撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

文字の大きさ
75 / 98
番外編ー参 藤壺の女御の疑問

06

しおりを挟む
「久しぶりに抱くとあなたがやけに妖艶にわたしを求めてくれた」
「……」

そうだっただろうか?
そうかもしれない…。
恥かしい。

「だから、わたしが日を開けて訪れるとまた激しく求めてくれるかなと思ったんだよ」
「そのような…。わたくしは辛うございました。
主上には思う女房がいるのに違いないと…
やはり男のわたくしではダメなのではないかと…
いつ『もう要らぬ』と云われるかと思って…」
「ごめん、撫子」

優しく口付けて下さるけれど、
「頻繁にどこぞの女房と連絡をとっているとか噂になっていましたが?」

主に悪意を持ってわたしに届く噂は本当かどうかはわからないまでも全てが偽りでもない。

日向が後宮にいる時は度々清涼殿に行っていると、
宿下がりした後は頻繁に帝が文をしたためていると、
そのお顔はまるで恋する殿方が恋人を思っているようだと…。

「駄目だよ。まだ隠しておきたいんだ。きっと喜んでくれるから。決して撫子を悲しませたりしない」

「口を開けて」
と云われ素直に従うと舌を絡めて強く吸われた。

先ほどより激しい口付けはわたしの力を奪い帝にしがみついた。

その腕ごと、わたしの気持ちも一緒に帝が包んで下さるようで、野分が過ぎ去った朝のような穏やかな気持ちになった。

「わたしもこちらに来るのを我慢していたんだよ。本当は毎日でも来たいんだ」
「では、毎日来てくださいませ。わたくしは…主上の側に居とうございます」

しがみついたまま素直に答えた。

口付けはだんだんと深くなって、帝の舌がわたしの口内を荒々しく刺激する。

舌を根元から絡められ身体が痺れたように甘く疼く。

「あっ…ん」

漏れ出る声に、
「撫子、もっと声を聞かせて」
「…だ、だめです。あっ…は、恥かしい」

可愛いと顔中に口付けられて眼を開けていられない。

「…主上…。顔…」
「何?」
「…顔が、見たいです」

口付けを止めて、顔を覗き込まれる。

両手を帝の首に回して、
「わたくしで宜しいのですか?」
「何が?」
「ぅん…主上が…主上にはわたくしが必要ですか?」
「当たり前だよ。わたしは何の為に我慢していたのだろうか?撫子をこんなに哀しませて…。もう我慢なんかしない。愛してる」

腰紐を取る手は性急で帝の首に回していたわたしの腕は自然と降ろされた。

「わたしの首にしがみついてる撫子は可愛いけど、着物が脱げないだろう?」

首筋に口付けられて、「あっ…」そこは弱いから…。
鼻に抜けた様な声に気をよくしたのか、帝の腕が首の後ろに回り顎を持ち上げられた。
露わになった首筋に指を這わせ、後を追うように口付ける。

その間も声は漏れてくる。

帝の頭が下がって、鎖骨の辺りをきつく吸われた。
手はわたしの着物を脱がせていく。慣れた手つきで全てを脱がされ、「ほら、撫子の番だよ」と『わたしの着物を脱がせるのでしょう?』と耳元で囁かれて顔に熱が集まる。

「はい…」

返事をして帝に抱きつくと今までの不安を取り除くように甘えた。

帝が初めての事を気にされているように、わたしもあの時のことは衝撃として胸に残っている。

それは帝が嫌いになるとか、憎むとかは微塵もないけれど、かすかに、『優しくして…』とわたしを苦しめる。

着物を全て脱がないとあの時のことがどうしても思い出されて…でも帝は嫌がらずに云う事を聞いて下さるので幸せだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

彼はオタサーの姫

穂祥 舞
BL
東京の芸術大学の大学院声楽専攻科に合格した片山三喜雄は、初めて故郷の北海道から出て、東京に引っ越して来た。 高校生の頃からつき合いのある塚山天音を筆頭に、ちょっと癖のある音楽家の卵たちとの学生生活が始まる……。 魅力的な声を持つバリトン歌手と、彼の周りの音楽男子大学院生たちの、たまに距離感がおかしいあれこれを描いた連作短編(中編もあり)。音楽もてんこ盛りです。 ☆表紙はtwnkiさま https://coconala.com/users/4287942 にお願いしました! BLというよりは、ブロマンスに近いです(ラブシーン皆無です)。登場人物のほとんどが自覚としては異性愛者なので、女性との関係を匂わせる描写があります。 大学・大学院は実在します(舞台が2013年のため、一部過去の学部名を使っています)が、物語はフィクションであり、各学校と登場人物は何ら関係ございません。また、筆者は音楽系の大学・大学院卒ではありませんので、事実とかけ離れた表現もあると思います。 高校生の三喜雄の物語『あいみるのときはなかろう』もよろしければどうぞ。もちろん、お読みでなくても楽しんでいただけます。

握るのはおにぎりだけじゃない

箱月 透
BL
完結済みです。 芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。 彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。 少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。 もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

リンドグレーン大佐の提案

高菜あやめ
BL
軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部のカリスマ軍師リンドグレーン大佐から持ちかけられた『ある提案』に応じ、一晩その身をゆだねる。 一夜限りの関係かと思いきや、大佐はそれ以降も執拗に彼に構い続け、次第に独占欲をあらわにしていく。 叩き上げの下士官と、支配欲を隠さない上官。上下関係から始まる、甘くて苛烈な攻防戦。 【支配系美形攻×出世欲強めな流され系受】

処理中です...