461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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最終話 ダンジョンは続くよどこまでも

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 時間神エモリアとの戦いから3ヶ月後。

 ~461さん~

「ふっ……はっ……!!」

 ソファーの端に足を乗せて腕立て伏せをする。両手、右腕、左腕……それぞれ20回を5セットずつ。朝起きて準備運動してからのいつもの日課。それが終わると腹筋とスクワットをする。

「よし」

 全てのメニューを終えた後、時計を見ると6時30分を過ぎた所だった。

「……っと、そろそろアイルのヤツを起こす時間か」

 リレイラさんは今日まで北海道へ出張に行ってるからな。俺が全部やらないと。

 アイルの部屋。そのドアを数回ノックする。2回声をかけて返事が無ければ開ける。これをやっておけば文句は言われない。「起きなかった方が悪いだろ?」と言えるからだ。

 ドアを開ける。すると、珍しい光景が見えた。

 アイルは既に起きていて、机に向かって何かをしていた。物音はしたはずなのに俺に気付かない。よほど集中してるみたいだな。アーカイブ用の動画編集か? でも、ここ2週間くらい配信はしてなかったはずだけどな。

「アイル」

「ひああああああああ!?」

 アイルは体をビクリと震わせて何かをかばうように卓に寄りかかった。チラリと見える長方形の物体。アレは……。

「何やってたんだ?」

「う、うううん……て、手紙をね、ちょっと……」

 手紙……? アイルってそんなの書くタイプだったか? いつもはサクッとメッセージアプリか通話で済ませてるよな?

 というか、チラッと見えたが手紙と言いながら触ってたのはスマホ……なんか気になるな……。

「それ──」

 反射的に質問しようとして無理矢理止める。ま、もしかしたらお袋さんとかナイーブな問題かもしれないしな。話したいなら向こうから言って来るだろ、多分。ここはスルーしてやるのが正解か。

「そろそろ学校行く時間だろ? 朝飯にするぞ」

「うん、準備するわ」


 ……。


 アイルが着替えている間に朝飯の準備をする。昨日準備しておいたゆで卵を切って、タッパーに入れてあったカット野菜を深皿に入れる。トーストと焼いたベーコンを別皿に乗せてテーブルに並べた。

「お、奥にヨーグルトあんじゃん」

 冷蔵庫の上の段にヨーグルトがあった。取り出してみると、付箋が貼ってあってリレイラさんの字で「探索者にカルシウムは大事。2人とも食べるように」と書いてあった。その気付いに思わず笑ってしまう。

 ヨーグルトをテーブルに置いた時、制服に着替えたアイルがやって来た。

「いつもありがとね、461さん」

「ん? お前も当番の時やってるじゃん」

「ううん。誰かが用意してくれるって嬉しいわ。そう思って」

 なんだか素直な反応……。今日は本当にアイルの様子が変だな。さっきの手紙っていうのと関係してるのか?

「ま、いいや。食おうぜ」

 2人でテーブルを囲む。話題は次の連休に挑む嵐山ダンジョンの話。俺が過去に行った時、アイルの父親……賢人から聞いたダンジョンだ。

 賢人が話していた冒険譚。それをアイルと一緒に体験してみたいと俺が言い出した。もちろんジークやミナセも誘って。リレイラさんも京都までついて来てくれると意気込んでいたな。なんだか賑やかな攻略になりそうだ。

「だけどよ、ナーゴは本当にいけないのか?」

「うん、ナーゴの着ぐるみスーツ壊れちゃったみたいで」

「それは残念だな……」

「大丈夫よ。これ見て」

 アイルがスマホを差し出して来る。メッセージアプリのトーク画面。そこにはコックコートを着た少女の写真が貼ってあり、「新しい夢に向かって燃えてるにゃ!」と一言メッセージが添えられていた。

「新しい夢……店を持つって話か?」

「そう、今お店ができる場所を探してるみたいなの。あのネコネコナーゴの店だってツェッターでも期待されてるわ」

 ……ナーゴはダンジョン出現の影響で無くなった料理を復活させることが夢だって言ってたもんな。今後は勝者マンが食材集めするって言ってたし、探索者である必要は無くなったのか。

「そうか。ナーゴがそう決めたのなら、応援してやらないとな」

「そう、それに今後もダンジョン攻略に関わってくれるわよ。きっと」

「なんで分かるんだ?」

「それは未来・・のお楽しみね」

 意味深な物言い……だが詮索するのはやめだ。アイルはエモリアの時間魔法で未来に飛んだと言っていた。そこで何か見たんだな、きっと。俺は彼女の言う通り、これから何が起こるか楽しみに待つとするか。

