エスポワールで会いましょう

茉莉花 香乃

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第四章

4ー06

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笑顔の月島君は「ほら食べよ」とケーキを勧めてくれた。ケーキは美味しかった。ふわふわしているけど、しっとりしていて、甘さ控えめでいくらでも食べられそう。

「これからさ、どこ行く?」
「えっ…月島君が決めてよ」
「…彰って呼んでくれる?」
「……」
「彰、言って…」
「彰君…」
「まあ、良いか…映画でも観に行く?」
「うん、良いよ」

それから、最近観た映画や話題になった過去の映画の話しをして彰君が映画好きなのが分かった。

スマホで劇場の情報をチェックしてくれて、いまから30分後に上映される映画を観ようとエスポワールを後にした。

前に奈津美と観た映画は全然覚えて無い程動揺して混乱していたけど、今日も軽く混乱中だ。

僕の右隣は通路。通路の隣は壁。つまり一番端。
彰君の左隣は一つ席が空いているけどその隣は人が座っている。僕たちの前も後ろも人が座っている。

そんな中、彰君が手を繋いできたんだ。

まだ映画は始まっていないけど、予告が始まっていたので劇場内はもう暗かったのだけど、突然のことでびっくりした。

思わず手を引っ込めようとしたけど「良いでしょ…」と笑顔で言われた。

どう言うつもりなのだろうか?
友達だよね?
でも、友達で手は繋がないよね?
まさか、奈津美の代わり?
小さい頃、僕たちは似ていると言われていたし…今も、仕草なんかは似ているらしい……

深く考えるのを止めた。

僕も手を繋いでいたい。

彰君に触れられるのが嬉しいんだ。


映画は面白かったけど……

時々悪戯な彰君の右手は、僕の左手を離れて膝に乗ったり、また左手に戻ったり。髪を梳いたり、頬を触ったりしてまた左手に戻った。

そんなドキドキの時間はあっと言う間に過ぎた。

劇場を出て「晩御飯どうする?」って彰君が聞いてきた。

「……」
「エスポワール帰って食べる?それかどこか違う店入る?」

どうしよう。
もっと一緒に居たいけど、もう心臓持たないよ。

「今日は帰ります。ごめんね」
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