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恋の駆け引きなんて知りません
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二人の合奏が始まった。
今日も局に下がっていた女房がこぞって伺候している様だ。
わたしはそれどころではないのだけれど。
「主上、お戯れを…」
「嫌かい?」
二人きりの御簾の中でボソボソと会話は続く。
帝はわたしの気持ちをご存知でないから、何気ない触れ合いすら…例えば手が触れる、いや視線が絡まるだけで心臓が跳ねるくらいに嬉しいから…こんなに近くで優しくしないで欲しい。
帝の腕がわたしの腰に回り、ついには抱き寄せてしまわれた。
「少しこのままで…」
「はい…」
帝はどうしてこのような事をされるのか?わたしは男なのに…
でも、嬉しい。
戒める気持ちと、素直な気持ちがないまぜになって…素直な心が勝ってしまった。
腕をそっと上げて帝の背中へ回して抱きしめた。帝の香りも一緒に腕の中に納める。
でも…わたしが抱きしめるなどお嫌かもしれない…。
腕の力を抜いて降ろすと、
「撫子?そのままで」
良いのかな?
もう一度、背中へ腕を回し、少し力を入れて抱きしめた。
「ふっ」
「主上?」
「いや…悪くない」
帝は二人の演奏をわたしを抱き寄せたまま聴かれた。
抱きしめられる腕が心地良くわたしを縛る。
そっと、顔を上げて帝のお顔を見るとにっこりと微笑んで顔を寄せてこられた。思わず眼を閉じたわたしの唇に何か柔らかいものが触れた。
…初めての感覚に驚いたけれど、これは帝の唇なのかな?
あの時は一度も触れる事の無かった…。
確かめることはできない。
眼を開ける事ができなかった。
離れて行かない唇に触れる熱に、幾度となく刺激されて声が出そうになる。かかる帝の吐息に身体が震えた。顔に熱が集まるのを感じ、この時間が早く終わって欲しいような、ずっとこのままでいて欲しいような複雑な気分だった。
「撫子…」
囁くように名を呼ばれて、いつも呼んで下さるのに今のお声は特別な響きがあり、あの時の幻聴を思い出した。
「…んっ…」
思わず声が漏れそうになり、帝に回している腕に力が篭り、更に抱きつくようになってしまい恥ずかしい。
女房が側に控えようと入ってきたけれど、わたしたちの姿を見たのだろうか何も云わず気配は遠のいた。
恥ずかしくて離れようとしたわたしの身体をまるで『離さない』と主張するような逞しい腕に更に力を込めて抱きしめられた。
今、わたしは幸せだ。
愛する人に抱きしめられて、応えて返すことが出来るなど思ってもみなかった。
宮さまたちが気掛かりだけどこの幸せな気持ちを持って、内裏を出て行こう。
都合良く、衛門は宿下がりで後宮に居ない。孫が生まれると喜んでいた。
衛門にこれ以上迷惑を掛けてはいけないと思っていたので、ちょうど良かった。
…今は清涼殿へ誰も渡っていないけれど、いずれまた誰かが呼ばれる。その時にはきっと今以上に辛く感じるだろう。
男のわたしが清涼殿へ召されることはないのだから。
帝に優しくされた記憶だけ持って行こう。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
今日も局に下がっていた女房がこぞって伺候している様だ。
わたしはそれどころではないのだけれど。
「主上、お戯れを…」
「嫌かい?」
二人きりの御簾の中でボソボソと会話は続く。
帝はわたしの気持ちをご存知でないから、何気ない触れ合いすら…例えば手が触れる、いや視線が絡まるだけで心臓が跳ねるくらいに嬉しいから…こんなに近くで優しくしないで欲しい。
帝の腕がわたしの腰に回り、ついには抱き寄せてしまわれた。
「少しこのままで…」
「はい…」
帝はどうしてこのような事をされるのか?わたしは男なのに…
でも、嬉しい。
戒める気持ちと、素直な気持ちがないまぜになって…素直な心が勝ってしまった。
腕をそっと上げて帝の背中へ回して抱きしめた。帝の香りも一緒に腕の中に納める。
でも…わたしが抱きしめるなどお嫌かもしれない…。
腕の力を抜いて降ろすと、
「撫子?そのままで」
良いのかな?
もう一度、背中へ腕を回し、少し力を入れて抱きしめた。
「ふっ」
「主上?」
「いや…悪くない」
帝は二人の演奏をわたしを抱き寄せたまま聴かれた。
抱きしめられる腕が心地良くわたしを縛る。
そっと、顔を上げて帝のお顔を見るとにっこりと微笑んで顔を寄せてこられた。思わず眼を閉じたわたしの唇に何か柔らかいものが触れた。
…初めての感覚に驚いたけれど、これは帝の唇なのかな?
あの時は一度も触れる事の無かった…。
確かめることはできない。
眼を開ける事ができなかった。
離れて行かない唇に触れる熱に、幾度となく刺激されて声が出そうになる。かかる帝の吐息に身体が震えた。顔に熱が集まるのを感じ、この時間が早く終わって欲しいような、ずっとこのままでいて欲しいような複雑な気分だった。
「撫子…」
囁くように名を呼ばれて、いつも呼んで下さるのに今のお声は特別な響きがあり、あの時の幻聴を思い出した。
「…んっ…」
思わず声が漏れそうになり、帝に回している腕に力が篭り、更に抱きつくようになってしまい恥ずかしい。
女房が側に控えようと入ってきたけれど、わたしたちの姿を見たのだろうか何も云わず気配は遠のいた。
恥ずかしくて離れようとしたわたしの身体をまるで『離さない』と主張するような逞しい腕に更に力を込めて抱きしめられた。
今、わたしは幸せだ。
愛する人に抱きしめられて、応えて返すことが出来るなど思ってもみなかった。
宮さまたちが気掛かりだけどこの幸せな気持ちを持って、内裏を出て行こう。
都合良く、衛門は宿下がりで後宮に居ない。孫が生まれると喜んでいた。
衛門にこれ以上迷惑を掛けてはいけないと思っていたので、ちょうど良かった。
…今は清涼殿へ誰も渡っていないけれど、いずれまた誰かが呼ばれる。その時にはきっと今以上に辛く感じるだろう。
男のわたしが清涼殿へ召されることはないのだから。
帝に優しくされた記憶だけ持って行こう。
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