38 / 52
第六章
6ー01
しおりを挟む
電話を切って、ベッドに寝転がる。
一週間後、もし「橘裕樹」としてエスポワールへ行ったとして何か変わるかな?
気付かれずに『橘、どしたの?』と言われたら、立ち直れるかな?
でも、このままで良い訳ない。
二学期になった時、どうせ分かってしまうかもしれないなら勇気を出してみようか。
それでもし彰君に拒否されても見つめるだけの片思いに戻るだけだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の土曜日、眼鏡を掛けて前髪を下ろして待ち合わせより30分早くエスポワールに到着した。
中に入れずにウロウロしていると、前から彰君が歩いて来るのが見えた。
「橘?」
「……」
ああ…やっぱり……彰君の顔が見られない。
「……ユキだよね?」
「えっ…?」
思わず顔を上げると、
「やっぱりユキだ。おいで、こっち」
手を引っ張られて、エスポワールへ入る。
「こっち」とカウンターの裏へ行き階段を上がって行く。
途中でマスターが、
「あっ、おい、彰!ユキちゃんに怒られるぞ」
と言ってるけど、彰君は返事をしない。
一番手前の部屋の扉を開けると「入って」と言って、僕を部屋の中に入れて自分も入って、直ぐに扉を後ろ手で締めた。
扉が閉まった瞬間背後から強く抱きしめられた。
「ユキ…ううん、裕樹……やっぱりそうだったんだな」
「えっ、やっぱりって…?」
一瞬体が離れてくるんと彰君の方へ向かされる。
ゆっくり眼鏡を取られて、前髪を掻き上げられた。
両手で頬を挟まれる手が凄く優しい。彰君は惚けるような笑顔でチュってキスした。
「夏休み前にユキに最初に会った時、俺の中でユキであり橘だったんだ。でも橘って迷子癖があるって思ってたのに、道全然迷わないって言うし、確証が無かった。でもユキなのは確かだと思ったから…」
一週間後、もし「橘裕樹」としてエスポワールへ行ったとして何か変わるかな?
気付かれずに『橘、どしたの?』と言われたら、立ち直れるかな?
でも、このままで良い訳ない。
二学期になった時、どうせ分かってしまうかもしれないなら勇気を出してみようか。
それでもし彰君に拒否されても見つめるだけの片思いに戻るだけだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の土曜日、眼鏡を掛けて前髪を下ろして待ち合わせより30分早くエスポワールに到着した。
中に入れずにウロウロしていると、前から彰君が歩いて来るのが見えた。
「橘?」
「……」
ああ…やっぱり……彰君の顔が見られない。
「……ユキだよね?」
「えっ…?」
思わず顔を上げると、
「やっぱりユキだ。おいで、こっち」
手を引っ張られて、エスポワールへ入る。
「こっち」とカウンターの裏へ行き階段を上がって行く。
途中でマスターが、
「あっ、おい、彰!ユキちゃんに怒られるぞ」
と言ってるけど、彰君は返事をしない。
一番手前の部屋の扉を開けると「入って」と言って、僕を部屋の中に入れて自分も入って、直ぐに扉を後ろ手で締めた。
扉が閉まった瞬間背後から強く抱きしめられた。
「ユキ…ううん、裕樹……やっぱりそうだったんだな」
「えっ、やっぱりって…?」
一瞬体が離れてくるんと彰君の方へ向かされる。
ゆっくり眼鏡を取られて、前髪を掻き上げられた。
両手で頬を挟まれる手が凄く優しい。彰君は惚けるような笑顔でチュってキスした。
「夏休み前にユキに最初に会った時、俺の中でユキであり橘だったんだ。でも橘って迷子癖があるって思ってたのに、道全然迷わないって言うし、確証が無かった。でもユキなのは確かだと思ったから…」
23
あなたにおすすめの小説
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
幼馴染は吸血鬼
ユーリ
BL
「お前の血を飲ませてくれ。ずーっとな」
幼馴染は吸血鬼である。しかも食事用の血液パックがなくなると首元に噛みついてきてーー
「俺の保存食としての自覚を持て」吸血鬼な攻×ごはん扱いの受「僕だけ、だよね?」幼馴染のふたりは文化祭をきっかけに急接近するーー??
幸せごはんの作り方
コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。
しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。
そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。
仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる