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番外編ー参 藤壺の女御の疑問
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「このところ、お元気がなかったので心配していたのですが…主上が何か仰られましたか?」
「…何も。どうしたの、衛門?」
「涙が…」
目に触れると指先が濡れている。
「えっ…わたしは…」
十五夜という言葉に帝とお月見した夜を思い出していた。
あの時はあんなに幸せだったのに…。
「わたくしが主上に諫言申し上げます」
勢いよく立ち上がると退出しようとする。
「衛門、待って」
「女御さま、何も我慢なさることはないのです。主上に云いたいことは云わないと。…わたくしも憂慮しておりました」
「いいんだ…主上がこちらに来たくないとお思いになられるのに無理して来ていただくなんてわたしには…できない。
慈悲など要らない。
主上がわたしを必要とされないなら…わたしは…わたしは…」
泣いてはいけないと思うのに涙が溢れた。
「女御さま?主上には藤壺さまだけですよ?一条さんからも聞いていますが…何か誤解されているようですね」
「誤解?」
「そうです」
「だって…それでは何故?…」
「それがわたくしもわからないのですよ」
『ちょっとお待ちくださいね』と退出していくのを止めることはできなかった。
しばらくして戻って来た衛門はどこか怒っているような、少し不機嫌な様子だった。でも、わたしにはいつもと変わらない母のような穏やかな眼差しで手を握ってくれる。
「主上が夜にこちらにお渡りになられます」
「衛門!わたしは…慈悲など要らぬと先ほど申しました。何故そのような勝手なことを…」
思わず強い口調で云ってしまった。衛門に当たっても仕方ないのに…。
落ち着いてと握っていた手を背中に回しなだめられた。
「一度、主上とお話された方が良いと思います。我慢しないで素直になって、甘えてみては如何ですか?先ほども申しましたが女御さまは何か誤解をされているようですしね」
帝が飛香舎にいらっしゃって、すぐに抱きすくめられた。
「撫子…すまない」
「な、何故、謝るの?」
なんだか苦しくなる。
衛門はああ云っていたけれど、続く言葉が『もうこちらに来られなくなった』というもののような気がしてどうして良いかわからなくなる。
帝はお優しいから……わざわざ拒絶の言葉をわたしに告げに、こちらにいらしたのだろうか?
心臓が張り裂けそうに苦しい。
「まさか撫子を苦しめているなんて思いもしなかったんだ。撫子に対う疑いを避けるためだったんだ」
帝から漂う穏やかな雰囲気と帝の香りに包まれて、腕の中に閉じ込められたわたしはやっと少し落ち着きを取り戻した。
「あの…どう云うことなのですか?」
「実は兼道と相談して信頼できる医師に撫子が男であることを打ち明けたんだ」
「まあ…」
「撫子に何かあった時に必要だからね」
「でも、それは別のお話ですよね?わたしは…」
「最後まで聞いて。それで、六条大納言がその医師に『藤壺の女御は月の障りはないのか?もしや懐妊されたのか?』と聞かれたと報告してくれてね」
わたしに月の障りなどあるはずがない。
「どこで男と知られてもいけないので、その医師に相談して決まった時に日を開けようと思ったのが最初なんだ」
…でも、わたしも詳しくは知らないけれど、月に一度ではないのか?
「…何も。どうしたの、衛門?」
「涙が…」
目に触れると指先が濡れている。
「えっ…わたしは…」
十五夜という言葉に帝とお月見した夜を思い出していた。
あの時はあんなに幸せだったのに…。
「わたくしが主上に諫言申し上げます」
勢いよく立ち上がると退出しようとする。
「衛門、待って」
「女御さま、何も我慢なさることはないのです。主上に云いたいことは云わないと。…わたくしも憂慮しておりました」
「いいんだ…主上がこちらに来たくないとお思いになられるのに無理して来ていただくなんてわたしには…できない。
慈悲など要らない。
主上がわたしを必要とされないなら…わたしは…わたしは…」
泣いてはいけないと思うのに涙が溢れた。
「女御さま?主上には藤壺さまだけですよ?一条さんからも聞いていますが…何か誤解されているようですね」
「誤解?」
「そうです」
「だって…それでは何故?…」
「それがわたくしもわからないのですよ」
『ちょっとお待ちくださいね』と退出していくのを止めることはできなかった。
しばらくして戻って来た衛門はどこか怒っているような、少し不機嫌な様子だった。でも、わたしにはいつもと変わらない母のような穏やかな眼差しで手を握ってくれる。
「主上が夜にこちらにお渡りになられます」
「衛門!わたしは…慈悲など要らぬと先ほど申しました。何故そのような勝手なことを…」
思わず強い口調で云ってしまった。衛門に当たっても仕方ないのに…。
落ち着いてと握っていた手を背中に回しなだめられた。
「一度、主上とお話された方が良いと思います。我慢しないで素直になって、甘えてみては如何ですか?先ほども申しましたが女御さまは何か誤解をされているようですしね」
帝が飛香舎にいらっしゃって、すぐに抱きすくめられた。
「撫子…すまない」
「な、何故、謝るの?」
なんだか苦しくなる。
衛門はああ云っていたけれど、続く言葉が『もうこちらに来られなくなった』というもののような気がしてどうして良いかわからなくなる。
帝はお優しいから……わざわざ拒絶の言葉をわたしに告げに、こちらにいらしたのだろうか?
心臓が張り裂けそうに苦しい。
「まさか撫子を苦しめているなんて思いもしなかったんだ。撫子に対う疑いを避けるためだったんだ」
帝から漂う穏やかな雰囲気と帝の香りに包まれて、腕の中に閉じ込められたわたしはやっと少し落ち着きを取り戻した。
「あの…どう云うことなのですか?」
「実は兼道と相談して信頼できる医師に撫子が男であることを打ち明けたんだ」
「まあ…」
「撫子に何かあった時に必要だからね」
「でも、それは別のお話ですよね?わたしは…」
「最後まで聞いて。それで、六条大納言がその医師に『藤壺の女御は月の障りはないのか?もしや懐妊されたのか?』と聞かれたと報告してくれてね」
わたしに月の障りなどあるはずがない。
「どこで男と知られてもいけないので、その医師に相談して決まった時に日を開けようと思ったのが最初なんだ」
…でも、わたしも詳しくは知らないけれど、月に一度ではないのか?
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