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恋の駆け引きなんて知りません
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
「女御さま、申し訳ございません。『飛香舎(藤壺)を出ることは許さない』と主上が…」
何故、許してくれないのだろう?
「はい。承知いたしました」
父上には申し訳ない事をした。云い難かっただろうに帝に聞いて下さったのだから。わたしの我儘だったのだ。
仕方ない。
けれど、少し気分が晴れることがあった。
「女御さま方のお渡りがぷつりと無くなりましたね」
「そうなのよ。だからと云ってこちらの女御さまが…って云う話ではないのだけどね…」
「そうですね」
「わたし、梨壺にご用があって向かっている時に夜のお召しで清涼殿へ渡っておられる麗景殿の女御さまの行列に会ってしまった事があるの。几帳をずらしている女房と目があったら、誇らしげな、勝ち誇ったような嫌味な目で薄く微笑まれて腹立たしかったわ」
「それも今はないのですね」
「そうよ」
「あの穏やかな主上がいつにない強さで『もう来るな』と仰ったと聞きましたけど」
「あら、わたしは主上の側仕えの女房と女御さま付きの女房が喧嘩したと聞いたわよ」
早速、噂好きの女房の話題になっていた。あれ程毎夜毎夜…だったのに。
どの噂が本当かなんて良い。
できれば帝が『来るな』と仰ったのであれば嬉しいが、そんな事は今までの辛さに比べれば些細な事だ。
今は誰も夜のお渡りがないらしい。
女房の噂通り、それで撫子に何か変わる事があるわけでは無いけれど。
帝は変わらず飛香舎へいらっしゃる。
帝がおいでになって程なくのこと。
「女御さま、右近の少将さまが間も無くお見えになります」
えっ、あっ…そう云えば…。
今日、笛を聴かせてくれると云っていた。
「撫子、こちらへ」
まるで少将がこちらへ来る事がわかっていたかのように自然に、帝が上座で手招きされた。
「几帳で女御を右近の少将の目に触れない様に」
と座を整えて下さる。
あの時以来、こんなに近くに寄ることがなかったので、緊張する。
「撫子…もっと近くへ」
離れて座っていたけれど、呼ばれて帝の横に座った。
「あの時は悪かったね」
まさか、謝られるとは思っていなかった。
「いえ…わたくしが悪いのですから」
「あなたは悪くないのでしょう?本当の撫子が悪いんだ」
それはそうなのだけれど。
「主上、その話は…」
「ああ、分かっているよ。誰にも云ってない」
それは分かっている。
理由は分からないけれど。
今、聞いても良いのだろうか?
いつも帝の側に控えている一条は今、居ない。わたしの側にもいつも誰かが控えているけれど、少将を迎える準備で局から女房を呼んだり、忙しなく動いているからか近くに女房はいない。
二人の間には穏やかな時間が流れている。
嵐の夜が幻のようだ。帝には消えて欲しい幻かもしれないけれど、わたしには手放したくない宝物だ。
「何故、誰にも仰らなかったのですか?」
「そんなことをすれば、後宮を出なければならないよ」
「はい。覚悟の上です」
「駄目だ…」
だから何故駄目なのか?
わたしの都合の良いように、喜んでしまいそうになる心に歯止めをかける。手を握りしめて、目をつむり喜びを感じる心をやり過ごす。
「主上もお見えになっていたとは知りませんでした」
突然の声に驚いて帝の着物を掴んでしまった。
「申し訳ございません」
小さい声で謝ると「良いよ」と「こちらへ」と膝が付くくらい近くにわたしを座らせて落ち着いてしまわれた。
「今日は笛を聴かせてくれるのかな」
「はい。琵琶の奏者も一緒です」
後ろから蔵人の少将が現れた。
「主上にも聞いて頂けるとは、光栄です」
「女御さま、申し訳ございません。『飛香舎(藤壺)を出ることは許さない』と主上が…」
何故、許してくれないのだろう?
「はい。承知いたしました」
父上には申し訳ない事をした。云い難かっただろうに帝に聞いて下さったのだから。わたしの我儘だったのだ。
仕方ない。
けれど、少し気分が晴れることがあった。
「女御さま方のお渡りがぷつりと無くなりましたね」
「そうなのよ。だからと云ってこちらの女御さまが…って云う話ではないのだけどね…」
「そうですね」
「わたし、梨壺にご用があって向かっている時に夜のお召しで清涼殿へ渡っておられる麗景殿の女御さまの行列に会ってしまった事があるの。几帳をずらしている女房と目があったら、誇らしげな、勝ち誇ったような嫌味な目で薄く微笑まれて腹立たしかったわ」
「それも今はないのですね」
「そうよ」
「あの穏やかな主上がいつにない強さで『もう来るな』と仰ったと聞きましたけど」
「あら、わたしは主上の側仕えの女房と女御さま付きの女房が喧嘩したと聞いたわよ」
早速、噂好きの女房の話題になっていた。あれ程毎夜毎夜…だったのに。
どの噂が本当かなんて良い。
できれば帝が『来るな』と仰ったのであれば嬉しいが、そんな事は今までの辛さに比べれば些細な事だ。
今は誰も夜のお渡りがないらしい。
女房の噂通り、それで撫子に何か変わる事があるわけでは無いけれど。
帝は変わらず飛香舎へいらっしゃる。
帝がおいでになって程なくのこと。
「女御さま、右近の少将さまが間も無くお見えになります」
えっ、あっ…そう云えば…。
今日、笛を聴かせてくれると云っていた。
「撫子、こちらへ」
まるで少将がこちらへ来る事がわかっていたかのように自然に、帝が上座で手招きされた。
「几帳で女御を右近の少将の目に触れない様に」
と座を整えて下さる。
あの時以来、こんなに近くに寄ることがなかったので、緊張する。
「撫子…もっと近くへ」
離れて座っていたけれど、呼ばれて帝の横に座った。
「あの時は悪かったね」
まさか、謝られるとは思っていなかった。
「いえ…わたくしが悪いのですから」
「あなたは悪くないのでしょう?本当の撫子が悪いんだ」
それはそうなのだけれど。
「主上、その話は…」
「ああ、分かっているよ。誰にも云ってない」
それは分かっている。
理由は分からないけれど。
今、聞いても良いのだろうか?
いつも帝の側に控えている一条は今、居ない。わたしの側にもいつも誰かが控えているけれど、少将を迎える準備で局から女房を呼んだり、忙しなく動いているからか近くに女房はいない。
二人の間には穏やかな時間が流れている。
嵐の夜が幻のようだ。帝には消えて欲しい幻かもしれないけれど、わたしには手放したくない宝物だ。
「何故、誰にも仰らなかったのですか?」
「そんなことをすれば、後宮を出なければならないよ」
「はい。覚悟の上です」
「駄目だ…」
だから何故駄目なのか?
わたしの都合の良いように、喜んでしまいそうになる心に歯止めをかける。手を握りしめて、目をつむり喜びを感じる心をやり過ごす。
「主上もお見えになっていたとは知りませんでした」
突然の声に驚いて帝の着物を掴んでしまった。
「申し訳ございません」
小さい声で謝ると「良いよ」と「こちらへ」と膝が付くくらい近くにわたしを座らせて落ち着いてしまわれた。
「今日は笛を聴かせてくれるのかな」
「はい。琵琶の奏者も一緒です」
後ろから蔵人の少将が現れた。
「主上にも聞いて頂けるとは、光栄です」
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