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第273話 復活のジークリード
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時は遡り、461さん達がまだ過去に飛ぶ前。彼らがシィーリアの屋敷を出発した日の夜。
──東京渋谷区、シィーリアの屋敷
~ジークリード~
「鎧さん達が九条達を追って東京パンデモニウムに……?」
「はい。461様達と共に向かわれました」
「な、なんでみんなを向かわせたのさ!? 私達も行った方が……!!」
「もはや猶予は残されていない……シィーリア様はそのようにおっしゃっておりました」
「でも!!」
視界の隅でミナセがメイド長のハルフェルを問い詰めている。鎧達が出発する頃、彼女とユイはまだ意識が無かった。だから気が動転しているのかもしれない。
「マイ、今ならまだ間に合うかもしれない。みんなを追いかけよう!」
身支度を整えながらユイが言う。九条とスージニアに手も足も出なかったのに、仲間の為にそんな風に言えるユイが羨ましかった。
「やめておけ。俺達が行っても……足手纏いになるだけだ……」
「カズ君……」
「和巳! そんなこと……!」
ミナセとユイは同時に俺を見て、ある一点に目を向けて俯いてしまった。その視線の先は分かっている。俺の左眼……九条に負けた証を見ていると、俺には分かった。
「和巳は……それでいいのかよ……? アイルが攫われたんだぞ……? ジークリードが仲間を見捨てるのか!?」
ユイが俺の胸倉を掴んだ。だけど、その眼は泣きそうだった。そんな風に感情が昂る事ができるのが羨ましい。今の俺には……無理だ。悲しいとか、怒りとか、そんな感情すら湧き上がって来ない。ただ無力感だけがずっと俺を襲っている。
俺は……。
「なんとかいってくれよ!!! ジークリードはそんなヤツじゃないだろ!? 私の……きな……ジークは、和巳は……そんなヤツじゃ、ないだろ……」
「悪いが……俺には無理だ。無理だと分かってしまったんだ……俺にそんな、資格は無い」
「嘘……だ……そんな事言うなよ!! 和巳はもっと強くて、優しく、それで、それで……」
ユイは俯いて泣き始めてしまった。その顔を見て辛いと思う気持ちが湧いてくる。そんな自分が許せない。何を今更……そんな風に思うのなら、あそこで勝たなければならなかったんだ。あの場で九条に負けた俺に、そんな事を思う資格はない。紫電の剣を奪われた俺に、そんな……資格は無い。
「ユイ、今はカズ君をそっとしておいてあげて」
ミナセが俺の手を取った。その顔は優しげで、それが辛くて、俺はまた自分が嫌になった。
「ね、カズ君。カズ君はきっと今疲れているだけ……だってジークリードとして今までずっと頑張って来たんだもん。緊張の糸がプツって切れちゃっただけだよ。今はゆっくり休んで? カズ君ならきっと大丈夫だから」
「俺は……そんなことは……」
ミナセが静かに首を振る。
「自分で追い詰めちゃうことってあるの。そういう時は悪いことしか考えられなくなる……私には分かるよ。私も九条商会にいた時、そうだったから。だけど、大丈夫。カズ君なら、大丈夫」
大丈夫……そういえば昔、そんな事を言われた気がする。
「ユイ。今はカズ君を1人にしてあげよ。それに、私達だって闇雲に出て行っても仕方ない。ハルフェルから状況をちゃんと聞かなきゃ」
ミナセがユイとハルフェルを連れて部屋を出ていく。パタンと閉じた扉の向こうで、ミナセとユイの話す声が聞こえた。
(アイルはどうするんだよ!?)
(アイルちゃんの所へは鎧さんとシィーリアが向かってるんでしょ? あの2人なら信じられる。今はカズ君の側に居てあげたいの。ユイも居てあげて?)
(……クソッ、分かったよ)
ドアの向こうの会話。そうだ、子供の時と同じだ。秋葉原の事件の後、入院していた時の俺も絶望していて……シィーリアが俺に大丈夫と言ってくれたんだ。変わらないな俺は……あの頃から何も変わっていない。
ベッドに横になる。目を閉じると、あの探索者の背中が浮かんだ。俺を助ける為に戦ってくれた探索者の姿が。
あの探索者のようになりたい。その意志を継いで、誰かを守れる存在になりたい。そう思って来た。
だけど……無理だった。俺は守りたいものすら……守れないんだ。
俺は、何も考えたくなくて目を閉じた。
◇◇◇
……ん、眠っていたのか?
