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第四章
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「父上、ありがとうございます」
ちょっと、不安だったんだ…。今まで、ずっと一緒にいてくれたアシュリーがいないことが…。
「ああ、ミネルヴァだね?ここにいるの?」
殿下は不快に感じることもなくアシュリーを呼ぶことを了承して下さった。
『アシュ…、王太子殿下が力を見せてって…。父上がアシュリーを呼んで良いって言ってくれたんだ。もう直ぐ、そっちに迎えが行くから』
『コーディ殿下?…わかった』
『でも、どうしていいかわからないんだ…』
『そうか…今まではセシリアがいたからな』
『うん…』
アシュリーを待つ間、殿下が僕を手招きする。何事かと立ち上がり側まで行くといきなり手を引っ張られた。
「やっ…」
膝の上に乗ってしまい慌てた。
「で、殿下!申し訳ありません」
慌てる僕に父上は落ち着いた声で殿下を窘める。
「殿下、大人気ないことしないで下さい。もう直ぐ、アシュリーが来ます。怒りますよ?」
「俺に怒るか?」
「そうですね…親のわたくしが言うのもなんですが、ジュリアンの事に関しては人が変わります」
まるでアシュリーの事を自分の息子のように言う父上に驚いた。父上がそんなふうに思っていたなんて知らなかった。照れくさいけれど、嬉しい。
「そうか…すまない」
僕の身体を支え立たせて下さる殿下の腕が僕から離れていない時にノックの音が響き、アシュリーが入ってきた。
『アシュ…』
「ジュリ!」
僕を殿下から遠ざけるように自分の背中に隠した。
それから恭しく礼を執る。
「成る程、面白い」
「殿下…揶揄われたのですか?」
アシュリーが抑えた声で殿下に言うのに慌てた。
『ア、アシュ!何もされてないよ!』
『そうなのか?』
『うん。ちょっと、僕が蹌踉めいて、支えて下さっただけなんだ』
少し嘘を言ったけど、殿下に楯突いて欲しくない。
「申し訳ありません」
「いや…」
ククッと笑われるのは先程と同じで、やはり遊んでおられるのか?
「面白いものを見せてもらった。リンメル家の次男は冷静沈着、隙を見せないと評判なのに…。さあ、次はジュリアンの番だよ。わたしに見せておくれ」
『どうしよう…』
『ジュリ、落ち着いて。あの時のことを思い出してごらん?』
目を瞑りセシリアを思い浮かべる。
あの時と同じように、両手に意識を集中する。魔力が一旦身体を覆い、次第に手に集まるのがわかる。魔力の塊がシルバーの光を放った。
これでいいのだろうか?
殿下を見ると目を見張り驚いておられる。
「そのまま、ここに当ててみて?」
と右腕を出された。右腕の指先から肩に向かいゆっくり動かす。僕の右手の人差し指が温かくなり、動かす手が肘を通過する時微かに冷たく感じた。そこに意識を集中させる。
「どうだった?」
「肘が…傷を負われましたか?」
「凄いね。先日、剣の稽古の時に怪我してね。さっきまで痛かったけれどもう痛くないよ」
「ジュリ!」
ふわりと身体が沈んだ。アシュリーが抱きとめてくれたから倒れることはなかったけれど、殿下の前で失態を演じてしまった。御前ではあるけれど、このままでは立っている自信がないので、しばらくアシュリーの腕の中で目を瞑る。
「失礼致しました」
「いや、悪かったね。急に腕なんか出したから」
「いえ…」
アシュリーが僕を抱きしめてくれているからか、魔力が落ち着いてきた。
『ごめん…。魔力を集めるだけなら大丈夫だと思ったんだ』
『うん…平気。ありがとう。もう大丈夫』
アシュリーと一緒に父上の隣に立つ。
「凄いね。その癒しの御力にもびっくりしたけど、俺は二人の絆に驚きだよ。対の存在…正しくそうなのだな。文献ではそう書いてあるけれど、目の当たりにすると改めて歴史の真実が明かされたようで興味深い」
殿下は一頻り凄いと褒めて下さり、迎えが来て渋々王宮に戻られた。
父上に部屋へ戻るように言われた。
「他の方への挨拶は断るから、パーティーまでゆっくりするといい。…殿下の気まぐれに付き合わされたんだ、ネイトも怒らないだろう。陛下か…明日は…」
