1 / 5
01
しおりを挟む
「も、帰るのか?」
僕を抱きしめ気怠そうに呟かれる言葉に、胸の潰れる思いがする。
素肌が擦れて、さっきまで上り詰めていた熱がまた灯りそうだ。
「んっ…」
僕が漏らす吐息に熱を感じ、まだ欲しいの?と太一が微笑む。
太一の胸に顔を埋めて、甘えるふりをする。
ううん…甘えてるんだ。
でも、顔を見たくない。
ううん…見たい。
でも、見たくない。
本当の気持ちを言ってしまいそうになるから。
どうしてと詰ってしまいそうになるから。
「もう出ないと帰れなくなる…」
「泊まればいいじゃん」
「そんなことできないよ」
「母さんに怒られるって?」
「うん…」
母さんは僕が外泊したって怒ることはない。確かめたことはないけど、電車が止まったりした時に泊めてもらえる友だちを作りなよ!と言っていた。ビジネスホテルだって高いんだからって。だから、怒ることはないと思う。
だけど、母さんの所為にして帰る。
「こんな時間に帰したくない。心配だよ」
「……」
「毎日泊まるわけじゃないんだから、たまには良いだろ?」
「……」
「俺が電話入れるから。おばさん、俺の事気に入ってたじゃん。大丈夫だって」
「……」
「泊まれないなら、送って行こうか?俺がそのまま実家に泊まればいい」
次々に僕を気遣う言葉は嬉しいけれど、冷めた気持ちで見ているもう一人の自分がいる。
◆◆◆◆◆
太一とは高校から一緒で、同じ大学に通う。僕は一時間の電車通学で、太一は大学の近くに部屋を借りた。
高校の時は普通の友だちだった。僕は恋愛的な意味で気になってたけど、告白するつもりはなかった。太一に彼女ができて、側にいるのが辛い時もあったけど、しばらくするとまた僕の側に戻ってくれる。
友だちとして。
そんな三年間だった。
大学に通うようになり、しばらく経った頃、話があるんだと部屋に呼ばれた。こんなふうに話される内容は覚えがある。大抵が彼女ができたって報告。
もう、耐えられなくなっていた。なんで同じ大学に入ってしまったのか?学部が違うからいつも一緒にいるわけじゃない。でも、お昼を一緒にと誘われれば会いたい僕は行ってしまうんだ。
「ごめん。僕、帰らなくちゃ」
そう言って離れようとしたら腕を掴まれた。
「頼むよ」
真剣な顔は僕をドキリとさせる。心臓がバクバク激しく打ち鳴らされ、好きだと言う感情が剥き出しになりそうになる。
何度も誘われて、その度に断った太一の部屋に入った。高校の時に家にお邪魔した時と同じ、綺麗に片付いていて、狭いけれど居心地が良い部屋だと思った。
「ここ、座って」
「うん」
「何か飲むか?」
「ううん…、いい」
なんか、気まずい。少し、怒ったような雰囲気が太一の周りに漂う。
「あのさ…」
ビクッと身体が震えた。
「俺の事、嫌いになった?」
「えっ?」
彼女ができたんだって報告を聞くんだと身構えてたから素っ頓狂な声が出てしまった。
「な、んで?嫌いとか…」
好きとか、そんな感情は心の奥に隠してる。嫌いなわけない。好き過ぎて…女のとこに行く太一を見たくなくて…。そんなことは言えないけれど…。
「そ、んなことないよ?」
「じゃあ、この頃俺の事、避けてるのは何で?」
「それは…」
「ここだって、何度も来てって言ったのにやっとだ」
「ごめん…」
「……俺、高校の時に初めて彼女できた時、司に報告した」
そうだよ。必ず、一番に言ってくれた。
「喜んでくれた。で、別れた時も報告した」
これも、一番に教えてくれた。
「慰めてくれて、嬉しかった」
そりゃ、慰めるよ。でも、それは喜ぶ気持ちを抑えるため。
「何度かそんなことがあって…」
そう何度もあった。辛かった。もう限界。
「司を見てたら、彼女できたって報告より、別れたって報告の方が笑顔率高いような気がしたんだ」
「ご、ごめん…。やっかみだよ。僕、誰とも付き合ったことないし、モテなかったからさ」
本心が出てしまっていたんだ。気をつけなきゃ。
僕を抱きしめ気怠そうに呟かれる言葉に、胸の潰れる思いがする。
素肌が擦れて、さっきまで上り詰めていた熱がまた灯りそうだ。
「んっ…」
僕が漏らす吐息に熱を感じ、まだ欲しいの?と太一が微笑む。
太一の胸に顔を埋めて、甘えるふりをする。
ううん…甘えてるんだ。
でも、顔を見たくない。
ううん…見たい。
でも、見たくない。
本当の気持ちを言ってしまいそうになるから。
どうしてと詰ってしまいそうになるから。
「もう出ないと帰れなくなる…」
「泊まればいいじゃん」
「そんなことできないよ」
「母さんに怒られるって?」
「うん…」
