エスポワールで会いましょう

茉莉花 香乃

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第六章

6ー03

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「前髪で隠れてるけど、なんかこっち見てるなって思ったらすっごい笑顔で挨拶してくれただろ?嬉しかった。でもさ、ある時から気がつくと後ろ姿とか、たまにこっち見てるかなって思っても直ぐ逸らされてさ。どしたのかなって気になってた。けど、その時ちょうど『ユキ』の名前が判った時だったから。ごめんな。ユキは一瞬だけしか見てないから俺の中ですっごいインパクトのある事だったんだ」
「嬉しい…」
「ここんとこ週に一度会う度、やっぱり橘じゃ無いのかな?って思ってた。でも、もともとあまり喋った事も無かったから確かめる術が無かった。連絡先も橘だから教えられ無いんじゃないかって思ったら、しつこく聞けなかった。聞いたらもう次は無いのかと思ったら出来なかった。ユキが裕樹でも裕樹じゃ無くても…」
「僕も怖かった」
「裕樹…」

ゆっくり回される腕が心地いい。

「奈津美の代わりなんじゃないかって…思ってた。
ユキだって、友達だって…友達としてなら会えるんだって。それに学校で会う暗い橘裕樹じゃ、彰君は見向きもしないだろうって」
「そんな事無い!裕樹は大人しいだけで、暗いんじゃ無い。神田さんの事は違うんだ…さっきも言ったけどユキしか見て無かったんだ。今まで言えなかったけど…裕樹好きなんだ」
「僕も大好き」

目を見て大切な事を告げる。

「コンコン」

扉が叩かれる。

「何、航さん?」
「彰、ユキちゃんもう直ぐ来るぞ。お前、泣かせちまうだろうが。ユキちゃんでさえこの部屋に入れなかったのに…誰だよ、そいつ。ユキちゃん泣かせたら、許さないぞ」

二人で見つめ合って笑う。
チュとキスして、彰君が扉をゆっくり開けると怒った顔のマスターがいた。

けど、僕の顔を見ると驚いた顔をして、

「お、ま…ユキちゃんか?」
「はい……ご心配おかけしました」
「そか…彰も煮え切らないから、何かあるんかなとは思ってたけど、解決したんか?」
「はい」

そして、彰君の方を見て、

「ね?」

と、微笑んだ。


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