ブツブツと呟きながら、父上も部屋を後にされた。
ちょっと、不安だったんだ…。今まで、ずっと一緒にいてくれたアシュリーがいないことが…。
「ああ、ミネルヴァだね?ここにいるの?」
殿下は不快に感じることもなくアシュリーを呼ぶことを了承して下さった。
『アシュ…、王太子殿下が力を見せてって…。父上がアシュリーを呼んで良いって言ってくれたんだ。もう直ぐ、そっちに迎えが行くから』
『コーディ殿下?…わかった』
『でも、どうしていいかわからないんだ…』
『そうか…今まではセシリアがいたからな』
『うん…』
アシュリーを待つ間、殿下が僕を手招きする。何事かと立ち上がり側まで行くといきなり手を引っ張られた。
「やっ…」
膝の上に乗ってしまい慌てた。
「で、殿下!申し訳ありません」
慌てる僕に父上は落ち着いた声で殿下を窘める。
「殿下、大人気ないことしないで下さい。もう直ぐ、アシュリーが来ます。怒りますよ?」
「俺に怒るか?」
「そうですね…親のわたくしが言うのもなんですが、ジュリアンの事に関しては人が変わります」
まるでアシュリーの事を自分の息子のように言う父上に驚いた。父上がそんなふうに思っていたなんて知らなかった。照れくさいけれど、嬉しい。
「そうか…すまない」
僕の身体を支え立たせて下さる殿下の腕が僕から離れていない時にノックの音が響き、アシュリーが入ってきた。
『アシュ…』
「ジュリ!」
僕を殿下から遠ざけるように自分の背中に隠した。
それから恭しく礼を執る。
「成る程、面白い」
「殿下…揶揄われたのですか?」
アシュリーが抑えた声で殿下に言うのに慌てた。
『ア、アシュ!何もされてないよ!』
『そうなのか?』
『うん。ちょっと、僕が蹌踉めいて、支えて下さっただけなんだ』
少し嘘を言ったけど、殿下に楯突いて欲しくない。
「申し訳ありません」
「いや…」
ククッと笑われるのは先程と同じで、やはり遊んでおられるのか?
「面白いものを見せてもらった。リンメル家の次男は冷静沈着、隙を見せないと評判なのに…。さあ、次はジュリアンの番だよ。わたしに見せておくれ」
『どうしよう…』
『ジュリ、落ち着いて。あの時のことを思い出してごらん?』
目を瞑りセシリアを思い浮かべる。
あの時と同じように、両手に意識を集中する。魔力が一旦身体を覆い、次第に手に集まるのがわかる。魔力の塊がシルバーの光を放った。
これでいいのだろうか?
殿下を見ると目を見張り驚いておられる。
「そのまま、ここに当ててみて?」
と右腕を出された。右腕の指先から肩に向かいゆっくり動かす。僕の右手の人差し指が温かくなり、動かす手が肘を通過する時微かに冷たく感じた。そこに意識を集中させる。
「どうだった?」
「肘が…傷を負われましたか?」
「凄いね。先日、剣の稽古の時に怪我してね。さっきまで痛かったけれどもう痛くないよ」
「ジュリ!」
ふわりと身体が沈んだ。アシュリーが抱きとめてくれたから倒れることはなかったけれど、殿下の前で失態を演じてしまった。御前ではあるけれど、このままでは立っている自信がないので、しばらくアシュリーの腕の中で目を瞑る。
「失礼致しました」
「いや、悪かったね。急に腕なんか出したから」
「いえ…」
アシュリーが僕を抱きしめてくれているからか、魔力が落ち着いてきた。
『ごめん…。魔力を集めるだけなら大丈夫だと思ったんだ』
『うん…平気。ありがとう。もう大丈夫』
アシュリーと一緒に父上の隣に立つ。
「凄いね。その癒しの御力にもびっくりしたけど、俺は二人の絆に驚きだよ。対の存在…正しくそうなのだな。文献ではそう書いてあるけれど、目の当たりにすると改めて歴史の真実が明かされたようで興味深い」
殿下は一頻り凄いと褒めて下さり、迎えが来て渋々王宮に戻られた。
父上に部屋へ戻るように言われた。
「他の方への挨拶は断るから、パーティーまでゆっくりするといい。…殿下の気まぐれに付き合わされたんだ、ネイトも怒らないだろう。陛下か…明日は…」
ブツブツと呟きながら、父上も部屋を後にされた。
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