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第四章
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「近衛兵になりたい奴は剣術大会は必死になるよ。それで選抜試験ってことはないけど、決勝に残ると推薦してもらえるし目指してるんならチャンスは二年に一度だからな」
クラレンス兄上が、今年準優勝のランドル・ギブソンの近衛隊入隊が決まったと教えてくれた。
「これさ、剥がしてきたんだけど、誰が書いたかわからない?ジミーが犯人の可能性が高いとしてもそれこそ証拠がないとどうしょうもないんでしょ?」
目に付く張り紙を片っ端から剥がした。破り捨ててしまいたかったけど、証拠になるから捨てない方が良いとアシュリーに言われて思いとどまった。
何枚もの卑劣な言葉が並ぶ紙がテーブルを埋め尽くす。ニコラスが視線をテーブルから逸らした。
「ごめん、見たくないよね」
「いや、大丈夫だ。みんなが俺のために集まってくれた。疑う人ばかりじゃないけど、こんなことは早く解決したい」
「俺、やってみる」
ダレルが杖を出した。一枚一枚杖でなぞって山をいくつか作っていく。三つの山ができた。
「これを書いたのは三人だ。他にもいるかもしれないけど、ここにある分では三人が書いたと思う」
「凄いな…誰が書いたかわかるのか?」
ロドニー兄上が感嘆の声を出す。
「いや、そこまではわからない。ただ、これが主犯だと思う」
三つの山の一番枚数が多い山を指差す。枚数もそうだけど、嫌悪の感情が一番強いそうだ。
「返してみるか…」
「返す?誰かわからないんだろう?」
「この紙はこれを書いた人のものだ。例え手伝っただけだとしても、ニコラスを中傷しようとしたその思念が残ってる。特にこの主犯のは明らかだ。だから、この紙に帰れと命じると持ち主に…書いた本人に返せると思う」
「大事になるのかな?」
ニコラスが不安そうな顔をする。
「何もないところに火を点けて煙を撒き散らかしたのはこいつらなんだ」
ニコラスよりもダレルの方が怒ってる。
「では、主犯じゃない二人にこの紙を返して、様子を見るのはどうですか?」
イーノックもあまりことを大きくしたくないようだ。
「そうだね。まさか、だだ書いた本人に返したとは思わないよね。自分たちの仕業だとバレて送り返されたと思うよ」
「突きとめなくて良いのか?」
「ダレル、きっとこれで嫌がらせは終わると思います」
イーノックの言葉にダレルは納得していないようだけど二つの山から一枚ずつを手に取った。
「何か書く?」
「それ書いた瞬間にダレルの物にならないのですか?」
「それは大丈夫なようにするよ。メッセージを書いて、それを主に返すだけってこの紙に思い込ませる」
最初は何も書かずにただその張り紙を書いた本人に返すだけにすることにした。
ダレルはクラレンス兄上に何も書いてない紙を少しもらいそれに魔法をかける。
小さく切った紙二枚を杖でトントンと叩く。その紙を張り紙の上に置き、更に杖で叩く。すると鳥になりピーと鳴いた後ダレルの頭上を一度回り窓に向かう。閉まってる窓の窓枠に止まりコンコンと嘴で叩き、開けてくれとでも言うようにもう一度ピーと鳴いた。
クラレンス兄上が窓を開けるために近寄ると紙の鳥は兄上の肩に止まり、窓が開くとスーッと飛び出した。
それからしばらくはクラレンス兄上がイーノックと剣術大会の話で盛り上がったり、今ダレルが鳥に変えた魔法についてどのようにしたのかみんなが聞きたがった。ロドニー兄上も今、手紙移転を習ってて興味津々だ。
しばらくすると小さな鳥が、紙の鳥が戻ってきた。
「受け取ったよ」
ダレルの言葉にみんなが驚いた。
「わかるの?」
「あの鳥が相手の手元で紙に変わる。そうすると、中に入れた小さな鳥が俺のところに戻るようにしたからな。本当に誰だか調べなくて良いのか?」
小さな鳥がパタパタとダレルの周りを回った。もう一つの紙の鳥も戻ってきた。こっちの鳥は羽が切れていて、どこかぎこちない動きだ。
「差出人のところに戻ることに気づいたんだ。邪魔しようとして…捕らえようとしてこの傷をつけたんだろ」
「これで様子を見るよ」
ニコラスはあくまで穏便に済ませたいみたいだ。
「わかった。でも、明日もニコラスを貶めるようなら…俺に考えがある」
翌日、イーノックとニコラスの思いを踏みにじるように校舎には卑劣な張り紙が何枚もあった。
「ニコラス・グレンは先生に媚を売る卑怯な奴だ」「ニコラスは不正を働いた」……
一体ニコラスが何をしたというのか?事実とは違うことばかりを書いている。
これにはクラス全員が怒った。
「みんな、校舎に貼ってある紙、全部剥がしてきて」
アシュリーの号令にみんなが頷く。授業の間の移動時間に全てを剥がし、ダレルに渡した。
昨日と同じように一枚ずつ張り紙を杖でなぞる。するとほとんど一つの山だけが積み上がる。
「きっとこれは昨日のが残ってたんだ」
山から外れた三枚が避けられた。
「全部、昨日のと同じ気配がする」
「どうするんだ?」
「昼の食堂だ。みんなの前で恥をかかせてやる」
ジミーが食事をしているのを確認すると、青い顔をした同級生に挟まれていた。昨日ダレルが送り返した二人だろうか?その間で、笑顔でヘラヘラしているのが腹が立つ。
「いくぞ」
ダレルの声と共に紙の鳥がパタパタと舞い上がる。ジミー・スネルが犯人である可能性が高いけれど、まだ確信はない。
犯人は紙の鳥が知っている。
クラレンス兄上が、今年準優勝のランドル・ギブソンの近衛隊入隊が決まったと教えてくれた。
「これさ、剥がしてきたんだけど、誰が書いたかわからない?ジミーが犯人の可能性が高いとしてもそれこそ証拠がないとどうしょうもないんでしょ?」
目に付く張り紙を片っ端から剥がした。破り捨ててしまいたかったけど、証拠になるから捨てない方が良いとアシュリーに言われて思いとどまった。
何枚もの卑劣な言葉が並ぶ紙がテーブルを埋め尽くす。ニコラスが視線をテーブルから逸らした。
「ごめん、見たくないよね」
「いや、大丈夫だ。みんなが俺のために集まってくれた。疑う人ばかりじゃないけど、こんなことは早く解決したい」
「俺、やってみる」
ダレルが杖を出した。一枚一枚杖でなぞって山をいくつか作っていく。三つの山ができた。
「これを書いたのは三人だ。他にもいるかもしれないけど、ここにある分では三人が書いたと思う」
「凄いな…誰が書いたかわかるのか?」
ロドニー兄上が感嘆の声を出す。
「いや、そこまではわからない。ただ、これが主犯だと思う」
三つの山の一番枚数が多い山を指差す。枚数もそうだけど、嫌悪の感情が一番強いそうだ。
「返してみるか…」
「返す?誰かわからないんだろう?」
「この紙はこれを書いた人のものだ。例え手伝っただけだとしても、ニコラスを中傷しようとしたその思念が残ってる。特にこの主犯のは明らかだ。だから、この紙に帰れと命じると持ち主に…書いた本人に返せると思う」
「大事になるのかな?」
ニコラスが不安そうな顔をする。
「何もないところに火を点けて煙を撒き散らかしたのはこいつらなんだ」
ニコラスよりもダレルの方が怒ってる。
「では、主犯じゃない二人にこの紙を返して、様子を見るのはどうですか?」
イーノックもあまりことを大きくしたくないようだ。
「そうだね。まさか、だだ書いた本人に返したとは思わないよね。自分たちの仕業だとバレて送り返されたと思うよ」
「突きとめなくて良いのか?」
「ダレル、きっとこれで嫌がらせは終わると思います」
イーノックの言葉にダレルは納得していないようだけど二つの山から一枚ずつを手に取った。
「何か書く?」
「それ書いた瞬間にダレルの物にならないのですか?」
「それは大丈夫なようにするよ。メッセージを書いて、それを主に返すだけってこの紙に思い込ませる」
最初は何も書かずにただその張り紙を書いた本人に返すだけにすることにした。
ダレルはクラレンス兄上に何も書いてない紙を少しもらいそれに魔法をかける。
小さく切った紙二枚を杖でトントンと叩く。その紙を張り紙の上に置き、更に杖で叩く。すると鳥になりピーと鳴いた後ダレルの頭上を一度回り窓に向かう。閉まってる窓の窓枠に止まりコンコンと嘴で叩き、開けてくれとでも言うようにもう一度ピーと鳴いた。
クラレンス兄上が窓を開けるために近寄ると紙の鳥は兄上の肩に止まり、窓が開くとスーッと飛び出した。
それからしばらくはクラレンス兄上がイーノックと剣術大会の話で盛り上がったり、今ダレルが鳥に変えた魔法についてどのようにしたのかみんなが聞きたがった。ロドニー兄上も今、手紙移転を習ってて興味津々だ。
しばらくすると小さな鳥が、紙の鳥が戻ってきた。
「受け取ったよ」
ダレルの言葉にみんなが驚いた。
「わかるの?」
「あの鳥が相手の手元で紙に変わる。そうすると、中に入れた小さな鳥が俺のところに戻るようにしたからな。本当に誰だか調べなくて良いのか?」
小さな鳥がパタパタとダレルの周りを回った。もう一つの紙の鳥も戻ってきた。こっちの鳥は羽が切れていて、どこかぎこちない動きだ。
「差出人のところに戻ることに気づいたんだ。邪魔しようとして…捕らえようとしてこの傷をつけたんだろ」
「これで様子を見るよ」
ニコラスはあくまで穏便に済ませたいみたいだ。
「わかった。でも、明日もニコラスを貶めるようなら…俺に考えがある」
翌日、イーノックとニコラスの思いを踏みにじるように校舎には卑劣な張り紙が何枚もあった。
「ニコラス・グレンは先生に媚を売る卑怯な奴だ」「ニコラスは不正を働いた」……
一体ニコラスが何をしたというのか?事実とは違うことばかりを書いている。
これにはクラス全員が怒った。
「みんな、校舎に貼ってある紙、全部剥がしてきて」
アシュリーの号令にみんなが頷く。授業の間の移動時間に全てを剥がし、ダレルに渡した。
昨日と同じように一枚ずつ張り紙を杖でなぞる。するとほとんど一つの山だけが積み上がる。
「きっとこれは昨日のが残ってたんだ」
山から外れた三枚が避けられた。
「全部、昨日のと同じ気配がする」
「どうするんだ?」
「昼の食堂だ。みんなの前で恥をかかせてやる」
ジミーが食事をしているのを確認すると、青い顔をした同級生に挟まれていた。昨日ダレルが送り返した二人だろうか?その間で、笑顔でヘラヘラしているのが腹が立つ。
「いくぞ」
ダレルの声と共に紙の鳥がパタパタと舞い上がる。ジミー・スネルが犯人である可能性が高いけれど、まだ確信はない。
犯人は紙の鳥が知っている。
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