撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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姫と呼ばれています

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ーーーわたしが幼かった頃、姫さまの屋敷には年かさの男が仕えていた。

わたしは暇があればあっちの役所、こっちの屋敷に、その人に付いて回った。

今、考えると、

『良かったのか?』

と思うが、わたしが年若くして姫さまに仕えていられるのはその頃からいろいろ世間を見てきたからかもしれない。

どこに行っても、やれ『笛を教えてあげよう』『和歌は得意かい?』と公達に囲まれ、
『美味しいお菓子があるよ』『綺麗な絵巻物があるから見ない?』と女房やその屋敷の姫さまに呼ばれた。わたしを連れ回していたその人はわたしを連れて行くと待遇が良かったのかもしれない…。

いろんなことに興味を持ち女の子の習いごとも姫さまや姉上と一緒に習い、琴なんかは姉上よりも、姫さまよりも上手になった。小さな頃は屋敷の中でも外でも走り回っていたが、一人で遠くに行くことはできない。

屋敷を出入りする人を眺めたりして過ごすこともあった。姫さまの屋敷の近くにひっそりとたたずむ屋敷があった。その屋敷には子どもはいたが男で姫が生まれなかったのかなんだかいつも静かな雰囲気があった。

右大臣殿を最初に見たのはその屋敷に出入りする姿だったと思う。当時まだ右大臣にはなっていなかったと思うし、わたしも偉い身分の人だとはわかるが、どこの誰とも思わず、頻繁にこちらを訪れる人を覚えてしまった。

驚いたのは、その人が姫さまの父君だと云うことだった。こちらには来ないのにあちらには行く。そして、あちらに姫はいない。幼いけれど、耳年増なわたしはその理由がわかってしまった。
人の趣味はそれぞれだ。

以来姫さまの父君を見る目が変わってしまったのは仕方がないことだと思う。

いざとなれば、三条邸の北の方(奥さん)に…との脅し文句は切り札になるのか?

こんな切り札使う前に男の身に戻りたい。

いや、食われてしまうかもしれないから、云わない方が良いのだろうか?

ブルブル…悪寒が…


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