 そんな話をしていると、アイルは突然ハッとした顔になる。

「あ!? もうこんな時間!? 私そろそろ行くね!!」

 バタバタと残りの準備をするアイル。時計を見るともう8時前……ちょっとゆっくりすぎたか。

「お~頑張れよ」

「夕飯は私が作るから! リレイラの迎えよろしくね!」

「羽田に17時だったよな?」

「そうよ! 行ってきまーす!!」

 そう言うと、アイルはドアから飛び出して行った。


「さて、俺も家事終わらせたら走りに行くか」




◇◇◇


「わわ!? 461さんだ!」
「Tシャツにヘルムってw」
「マジ!? 俺サイン貰おうかな!?」
「やめときなよ~トレーニング中でしょ?」



 Tシャツに着替えて不忍池でランニングを済ませた後、頼んでいた物を受け取りに秋葉原へ向かっていると、すれ違うたびに人からジロジロと見られた。なんか気まずいな。前も見られていたがここ最近特にこういうのが増えた気がする。

「あ、ダメだダメだ。集中するか」

 頭を振って秋葉原へと走って行く。末広町交差点を抜けると、一気に人通りが少なくなって落ち着くな。俺達が東京パンデモニウムに入っている間にモンスターが再び現れたとかで、前はちらほら見かけた一般人も完全にいなくなってる。探索者しかいない街、秋葉原。俺としては視線が無くてありがたいけど。

 大通りを曲がって方内武器店へ。階段を登って中へ入るとある事に気が付いた。

「あれ? あの大剣が無くなってるな」

 入り口近くに飾ってあった大剣「飛竜殺し」。たしか武史が予約してると聞いたはずだが……。

「んふふふ~!! 気付いたッスか気付いたッスか!?」

「うわ!?」

 いつの間にか方内妹が俺の隣に立っていた。ニヤニヤと笑みを浮かべては。飛竜殺しがあった場所を見つめている。

「そこを見て欲しいッス!!」

 彼女が指した先を見ると、そこには小さく「A級・・探索者『鉄塊の武史様』にご購入頂きました!」と張り紙がしてあった。

「お、武史のヤツついに買ったのか」

「そうッス! 先週ついに買いに来たッス!! はぁ………早く配信で見たいッスねぇ~……」

 ウットリと遠くを見つめる方内妹。そのあまりの惚けた顔に戸惑っていると、店の奥から方内兄が出て来た。

「461さん、預かってたアスカルオの研ぎ直し終わりましたよ」

「おう、ありがとな」

「でもいつも良いんですか? 僕達に頼んで貰って……」

「ああ。アンタがすごいツテを持ってるからな。この店と関係ある職人なら信用できる」

 アスカルオを引き抜く。新品と見違えるかのような仕上がり。毎度ながらスゲー仕上がりだな。

「えへへ……そう言って貰えると嬉しいです」

 方内兄が恥ずかしそうに頬をかく。アスカルオを持ち帰り用の布に包んで2人に礼を言う。扉に手をかけると、方内兄が声を上げた。

「あ、あの」

「? なんだ?」

「ネットで噂になってるあの話って本当なんですか? 461さんと、鯱女王オルカがその……新しい枠になるって」

「あ~アレか? 俺としては断るつもりだったんだが……」

 アスカルオの包みを見る。

「相棒に言われちまったからな。条件付きで受けるつもりだ。ま、つってもこれから昇格試験みたいなのやんなきゃいけないけどな」

 今回の話は特別だとリレイラさんもシィーリアも言っていた。ランクに新しい枠……他の国の管理局が面子を保つ為に昇格試験をやれと言って来たらしい。

「昇格試験……でもすごいですね、461さんから管理局に条件出すなんて」
「一体何を提示したんスか!?」

 2人が俺の事をジッと見てくる。そんなに気になるのか? 今いちランクの意味分かって無いからなぁ……。


「ダンジョン探索の邪魔をされないならって条件付けたんだ」




◇◇◇


 家にアスカルオを持ち帰り、素顔に私服に着替えた俺は羽田空港に来ていた。なんとか受付カウンターで待ち合わせ場所を聞き、彼女の到着を待つ。

「17時20分……17時着だからそろそろのはずだよな?」

 ついソワソワしてスマホで時計を見てしまう。やっぱり数日とはいえ寂しかったんだな、俺。

 周囲を見てみると、他にも待ち合わせをしている人達がいた。その中に混じっている俺。こうしていると不思議だ。アレからというもの、ヘルムをしている時は必ず声をかけられるのに、こうしていると誰にも気付かれない。素顔の方が自由に出歩ける。なんだか不思議な感じだな。


