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第五章
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「何を言ってる?俺がいつジュリアンの事が好きだと言ったよ」
真っ赤になってガイの胸ぐらをつかむけれどその手は弱々しい。ガイが立ってしまえば身長差で更に力は入らないだろう。ガイはされるまま未だ椅子に座っている。
「あのさ…ガイ、僕と一緒の時はガイの話ばっかりだよ」
そうなんだ。
ケントは社交的で友だちも多いけど基本ガイが最優先。僕が虐められてた…ダレルやアシュリーによると実際は虐めではなかったようだけど…一年生の時も二人で組む時は「ごめんな」なんて言いながらガイの元へ走っていく。
その笑顔は誰に向けるものより輝いていた。だから僕はイーノックやダレル、アシュリーが仕方ないなって感じで側にいてくれた。
「そんな…嘘…」
信じられないと、目の前のケントを見つめる。
「俺は…ガイが俺の事を仕えるべき本家の嫡男としてしか見てくれないことが辛かった。ジュリアンはみんなに愛されてるから、俺がジュリアンの名前を出すことでガイが…」
「そんな…」
信じられないと首を振るガイは項垂れている。
「あのさ…しばらくこの部屋貸すからさ、二人でゆっくり話し合いなよ」
いつの間にか用事を済ましたアシュリーが部屋に戻っていたので、確認のためアシュリーを見ると頷いてくれた。
『仲直りしてくれるといいね』
『て言うか、あれ別に喧嘩もしてないし、ガイの勘違いで二人とも言葉が足りなかったんだな』
『ところで、フランクさまはなんの用事だったの?』
『あれは、ガイが仕組んだんだ。だから兄上は俺が行ったら驚いてたよ。ちょうどルシアンも居てて、おかしいってなったんだ』
二人で一年生の時によく来た校舎裏の噴水の近くのベンチに座って顔を見合わせて笑った。
誰が見てもただ座ってるだけの二人きりの会話は慣れて、自然に話すことができる。最初の頃はちょっと離れた所にいると疲れたけれど、最近は疲れも感じない。
『あの二人はどうなるの?』
『ああ、あいつら気を失ってたから、ガイに見張りを頼んで先にジョナス殿下に相談したんだ』
『信用してくれたんだね』
『ガイの事?』
『うん』
『そりゃ、小細工して、ジュリアンを連れ出してさ…一発くらい殴ってやりたいよ?』
『な、殴ったの?』
『いや、殴ってはいないよ。ガイはさ、真っ直ぐなんだよ。剣の稽古つけてもらう時に感じたんだけど、ガイって何事にも真剣で曲がったことが大っ嫌いなんだ。だから、思い詰めた結果こんなことになったんだろうなって…。それに、ジュリがどこも怪我してない。顔に痣でも作ってたらこんなこと思わないさ』
そうなんだ。
僕が気を失っている間に殴ることもできたと思うけど、手首を縛られた痕が微かに残っているだけでどこも怪我はなかった。
まあ、気を失っている間に襲われてたら、どうなったかはわからないけれど…。
『ジョナス殿下も怒ってたよ。ガイを連れて来いって…。説明にさ、どうしても誰がジュリを寮から連れ出したかを言わなきゃならなくてさ。寮は一番安全な場所だろ?そこから連れ出す方法は、これからのこともあるから言わなきゃならなくて。でも、怪我もないし、ジュリの希望だからって言うと渋々引き受けてくれた。後でガイにはジョナス殿下直々に取り調べがあるかもな…』
『えっ?』
『多分、正式なものとは違うよ。ジュリを危ない目に合わせたから、自分で納得したいんじゃないかな』
『僕も同席したらダメかな?』
『ケントを一緒に行かせるよ。スローンの二人は、どうやら商人らしい。商いのついでにガイの話に乗ったってだけで、深くは考えてないんだろうな。この国では五人の勇者を騙ったりしたら重罪だってことを知らなかったんだろう』
こうしてアシュリーと話していると、数ヶ月前から感じていた僕に向かう憎悪の感情がなくなっているのがわかる。
それほどまでの執着でケントを思っていたとは…、
それだけ大事に思っていたと言うこと?
それだけ愛していたと言うこと?
歪んでしまった愛はケントによって救われるだろうか?
真っ赤になってガイの胸ぐらをつかむけれどその手は弱々しい。ガイが立ってしまえば身長差で更に力は入らないだろう。ガイはされるまま未だ椅子に座っている。
「あのさ…ガイ、僕と一緒の時はガイの話ばっかりだよ」
そうなんだ。
ケントは社交的で友だちも多いけど基本ガイが最優先。僕が虐められてた…ダレルやアシュリーによると実際は虐めではなかったようだけど…一年生の時も二人で組む時は「ごめんな」なんて言いながらガイの元へ走っていく。
その笑顔は誰に向けるものより輝いていた。だから僕はイーノックやダレル、アシュリーが仕方ないなって感じで側にいてくれた。
「そんな…嘘…」
信じられないと、目の前のケントを見つめる。
「俺は…ガイが俺の事を仕えるべき本家の嫡男としてしか見てくれないことが辛かった。ジュリアンはみんなに愛されてるから、俺がジュリアンの名前を出すことでガイが…」
「そんな…」
信じられないと首を振るガイは項垂れている。
「あのさ…しばらくこの部屋貸すからさ、二人でゆっくり話し合いなよ」
いつの間にか用事を済ましたアシュリーが部屋に戻っていたので、確認のためアシュリーを見ると頷いてくれた。
『仲直りしてくれるといいね』
『て言うか、あれ別に喧嘩もしてないし、ガイの勘違いで二人とも言葉が足りなかったんだな』
『ところで、フランクさまはなんの用事だったの?』
『あれは、ガイが仕組んだんだ。だから兄上は俺が行ったら驚いてたよ。ちょうどルシアンも居てて、おかしいってなったんだ』
二人で一年生の時によく来た校舎裏の噴水の近くのベンチに座って顔を見合わせて笑った。
誰が見てもただ座ってるだけの二人きりの会話は慣れて、自然に話すことができる。最初の頃はちょっと離れた所にいると疲れたけれど、最近は疲れも感じない。
『あの二人はどうなるの?』
『ああ、あいつら気を失ってたから、ガイに見張りを頼んで先にジョナス殿下に相談したんだ』
『信用してくれたんだね』
『ガイの事?』
『うん』
『そりゃ、小細工して、ジュリアンを連れ出してさ…一発くらい殴ってやりたいよ?』
『な、殴ったの?』
『いや、殴ってはいないよ。ガイはさ、真っ直ぐなんだよ。剣の稽古つけてもらう時に感じたんだけど、ガイって何事にも真剣で曲がったことが大っ嫌いなんだ。だから、思い詰めた結果こんなことになったんだろうなって…。それに、ジュリがどこも怪我してない。顔に痣でも作ってたらこんなこと思わないさ』
そうなんだ。
僕が気を失っている間に殴ることもできたと思うけど、手首を縛られた痕が微かに残っているだけでどこも怪我はなかった。
まあ、気を失っている間に襲われてたら、どうなったかはわからないけれど…。
『ジョナス殿下も怒ってたよ。ガイを連れて来いって…。説明にさ、どうしても誰がジュリを寮から連れ出したかを言わなきゃならなくてさ。寮は一番安全な場所だろ?そこから連れ出す方法は、これからのこともあるから言わなきゃならなくて。でも、怪我もないし、ジュリの希望だからって言うと渋々引き受けてくれた。後でガイにはジョナス殿下直々に取り調べがあるかもな…』
『えっ?』
『多分、正式なものとは違うよ。ジュリを危ない目に合わせたから、自分で納得したいんじゃないかな』
『僕も同席したらダメかな?』
『ケントを一緒に行かせるよ。スローンの二人は、どうやら商人らしい。商いのついでにガイの話に乗ったってだけで、深くは考えてないんだろうな。この国では五人の勇者を騙ったりしたら重罪だってことを知らなかったんだろう』
こうしてアシュリーと話していると、数ヶ月前から感じていた僕に向かう憎悪の感情がなくなっているのがわかる。
それほどまでの執着でケントを思っていたとは…、
それだけ大事に思っていたと言うこと?
それだけ愛していたと言うこと?
歪んでしまった愛はケントによって救われるだろうか?
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