スマホを手で探って時間を見る。今は……朝9時か。随分眠ってしまったな。夢を見なかったことだけは……助かった。
ベッドから降りて着替えようとした時、テーブルに脚をぶつけてしまった。片眼だから距離感が掴めないのか。クソ……日常生活ですら思い知らされるなんて……。
そんな事を考えているとスマホが鳴った。ディスプレイには鎧達の担当「リレイラ・ヴァルデシュテイン」の名前が映し出されている。鎧達に何かあったのか?
……。
一瞬迷ったが、俺の意思に反して指は通話ボタンをタップしていた。恐る恐るスマホを耳に当てる。
『ジーク君……ミナセ君達の目は覚めたか!? 緊急の頼みがあるんだ!』
ミナセ達?
彼女の焦ったような言葉に嫌な予感がした。
「何か……あったのか?」
『秋葉原にモンスターが大量に現れたんだ! 今現地の探索者が対応しているが、このままじゃ……』
「どういう事だ……? 神田明神からモンスターが流出する事は、もう……」
12年前の事件の後、管理局はダンジョンの魔法障壁をより強固にした。そこからモンスターが現れるなんて、ありえない。
『恐らく、ヨロイ君達が向かっている時の迷宮の力だと、思う』
「時の迷宮……? なんだそれは?」
『状況は後で説明する! だけど、今は一刻も早く秋葉原に!』
彼女の焦ったような声が頭に響く。理由は分からないが、秋葉原にモンスター? そんなの、12年前と同じじゃないか……。
『君の状態は分かっている。分かっているが……頼む。君が動けないならミナセ君とユイ君だけでいい。秋葉原へ向かってくれないか? 秋葉原エリアをモンスターが突破してしまえば、一般人が……』
鼓動が早くなる。一般人に犠牲者が出る? そんな状況でミナセ達だけに行かせる訳には……いや、だが、俺が行って何ができる?
今の俺には武器もない、まともに歩くことさえできない。そんな俺に……何ができる?
だが……今行かなければあの時の俺のような者が出てしまう。酷い目に遭ってしまう者が。
脳裏に再びあの時の光景が浮かぶ。散乱する蓮達のランドセル。血塗れになって座り込んでいる命の恩人。無力な自分……その光景が……。
俺は……。
その時、俺の脳内にバチリと光が走り、ある光景がよぎった。
あの事件があった路地で、座り込んで何もできない俺の前に、1人の少女が現れた。その少女は俺を抱きしめて……こう言った。
──お主ならきっと、どんな苦難も乗り越えられる。きっと……乗り越えた日々を誇れる日がやってくるはずじゃ。
耳元で囁かれた声、抱きしめられた温もり……これは……この声は……確かに記憶にある。
これは、シィーリアの声?
なぜだ? あの場にシィーリアはいなかったはずなのに……。
だが……だけど、覚えている。俺の事を案じながらも信頼してくれるような、母さんの姿を。子供のような見た目で、正直じゃなくて、すぐ怒る……だけど、誰よりも深く俺達を愛してくれる母の姿を。
……そうだ。俺はいつも間違えてしまうけど、過ちも犯してしまったけど……それだけじゃない。それだけじゃなかった。シィーリアと出会えた。ミナセやユイとも。家族や仲間ができた。
進む度に色んな人達が俺を慕ってくれた。それは俺が探索者になったからだ。
鎧は言った。俺に後は任せたと。ミナセも、ユイも俺を信じてくれている。
それに、シィーリアも……。
「……分かった。俺が行く。リレイラさんは他の探索者へも応援を」
『ジーク君……ありがとう』
俺は自分を助けてくれた探索者のようになりたいと、天王洲の父のようになりたいと自分も探索者になった。キッカケはそれだった。
だけど、今は違う。もっと単純な理由で今日まで戦って来たんだ。
俺は嫌なだけなんだ。俺以外の誰かが、俺みたいな辛い想いをするのが、嫌なだけだ。
その想いに資格なんていらない。
「俺は……ジークだ。探索者ジークリードだ。俺は……守る。今、苦しめられている誰かを」
フラつきながら装備の元へ行く。白銀龍の皮で作られたスーツを手に取って装備していく。ピタリと体にフィットするスーツ、自分の能力を最大限発揮できるよう作った装備を。