母さんは僕が外泊したって怒ることはない。確かめたことはないけど、電車が止まったりした時に泊めてもらえる友だちを作りなよ!と言っていた。ビジネスホテルだって高いんだからって。だから、怒ることはないと思う。
だけど、母さんの所為にして帰る。
「こんな時間に帰したくない。心配だよ」
「……」
「毎日泊まるわけじゃないんだから、たまには良いだろ?」
「……」
「俺が電話入れるから。おばさん、俺の事気に入ってたじゃん。大丈夫だって」
「……」
「泊まれないなら、送って行こうか?俺がそのまま実家に泊まればいい」
次々に僕を気遣う言葉は嬉しいけれど、冷めた気持ちで見ているもう一人の自分がいる。
◆◆◆◆◆
太一とは高校から一緒で、同じ大学に通う。僕は一時間の電車通学で、太一は大学の近くに部屋を借りた。
高校の時は普通の友だちだった。僕は恋愛的な意味で気になってたけど、告白するつもりはなかった。太一に彼女ができて、側にいるのが辛い時もあったけど、しばらくするとまた僕の側に戻ってくれる。
友だちとして。
そんな三年間だった。
大学に通うようになり、しばらく経った頃、話があるんだと部屋に呼ばれた。こんなふうに話される内容は覚えがある。大抵が彼女ができたって報告。
もう、耐えられなくなっていた。なんで同じ大学に入ってしまったのか?学部が違うからいつも一緒にいるわけじゃない。でも、お昼を一緒にと誘われれば会いたい僕は行ってしまうんだ。
「ごめん。僕、帰らなくちゃ」
そう言って離れようとしたら腕を掴まれた。
「頼むよ」
真剣な顔は僕をドキリとさせる。心臓がバクバク激しく打ち鳴らされ、好きだと言う感情が剥き出しになりそうになる。
何度も誘われて、その度に断った太一の部屋に入った。高校の時に家にお邪魔した時と同じ、綺麗に片付いていて、狭いけれど居心地が良い部屋だと思った。
「ここ、座って」
「うん」
「何か飲むか?」
「ううん…、いい」
なんか、気まずい。少し、怒ったような雰囲気が太一の周りに漂う。
「あのさ…」
ビクッと身体が震えた。
「俺の事、嫌いになった?」
「えっ?」
彼女ができたんだって報告を聞くんだと身構えてたから素っ頓狂な声が出てしまった。
「な、んで?嫌いとか…」
好きとか、そんな感情は心の奥に隠してる。嫌いなわけない。好き過ぎて…女のとこに行く太一を見たくなくて…。そんなことは言えないけれど…。
「そ、んなことないよ?」
「じゃあ、この頃俺の事、避けてるのは何で?」
「それは…」
「ここだって、何度も来てって言ったのにやっとだ」
「ごめん…」
「……俺、高校の時に初めて彼女できた時、司に報告した」
そうだよ。必ず、一番に言ってくれた。
「喜んでくれた。で、別れた時も報告した」
これも、一番に教えてくれた。
「慰めてくれて、嬉しかった」
そりゃ、慰めるよ。でも、それは喜ぶ気持ちを抑えるため。
「何度かそんなことがあって…」
そう何度もあった。辛かった。もう限界。
「司を見てたら、彼女できたって報告より、別れたって報告の方が笑顔率高いような気がしたんだ」
「ご、ごめん…。やっかみだよ。僕、誰とも付き合ったことないし、モテなかったからさ」
本心が出てしまっていたんだ。気をつけなきゃ。
493
あなたにおすすめの小説
王太子殿下に触れた夜、月影のように想いは沈む
木風
BL
王太子殿下と共に過ごした、学園の日々。
その笑顔が眩しくて、遠くて、手を伸ばせば届くようで届かなかった。
燃えるような恋ではない。ただ、触れずに見つめ続けた冬の夜。
眠りに沈む殿下の唇が、誰かの名を呼ぶ。
それが妹の名だと知っても、離れられなかった。
「殿下が幸せなら、それでいい」
そう言い聞かせながらも、胸の奥で何かが静かに壊れていく。
赦されぬ恋を抱いたまま、彼は月影のように想いを沈めた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎月影 / 木風 雪乃
始まりの、バレンタイン
茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて……
他サイトにも公開しています
恋が始まる日
一ノ瀬麻紀
BL
幼い頃から決められていた結婚だから仕方がないけど、夫は僕のことを好きなのだろうか……。
だから僕は夫に「僕のどんな所が好き?」って聞いてみたくなったんだ。
オメガバースです。
アルファ×オメガの歳の差夫夫のお話。
ツイノベで書いたお話を少し直して載せました。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる