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第五章
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ジョナス殿下は兄君である王太子殿下の下で国務を手伝いながら、アレースとしての仕事もこなしてらっしゃるそうだ。
面会は以前訪れた場所ではなく、執務室。訪問の許可は下りていて、扉を護る近衛兵は僕たちが近寄ると両脇に離れ礼を執る。
肩にはアレースの色である漆黒の両側に深緑のラインが入った人と、白のラインが入った人が立っている。
ジョナス殿下に仕える隊長と、今年入ったばかりの新人と言うことかな。ちらっと顔を見るとクラレンス兄上と同い年で、学園で何度か見かけたことがある人だった。驚いた顔をしながらも、何も言わず扉を開けてくれた。
「やあ、よく来たね」
前回の私室には扉の外には誰も居なかった。もともと、アレースを護る必要はないとは思うけれど…。
「仕方ないさ…、それが彼らの仕事なんだから。ほら、あんな間抜けに連れ去られるドジは踏まないけど、何かあってからじゃ遅いだろ?用心に越したことはない」
ウインクしながら、嫌味を言われてしまった。流石殿下の執務室だ。執務室と言っても広い部屋で、豪華なソファーやテーブルに圧倒されてしまう。どんな賓客でもこの部屋でもてなしができそうだ。
先ほどの隊長さんがお茶を淹れてくれた。
「あの…」
「ああ、殿下の身の回りはわたくしたちの仕事です。特にこの執務室には、女の影はない。あいつはまだ、上手に淹れられないんだよ」
先ほどの新人さんのことだろう。
なるほど、お茶は香り高く、クッキーもサクサクで美味しい。
「これも隊長さんが?」
筋骨隆々の隊長さんは料理には、ましてやお菓子なんて似合わない。
「そうです。なかなかでしょう?」
「こらこら、俺に会いに来てくれたんだ。もういい、席を外せ」
「畏まりました」
そう言えば…この隊長さんは見たことがある。その時の肩には漆黒の外側に今とは違う色があったと思う。確か、濃紺…だった。遠目に見ると色に違いがないからか、漆黒と濃紺の間に白が入り、珍しいからよく覚えていた。あれは僕が五歳くらいの時だった。まだドレスを着ていて、父上に王宮に連れられて来たことがあった。その時に殿下と一緒のところを見かけたんだ。
「突然どうしたんだ?」
「いいでしょう?理由なんてなくても」
殿下はアシュリーの返事に驚いた顔で、カップを持つ手を宙に浮かしたまま固まって…、「ああ、構わない…」とボソッと呟かれた。
そして、嬉しそうな笑顔……。
驚いた。こんな顔は初めて見た。こんなに屈託無く笑うことができるのか。
先ほどの隊長さんは席を外せと言われながら僕たちのことも知っているのか、殿下の後ろに控えていた。それを怒る様子もない。
隊長さんは殿下の寛いだ様子にうっすら涙を浮かべ鼻をすする。
「ライナス、鬱陶しいぞ!」
「はい!申し訳ありません」
怒りながらもどこか嬉しそうで、二人の関係は主従ってだけではなく、兄弟か親子のような深いつながりがあるのだろう。
「なんか、バーンズ先生に無理なお願いしてるんだって?」
「ご存じなのですか?」
「ああ、お前たちのことは報告が届くからな。まあ、移転魔法は是非、早い段階で習っておいて欲しかったからちょうど良かったんだけど」
「旅の役に立つってことですか?」
「そりゃそうさ。使い魔は移転魔法は使えない。疲れ知らずでいつまでも、どこまでも走ってくれるけど、上に乗ってる俺たちは疲れるだろ?不眠不休なんて無理だしな」
それから、何杯かお茶のお代わりをライナス・シンクレア隊長に淹れてもらい、美味しいクッキーをたくさん頂いた。
今の学園の様子、特に今、六年生と競争のようにしている手紙移転の話で盛り上がった。自分の時はどうだったとか、クラレンス兄上が失敗した話はいつも完璧な兄上の意外な一面に興味深かった。
ケントとガイの話は意外だったらしく「テニエル家の…へぇ…」とケントに手紙を渡した友だちの名前を次々に挙げていく殿下に、僕とアシュリーは驚いた。
ケントって本当にモテたんだな…。ガイがやきもきするのもわからないでもないな…ボソッとアシュリーが呟いた。僕に手紙が届いていた時、アシュリーは辛そうだったものね…。申し訳ないです…。
いっぱい食べたのに、隊長さんは帰りにクッキーのお土産まで持たせてくれた。
「また、来いよ」
「はい」
殿下に扉の外まで見送られて、驚く新人さんの前の通り、執務室を後にした。
面会は以前訪れた場所ではなく、執務室。訪問の許可は下りていて、扉を護る近衛兵は僕たちが近寄ると両脇に離れ礼を執る。
肩にはアレースの色である漆黒の両側に深緑のラインが入った人と、白のラインが入った人が立っている。
ジョナス殿下に仕える隊長と、今年入ったばかりの新人と言うことかな。ちらっと顔を見るとクラレンス兄上と同い年で、学園で何度か見かけたことがある人だった。驚いた顔をしながらも、何も言わず扉を開けてくれた。
「やあ、よく来たね」
前回の私室には扉の外には誰も居なかった。もともと、アレースを護る必要はないとは思うけれど…。
「仕方ないさ…、それが彼らの仕事なんだから。ほら、あんな間抜けに連れ去られるドジは踏まないけど、何かあってからじゃ遅いだろ?用心に越したことはない」
ウインクしながら、嫌味を言われてしまった。流石殿下の執務室だ。執務室と言っても広い部屋で、豪華なソファーやテーブルに圧倒されてしまう。どんな賓客でもこの部屋でもてなしができそうだ。
先ほどの隊長さんがお茶を淹れてくれた。
「あの…」
「ああ、殿下の身の回りはわたくしたちの仕事です。特にこの執務室には、女の影はない。あいつはまだ、上手に淹れられないんだよ」
先ほどの新人さんのことだろう。
なるほど、お茶は香り高く、クッキーもサクサクで美味しい。
「これも隊長さんが?」
筋骨隆々の隊長さんは料理には、ましてやお菓子なんて似合わない。
「そうです。なかなかでしょう?」
「こらこら、俺に会いに来てくれたんだ。もういい、席を外せ」
「畏まりました」
そう言えば…この隊長さんは見たことがある。その時の肩には漆黒の外側に今とは違う色があったと思う。確か、濃紺…だった。遠目に見ると色に違いがないからか、漆黒と濃紺の間に白が入り、珍しいからよく覚えていた。あれは僕が五歳くらいの時だった。まだドレスを着ていて、父上に王宮に連れられて来たことがあった。その時に殿下と一緒のところを見かけたんだ。
「突然どうしたんだ?」
「いいでしょう?理由なんてなくても」
殿下はアシュリーの返事に驚いた顔で、カップを持つ手を宙に浮かしたまま固まって…、「ああ、構わない…」とボソッと呟かれた。
そして、嬉しそうな笑顔……。
驚いた。こんな顔は初めて見た。こんなに屈託無く笑うことができるのか。
先ほどの隊長さんは席を外せと言われながら僕たちのことも知っているのか、殿下の後ろに控えていた。それを怒る様子もない。
隊長さんは殿下の寛いだ様子にうっすら涙を浮かべ鼻をすする。
「ライナス、鬱陶しいぞ!」
「はい!申し訳ありません」
怒りながらもどこか嬉しそうで、二人の関係は主従ってだけではなく、兄弟か親子のような深いつながりがあるのだろう。
「なんか、バーンズ先生に無理なお願いしてるんだって?」
「ご存じなのですか?」
「ああ、お前たちのことは報告が届くからな。まあ、移転魔法は是非、早い段階で習っておいて欲しかったからちょうど良かったんだけど」
「旅の役に立つってことですか?」
「そりゃそうさ。使い魔は移転魔法は使えない。疲れ知らずでいつまでも、どこまでも走ってくれるけど、上に乗ってる俺たちは疲れるだろ?不眠不休なんて無理だしな」
それから、何杯かお茶のお代わりをライナス・シンクレア隊長に淹れてもらい、美味しいクッキーをたくさん頂いた。
今の学園の様子、特に今、六年生と競争のようにしている手紙移転の話で盛り上がった。自分の時はどうだったとか、クラレンス兄上が失敗した話はいつも完璧な兄上の意外な一面に興味深かった。
ケントとガイの話は意外だったらしく「テニエル家の…へぇ…」とケントに手紙を渡した友だちの名前を次々に挙げていく殿下に、僕とアシュリーは驚いた。
ケントって本当にモテたんだな…。ガイがやきもきするのもわからないでもないな…ボソッとアシュリーが呟いた。僕に手紙が届いていた時、アシュリーは辛そうだったものね…。申し訳ないです…。
いっぱい食べたのに、隊長さんは帰りにクッキーのお土産まで持たせてくれた。
「また、来いよ」
「はい」
殿下に扉の外まで見送られて、驚く新人さんの前の通り、執務室を後にした。
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