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第四章
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アシュリーの部屋でドレスに着替える。
今年も手伝うと言って下さったイライザさまの申し出を丁寧に断って二人で着た。
悪戯なアシュリーの手が僕の着替えの邪魔をする。
「ジュリはここが弱いから」
そう言って首筋にキスをする。
「…っん…アシュ」
「あっ、待って、待って…ここも好きだろ?」
そう言って、胸の突起とアザにもキスをする。
「ア、アシュリー!」
「ジュリ、可愛い…」
「もう!ここ持ってて?」
今年、準備してくださったのは、淡い紫のドレスだった。
上半身はすっきりとしたデザインのドレスは、膝くらいの高さにリボンをあしらい、その下にはレースをふんだんに使って可愛さを演出する。
歩きやすいようにか単なるデザインなのか、リボンの下はレースだけで僕には有難かった。いくら小さい頃着ていたからと言って、流石に今ではドレスで歩くのは疲れるのだ。
パーティードレスなら尚更で、裾を踏まないように歩くにはコツがいる。片足ずつゆっくりと、足先を真っ直ぐ前に跳ね上げる。そんなことしてられないよね…。
着替え終わり、イライザさまに差し向けられたメイドに化粧を施され、ウイッグも付けて、…一息ついていた時だった。
イライザさまが慌てた様子で部屋に入ってこられた。
「アシュリー、ジュリアンちゃん!ちょっとお父さまの部屋に来て」
この既視感は何……。
二人で顔を見合わせる。イライザさまに腕を取られそのまま連れて行かれた。息子の腕を持とうよ!ドレスでは早く歩けない。
「母上、ジュリアンが転けてしまいます」
「あら、ごめんなさい。ジュリアンちゃん…すごく似合ってるわ…」
僕のドレス姿がイライザさまにとって自然なことなのか、第一声がそれって…。それに今気づきましたって感じで、どう返事して良いかわからないよ。
「良かった。パトリシアさまが肩にもリボンをと仰ったけど、膝のリボンを際立たせるにはやっぱりこの方が良いわ!」
僕の周りを一周して「ほうっ」と溜息を吐かれる。
「母上、急ぎではないのですか?」
「ああ、そうだったわ。アシュリー、ジュリアンちゃんを抱っこしてあげてね」
抱っこって…恥ずかしいです。アシュリー母君…。
アシュリーに抱かれたままリンメルさまの部屋まで急いだ。仕方ない。途中でパーティーの準備のためにいつもよりざわざわしているメイドたちに会ったけど、早く歩けないんだ。
部屋の前で降ろしてもらった。物々しい人数の警護が扉の前に控えている。この制服は近衛兵。と言うことは…。
アシュリーに続いて部屋に入るとアシュリーが立ち止まったからぶつかってしまった。
「陛下…」
アシュリーの呟く声に顔を上げると、ローブのフードをはらりと外し立ち上がる陛下がこちらをご覧になられていて……ここまで一緒って…。昨日の王太子殿下の様子が蘇る。
リンメルさまの部屋には陛下とリンメルさまの他にアシュリーの兄君のフランクさまと、父上とクラレンス兄上が揃っていた。
「ジュリアン、すまないね。パトリシアのわがままに付き合わせて」
父上が申し訳なさそうに謝ってくださる。ドレスのことだろう。
「ジュリアン、今年も綺麗だよ」
クラレンス兄上が頭を撫でる。
「クラレンス、俺も挨拶させてくれよ。ジュリアン、今年は一曲踊ってくれる?去年はアシュリーに頼まれて、隣で踊るだけだったからさ」
フランクさまがとんでもないことを言われる。
「コホン…」
「「「「………」」」」
「わたしを無視するとは…」
「いえ、そのような…」
「しかし、昨日も申しましたが…」
「そうですよ、陛下。いずれ近いうちに会えるのですから、今は堪えてくださいとお願いしたではありませんか?」
父上とリンメルさまが陛下を窘める。軽い口調は、学園の同窓なのかもしれない。
「でもだな…昨日、コーディが凄いものを見たとわざわざ言いに来るくらいなんだ!会ってきたと自慢するのだぞ?ほら、今日来て正解ではないか?コーディが悔しがるだろう。ささ、ジュリアン、こちらへ」
『アシュ…』
『おいで、ジュリ』
アシュリーが手を差し伸べてくれる。アシュリーの手を取って、陛下の御前まで行き今の僕に相応しい挨拶をする。仕方ないじゃないか?ドレス着てるんだから!