後は……武器だ。武器がいる。以前シィーリアから聞いた事がある。この屋敷には管理局が回収した武器やアイテムが保管されていると。ハルフェルならその場所を知っているか。
俺は、ドアの向こうへと飛び出した。
──東京渋谷区、シィーリアの屋敷
~ジークリード~
「鎧さん達が九条達を追って東京パンデモニウムに……?」
「はい。461様達と共に向かわれました」
「な、なんでみんなを向かわせたのさ!? 私達も行った方が……!!」
「もはや猶予は残されていない……シィーリア様はそのようにおっしゃっておりました」
「でも!!」
視界の隅でミナセがメイド長のハルフェルを問い詰めている。鎧達が出発する頃、彼女とユイはまだ意識が無かった。だから気が動転しているのかもしれない。
「マイ、今ならまだ間に合うかもしれない。みんなを追いかけよう!」
身支度を整えながらユイが言う。九条とスージニアに手も足も出なかったのに、仲間の為にそんな風に言えるユイが羨ましかった。
「やめておけ。俺達が行っても……足手纏いになるだけだ……」
「カズ君……」
「和巳! そんなこと……!」
ミナセとユイは同時に俺を見て、ある一点に目を向けて俯いてしまった。その視線の先は分かっている。俺の左眼……九条に負けた証を見ていると、俺には分かった。
「和巳は……それでいいのかよ……? アイルが攫われたんだぞ……? ジークリードが仲間を見捨てるのか!?」
ユイが俺の胸倉を掴んだ。だけど、その眼は泣きそうだった。そんな風に感情が昂る事ができるのが羨ましい。今の俺には……無理だ。悲しいとか、怒りとか、そんな感情すら湧き上がって来ない。ただ無力感だけがずっと俺を襲っている。
俺は……。
「なんとかいってくれよ!!! ジークリードはそんなヤツじゃないだろ!? 私の……きな……ジークは、和巳は……そんなヤツじゃ、ないだろ……」
「悪いが……俺には無理だ。無理だと分かってしまったんだ……俺にそんな、資格は無い」
「嘘……だ……そんな事言うなよ!! 和巳はもっと強くて、優しく、それで、それで……」
ユイは俯いて泣き始めてしまった。その顔を見て辛いと思う気持ちが湧いてくる。そんな自分が許せない。何を今更……そんな風に思うのなら、あそこで勝たなければならなかったんだ。あの場で九条に負けた俺に、そんな事を思う資格はない。紫電の剣を奪われた俺に、そんな……資格は無い。
「ユイ、今はカズ君をそっとしておいてあげて」
ミナセが俺の手を取った。その顔は優しげで、それが辛くて、俺はまた自分が嫌になった。
「ね、カズ君。カズ君はきっと今疲れているだけ……だってジークリードとして今までずっと頑張って来たんだもん。緊張の糸がプツって切れちゃっただけだよ。今はゆっくり休んで? カズ君ならきっと大丈夫だから」
「俺は……そんなことは……」
ミナセが静かに首を振る。
「自分で追い詰めちゃうことってあるの。そういう時は悪いことしか考えられなくなる……私には分かるよ。私も九条商会にいた時、そうだったから。だけど、大丈夫。カズ君なら、大丈夫」
大丈夫……そういえば昔、そんな事を言われた気がする。
「ユイ。今はカズ君を1人にしてあげよ。それに、私達だって闇雲に出て行っても仕方ない。ハルフェルから状況をちゃんと聞かなきゃ」
ミナセがユイとハルフェルを連れて部屋を出ていく。パタンと閉じた扉の向こうで、ミナセとユイの話す声が聞こえた。
(アイルはどうするんだよ!?)
(アイルちゃんの所へは鎧さんとシィーリアが向かってるんでしょ? あの2人なら信じられる。今はカズ君の側に居てあげたいの。ユイも居てあげて?)
(……クソッ、分かったよ)
ドアの向こうの会話。そうだ、子供の時と同じだ。秋葉原の事件の後、入院していた時の俺も絶望していて……シィーリアが俺に大丈夫と言ってくれたんだ。変わらないな俺は……あの頃から何も変わっていない。
ベッドに横になる。目を閉じると、あの探索者の背中が浮かんだ。俺を助ける為に戦ってくれた探索者の姿が。
あの探索者のようになりたい。その意志を継いで、誰かを守れる存在になりたい。そう思って来た。
だけど……無理だった。俺は守りたいものすら……守れないんだ。
俺は、何も考えたくなくて目を閉じた。
◇◇◇
……ん、眠っていたのか?