「ねぇ、あの噂聞いた? 461さんと鯱女王の……」
「ああ、新しい枠ができたってヤツ?」
「アレでしょ? 他の国の管理局が指定したダンジョンをクリアしろ~って言って来たヤツでしょ?」
「もうネットだったらみんな分かりきってるのにね」
「シンガポールダンジョン管理局の人が言い出したらしいよ。プライド高そ~」
「でもあの2人ならすぐ攻略しそうw」
「分かるwww」


 ……前言撤回。方内兄妹の時もそうだったけど、もう噂広まってんのかよ。早いなマジで。ネット怖えぇ~……。



 そんな事を考えていると、突然目の前が真っ暗になる。まぶたに伝わる暖かい温もり。耳元で聞き慣れた声がする。俺だけに聞こえるような小さな声が。


「飛び級でSS・・ランクになる気分はどうですか? ヨロイくん?」


「まだなってないですよリレイラさん」

「ふふっ、君なら必ずなれるよ。私が保証する」


 俺の目を塞いでいた手がゆっくりと離れていく。振り返ると、リレイラさんが優しげな顔で俺の事を見ていた。

「おかえり。リレイラさん」
「ただいま、ヨロイ君」

 反射的に抱き付きたい衝動に駆られるが、なんとか耐える。俺ももういい大人なんだ。ここは嬉しくても平静をだな……。

 リレイラさんのスーツケースを受け取ろうとした時、頬に柔らかい感触がした。

「え?」

 驚いて彼女の方を見ると、リレイラさんは頬を赤らめてチラチラと俺の方を見ていた。

「ずっと会いたいな、って、その……思っていたから……後でヨロイ君からも、してね?」

「……反則だ、これ」

「私なりの攻略だ」

 無邪気な笑顔をするリレイラさん。後で絶対やり返してやる。俺はそう心に誓った。


 ……。


 リレイラさんから預かったスーツケースを引きながら、2人で帰路に着く。

「北海道出張どうでした?」

「ああ! すごかったぞ! どこまでも広がる大地! その中に佇むタワーダンジョン!! アレはぜひ色んな探索者達に攻略して貰いたい!」

 興奮気味に話し出すリレイラさん。東京のダンジョンを完全攻略した事で、管理局は育った探索者にもっと広くダンジョンを攻略して貰いたいという考えを持ったらしい。リレイラさんの北海道査察もその一環だそうだ。

「北海道ダンジョンかぁ……そっちも行ってみたいな!」

「君達が挑戦したくなったらいつでも手配しよう。だが先に嵐山……だろ?」

「はい。アイルのお袋さんにも会わないといけないんで」

 リレイラさんがコクリと頷く。彼女もずっと気にしていたようだ。俺達が一緒に暮らしている事を伝える為に。

「やる事は沢山あるが、まぁ今日の所は……」

 リレイラさんが腕を組んでくる。彼女の頭が肩に当たり、フワリと花のような香りがした。


「帰ろう? アイル君が待ってる」

「アイルのヤツリレイラに料理作るって張り切ってましたよ?」

「本当か!? すぐ帰ろう!! 今すぐに!! アイル君の料理を食べながら嵐山ダンジョン攻略会議だ!!」

「ちょ!? 待って下さいよ!!」


 嬉しそうな声を上げてリレイラさんが駆けて行く。俺もそれに続いて走り出す。アイルの待つ、俺達の家へ。


 ……。


 これからも俺達の人生は続いていく。ダンジョンに挑んで、冒険して、盛り上がって、攻略する。

 その隣に相棒のアイルがいて、リレイラさんが迎えてくれたら……最高だ。それだけで俺は、ずっと挑み続けられる。


 東京に来て手に入れたかけがえのないもの。


 沢山のものと一緒に俺はこれからもダンジョンに挑み続ける。人生というダンジョンに。


 俺はもう、ソロじゃない。


「しゃあ!! 次のダンジョンもやってやるぜ!!!」


 俺は、新たな冒険へ向けて駆け出した。





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