44 / 98
恋の駆け引きなんて知りません
08
しおりを挟む
二人の合奏が始まった。
今日も局に下がっていた女房がこぞって伺候している様だ。
わたしはそれどころではないのだけれど。
「主上、お戯れを…」
「嫌かい?」
二人きりの御簾の中でボソボソと会話は続く。
帝はわたしの気持ちをご存知でないから、何気ない触れ合いすら…例えば手が触れる、いや視線が絡まるだけで心臓が跳ねるくらいに嬉しいから…こんなに近くで優しくしないで欲しい。
帝の腕がわたしの腰に回り、ついには抱き寄せてしまわれた。
「少しこのままで…」
「はい…」
帝はどうしてこのような事をされるのか?わたしは男なのに…
でも、嬉しい。
戒める気持ちと、素直な気持ちがないまぜになって…素直な心が勝ってしまった。
腕をそっと上げて帝の背中へ回して抱きしめた。帝の香りも一緒に腕の中に納める。
でも…わたしが抱きしめるなどお嫌かもしれない…。
腕の力を抜いて降ろすと、
「撫子?そのままで」
良いのかな?
もう一度、背中へ腕を回し、少し力を入れて抱きしめた。
「ふっ」
「主上?」
「いや…悪くない」
帝は二人の演奏をわたしを抱き寄せたまま聴かれた。
抱きしめられる腕が心地良くわたしを縛る。
そっと、顔を上げて帝のお顔を見るとにっこりと微笑んで顔を寄せてこられた。思わず眼を閉じたわたしの唇に何か柔らかいものが触れた。
…初めての感覚に驚いたけれど、これは帝の唇なのかな?
あの時は一度も触れる事の無かった…。
確かめることはできない。
眼を開ける事ができなかった。
離れて行かない唇に触れる熱に、幾度となく刺激されて声が出そうになる。かかる帝の吐息に身体が震えた。顔に熱が集まるのを感じ、この時間が早く終わって欲しいような、ずっとこのままでいて欲しいような複雑な気分だった。
「撫子…」
囁くように名を呼ばれて、いつも呼んで下さるのに今のお声は特別な響きがあり、あの時の幻聴を思い出した。
「…んっ…」
思わず声が漏れそうになり、帝に回している腕に力が篭り、更に抱きつくようになってしまい恥ずかしい。
女房が側に控えようと入ってきたけれど、わたしたちの姿を見たのだろうか何も云わず気配は遠のいた。
恥ずかしくて離れようとしたわたしの身体をまるで『離さない』と主張するような逞しい腕に更に力を込めて抱きしめられた。
今、わたしは幸せだ。
愛する人に抱きしめられて、応えて返すことが出来るなど思ってもみなかった。
宮さまたちが気掛かりだけどこの幸せな気持ちを持って、内裏を出て行こう。
都合良く、衛門は宿下がりで後宮に居ない。孫が生まれると喜んでいた。
衛門にこれ以上迷惑を掛けてはいけないと思っていたので、ちょうど良かった。
…今は清涼殿へ誰も渡っていないけれど、いずれまた誰かが呼ばれる。その時にはきっと今以上に辛く感じるだろう。
男のわたしが清涼殿へ召されることはないのだから。
帝に優しくされた記憶だけ持って行こう。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
今日も局に下がっていた女房がこぞって伺候している様だ。
わたしはそれどころではないのだけれど。
「主上、お戯れを…」
「嫌かい?」
二人きりの御簾の中でボソボソと会話は続く。
帝はわたしの気持ちをご存知でないから、何気ない触れ合いすら…例えば手が触れる、いや視線が絡まるだけで心臓が跳ねるくらいに嬉しいから…こんなに近くで優しくしないで欲しい。
帝の腕がわたしの腰に回り、ついには抱き寄せてしまわれた。
「少しこのままで…」
「はい…」
帝はどうしてこのような事をされるのか?わたしは男なのに…
でも、嬉しい。
戒める気持ちと、素直な気持ちがないまぜになって…素直な心が勝ってしまった。
腕をそっと上げて帝の背中へ回して抱きしめた。帝の香りも一緒に腕の中に納める。
でも…わたしが抱きしめるなどお嫌かもしれない…。
腕の力を抜いて降ろすと、
「撫子?そのままで」
良いのかな?
