのように鞘に異世界文字が刻まれており、根本に宝石が埋め込まれたつるぎ……しかし、アスカルオより刀身は細く、剣速を重視した設計のように見える。ハルフェルは、膝を付いてその剣を俺へ差し出した。

「シィーリア様の家に古くから伝わる宝剣にございます。ジーク様が再び立ち上がった時に最も必要になる物だと」

「シィーリアが?」

「……その刃、神速を超える時、魔の術を断つ・・・・・・。我らが世界でも屈指の業物……『魔断まだんつるぎ』。どうぞお手に」


 差し出された剣を掴んで鞘から剣を抜いてみる。その刀身にも異世界文字が刻まれており、文字の1つ1つが青い光を放っていた。

「シィーリア様はこの魔剣に「グラム」と名を与えました。この世界の神話において、折れた名剣より生まれたと言われる魔剣の名……今のジーク様に相応しい剣だと思います」

「魔剣、グラム……」

 先程頭に浮かんだシィーリアの言葉が蘇る。俺はシィーリアのおかげで再び戦おうと思えた。シィーリアは俺がもう一度立ち上がれると信じてこの剣を残してくれたのか……。

 剣を数度振ってみる。紫電の剣よりもずっと軽い。閃光を使えば、相当な切れ味を発揮できそうだ。

「そしてもう1つ渡す物が」

 ハルフェルが懐から何かを取り出す。彼女の両手に乗ったそれは「黒い眼帯」だった。瞳のような魔法陣の描かれた眼帯。彼女に促されるままに左眼へそれを付けると、目の前が淡く光り……左目が・・・見えるよう・・・・・になった・・・・


「目が……見える」


 周囲を見回してみても左眼を失う前と一切変わらない。驚いてハルフェルを見ると、彼女は優しく微笑んだ。

 
「その眼帯には眼界魔法オキュラスが符呪されております。眼界魔法は視神経と魔法陣を繋ぎ視界を広げる魔法。それを利用し、失った左眼を見えるようにとシィーリア様が符呪された物です」

「シィーリア……」

 シィーリアの残してくれた物が大きすぎる。俺は、何と礼を言ったらいいんだ……。

 ハルフェルが真剣な顔付きになる。俺を射抜くような瞳に、全身が引き締まるような感覚がする。

「ジーク様。貴方が求めなければ魔剣はこの部屋で眠っているだけでした。ジーク様が進まなければその眼帯は光を灯す事はありませんでした。それを、お忘れなきよう」

「ハルフェル……」

「貴方様が今やるべき事はここで感謝の念に興じている事では無いはずです」

 ……そうだな、ここでこうしている場合じゃない。シィーリアやみんなが俺を信じてくれたのなら……俺はジークリードとしてやるべき事をやるだけだ。

「ありがとう、俺は行くよ」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 剣を握りしめて廊下を駆け抜ける。踊り場でミナセ達と合流して、俺は屋敷を飛び出した。




◇◇◇

 ──東京都千代田区、秋葉原。

 大通りの裏手に位置する電気街通りでは、探索者達が慌てふためいていた。


「モンスターが出たぞ!?」
「おい、逃げないで戦え!」
「俺はアイテム販売専門なんだよ!」
「どけ!!」
「ひいいい!?」
「やってやる!!」
「店を壊されてたまるか!!」


 空が青く光ったと思った次の瞬間、路上にモンスター達が溢れ出したのだ。一部の探索者達は協力して戦っているものの、強力なモンスターの群れに徐々に押され始めていた。

 モンスターは「時空の歪み」から出現していた。それは今から2日後に現れる時間神エモリアの影響なのだが、2日前に生きる彼らには知る由もなかった。

 この秋葉原という土地は2度目のモンスターの襲撃を迎えた。幸いなのは、今この土地には探索者しかいない事。それが被害を最小限に留めていた。彼らの探索者としての経験が、何とか死者を出さずに済んでいた。

 そんな中、2人の男女が路地を走っていた。大通りに面した方内武器店ほううちぶきてんを営む兄妹が。

「こっちッス! 早く!」

「ま、待ってよミネミ!」

 逃げ続ける兄妹。大通りにもモンスターが現れた事で裏通りへと逃げたものの、彼らの想定に反して、そちらへもモンスターが現れていた。

 妹のミネミは運動神経が良く、障害物の隙間を縫うように走っているが、兄のワタリは他の探索者が倒した熊型モンスター、ガウルベアの死骸に足を取られ、盛大に倒れ込んでしまった。

「わぁ!?」

「何やってるっスかお兄ぃ!?」

 その時、ビルの隙間から巨大な蛇型モンスターが現れた。12年前に出現した蛇型モンスター「ミズォルム」。5階建てのビルほどの大きさがあり、神経毒を有した凶悪な牙を持つ大蛇が。

「シャアァァァァ……」

 ワタリに気付いたミズォルムがチロチロと舌を出しながら彼の元へ向かう。

「お兄!! 早くこっちに来るッス!! 追い付かれるっスよ!!」

「わ、分かってるけど……!」

 ワタリが起き上がって妹の元へ駆け出そうとした瞬間、倒れていたガウルベアがワタリの脚を掴んだ。鋭利な爪が彼の足に食い込みジワリと血が滲む。

「ぐう……っ!? コイツ、まだ生きて……!


 ワタリが腰のナイフを抜き、ガウルベアの頭部に何度も突き刺す。痙攣したガウルベアがバタリと倒れ込むが、ワタリの傷は深く、その場から動けないようだった。

 大蛇ミズォルムがワタリへ近付いていく。ミネミが助けに向かおうとするが、その足は大蛇のプレッシャーにガタガタと震えていた。ミネミが周囲に向かって叫ぶ。


「誰か……! お兄を助けて!!」


 必死になって救いを求めるミネミ。近くでモンスター達と戦っていた探索者達も何とか彼女の声に答えようとするが、複数体現れたガウルベアによって行く手を阻まれてしまう。


「おい! 方内武器店ほううちぶきてんの兄ちゃんが危ねぇぞ!」
「誰か動けるヤツはいねぇのか!?」
「こっちも手一杯だって!」
「クソォ!! このガウルベア強すぎる!!」


 動けない探索者、迫る大蛇。ワタリがジリジリと後ずさる。獲物が弱ったと悟ったミズォルムは大口を開けた。



「シャアアアアアアアアア!!!」

「うわああああああ!?」

「お兄……!? 嫌ああああああ!!!」



 大蛇がワタリへ襲いかかったその時。



 ── 閃光・・が走った。


 銀色の閃光。それが大蛇を一閃する。


 次の瞬間、大蛇の胴体に深い傷が刻まれ、空へ盛大に血飛沫が上がった。


「ギシャアアアアアアアアア!?」


 苦しみの声を上げる大蛇。呆然とするワタリの前に、1人の男が降り立った。


 体にフィットした銀色のスーツ。その手に異世界文字が刻まれた剣を持ち、左眼に眼帯をした男が。


 その男は、その場にいた全員が知っている男だった。眼帯をしていようとも、武器が違おうとも皆が彼を知っていた。彼の今までの配信を見て来た探索者達にとって、その男は知らないはずが無かった。自分達探索者が危機に陥った時、必ず助けに来てくれる存在だったのだから。


「ジークリードだ!! A級探索者が来てくれたぞ!!」


 誰かが叫んだ瞬間、周囲が歓声に沸き立つ。先程までの悲観的な空気は一瞬にして変わっていた。その歓声の中心で、ジークリードはワタリとミネミの兄妹へ視線を向ける。



「安心しろ。このモンスターは俺が倒す」



 それは──悲劇に翻弄された少年が、全てを否定された青年が、真の英雄になった瞬間だった。




 
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