天使のローブ

茉莉花 香乃

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第五章

33

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全員が城門の前の広場に揃った。

出発前にそれぞれの秘宝を指輪から出す。

この一瞬を見ようと大勢が押しかけて、広場は人で一杯だ。この日のために多くの人が見られるように、高くまで席が設けられた。席に座れなかった人も沢山いる。

大きな使い魔は迫力があるのか、近くにいる小さな子は泣き出してしまって、ザワザワした雰囲気を更に賑やかにしている。

ジョナス殿下がシルベスターを従え前へ出ると、ファンファーレが響き渡る。

一部で子どもの声が聞こえるけれど、辺りは次に何が起こるのかを期待するように静かになった。

殿下の手に秘宝の剣が現れると歓声に包まれる。
アシュリーの手に黄金の剣が、イーノックの手に炎の剣が、ダレルの手に今では見ることのできなくなった古代の杖が、僕の肩に天使のローブが現れると溢れんばかりに拍手が打ち鳴らされ、城門の外では花火が打ち上げられ、ファンファーレが高らかに鳴り響いた。

国王陛下が先頭でパレードが進むのかと思ったけれど、僕たち勇者の生まれ変わりが近衛兵の先触れの後に続く。

…もう、生まれ変わりではなく、勇者なのだそうだ。それは僕たちに自覚を持たすためでもあるし、国民の僕たちに対する信頼と尊敬がますます高まるようにするためらしい。
何年か前に知ってしまった僕でさえ、自覚は…ない。ダレルとイーノックはまだ戸惑いが強いだろうから、当然自覚などないだろう。

バルコニーで殿下が言われていた通り、ここからは沿道に並ぶ人との距離が近い。

ギルバートたちは慣れた様子で右に左にと動き、どちら側にいる人にも僕たちに挨拶するように促す。

「百年前もこうしてパレードしたの?」
「ああ、そうだな…」
「どうしたの?言っちゃダメなの?」
「嫌がる奴もいたからな」
「何を?」
「俺のパートナーは女が多かったから…、比べられるのを…な。その割に前はどうだったとか言うと、自分より劣ってることを俺に言わすんだよ。他の奴らはほとんどが男だからそんなこともないみたいだけど。いろんな奴がいるさ。勇者だと理解はしてても、発表直後では納得はできていないのだろう。例え、勇者でもな」

アンブローズも言っていたけれど、ギルバートたちは僕たちの事をパートナーと呼ぶ。

使役されているのではなく、対等の立場ってことだ。小さな頃もギルバートの対応は今と変わりなかったけど、パートナーとか使役されてないとかわざわざ僕に言わなくても良かった。誰と共にあるのかを選べないのは苦痛なのかもしれない。

「僕はギルが大好きだよ?」
「ああ、ジュリアンは俺にとって、大切な存在だ。お前といると心が休まる」
「それは、僕が初代さまと似てるってこと?」
「まあ、そうだな。今までで一番近い」
「そうなんだ。今も好き?」
「ミシェルは特別だ」
「こらこら、おしゃべりしてないで、みんなに手を振らないと」

ジョナス殿下とシルベスターが僕たちの側に来た。

「随分ゆっくりと進むんですね」
「そりゃあ、一瞬で終わってしまっては、この日の為に遠いところをわざわざ来た人には物足りないだろう?」

殿下は僕と話しながらも、沿道の人々に手を振っている。僕もそれに倣って手を振った。

「発表される前から集まっているってことですか?その年かどうかわからないのに?」
「何もなくても、この休暇をアデルで過ごそうとする者もいるようだけど、ここ何年かは特に多いそうだ。宿を取るのが大変だっていう苦情があると兄上が仰ってたな」

そうなんだ。王都アデルは地方から来た人には王宮などの建物は見応えがあるだろうけれど、遊ぶところは少ない。王宮も入れるところは決まっていて一部だけだ。

沿道には柵が設けられ、見ている人が入ってくることはない。あの柵がなくてもギルバートたちがいれば誰も近寄らないと思う。それでも騒ぎになっては困るらしく、所々に兵が立っている。

先頭と最後尾には、魔法の山車だしの上で楽団が賑やかに音楽を奏でている。同じ速度で動く一団はこの山車が調整しているのだろう。

どこからか現れる花が、季節外れの春を連れてきたように舞っている。

ダレルが杖を振るとその花は増えて人々の頭上に降り注ぐ。その魔法に感心しているのか、花が欲しいのか、ダレルに近寄りたいのかキャーキャーとかしましい声が響く。

イーノックがアンブローズから降りて歩き出した。途端に身近な存在となったイーノックにも悲鳴に似た歓声が上がる。
炎の剣を鞘から抜き、高らかに掲げると炎の花が辺りに散らばる。その炎の花はゆらゆらと漂っている。人々は熱いのでは?火傷するのではと恐る恐る炎の花を見ていた。けれど、誰かが勇気を持って触ると、「うぉ!熱くない!…うゎあ!冷たい?…おお!」突然、炎の花はその姿を可憐な花に変えた。
それは北の山に自生するアリルという名の花で、図鑑などでしか見たことはなかった。栽培するのが難しく、市場に出回ることはない。

イーノックがアンブローズの背に戻ってきて、同じ高さになると聞いてみた。

「アリルはどうして剣から出てきたの?」
「ああ、あれはアンの力ですよ」
「アンブローズの?」
「そうですよ。ねえ、アン?」
「イーノックの力ですよ。わたしは少し手助けしただけです。わたしたちの故郷の花ですから」

アンブローズにある特殊な能力がどんなものかは知らないけれど、植物学の教授が聞いたら喜びそうだなと思った。

王宮が見えてきて、もう少しでパレードが終わろうとする頃アシュリーが手を差し出す。

「おいで」
「えっ?」
「ほら」
「行ってやれ。心配なんだよ」

ギルバートの言葉に驚きながらアシュリーの差し出す腕に捕まった。

『どうしたの?』
『ギルの言う通りさ…、心配なんだ。ほら、ルシアンが言ってただろ?』
『そんな心配しなくても、僕はアシュだけだよ?』
『わかってる。でも…』
『うん。ありがとう』

一瞬、歓声が上がったような気がしたけれど、ダレルが何かしたのだろうか?

アシュリーの腕の中から手を振った。ギルバートはマクシミリアンに寄り添い幸せそうだ。
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