小さな頃から自然としていた挨拶はドレスを着ていることによりすんなりできてしまう。
今年も手伝うと言って下さったイライザさまの申し出を丁寧に断って二人で着た。
悪戯なアシュリーの手が僕の着替えの邪魔をする。
「ジュリはここが弱いから」
そう言って首筋にキスをする。
「…っん…アシュ」
「あっ、待って、待って…ここも好きだろ?」
そう言って、胸の突起とアザにもキスをする。
「ア、アシュリー!」
「ジュリ、可愛い…」
「もう!ここ持ってて?」
今年、準備してくださったのは、淡い紫のドレスだった。
上半身はすっきりとしたデザインのドレスは、膝くらいの高さにリボンをあしらい、その下にはレースをふんだんに使って可愛さを演出する。
歩きやすいようにか単なるデザインなのか、リボンの下はレースだけで僕には有難かった。いくら小さい頃着ていたからと言って、流石に今ではドレスで歩くのは疲れるのだ。
パーティードレスなら尚更で、裾を踏まないように歩くにはコツがいる。片足ずつゆっくりと、足先を真っ直ぐ前に跳ね上げる。そんなことしてられないよね…。
着替え終わり、イライザさまに差し向けられたメイドに化粧を施され、ウイッグも付けて、…一息ついていた時だった。
イライザさまが慌てた様子で部屋に入ってこられた。
「アシュリー、ジュリアンちゃん!ちょっとお父さまの部屋に来て」
この既視感は何……。
二人で顔を見合わせる。イライザさまに腕を取られそのまま連れて行かれた。息子の腕を持とうよ!ドレスでは早く歩けない。
「母上、ジュリアンが転けてしまいます」
「あら、ごめんなさい。ジュリアンちゃん…すごく似合ってるわ…」
僕のドレス姿がイライザさまにとって自然なことなのか、第一声がそれって…。それに今気づきましたって感じで、どう返事して良いかわからないよ。
「良かった。パトリシアさまが肩にもリボンをと仰ったけど、膝のリボンを際立たせるにはやっぱりこの方が良いわ!」
僕の周りを一周して「ほうっ」と溜息を吐かれる。
「母上、急ぎではないのですか?」
「ああ、そうだったわ。アシュリー、ジュリアンちゃんを抱っこしてあげてね」
抱っこって…恥ずかしいです。アシュリー母君…。
アシュリーに抱かれたままリンメルさまの部屋まで急いだ。仕方ない。途中でパーティーの準備のためにいつもよりざわざわしているメイドたちに会ったけど、早く歩けないんだ。
部屋の前で降ろしてもらった。物々しい人数の警護が扉の前に控えている。この制服は近衛兵。と言うことは…。
アシュリーに続いて部屋に入るとアシュリーが立ち止まったからぶつかってしまった。
「陛下…」
アシュリーの呟く声に顔を上げると、ローブのフードをはらりと外し立ち上がる陛下がこちらをご覧になられていて……ここまで一緒って…。昨日の王太子殿下の様子が蘇る。
リンメルさまの部屋には陛下とリンメルさまの他にアシュリーの兄君のフランクさまと、父上とクラレンス兄上が揃っていた。
「ジュリアン、すまないね。パトリシアのわがままに付き合わせて」
父上が申し訳なさそうに謝ってくださる。ドレスのことだろう。
「ジュリアン、今年も綺麗だよ」
クラレンス兄上が頭を撫でる。
「クラレンス、俺も挨拶させてくれよ。ジュリアン、今年は一曲踊ってくれる?去年はアシュリーに頼まれて、隣で踊るだけだったからさ」
フランクさまがとんでもないことを言われる。
「コホン…」
「「「「………」」」」
「わたしを無視するとは…」
「いえ、そのような…」
「しかし、昨日も申しましたが…」
「そうですよ、陛下。いずれ近いうちに会えるのですから、今は堪えてくださいとお願いしたではありませんか?」
父上とリンメルさまが陛下を窘める。軽い口調は、学園の同窓なのかもしれない。
「でもだな…昨日、コーディが凄いものを見たとわざわざ言いに来るくらいなんだ!会ってきたと自慢するのだぞ?ほら、今日来て正解ではないか?コーディが悔しがるだろう。ささ、ジュリアン、こちらへ」
『アシュ…』
『おいで、ジュリ』
アシュリーが手を差し伸べてくれる。アシュリーの手を取って、陛下の御前まで行き今の僕に相応しい挨拶をする。仕方ないじゃないか?ドレス着てるんだから!
小さな頃から自然としていた挨拶はドレスを着ていることによりすんなりできてしまう。
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