スマホを手で探って時間を見る。今は……朝9時か。随分眠ってしまったな。夢を見なかったことだけは……助かった。
ベッドから降りて着替えようとした時、テーブルに脚をぶつけてしまった。片眼だから距離感が掴めないのか。クソ……日常生活ですら思い知らされるなんて……。
そんな事を考えているとスマホが鳴った。ディスプレイには鎧達の担当「リレイラ・ヴァルデシュテイン」の名前が映し出されている。鎧達に何かあったのか?
……。
一瞬迷ったが、俺の意思に反して指は通話ボタンをタップしていた。恐る恐るスマホを耳に当てる。
『ジーク君……ミナセ君達の目は覚めたか!? 緊急の頼みがあるんだ!』
ミナセ達?
彼女の焦ったような言葉に嫌な予感がした。
「何か……あったのか?」
『秋葉原にモンスターが大量に現れたんだ! 今現地の探索者が対応しているが、このままじゃ……』
「どういう事だ……? 神田明神からモンスターが流出する事は、もう……」
12年前の事件の後、管理局はダンジョンの魔法障壁をより強固にした。そこからモンスターが現れるなんて、ありえない。
『恐らく、ヨロイ君達が向かっている時の迷宮の力だと、思う』
「時の迷宮……? なんだそれは?」
『状況は後で説明する! だけど、今は一刻も早く秋葉原に!』
彼女の焦ったような声が頭に響く。理由は分からないが、秋葉原にモンスター? そんなの、12年前と同じじゃないか……。
『君の状態は分かっている。分かっているが……頼む。君が動けないならミナセ君とユイ君だけでいい。秋葉原へ向かってくれないか? 秋葉原エリアをモンスターが突破してしまえば、一般人が……』
鼓動が早くなる。一般人に犠牲者が出る? そんな状況でミナセ達だけに行かせる訳には……いや、だが、俺が行って何ができる?
今の俺には武器もない、まともに歩くことさえできない。そんな俺に……何ができる?
だが……今行かなければあの時の俺のような者が出てしまう。酷い目に遭ってしまう者が。
脳裏に再びあの時の光景が浮かぶ。散乱する蓮達のランドセル。血塗れになって座り込んでいる命の恩人。無力な自分……その光景が……。
俺は……。
その時、俺の脳内にバチリと光が走り、ある光景がよぎった。
あの事件があった路地で、座り込んで何もできない俺の前に、1人の少女が現れた。その少女は俺を抱きしめて……こう言った。
──お主ならきっと、どんな苦難も乗り越えられる。きっと……乗り越えた日々を誇れる日がやってくるはずじゃ。
耳元で囁かれた声、抱きしめられた温もり……これは……この声は……確かに記憶にある。
これは、シィーリアの声?
なぜだ? あの場にシィーリアはいなかったはずなのに……。
だが……だけど、覚えている。俺の事を案じながらも信頼してくれるような、母さんの姿を。子供のような見た目で、正直じゃなくて、すぐ怒る……だけど、誰よりも深く俺達を愛してくれる母の姿を。
……そうだ。俺はいつも間違えてしまうけど、過ちも犯してしまったけど……それだけじゃない。それだけじゃなかった。シィーリアと出会えた。ミナセやユイとも。家族や仲間ができた。
進む度に色んな人達が俺を慕ってくれた。それは俺が探索者になったからだ。
鎧は言った。俺に後は任せたと。ミナセも、ユイも俺を信じてくれている。
それに、シィーリアも……。
「……分かった。俺が行く。リレイラさんは他の探索者へも応援を」
『ジーク君……ありがとう』
俺は自分を助けてくれた探索者のようになりたいと、天王洲の父のようになりたいと自分も探索者になった。キッカケはそれだった。
だけど、今は違う。もっと単純な理由で今日まで戦って来たんだ。
俺は嫌なだけなんだ。俺以外の誰かが、俺みたいな辛い想いをするのが、嫌なだけだ。
その想いに資格なんていらない。
「俺は……ジークだ。探索者ジークリードだ。俺は……守る。今、苦しめられている誰かを」
フラつきながら装備の元へ行く。白銀龍の皮で作られたスーツを手に取って装備していく。ピタリと体にフィットするスーツ、自分の能力を最大限発揮できるよう作った装備を。
後は……武器だ。武器がいる。以前シィーリアから聞いた事がある。この屋敷には管理局が回収した武器やアイテムが保管されていると。ハルフェルならその場所を知っているか。
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