逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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黎明

02

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予言の朔の日が迫り、親彬は落ち着かない。

翁から呼び出されたのは今朝のこと。馬を走らせ、翁の屋敷へ行くと、いつもと変わらない落ち着いた態度で迎えてくれた。

今年の冬は寒かったが、雪はあまり降らなかった。しかし、先日降った雪が庭の隅の陽が当たらない場所に溜まっている。

華美な草木はないが野山の情景そのままに、秋には女郎花おみなえしの黄色が咲き、春には馬酔木あせびが白い花を付ける。親彬はこの庭が好きだった。池もなく、大きな石もない。一見、雑草ばかりにも見えるが、季節になればちゃんと綺麗な花が迎えてくれた。四隅には桃の木が植えられていて、桃は親彬の好物である。

しかし、今は火桶を前にして震えている。

「どうした?」
「そんなの……明日ですよ?」
「ああ、緊張しているのか?らしくないな」
「らしくないって…」
「ふぉっ、ほっ、ほっ」

親彬にとって、親代わりであり、陰陽道の師匠。今の親彬の屋敷も、元はこの翁の所有していたものだった。小さな頃からその屋敷で育った。使用人たちも翁に仕えていた人で、そのまま親彬のために留まってくれていた。

「何を恐れている?」
「何、を……、何故かわからないけれど、何かが変わるようで…」
「そうか…」

翁の星読みの結果は太政大臣の藤原ふじわらの兼道かねみちにも報告された。親彬は恐縮しながら自ら、その内容の説明をした。説明と云いながら、親彬が云えることは少ない。どうして息子の大納言の兼房に任せないのかと不思議だった。兼房は検非違使別当でもある。どうやら堀川上皇から、早くしろとヤイヤイ云われているらしく、渋々と云ったところか。三条邸の家人が襲われたことも関係しているのかもしれない。それより新年の行事に触りがないようにと何度も云われた。未来からの客が来る日が気に入らないらしい。上皇や帝からの命令より、新年の行事を滞りなく終わらせる方が今は大切みたいだ。流石、太政大臣と云ったところか。




新年まで、後半刻。

親彬は都の外れに来ていた。

ここは大内裏から丑寅の方角に位置する、鬱蒼とした森の中。その中に開けた場所があった。中心には一本の杉の木がポツンと立っている。まだ若木の杉は親彬の腰あたりの高さだった。

(これだな…)
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