もう一度、背中へ腕を回し、少し力を入れて抱きしめた。
「ふっ」
「主上?」
「いや…悪くない」
帝は二人の演奏をわたしを抱き寄せたまま聴かれた。
抱きしめられる腕が心地良くわたしを縛る。
そっと、顔を上げて帝のお顔を見るとにっこりと微笑んで顔を寄せてこられた。思わず眼を閉じたわたしの唇に何か柔らかいものが触れた。
…初めての感覚に驚いたけれど、これは帝の唇なのかな?
あの時は一度も触れる事の無かった…。
確かめることはできない。
眼を開ける事ができなかった。
離れて行かない唇に触れる熱に、幾度となく刺激されて声が出そうになる。かかる帝の吐息に身体が震えた。顔に熱が集まるのを感じ、この時間が早く終わって欲しいような、ずっとこのままでいて欲しいような複雑な気分だった。
「撫子…」
囁くように名を呼ばれて、いつも呼んで下さるのに今のお声は特別な響きがあり、あの時の幻聴を思い出した。
「…んっ…」
思わず声が漏れそうになり、帝に回している腕に力が篭り、更に抱きつくようになってしまい恥ずかしい。
女房が側に控えようと入ってきたけれど、わたしたちの姿を見たのだろうか何も云わず気配は遠のいた。
恥ずかしくて離れようとしたわたしの身体をまるで『離さない』と主張するような逞しい腕に更に力を込めて抱きしめられた。
今、わたしは幸せだ。
愛する人に抱きしめられて、応えて返すことが出来るなど思ってもみなかった。
宮さまたちが気掛かりだけどこの幸せな気持ちを持って、内裏を出て行こう。
都合良く、衛門は宿下がりで後宮に居ない。孫が生まれると喜んでいた。
衛門にこれ以上迷惑を掛けてはいけないと思っていたので、ちょうど良かった。
…今は清涼殿へ誰も渡っていないけれど、いずれまた誰かが呼ばれる。その時にはきっと今以上に辛く感じるだろう。
男のわたしが清涼殿へ召されることはないのだから。
帝に優しくされた記憶だけ持って行こう。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
13
あなたにおすすめの小説
発情薬
寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。
製薬会社で開発された、通称『発情薬』。
業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。
社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。
特等席は、もういらない
香野ジャスミン
BL
好きな人の横で笑うことができる。
恋心を抱いたまま、隣に入れる特等席。
誰もがその場所を羨んでいた。
時期外れの転校生で事態は変わる。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズでも同時公開してます
僕の居場所も、彼の気持ちも...。
距離を置くことになってしまった主人公に近付いてきたのは...。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
王子殿下が恋した人は誰ですか
月齢
BL
イルギアス王国のリーリウス王子は、老若男女を虜にする無敵のイケメン。誰もが彼に夢中になるが、自由気ままな情事を楽しむ彼は、結婚適齢期に至るも本気で恋をしたことがなかった。
――仮装舞踏会の夜、運命の出会いをするまでは。
「私の結婚相手は、彼しかいない」
一夜の情事ののち消えたその人を、リーリウスは捜す。
仮面を付けていたから顔もわからず、手がかりは「抱けばわかる、それのみ」というトンデモ案件だが、親友たちに協力を頼むと(一部強制すると)、優秀な心の友たちは候補者を五人に絞り込んでくれた。そこにリーリウスが求める人はいるのだろうか。
「当たりが出るまで、抱いてみる」
優雅な笑顔でとんでもないことをヤらかす王子の、彼なりに真剣な花嫁さがし。
※性モラルのゆるい世界観。主人公は複数人とあれこれヤりますので、苦手な方はご遠慮ください。何でもありの大人の童話とご理解いただける方向け。
【短編】抱けない騎士と抱かれたい男娼
cyan
BL
戦地で奮闘する騎士のキースは疲れ果てていた。仲間に連れられて行った戦場の娼館で男娼であるテオに優しい言葉をかけられて好きになってしまったが、テオの特別になりたいと思えば思うほどテオのことを抱けなくなる。
純愛とちょっとのユーモアでほのぼのと読んでほしい。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常
丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。
飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる