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黎明
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予言の朔の日が迫り、親彬は落ち着かない。
翁から呼び出されたのは今朝のこと。馬を走らせ、翁の屋敷へ行くと、いつもと変わらない落ち着いた態度で迎えてくれた。
今年の冬は寒かったが、雪はあまり降らなかった。しかし、先日降った雪が庭の隅の陽が当たらない場所に溜まっている。
華美な草木はないが野山の情景そのままに、秋には女郎花の黄色が咲き、春には馬酔木が白い花を付ける。親彬はこの庭が好きだった。池もなく、大きな石もない。一見、雑草ばかりにも見えるが、季節になればちゃんと綺麗な花が迎えてくれた。四隅には桃の木が植えられていて、桃は親彬の好物である。
しかし、今は火桶を前にして震えている。
「どうした?」
「そんなの……明日ですよ?」
「ああ、緊張しているのか?らしくないな」
「らしくないって…」
「ふぉっ、ほっ、ほっ」
親彬にとって、親代わりであり、陰陽道の師匠。今の親彬の屋敷も、元はこの翁の所有していたものだった。小さな頃からその屋敷で育った。使用人たちも翁に仕えていた人で、そのまま親彬のために留まってくれていた。
「何を恐れている?」
「何、を……、何故かわからないけれど、何かが変わるようで…」
「そうか…」
翁の星読みの結果は太政大臣の藤原兼道にも報告された。親彬は恐縮しながら自ら、その内容の説明をした。説明と云いながら、親彬が云えることは少ない。どうして息子の大納言の兼房に任せないのかと不思議だった。兼房は検非違使別当でもある。どうやら堀川上皇から、早くしろとヤイヤイ云われているらしく、渋々と云ったところか。三条邸の家人が襲われたことも関係しているのかもしれない。それより新年の行事に触りがないようにと何度も云われた。未来からの客が来る日が気に入らないらしい。上皇や帝からの命令より、新年の行事を滞りなく終わらせる方が今は大切みたいだ。流石、太政大臣と云ったところか。
新年まで、後半刻。
親彬は都の外れに来ていた。
ここは大内裏から丑寅の方角に位置する、鬱蒼とした森の中。その中に開けた場所があった。中心には一本の杉の木がポツンと立っている。まだ若木の杉は親彬の腰あたりの高さだった。
(これだな…)
翁から呼び出されたのは今朝のこと。馬を走らせ、翁の屋敷へ行くと、いつもと変わらない落ち着いた態度で迎えてくれた。
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華美な草木はないが野山の情景そのままに、秋には女郎花の黄色が咲き、春には馬酔木が白い花を付ける。親彬はこの庭が好きだった。池もなく、大きな石もない。一見、雑草ばかりにも見えるが、季節になればちゃんと綺麗な花が迎えてくれた。四隅には桃の木が植えられていて、桃は親彬の好物である。
しかし、今は火桶を前にして震えている。
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「何を恐れている?」
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「そうか…」
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新年まで、後半刻。
親彬は都の外れに来ていた。
ここは大内裏から丑寅の方角に位置する、鬱蒼とした森の中。その中に開けた場所があった。中心には一本の杉の木がポツンと立っている。まだ若木の杉は親彬の腰あたりの高さだった。
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